まよマヨ! 〜後輩咥えるオオカミさん〜   作:パン粉

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††††††

 

 

 ――ああ、神様。私は、どうしてこんなにツイていないんでしょう。

 

「……」

 

 目の前に広がる、信じ難い現実。私の家が燃えている。それを受け入れなければいけないのはわかっている。だけど、あまりにも唐突な、その残酷な世界に、私は立ち竦むしかなかなった。

 

 両親に先立たれ、バイトを糧にし、細々と生きてきた私、日向真宵(ひなたまよい)は――。

 

 ――本日、全てを失いました。

 

 

†まよマヨ! 〜後輩咥えるオオカミさん〜†

 

 

 ――どうしよう。

 

 暗い夜道、爛々と燃え続けていた家の消火は終わった。だけど、これからの生きる術が見つからない。果たして、なにがどうなったら、こんな不幸に見舞われるのだろうか?

 

 生まれついての不幸体質。それが、私の特徴。でも、それにめげずにやってきた。それがこんな形で暴走するなんて露知らず。服も、教材も、何もかもが灰に消えた今、私は何をすればいいのか。今日の寝床すら、確保ができない。お金も、消えてしまったから。それに、昨日のお昼から何も食べてない。

 

 ――スバル様。

 

 学生鞄の中に忍ばせていた生写真。私が通う嵐藍学園で、一番人気がある男性――近衛スバル。容姿端麗、品行方正、そして頭脳明晰文武両道。非の打ち所のない人、この人は、私にとって王子様そのもの。学校が同じ、というだけなんだけど。さらには、理事長の娘さん、涼月奏先輩の執事。その立ち振る舞いは、まさしく王子様と言っても過言ではない。

 

 ――こんな私に、頑張る力をください。

 

 写真に向かって、私は呟いた。何かが起こるわけではないこと、それはわかってる。だけど、まずは浮き足立った心をどうにかしたくて。

 

 そんな中で聞こえた、私の名を呼ぶ凛々しいアルトボイス。革靴の硬いソールが、コツコツと音を立てて近付いてくる。振り向けば――私の、憧れの王子様。

 

「スっ……バル様⁉︎ど、どうして⁉︎」

「真宵ちゃん。君に会いにきたんだ」

 

 ――ほとんど面識ないですよ⁉︎

 

 いや、嬉しい。嬉しいんだけど、面識のない人間に会いに来るなんて、なにか変だ。そんな中でも、スバル様は項垂れていた私を立たせて、服を脱がせてくる。こんな、天下の往来で。でも、それを受け入れてしまう私。

 

 ――何でしょう、この急展開。不幸のドン底で、大好きなスバル様と、こんな急接近って。まるで夢のよう――。

 

††††††

 

「真宵ちゃん」

「ひゃい⁉︎」

 

 可愛らしい声に連れ戻された現実。それは、ふかふかなベッドで、私が寝ていたということ。あれ、ということは、さっきまでのは夢?

 

 でも、どうして?こんなに大きなベッド、見知らぬ天井、それに、美少女。私は、なぜ?

 

「良かった、起きてくれて。でも、何も覚えていないのね?貴女、私の家の前で倒れていたのよ」

「倒…れて?」

「ええ。医者曰く、貧血でね。あとこれ、何か口にした方がいいと思って、おかゆ」

 

 ――昨日のお昼から、やっとの食事。でも、何でこんなことをしてくれるのだろう。こんなことまでしていただいて、すみません、とお礼を言うけど、その美少女は鼻にかけるようなこともなく、困ったときはお互い様、となだめてくれる。でも、この人どこかで見たような……。

 

「あっ!思い出した!」

「?」

「涼月先輩ですっ!」

「あら?面識あったかしら?」

 

 いや、誰でも知っている。あの学園に通う人ならば。理事長の一人娘……弟さんもいるんだよね。その弟さんは、涼月狼先輩。この一帯を仕切る、涼月家次期当主が、奏先輩。全てにおいて完璧と言われるこの人、執事のスバル様と、弟でありボディガードである狼先輩を連れて歩く様は、まさしくクールビューティー。嫌でも注目してしまう。

 

 ――あなた、スバルの事が好きなの?

 

「ぶふぉ⁉︎」

「あら。図星ね。だから、あんな寝言を……」

「ねねね、寝言っ⁉︎」

「縄まで使って……」

「そんなプレイまで漏れてたですか⁉︎」

 

 いや。私は思春期。だから、そういう妄想はしてしまう。太くて固いモノを見ると興奮してしまうとか、なんとか。間違いはないはず、だって……気にならない女の子っているの?

 

 ――ふうん、太くて、固い、ねぇ。それは即ち、この子にあるモノかしら?

 

 なにか、小悪魔的なボイスが聞こえた。私の穴を見つけられた気がしなくもないけど、うん。そして、涼月先輩が指差した先には……。

 

「ろ、狼先輩……」

「おや。私の事も知っているのか」

 

 綺麗なエメラルドグリーンの鋭い目つき。すらっとしたスタイル、そして涼月先輩よりも遥かに高い身長。壁に寄り掛かりながら腕を組み、こちらを見ていた、スバル様とは違う凛々しさの、スーツを纏ったイケメンさん。

 

 ――いつも、サングラスかけてたよね?外したら、あんなにカッコいいの?

 

「改めて。弟の狼だ。よろしく頼む、日向真宵」

「ひゃひゃひゃい!?ヨヨヨよろしくお願いしますっ⁉︎」

 

 この人は、あまり噂を聞かない。けど、有名だ。無表情、無口、無愛想、無頓着の4none(フォノン)。巷では「青い血が流れてるかも」とか言われたりしている。でも、ファンの子がいたりする。私のクラスにも何人か、『涼月狼先輩って、カッコいい』だなんて言ってる人はいるけど、それでもやっぱり私はスバル様。なんだけど。

 

 なんで私の名前知ってるんだろう、この人達。

 

「こういう時、理事長の娘って立場は便利よね?」

「――なななっ!なんですかそれは⁉︎」

「少し調べさせてもらったわ?学力特待生、スバルの生写真を持ち歩いてて。それに、スリーサイズは……」

「やめてくださいっ!男の人の前でっ!」

「普通だから大丈夫よ?」

「それはそれで傷つくんですけど!女として!」

 

 見せられたのは、私の個人情報。というか、なんでそんなものまで知られているんだろう……というものがポンポンと出てきて、初めて会話をした女の人に、こうも弄ばれる。そんな中でも、狼先輩は飄々として我関せずの態度。ふふふ、と笑う奏先輩を止めるかのように、扉のノックと、王子様の声が聞こえた。

 

 この声は、スバル様。入ってきて、という奏先輩の命令に、狼先輩はドアを開ければ、やはり、私の王子様が現れた。こんなにも、近くの所に。夢じゃないよね、と確かめるべく、私は自分の頬をつねる。が、痛い。つまり、夢じゃない――という証明を終えたところで、と狼先輩は口を開く。

 

「ここらで火事があったそうだな。日向、お前の家だな?」

「……それは」

「先程、スバルと一緒に見てきた。気の毒にな。だから、しばらく泊まっていくといいさ。部屋は、スバルが用意してくれた――この屋敷は、部屋が有り余っていてな。奏も、そうしてくれた方が喜ぶ」

 

 こちらの眼を見て話す、銀髪のイケメン。そして、スバル様が用意してくれたという部屋。ぐっ、とサムズアップをして私をお迎えしてくれる奏先輩。私の災難は、わらしべ長者ではないけれど、良い方向に転がって行ってる気がして。

 

 あとはスバルに案内してもらって、と奏先輩が言えば、かしこまりましたの一言を告げ、私の手を引くスバル様。あんなにショッキングな出来事があったのに、私の顔は少し綻んでいた気がする。

 

 ――のも、束の間。

 

††††††

 

 

 ――拝啓、天国のお父さん、お母さん。私は今、亀甲縛りをされています。夢で見たことをされていますが、解いて欲しいです。

 

 涼月家の屋敷、案内された部屋。動けば動く程、身体の節々に入り込んでいく。この縛り方をしたのはスバル様、そして原因は私。

 

 ――トイレに、猫ちゃんパンツを履いていたスバル様がいた。

 

 だって、鍵が閉まってなかったんだもん。ノックしなかった私も悪いかもだけど。はぁ、と困ったようなため息を吐く奏先輩、そしてスバル様はしまったという顔。この2人とは対照的に、ポーカーフェイスを貫く狼先輩。『いや、スバル様がそういう趣味なのは別にいいです。今は珍しくはないですし!』とか取り繕おうとも、奏先輩はスバル様のジャケットを脱がせた。

 

 ――胸が膨らんで、ブラまでつけている。

 

「いやいやいやっ!パッドでしょっ⁉︎そういう人いますもんっ!お胸も小さ――」

「言葉に気をつけろ、次はないぞ」

 

 ――ハイ、ゴメンナサイ。死にたくないです。叩くならお尻にしてください。

 

 無自覚にも素直な感想を吐いたら、スバル様の拳が私の目の前に落とされていた。しゅうう、と立ち上る謎の煙、そして涙目になりながらも睨み付ける、その凛々しき眼差し。

 

「スバルは女だ。正真正銘のな」

「それを知った上で入学してくる子もいるのよ?」

 

 涼月姉弟の援護射撃。脱がせたのは奏先輩の方ですよね?確かに覗いちゃった形になったのは私が悪いですけど。――っていうか、なんで狼先輩のいる前で脱がせたんですか⁈私もパンツ丸見えなんですけど⁉︎恥ずかしいんですよ!思春期なんだから!

 

 バレてしまっては仕方がないな、という狼先輩は、私を抱き上げて座らせた。そして、片膝をついて、私の視線に合わせ、はっきりと言う。奏先輩も、同じような事を言うつもりだったのだろうけど、思いつくのはこの男の人で。

 

使用人(メイド)になれば、辻褄は合わせられよう」

「は?」

「こういうことよ、真宵ちゃん。『家がなくなって行き場が無いところに、メイドとして私達が迎え入れた。その生活の中で、スバルの秘密を知った』――ね?自然でしょ?」

 

 頭の回転が早すぎる。そして、この人が動く、ってことは、多分拒否権はない。

 

 ううむ、とスバル様が唸った。ボクを助けてくれ、と言わんばかりの眼で私を見つめてくる。確かに、スバル様のお力に、それに衣食住も保証される。なら。

 

「なりますっ!」

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