あ、これ公文さんのとこでやったところだ! 作:カツカレーカツカレーライス抜き
『どうも、初めまして』
画面の中で女が綺麗に一礼する。
それに対する反応はというと。
『え…誰?』
だった。
○ ○ ○
「申し訳ありません、公文殿は主家から用事を仰せつかりましたので、こうして私が配信という物をやらせて貰っております。ご不快かも知れませんがお許し下さい」
また綺麗な一礼。
『あ…すまない、貴方はその、誰なのだろうか?』
「あぁ…これはこれは大変失礼を。私公文殿の友人で、七条常陸守と申します」
『力餅の人か!』『黒幕の人か!』『常陸守て』
流れるコメントに、七条と名乗ったほんわか系眼鏡お姉さんはニコニコと微笑んだ。
○ ○ ○
七条兼仲という人物は武将と呼ぶよりは勇士で、武者と称すべき者だ。
そしてなかなか困った人物でもある。
主家は三好家に仕える小笠原という家だ。サンキューカッス?割とかわいそうな人なので止めて上げなさい。
とにかく、カッスに仕えた七条兼仲は実は生来からの剛力という訳でもなく、彼は地元のお寺にある観音菩薩に二十一日間、しかも深夜にやって来て祈り倒した。
その結果彼は剛力を得たのだ。観音菩薩様としては、
え、何この人。なんで毎日深夜に来てるん?これなんかあげないと帰らないパターン?マジで?
とかな感じで怖かったと思うんです。
さて、こうして大力剛腕を得た彼は大変喜び、お寺に石塔と大きな鏡餅を自分で背負って持っていった。
そこまではいい。まぁよくあるかな、だ。
この人、石塔と鏡餅をお寺に奉納する前に、ほんまに力持ちになったんやろか…よっしゃ、試したろ!とお寺にあった大きな石を持って歩き、あこれほんまや!と確信すると、持っていた石をたんぼの中にぽいしたのだ。
やめなさい、お百姓さん困るから。
もうちょっとこう、道の脇とかにしなさい君。
この時の石は現存しているので非力なぼでーにお嘆きの方は一度お参りして撫でてみてはどうだろうか。
伝承では大力を得た人もいるとか。
でも石はたんぼにぽいしない様に。ほんと石とか困るので。
○ ○ ○
「ところで…」
『うん?』
「配信というのは何をすれば?」
『そこからか…』『公文さんはなんて?』
「いえ、突然家に来て、急用が出来たからお願いしたいと頼まれまして」
『それで受けたのか…』『もうちょい説明を…』『そも七条…さんは他家の人なんですが。あの、さんでいいです?』
「はい、構いませんよ。他家と言いましても親友からの頼みでしたので、ついつい何も考えず…でして」
ちょっと俯いて、うふふと困った顔で笑う眼鏡が似合うお姉さんだった。
『この時代なら他家でも…それこそ戦時中でも付き合いは続くからな…』『そうなん、説明ニキ』『説明…いやいい…ある程度手を延ばしておかないと消耗戦になってしまうし、主家が頼りなくなった時に次の事を考えると…つながりは多い方がいいんだ』『どゆこと?』『あの砦堅いなぁ。あ、誰か勧誘に行かして味方にするか中立にしよ!って思った時に伝がないのはやばい』『でもなんか信用できない感じじゃない、それ?忠義とか仁義とか』『まだまだ一所懸命の時代やで。領地を安堵してくれへんなら返り忠もやむなし、やからね』『はー、そんなモンかぁ…』
「へー、そうなんですか…」
『感心か』『さすが公文さんの親友やで』『そういうの抜きで親友か…憧れるな』『やめろ辛くなる…』『それはそうと…公文さんの急用って?あ、聞いてないとか言えないならいいんで』
「いえ、聞いていますし普通の事ですから問題ありませんよ?」
『普通の事?』『なんだろな?』
「先日七つになられた末の姫様に連れられて、天神社にお札を納めに行かれました」
『公文さんがお札を納めに?』『公文さん七つか…』『いや十にはなんとか届いてるだろ』
「いえいえ、長宗我部の末姫様です」
『連れられてとか言うからてっきり…』
「いえいえ、連れられてなんですよ。公文殿一人だとまた迷ってしまうので…」
『草』『七つの子に手を引かれてるのか…公文さん…』『ありだなっ』『実際には他にも護衛がいるでしょ』『夢がないな』
「あと、ついでだから怨敵調伏の祈願文を納めてくるとか…」
『天神様に怨敵調伏の祈願文か…長宗我部家でこの時期辺りだと…一条は早すぎるか』『安芸とか本山とかじゃ?』『その辺やろなぁ』
「あ、いえいえ、サドルをよく盗っていく人の事を、公文殿が」
『主家の主が怨敵なのか…』『道真様困りそう…』『案外喜んで雷落としてそう』『道真様?』『天神様=菅原道真公だぞ』『へー…』
「戦勝祈願や鎮護の神様ですね、よくみんな拝んでますよ?私は観音菩薩様一筋ですが」
『まぁ七条さんはそうやろなぁ』『でも観音菩薩様も毎日深夜に来るから怖かったと思うの』『やめてさしあげろ』
「うふふふ…でもそうだったかもしれませんね」
『寛容やで…』『でもこの人も四国でも有数の武闘派なんですよ』『公文さんといい、この人といい、ぱっと見だとただの美人と美ロリなんだけどな』
「ありがとうございます。で、先ほど出ていましたけれど、天神様なら本当に喜んで雷を落としそうですよね」
『え、なして?』『あぁ…将門記か?』『まさかどき?』『しょうもんき。ノッブのはしんちょうこうき、八艘飛びの人のはぎけいき、だからな』『俺ずっとのぶながこうき、だと思ってた…』
「私もお寺でちゃんと将門記を学ぶまで、読み間違えてましたよ」
『女神か』『力餅の人です』『パワー系女神か…』『しかも石をそいします』『んで七条さん、何で天神様が喜んでって?』
「あ、そうですそうです。えーっと、将門公が国司をこう、あれしてからですね、八幡大菩薩の遣いを名乗る巫女が出てくるんですよね」
『あれする』『隠してるのになんかボコボコより怖い』『国外追放されただけやで』『よかった…あれされた国司はいないんだ…』『ごめん、国司ってなんだっけ?』『朝廷から派遣される、もしくはその土地の人間が任じられる地方行政官』『ありがとやで』
「それでですね、巫女が八幡大菩薩様からのお言葉だから、って言うんですね、新皇になっていいよーって」
『軽っ』『なっていいのか…』『この辺りは何というか唐突なんだ、実際。王権神授を無理矢理演出した不自然さがな…』『なるほどなぁ』
「それで、これについては菅原に書いて貰ったよ、と記されてるんですよね」
『書いてって…なにを書いたんだろ?』『位記やで。朝廷から官位を貰う際に書かれる辞令とかそんなんよ』『あぁ…つまり天神様も同意してますよ、と』『道真公もまぁほれあれ、上に翻弄された人生だから、故あれば下、上に剋つをよしとするというか、なんというか』『なんとなく分かった』
「うふふふ、私常陸守ですから将門記は得意なんですよ」
『何故に常陸守にしたのか…』『公文さんと違って、知ってて名乗ってるんだよね?』
「それは知っていましたよ…でも公文殿がその…凄くきらきらした顔でですね?上総守にする、って言うんですね?」
『うん、それは仕方ないな』『まずとめられないしな』『ほんまにな』
「それで…友達一人だけでそういうのは、と思いまして、常陸守に…しました」
『友達だな…』『友情かぁ…』『昔の友達に電話してみるかな…』『んで、七条さんは官位バカにされたらどうしてるやで?』
「投げますけど?」
『なげ…?』
「はい。バカにした当人をこう…上とか横とか下とか、気分次第ですけれど」
『友達か…』『類友か…』
天神様に七つなったらお札を納めにいく風習ですが…
唄は明らかに江戸時代のものなんですけど、風習そのものの成立がはっきりとさせられませんでした。
戦国後期ならあるかなぁ…どうなんでしょう?