剣八の墓標   作:点=嘘

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雨は未だ止まず

 

「うっ……うわああああッッッ!?!?」

 

 深く静かな真夜中の病室。

 ふかふかの枕に頭を預け、ひどく疲れた体を休めようと気持ちよく眠っていた矢先。ハッと、突然に聞こえてきたとんでもない大声に俺は叩き起こされた。

 

「腕が、僕の腕が!!」

 

 うおお、やかましい、クソやかましいぞ。こんな夜更けにバカでかい声を出しよってッ。

 

「誰か——」

 

五月蝿(うるさ)いんじゃい!! 誰やこのっ、ふざけてンのか!ぶち殺したるぞコラ!!!!」

 

 俺の眠りを妨げやがったドアホへの怒りをめいっぱいに込めつつ、吼翔(くうとび)権十郎は寝具から飛び上がって猛烈な怒鳴り声を上げた。

 

「ひっ」

 

 蚊の鳴くような声を漏らしたっきりドアホは押し黙りおったが、むろんタダじゃあ済まさねえぞ。最低一発はぶん殴ろうという腹積もりで声がした方にズンズン向かっていくと……はて、腕だって?

 

「この野郎、覚悟は出来てんだろう……ぬ、輔忌か」

 

「ふ、副隊長? どうしてここに」

 

 なんだ、隊長のセガレか。

 すっぱりと両腕を切り落とされ、焦燥からかびっしりと冷や汗をかいている上司の息子が目に入ってきた。

 

「……あ、あの」

 

「…………」

 

 ……どうやら顔を真っ青にしているのは、怒れる上司に出会(でくわ)したからって訳じゃあねぇだろう。そんな様子を見ていると()()()()()思えてきた俺は、すわ噴火も寸前かというほどだった怒りが段々と収まっていくのを感じつつあった。

 

 ある意味では弟子とも言える小僧への”複雑な感情”をどう表したものか、暫しお互いを気まずげに見つめあいながら言葉に詰まっていると……あああ、面倒くさい奴等が来おったぞ。相も変わらずドタドタと喧しい連中やな。

 

 

 

如何(いかが)なさったか吼翔副隊長!」

 

「詰所は共同の施設ゆえ、夜半の騒音は謹んで頂きたく!」

 

 

 

「数男さん、数比呂さん!?」

 

 ちい、四番隊の副隊長と三席どののお出ましかよ。

 性格からして真っ先に飛んで来そうなのは麒麟寺隊長やが、あの人はあの人で忙しいらしいからなァ。

 

 それというのも、はや十四年もの年月が経とうとしている滅却師(クインシー)共との戦争がいまだに尾を引いておるからなんやと。

 その爪痕は我らが瀞霊廷にいまだ根深く残っており、治療専門四番隊の長ともなれば以前のようには動けない、と、聞いたところによるとそうらしい。

 ……うちらの被害も大体は総隊長の仕業なんやけど、ま、それはさて置き。

 

「あのっ、夜中に騒ぎを起こしたのは申し訳ありません。でも、腕が……僕の腕はどうなってるんですか!?」

 

「……! 卯ノ花、それは……」

 

「いい、数比呂。あれについちゃあ俺が話す」

 

「吼翔副隊長……」

 

 ……やっぱり()()()の記憶は飛んどるな。ま……その方がコイツにとって”救い”にはなるか。

 遅からず説明しなけりゃならん事だと、重い気持ちを抑えて俺は口火を切った。

 

「単刀直入に言やぁ——輔忌、お前の腕を切り落としたんは、俺や」

 

「…………ッ!」

 

「だがまあ、ジッサイのところ()()()()()()()()()()()()()()。……ああ、そうニラむなや。数男!」

 

 餅は餅屋。この辺りは専門家に任せた方が良いだろうということで、俺は丸ぶち眼鏡の副隊長に声をあげた。俺の意図を汲み取った数男が輔忌の状態に説明を始める。

 

「はっ、はい。……よく聞くんだ、卯ノ花。君の両腕は殆ど完璧な状態で此方に保管してある。我々では迂闊な処置が出来ないのだが、つまり——」

 

 そこで自分達の不甲斐なさを恥じ入るように一旦言い淀んだ後、救護隊の副隊長は努めて不安を煽らないような明るい声色で続きを口にする。

 

「麒麟寺隊長ならば()()()()事が出来る。手の空き次第に処置を済ませると仰っておられたよ。……いやはや、正直言って、あれほど『綺麗な傷口』が戦いの中で付いたものだとはとても思えなかった。君の副隊長がやってのけた事は凡手の業ではないぞ。神業と言っても良い」

 

「余計な事は言わんでええ。ったく、つくづくお前ら二人に喋らせたら何を口走るか分かったもんじゃねぇ」

 

「…………治る……」

 

 回道に明るくない俺がハッキリ言える事じゃあないが、どうもそういう事らしい。自分の腕がキチンと元に戻るってことを知った輔忌はというと、徐々に安堵の色を取り戻し始めていた。

 

 だが……事の本筋は()()()()()()()()。こいつはそれを、その顛末を知らなきゃならねぇ。

 自分の口調が思っていた以上に重くなっていることを自覚しながら、俺はゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「分かるか?」

 

 そうだ。これほどの大怪我を俺との戦いで負ったのだという、その事実。同時に俺が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に対する答え。

 

 病衣の襟をべらりと捲り、首から下を隙間無く埋め尽くすように覆っている包帯を見せる。

 顔色を驚愕に染めた輔忌を無視しつつ、俺はその包帯をおもむろに剥がしていく。数男と数比呂がまた何か騒いでやがるが、知ったこっちゃねぇ。

 

「殺し合ったんだよ、俺たちは。お前の腕を両方ブチ切ってよっ……そうして止めてなきゃ、こっちが殺されてたんだぜ?」

 

 そうして表れた、左腕の付け根。

 

 

 

 斬魄刀を思いっきり突っ込まれ、めちゃくちゃに掻き回されてドス黒く染まった傷。凄惨な殺意の痕跡だけが、そこにくっきりと浮き出ていた。

 

 

 

 ◼️◼️◼️

 

 

 

 天示郎さんの尽力の甲斐もありすっかり元通りになった両腕、それらをぼんやりと眺めながら、卯ノ花輔忌(たすき)は病室の天井に向かって呟いていた。

 

「あいつだ」

 

 いつまで経っても楽にならない現状に気が立っているのだろう。”久しぶりに顔を合わせたと思ったら腕を切り落とされて運ばれてきた馬鹿”を処置する時の天示郎さんといったら、それこそ怒髪天を衝くようだった。

 でも、彼は僕に”何があったのか”とは決して問わなかった。母さんから僕の状態を聞いていたのだろう。それは僕にとっては本当に、本当に有り難いことだった。

 

 だってそうじゃないか。斬魄刀との対話に(はや)り、危うく同隊の副隊長を刺し殺しかけたなどと……一体、何と言ったら良いと云うんだ?

 

「………………」

 

 先刻から薄暗くなり始めた窓の外にちらと耳をやれば、ザアザアという重たい雨音が辺り一面に響いていた。それがまるで今の僕の心境を体現しているようで……とかく、余計に気が沈む。

 

「あいつだ……」

 

 再度、呟きを繰り返す。

 無意識のうちに僕の体を突き動かしていたナニカ。吼翔副隊長から聞いた当時の僕の様子を鑑みるに、もはや確信をもってそれを言い切れた。

 

『異変を感じ始めたのァ、お前が刃禅を始めて半刻ばかし経った時や。いきなりお前は——なんつーか、急に苦しむようなそぶりを見せて、ほんでブっ倒れた』

 

 ようやくまともに動くようになった腕で目元を覆いつつ思い起こすのは、詰所にて副隊長から語られた事の詳細だ。

 

『精神世界で何かがあったって事だけは分かったけぇ、すぐに俺は叩き起こしてやろうとした。あんまし適当な方法じゃねぇんだが、それでも応急処置ぐらいにはなるからな。だが……すぐにお前は起き上がった。それも不気味なほど、()()()()()()()()()()()()()()

 

『……今にして思やァ、この時点でお前に意識は無かったんやろうけどな』

 

”こちらに来てくれませんか”……「ヤツ」は、俺に向かってそう言いおった。当然俺は行ったさ。隊長にお前を任されとる身で、何かあってから動くんじゃ遅いけぇよ』

 

 

 

『そうして、そりゃあ間違いだった』

 

 

 

 その『やり口』に、やはり僕はどこか既視感を感じていた。

 それも当然だろう。……”こちらに来い”という台詞で相手を誘い込み、近づいてきた者を刺し殺す。それは正しくその当時、他ならぬ僕自身が身をもって体験していたものに違いなかったからだ。

 

 稚拙だが、狡猾。”相手に疑われてさえいなければ”という但し書きが付くものの、相手のカンがよほど鋭く、実力が高くなければ——その点で言えば居合わせたのが吼翔副隊長で本当に良かったが——ほとんど確実に相手は死ぬだろう。そして「ヤツ」は今のところ、そのやり口を”疑われていない“相手に対してのみ向けている。

 

「————、」

 

 寝具のすぐ横を見遣れば、そこに()()()は在った。

 憎らしいほど自分の手に良く馴染む柄と、浅黒く染まった緋色の鞘。それに納められたギラつくように鋭い刃は、いまだかつて斬れない物に出会ったことがない。不本意ではあるが紛れもない、相棒と呼ぶべきモノ。僕だけの斬魄刀。

 斬魄刀は死神と寝食を共にすることとされている為、例え病室であろうと、……場合によっては独房の中のような場所であろうと、必ず近くに置かれるものだ。であるからして、()()()()に在ること自体に何らの際立った事情があるわけでもない、のだが。

 

 ふと気づけば、僕はおもむろに眼前の刀を手に取っていた。

 その行為に理由は無い。その筈だ。だが、どころか、それに止まらず——どうしようもなくやり場の無い感情にただ身を任せて、鞘から刀身を引き抜いていた。

 

 戦時特例等非常事態下の外での『それ』が立派な隊規違反である事など、既に気にすらも留めていなかった。

 そうして、”呼ぶ”。

 

 

(ひら)け」

 

…── 酌牽(くみひき)蜥蜴(とかげ) ──…

 

 

 直後。

 変化は、呆れるほどに静かだった。

 

 その刀の形状を例えるならば、”古代遺跡のレリーフから直接飛び出してきたかのような”という形容を前提に語る必要があるだろう。波形に歪んだ長方形の幾何学模様があしらわれた精緻な掘り込みは、そのモチーフを全体的な形状に至るまで侵食させている。

 しかしながら、その刃渡りが解放前に比べて確かに”短くなっている”というのは否めなかった。

 流石に脇差(わきざし)ほどの短小ではないが、どちらにせよ殺傷力は多少なりとも落ちる。これでは戦闘よりも形の上での優美を優先させた、古美術品のような斬魄刀と揶揄されても不思議ではないだろう。

 

 だが。

 先に語った形状の不利を根底から覆す、ある圧倒的なまでの特殊性がこの斬魄刀には秘められているというのは、“それ”を一目でも見た者の誰もが瞭然として理解するはずだ。

 

 

「……尸魂界の歴史始まって以来、唯一にして初の事例、なんて言われてるけど。こんな不祥が先輩になるなんていったら、あの二人に悪いのかもな」

 

 

 取り回しの容易な短い刃は()()()()の使い手にとって有利にも働く。弍撃決殺の”雀蜂”や爆風を生じる”断地風”のような、殺傷能力の高さでリーチを補う他の小型の斬魄刀とはまた異なる形での矮小なる始解。

 

 ()()()()

 

 解放と同時に左手の内に現れた、全く同じ形状をとった二振り目。それが僕の斬魄刀”酌牽(くみひき)蜥蜴(とかげ)”の最たる特異性だった。

 

「……”花天狂骨”は、必要に応じて斬魄刀自身が片割れを産み出した」

 

 鈍に輝く双刃を睨みつつ、僕は斬魄刀の”二刀一対”について思いを馳せる。

 

「”双魚理”……ああ、あとは”斬月”も。あれらの場合は、死神としての力とは全く異なる魂魄の力が裡に混ざっていたことが二振り目の存在に影響したんだと考えるのが妥当だろうな」

 

 遠い未来の記憶によれば、二刀一対の斬魄刀は千年後に至るまでたったの三組しか存在せず、さらにその全てには”由来”と言うべきものがあった。だが……

 

「それなら僕の”蜥蜴”には一体——何の『意味』が在るんだろうな」

 

 いくら思考しようと、応える者は、居ない。

 

 

 

 ◼️◼️◼️

 

 

 

 重ねて言うが、今この場で酌牽蜥蜴を解放した事にさしたる理由は無い。ただ、『こいつ』なのだ。『こいつ』こそが僕を苦しめ、吼翔副隊長を傷付け、——そして恐らくは、あらゆる生命を殺傷することさえを欲望しているであろう邪悪の徒。そんな下衆が前回の刃禅で僕を刺殺し、意識を途絶させる寸前に放ったある一言を思い出す。

 

 

さぁ殺せ! 狡猾に、巧みに、鮮やかに艶やかに! 何より傲慢に殺せ! 殺せ、殺せ——……

 

 

 ……()()()()()

 

 悍しいほどの悪意。人を傷付けようという意思。葛藤も、逡巡も、憎悪も理由も大義も鬱憤すらも無い。何も無い。ただただ何かを殺したくてたまらないというようにしか見えなかった。あれはまさしく、化け物だ。そしてそんな斬魄刀を形作ったのは、僕だ。

 

「は、はは……」

 

 思わず笑いが漏れてしまう。だってこんなの……笑うしかない。

 僕はただ母さんを”救い”たいだけだ。本当に”救い”たくてたまらないのに、しかし、その願いを悉く打ち崩しているのは、よりにもよって自分自身と同義たる斬魄刀に他ならない。

 

「ッ、うぐっ……!?」

 

 と——鬱屈し始めた思考と共に、激しい頭痛が巻き起こる。

 もはや慣れた、とは口が裂けても言えないが。この現象に心当たりがあった僕は、すぐさま酌牽蜥蜴の始解を解いた。重なるように一本の刀へと収束した斬魄刀を脇に放り投げ、苦しみ、悶えながら寝具に倒れ込む。

 

「く、ぁ……ッ!!」

 

 また、まただ。

 脳裏に文字通り焼きついた十四年前の地獄の光景が、鮮明に浮かび上がって離れない。鼓膜を破るばかりの轟音、総てを紙のように吹き飛ばす爆風、そして、そして、……でろりと焼け焦げた、人の臭い。

 

 あれ以来まともに刀を振ることさえ出来なくなった僕が斬魄刀などを解放すれば、果たして如何なるかも知れないというのは薄々分かっていた事だ。ああ——それでも、やらずにはいられなかった。

 発作のように時折現れる幻影は今も徐々にこの身を削っている。喉まで出かかった吐瀉物を何とか押し込み、思う。

 

 もう、時間が無い。

 

 更木剣八をどうにかするとか、卍解を習得するだとか。そんな悠長で先の長い目標を構えている暇なんて、何処にも残ってなどいないのだ。

 ここのところ、力が先細るように目減りしていくのを感じる。長い間放置されてグズグズに腐った心の傷に、もはや体のほうが保たなくなってきているのだ、と。

 

「ぐ、がはっ、げほッ……」

 

 胸を掻き抱き、目に涙さえを浮かべながらうずくまる。

 

 酌牽蜥蜴は強力な斬魄刀だ。並一通りのそれらと比べるならば、寧ろ突出しているとさえ云えるだろう。卍解さえ……『残火の太刀』と同じ領域である卍解さえ習得することが出来れば、心へ巣喰うこの”恐怖”さえも母さんの言う通りに取り払えるのではないかと、そう思える程に。

 

 だけど、そんなの……僕には無理だ。

 

 

 

「おい」

 

 

 

 例え”力”を得たとして——内外すら問わずに殺意を振り撒く斬魄刀。どうして己のものであると、そう胸を張って言えるだろうか。

 生命を預けるに足る、全幅の信頼を置けるだろうか?

 

 

 

「輔忌?」 

 

 

 

 前進を恐怖し、挙げ句の果てに自分自身さえをも遠ざけ、また恐れ…………

 

 

 

「輔忌──……」 

 

 

 

 ぼく、は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呼ばれたら返事ぐれぇしろやッ……このボケがぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「散々呼び掛けてやったのを片っ端から無視しやがってよぉ! 退院がてら人がせッッかく見舞いにでも来てやろうってのに、おめーは自分の隊の副隊長を何だと思っとるんや! あァ!?」

 

「っづぁ…………!」

 

 呆然。

 突然の罵声と側頭部を通り抜ける拳骨の衝撃に何が起こったか理解できず、僕はしばらくの間口を半分開けて呆けていた。

 

 ひとしきり捲し立てた後に、その誰かがこちらを見下ろしている。数日前の病衣と違い、身に付けているのは黒色の死覇装。短髪黒髪の偉丈夫。そこに居た人物とは紛れも無く——吼翔副隊長、その人だった。

 

「も……申し訳ありません、全く気が付きませんでした」

 

「あーそーやろうなァ! 周りなんかちぃとも気にしてなさそーやったもんな! こっちが見とって寒気がするほど辛気くっせぇ顔しとったでお前! 昨日の朝飯何やったか思い出そうと考えとる猿か!」

 

「そ、そこまで言わなくても」

 

「あ“あ”!? 黙れたわけ馬鹿この舐めとんのかコラぁ!!!!」

 

「ちょ、やめっ、ぐぷ……ッ!?」

 

 痛い痛い痛い!

 あろうことか、副隊長は襟を引っ掴んでガクガクと首を揺さぶってきた! 今にも殴り付けられそうな勢いだぞ……!

 

 こちらが全面的に悪いにしてもやや理不尽な仕打ちに涙目になっていると——どすん、という音を立てて寝具に腰を打ち付けてしまった。半ば放り投げられるような形で手を離されたからだ。

 次は何と言われるのか、当然僕は身構えていた。すると黒髪の大男は大きく息を吸い込んで……

 

 

 

「お前が何に悩んどるのかなんぞ、そのツラ見てりゃすぐ分かんだよ!!」

 

 

 

 ────……。

 

「えっ?」

 

「ああ、お前は結局なんにも言わへんかったがな! その”酌牽蜥蜴”がクソ難儀な性格した野郎だって事ぐれぇ、お前の刃禅の後のくっせえ顔を何百回も見させられた俺が気付かねえとでも思ってんか! ウジウジウジウジよぉ〜〜ッ!! それで大方こう考えとんのやろ! 『あいつを今の形にしたのは僕だ。僕にあんな一面があったなんて……』自分で自分に幻滅しとんのや。見下げ果てた奴だと思っとる!」

 

「そんな事は」

 

「バッッカじゃねえのか」

 

 僕の掠れるような声など耳に入れようとすらしていない様子で、吼翔副隊長は腕を組みながらあっけらかんと、言い放つ。

 

 

 

 

 

「俺の親父は、お前の母ちゃんに殺された!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「隊長がまだ隊長じゃなかった、流魂街(るこんがい)でただ人を斬りまくっていた頃の話や」

 

 今までの文脈を清々しい程に無視した唐突極まる告白に、僕の頭は真っ白になった。

 

「う、そだ」

 

「何が嘘なもんか。息子のお前が、自分の母親がどういう人間か知らねえ訳はねぇだろう」

 

「なら、どうして」

 

「…………」

 

「どうして、そんな素振りを見せずにいられるんですか。親の仇が隊長を勤める十一番隊で、副隊長なんか」

 

 返答が、ほんの少しの間だけ詰まった、ような気がした。

 

「俺の親父は、そりゃあ強え男だった」

 

 しかし、その沈黙が決定的なものになる寸前。

 

「——そして、呆れるほどに血の気が多かった。そんな親父はある日噂を聞いた。”幾度斬り殺されても絶対に倒れない”……それを指して自らを『剣八』と称した、ある女の噂」

 

「…………」

 

「お前、さっき言いおったな。『親の仇の下でどうして副隊長なんてやっていられるのか』……”遺言”だよ。俺がガキの頃、斬られて俺の目の前で死におった、クソッタレの馬鹿親父がただ一つだけ残していったモンだ。”それ”を果たすためだけに、俺はここに居る」

 

 どんな内容かは言えんがな、と副隊長は前置きしつつ、

 

「俺の言いてえ事が分かるか」

 

 一拍だけ置き、そして語る。

 

「人なんぞを殺して悦に入っとる卯ノ花隊長も、手当たり次第に斬りまくって最後にゃ返り討ちにされて死んだ親父も、そんな親父の遺言を律儀に守っとったら仇の下で働いていた俺も、どいつもこいつも気狂いみてぇなもんだろう。どうだ、この世界ってやつは存外……救いようがねぇもんらしいじゃあねぇか」

 

 だから、何だっていうんですか。

 それで、周りを傷つけるだけの斬魄刀を作ったという、その程度の事で自分を嫌うことはないとでも言いたいんですか。

 

「違う」

 

 なら、それなら……

 

「お前は”独り”じゃねえ、って事だ」

 

「…………」

 

「お前の周りに、お前を頭ごなしに責められるような真人間がそんなに大勢いるってのか? いいや、おらんな」

 

「…………」

 

「いいか、お前は俺にどこか似とる。だから一つだけ教えてやる」

 

「…………」

 

「こんな狂った世界には——お前みてぇなろくでなしにも味方でいられるようなクズどもが、存外多く居るもんだからよ」

 

 そう言い放ち、吼翔副隊長は背を向けた。

 去り際、呟くようにして。

 

「頑張れよ。お前のこと、大切に想ってくれてる人がいるからな」

 

 ——じゃあな。言いてェ事はそんだけだ。

 

 

 

 ◼️◼️◼️

 

 

 

 嵐のように過ぎ去っていく吼翔の背中をじっと見つめた後、輔忌は側に放り投げられていた斬魄刀を再び手に取った。

 憎らしいほど自分の手に良く馴染む柄。浅黒く染まった緋色の鞘。ギラつくように鋭い刃。そこに在る様は先と何らの違いは無い。しかし——青年の瞳に宿る”色”だけは、数分前と比ぶべくもない決意の情熱が宿り始めていた。

 

 

 

 ◼️◼️◼️

 

 

 

 一方。

 

「ご無事ですか、隊長!!」

 

「た……隊長!」

 

 尸魂界の片隅、果ての果て。

 北流魂街80地区『更木』に於いて、とある決定的な一幕が終わりを迎えようとしていた。

 

 

この子だ

 

この子こそが

 

”剣八”の名を持つに相応しい

 

 

──── 雨は、未だ止まず。

 

 




 息子が自分のためにゲボ吐くぐらい頑張ってるって時に、何を好みのショタといちゃラブデート(語弊)なんかしてるんですかねこの異常母親……

 一応は「ほんとに辛いなら戦わなくても良いんですよ……?」ぐらいの母親らしい心配は持ち合わせてるはずなのですが、それはそれとして頑張っては欲しいし、それはそれとして自分は暇だからとそこらで遊び回ってるから肝心な時にどっか行ってる女です。これのために人生捧げてる輔忌くんが、どれだけ狂人してるか分かるでしょう……?

 あとは、そう、完全オリキャラの吼翔副隊長が読まれる側にとってどう見えてるかは気になりますね。そこらも含めて感想など頂ければ幸いです。


 そして今回は全人類の夢、<<オリ斬魄刀の開示シーン>>をとうとう執筆してしまいました。
 恥の多い人生を送ってきたモンだがよ……もう、元の生き方には戻れねぇンだな……へへっ……
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