††††††
天蓋付きのベッドなんてはじめて見た。そんなベッドに寝るなんて、尚更しない経験。生活レベルが一瞬にして変わってしまった世界。
「……」
「おはよう」
そしていきなり出会う、半裸で銀髪の美少年。筋骨隆々、上半身の筋肉の発達度合いも、初めて見るレベルで。――狼先輩。女の子ばかりのお屋敷で、その格好はマズいです。
起きては、この広いお屋敷内で、洗面所に行って顔を洗おうとしていた。そこには、先客がいて。うん、自分の家だから普通なんだろうけど。というか朝早いですね⁉︎6時ですよ⁉︎さっき陽が登ったくらいです⁉︎
「今日の日の出は、4時48分52秒だったぞ」
「心読まれた⁉︎」
「朝から元気だな」
しゃこしゃこと歯磨きをしながら喋る狼先輩、うがいをして吐き出す、泡まみれの水。タオルで口元を拭う動作が筆舌し難いほどに官能的で、なぜかトロリとよだれが出て。
――あの歯ブラシで擦られたい……!あんなとこやこんなとこ、そんなとこ……。股間の歯ブラシも……。
頭に「
バシャバシャと顔を洗い、顔を見つめる。こんな広い所で洗うのも中々落ち着かないけど、それよりも現実はとにかく奇想天外。スバル様が女の子で、私はそれを知って、ここのメイドさんになって……。
「ここにいたのか」
「す、スバル様!おはようございましゅっ」
――そして、王子様の目の前で、思い切り朝の挨拶を噛みました。
††††††
他の使用人を紹介する、ということで、メイド服の用意ができていない私は、借りたお洋服で挨拶をすることになった。自然と手を引いて案内してくれるスバル様は、それで仕方ない、という説明をしてくれるも、やっぱり少し失礼かな、と思ったけれど、どうしようもない。
この長い廊下のどこが到着地点なんだろう。もしかして、あそこにいる2人のところかな。シェフさんと、メイドさん?どっちもアクが強そうな……。眼帯してるメイドさんなんて見たことないし、シェフさんは腕っ節が強いというか、ヤンキー丸出し。でも、どっちも綺麗な人達だ。
――というか。おかしいんだよ。ここの人達。
奏先輩にいきなり『なめて?』と足を突き出されたり。縛っていた縄は狼先輩が綺麗に解いてくれたりしたけど、いきなり半裸で現れるし。アクが強くてついていけてない。というか、無理。ついていける人なんているわけがない。そんな中で、目の前の人達が自己紹介をしだしてくれる。まずは、ヤンキーっぽいお姉さん。
「ふぅん。アンタがお嬢様の言ってた新入りちゃんか」
「はいっ、日向真宵です。よろしくお願いしますっ」
「おうっ。あたしはシェフの鮫島コサメだ。
――うん。やっぱりどっかヤンキーっぽい。というかそれ死語……。
気にしたら負けなはず。なんだけど、コサメさんは手をワキワキさせている。『次はチェックといくか』と言いながら、私に近付いてくる。目の前にくれば、より美形、なんだけどさ。
なんで?
「ほああっ⁉︎いきなり何するですかぁ⁉︎」
「ふむ……。77センチのBってとこか」
なんで私、胸触られてるの?というか、なんで当たってるの⁉︎その手はなにかセンサーでも付いてらっしゃるんでしょうか⁉︎白昼から堂々とセクハラって、なに考えてるんですかっ⁉︎
――やめろコサメ!真宵が嫌がっているだろっ!
咄嗟に助けてくれるはスバル様。しかも、私の名前を呼んでくれた。不幸中の幸い、って言ってもいいのかもしれないけど、なんか話してる内容から、コサメさんって毎日人の胸を揉んでるんですか。とんでもない痴女さんじゃないですか……。
それにしても、やっぱりスバル様……。このまま、優しいままで、私の名前を呼んで――。
「大丈夫か?コサメのあまりの気持ち悪さにおかしくなったのか?」
「いいいいえっ!全然そんなんじゃないのですよ⁉︎」
「キッツイ言い草酷いよスバルたん。気持ち悪いて……」
「黙れ!あとスバルたん言うな!」
「スバルたん星人」
「殺すぞ」
仲良いんですね。我に返ってそう思ったけど、コサメさんには守備範囲外とか言われる始末。変なことをするな、と名前を呼びながら庇うスバル様だけど、それは毒牙にかけるための前ぶりだったかもしれない。
――あたしは、スバルたんみたいな貧乳ロリっ娘にしか、興味ない!
……変態だ。ドのつく変態だ。それに加えて、スバル様に引っ付いては胸を揉み始めている。やばい。私も混ざりたいんですけど。そんな中でスバル様はコサメさんを殴り飛ばして、ドタドタと騒ぎだし。
「――うるさいぞバカ共、朝っぱらから何事だ」
――迷彩のズボンを着た、タンクトップ姿の狼先輩が現れた。
††††††
「いつものこととはいえ……。すまんな、真宵」
「あっいえ!」
スバル様をコサメさんから引き離した狼先輩は、裸眼のまま私に謝ってくる。だけど、狼先輩が悪いわけじゃない。スバル様は未だに警戒をしているものの、コサメさんは狼先輩が現れるなり、そちらの胸にシフトチェンジした。いや、その胸硬そうなんですけど。朝見たからわかりますよ。胸板すごかったですし。
それをもノーリアクションで受け流す狼先輩。揉まれるまま、無表情でメイドさんを紹介し始める。名前は、早乙女苺さん。この人もスタイルがいいし、美人。眼帯してるけど。よろしく、と小声で言うけれど、なんかまともそう。
「一つ言っておきたいことがあるの」
「あっ、はい。何でしょう?」
「私はこの屋敷のメイドである、と同時に。奏お嬢様を愛しているわ。一言で言うならLOVE。だから――」
――貴女がお嬢様に恋愛感情みたいなものを抱いていたら、多分手加減できないと思うから。気をつけて。
――ごめんなさい。全然まともじゃないです。なんでバール突きつけられてるんですか私。そして、狼先輩。なんでそのバール奪えるんですか。そして、それは粘土じゃないです。軽々と引きちぎらないでください。貴方は人間ですか。
「まあ、狼がいる限りはあいつは暴れねぇよ。安心しなよ」
「へっ?狼先輩……。そんなに凄い人なんですか?」
「ああ。お嬢様以外で苺が気に入ってる奴、狼くらいしかいない」
狼先輩の胸を満喫したコサメさんが話してくれる。なにか共通点があるかもしれない、あの2人。無表情だし、無口だし。だから仲良いのかな。
――ま。あたし達は新人だなんて、まだ認めてねえけどな。
フランクだった人から、唐突に言われること。いや、確かに先輩としてのメンツはあるとは思う。それに、あのお嬢様に仕えるなら、そんなぽっとでの人間には任せられないだろう。家が燃えたから、とかなんとか理由があるにしても、奏先輩がいいと言っていても、だ。
「なら、試験をしましょう。うちのメイドになれるかどうかの、ね」
そのお嬢様の一言で、私の進退が決まろうとしているのに。
††††††
奏先輩の提案であれば、この人達は文句を言わない。だから、中身がなんであれ、メイドになれるように合格しなきゃいけない。んだけど。
「第一回!チキチキ勝ったらメイド!涼月家くじ引き大会ーっ!」
――リアルラック頼みですか⁉︎それにその箱、やけに手間がかかってますけど、いつ準備したんですか⁉︎
「私が用意した」
「へ、へぇ……。って、狼先輩っ⁈」
「手先は器用な方でな。奏に頼まれたから作った。『面白そうだったから』だと」
心を読み取られ、その意図を聞かされれば、より一層このくじ引きは不安になる。なにせ、私は不幸スキル持ち。それに加え、ハズレくじもたくさんあるらしいし。『熊と金網デスマッチ』ってなんですか⁉︎冥土になっちゃうじゃないですか。苺さんのもやたらと物騒だし。
とにかく頑張れ、と声をかけてくれるスバル様。ワイワイうるさい外野。そんな中でも狼先輩は無表情で。この人、笑う時あるんだろうか。見てみたい気もする、けど今はくじ引きをやるしかない。
――やりますっ!
「――なんですかこれっ⁈」
「オオサンショウウオだな。誰の差し金かは知らんが」
――いきなりハズレを引きましたです。しかも、ヌルヌルする両生類。特別天然記念物なんて、下手したら犯罪では。
にゅるり。動く両生類。見た目はどこか可愛いけど、女の子には中々厳しいものもあり。狼先輩が私の手からそれを取っては水槽に入れてくれたけど、平気とはいってもそれすら無表情ですか。食べ物じゃないんですよその子、美味しそうだなとか言わないでください可愛そうです。
――まともなのあるの?
炙り出しだとか、「コサメとスバルが絡み合う」だとか、最早私関係ない。でも、引いたものは絶対だからやるしかないのだけど。もはや狼先輩と奏お嬢様はくつろぎ始めてるし。苺さんもコーヒー淹れ始めてるし。余興とはいえ緊張感なさすぎではないですか。
「当たりはあるぞ。2枚な」
「2枚?」
「ああ。私のと、奏が書いたの。なんなら2枚引いてもいい」
それを早く言ってくれませんかね⁉︎まあいいけどさ。お嬢様はニヤニヤしながらこちらを見てくるし。狼先輩の膝に座り始めながら。――あ、ほんとだ。苺さん、狼先輩と奏お嬢様の絡みについては、なにもしないんだ。というかちょっと嬉しそう。
とにかく、やってみよう。2枚、引いてみる。箱の中に手を入れ、手探りで紙を2枚。指で掴んで、するすると穴から引き出す。中身を見てみれば、女の子特有の文字と、筆記体で書かれた英語の文。
「おつかい、と……『
「ふふふ。おめでとう。当たりよ?」