剣八の墓標   作:点=嘘

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避けられぬ戦い

 

 

 見届ける資格など、ある筈が無い。

 

 戦士としての矜持を軽んじてはならない——等と、身の毛もよだつばかりに無責任な題目をさも”仕方がない”とでも言うように振りかざし、私が語るところの『誇りに殉ずる道』に従って進む息子を——それがまるで無謀な、自殺まがいの愚行だというのに——止める事さえしなかった。

 

 

 ……いや、それも、それすらも。

 今にして思えば、輔忌(あの子)に対して抱いてしまった()()()()()()に対する言い訳に過ぎないのだろうか?

 

 私は——あの子が分からない。

 

 その違和に初めから気付いていた訳ではない。けれど今回の件と言い、あの子が命まで懸けるに足る”何か”は確かに在る筈なのに、それが全く理解できない。

 

 そうして輔忌が「吼翔との決闘を決めた」と一方的に言って聞かせたあの日に漸く、私はその事実に克明に気付かされたのだ。

 

 何を見ているのか、()()()()()()()のかすら判然としない視線はまるで”あの人”にそっくりで——

 

 かつて惹かれた筈のその色を。

 得手勝手にも、『恐ろしい』等と感じていた事を。

 

 

 

 ◼️◼️◼️

 

 

 

 きりきり、きりきり……と。

 

 金属がゆっくり引き延ばされていくかのようなその雑音を耳にしながら、吼翔(くうとび)は目前で姿を変えていく斬魄刀の様相を確かめていた。

 

 その刀からは、まず(つば)が消えていた。

 至近距離にて相手の刀から手指を守るための役割を果たすそれが無くなる。これが彼にとって不利な変化になるのかと言えば……答えは否だ。

 

 その斬魄刀——飛掛(とびかけ)にとって重要なのは、そう。

 ()()()()()()()()()()()際に不自由があるかどうか、という点にあるからだ。

 

 柄の片側に寄りながら先細っていく刀身はやがて鋼という材質にあるまじき”柔らかさ”を帯びていく。刀身……いや、もはや鋼線とでも呼ぶべきか。何重にも巻き束ねられた長大なそれは武器として十分な破壊力を既に持っているが、あの飛掛の真価はそんなものではない。

 

 注目すべきは刀身にあたる鋼線ではなく、刃にあたる部分だ。

 

 その()()()を刀身と合わせて身近な物で表すとすれば、最も適当なものは”鍵束”になるか。

 先端は鋭く尖り、逆に根本は丸みを帯びる。水の雫を縦に潰したような形の細長い金属板が、根本の中心に空いた小さな穴を鋼線が縫うようにして纏めている。何枚も何枚も……。

 

 鋼線に括り付けられた総計十八枚もの金属板。

 それが斬魄刀『飛掛』の刃。

 

 

お前にゃ 言うまでも無かろうが

 

 

 ぽつり、”剣八”に最も近い男は——他の誰にも聞こえぬよう、心中に言葉を連ねてゆく。

 

 

いま直ぐにだって お前の喉ブエ掻っ切ッちまえる 卍解 使っちまやァな

 

正味 そうすりゃ俺は一歩も動かずにだって 向かってくるお前を近付けさえせんで 息の根止めることだって出来ちまう しかしよォ……

 

 

 傲りでも何でも無く、それは単なる事実であって。業腹ではあろうが輔忌自身さえ認めざるを得ないような現実を頭の中に並べ連ねつつ。

 

 しかし。

 

 しかし、十一番隊隊長は己の前言を全く無視するかのように——()()()()()()()()()()()()

 

 

声が 聴こえるんや

 

 

 巻き束ねられた斬魄刀、飛掛を横薙ぎに振るい……バシンッ!! と、一瞬にして伸び切った鞭のような刀身が空気を引き千切る音が炸裂する。

 歩みは、尚も止まらない。

 

 

今日この日まで 俺の心に取り憑き 巣喰い  そしてどうあれ 明日にも消え去る亡霊の囁く ——最後の声が

 

思い上がんなよ 権十郎 ”剣八”を争うってぇこの期に及んでまで そうもアッサリ終わらせるなんてのは ちぃと横柄が過ぎやせんか……とな

 

その まるで踊らされてるような必死さが 輔忌 たとえ お前の目から滑稽に写ったとしても

 

 

「ああ」

 

 歩みは止まらない。

 見遣れば輔忌も同様に、その歩みをじりじりと進めている。抱える思惑は違えども、ことこの戦いにおける姿勢は奇しくも全く同じであった——。

 

 

これは 呪いを解くための戦いで

 

これは 弔うための戦いで

 

これは 捧げるための戦いだから

 

 

だから かかって来い とは言えねーけどよ

 

 

「行くぜ」

 

「行きます」

 

 

 瞬間。

 緩やかに、しかし鮮烈なまでの緊張感を孕みながら近づく二人の影が——消失した。

 

 大半の観衆は何が起きたのか理解すらできず。それが『見えた』数少ない実力者の内ある者はさっと顔を青ざめさせ、またある者は興味深そうに眉を上げる。

 尸魂界屈指の実力者らが互いを仕留めるために放つ全力の瞬歩。再び両者の姿が像としてこの世界に映った時。

 

 敵を食い破らんと奔る刃同士の哭き声が、蒼天の空に木霊した。

 

 

 

 ◼️◼️◼️

 

 

 ——見届ける資格など、ある筈が無い、のに。

 

 ああ、今日、私はその場所に行くつもりは無かった。合わせる顔も無いと思っていた。

 

 

ぎッ、ギ イ ぃ”…… イ ん …………

 

 

 あの、空を軋ませるような霊圧と剣戟の音を感じるまでは。

 

 

 

——輔忌、っ

 

 

 

 どうして私は、走っている。

 

「はあっ、はあっ」

 

 傷は癒えようとも霊圧を測れば些かの爪痕を引き摺っていると言わざるを得ないこの体で、というだけの話ではない。

 

 どうして涙が溢れるのだろう。

 どうして胸が痛むのだろう。

 

 母親のくせに、私自身が捨てた名を懸けて戦う息子を止める事さえ出来なかったくせに。

 

 

 それでも、貴方に一つだけ。

 恥を忍ぼうと”母親として”、訊きたいことがまだ一つあるから。

 

 輔忌、貴方は——

 

 

 

 ◼️◼️◼️

 

 

 

 ギン、ギィン! と、刃を纏った鋼線による連撃を二本の刀で捌きつつ、卯ノ花輔忌(たすき)はどうにか思考を巡らせていた。

 

 鞭のような特性を併せ持つ斬魄刀、飛掛(とびかけ)。遠心力を利用した一撃の威力は軽い酌牽蜥蜴を優に上回り、こうして攻撃をいなしていられるのも二刀による型の広さがあってこそだ。

 時に流し、時に弾き、時に躱し……しかし防戦一方では削られるだけ。すぐにでも攻勢に回らなければならない。

 

 手数ではこちらが勝っている分、付け入る隙は必ずある筈なのだが——

 

(……、っぐ)

 

 その隙をどうしても見付けることが出来ない。

 流れるような吼翔隊長の剣捌きが飛掛の弱点である隙の大きさを見せないようにしているというのは勿論そうだが、それ以上に。

 

(頭が割れそうだ……! クソッ!)

 

 未だに癒えない心の傷が、僅かに必要な集中すらを掻き乱して止まないのだ。

 多少は持ち直したとはいえやはり一時凌ぎに過ぎず、徐々に思考の余裕が奪われていくのが分かる。このままでは飛掛の攻撃に耐え続けることさえ儘ならなくなるのは必然だ。

 

 増してや——吼翔権十郎の持つ斬魄刀に秘められた()()()()までもを使われ始めては、とても。

 

 と……攻勢に回る為に裂ける余裕が圧倒的に不足する中、ジリ貧のままに押されていると。

 

矢張(やッぱ)り調子は出ねェかよ」

 

 ガギン、と一際強い衝撃音を響かせると同時に吼翔隊長は飛掛と共に後方へ下がった。

 明らかに優勢である膠着状態を解いてまで、何故——? 胡乱に思う僕の思考を他所に、この戦場を支配する彼はどこか憂鬱な色を覗かせて言う。

 

「これが最後なら……この日は全力のお前と戦おうと思っとった。だがそりゃあ、どうやら叶いそうも無ぇ」

 

「……らしく無い、ですね」

 

 確かに、全力を出せない事は僕にとっての不都合に違いない。だがだからと言って、それはあなたにとっての好都合でしかないじゃないか。

 

「…………」

 

「僕達は互いに想像の及ばないような決意を以ってここまで来たはず。……だからこそ僕には分かる。この期に及んでまで戦いの拮抗なんかを望むようであれば、あなたはたった二文字の名前を巡って僕と殺し合いなんてしないでしょうに」

 

 どんな手を使ってでも——“剣八”が欲しい。その欲求に関して言えば僕と隊長はこの上なく通じている。例え、一体何が互いをそうさせるのかを互いに知らないのだとしても。

 

「……俺一人の戦いなら、そら、そーやろうなぁ」

 

 俯き、項垂れ、だらりと両腕を下ろしながら懇々と言葉を垂れる。それなのに流石は十一番隊隊長の成せる技か、一見した感触とは違って付け入る隙が全く無い。不用意に近づけば直ぐ様斬られる——その緊張感を手放さないよう気を張り詰めつつ、吼翔隊長の言に耳を傾ける。

 

「それじゃアカンのや。俺は今日……俺の戦いを()()()ために、ここに()る。だから……その姿が俺自身のモンだろうと、相手のお前のモンだろうと、不甲斐無い格好は見してやりたくなかった」

 

「………?」

 

 捧げる? 見せてやりたくない? 一体……何を言っているんだ。

 

「まあ……お前が調子を出せん事情も分かっとるし、そりゃあ仕方の無い事やと割り切ってもいる。納得してくれると、思うしかねぇか」

 

「何を……」

 

「——お喋りが過ぎたな」

 

 どこか自分自身に言い聞かせているような独り言をひとしきり語り終えた後、吼翔隊長は目線を明確に僕へと向け直した。

 

「そろそろ息も整えられたか? そんなら精々、“戦い”のテイぐらいは保ててくれとでもお祈りしつつよ——ちょいと本気でやらせて貰うで」

 

「………っ!」

 

 来るか……あの()()が!

 ただならぬ気配を表出させながらも、ぶぅン! と、先程までと同様強烈な"飛掛"の一撃が飛来する。

 

(——弾く! 一発を凌いでから様子を見る!)

 

 何時(いつ)だ? 何処(どこ)で仕掛けてくる?

 唸りをあげて襲い掛かる鋼線だが、一回までなら確実に払えることは分かっている。飽くまでも迎え撃つ姿勢で二刀を構え、右手から横薙ぎに振るわれる斬魄刀に沿わせる形で接触させた瞬間——。

 

 

 

「っ!!?」

 

 

 

 がッギぃ——!! という轟音と共に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(ま、——ずいッ!)

 

 飛掛の能力から何が起こったかを辛うじて把握し、それならば次に取るべき行動は何かと逡巡……する暇も惜しみ、全力で体勢を低く(かが)めるしかなかった。

 

 

 斬魄刀”飛掛”の能力——それは、鋼線に括り付けられた十八枚の刃を個別に『固定』する力。

 

 

 横薙ぎに振るわれ、酌牽蜥蜴に払い除けられるはずだった刀身が接触する瞬間、付属する刃が『固定』された。結果として僕の防御は受け止められ、停止した刃よりも先端に位置する刀身は依然勢いを殺されずに——

 

 ズパッ! と。

 咄嗟に低く屈めた体を掠めるように、僕の頭上を猛然と刈り取っていった。

 

「良く躱した。ほんなら——こいつはどうや」

 

「おおおッ!」

 

 ギリギリで躱し切れなかったのだろう、額の片側を斬られたのか右目の視界が血で滲む。それを拭っている暇などある訳も無く、いつの間にか手繰られていた飛掛が今度は真っ直ぐに飛んで来る。

 

 鞭という武器は一撃を放った瞬間にしか攻撃の意味を成さず、また防御の手段も持たないという弱点を持つが……飛掛は違う。

 伸び切っていようが(たわ)んでいようが『迫り合い』を一方的に引き分けにまで持ち込めるという強みは恐ろしいまでのプレッシャーを与え、続く攻撃を一手でも読み間違えれば——絡め取られて殺される。

 

(いつ”固定”される……!?)

 

 直線の軌道でこちらに走る飛掛はただえさえ防ぎ難い威力を持つというのに、例え弾き飛ばすことが可能だとしても固定の能力で押し切れない。

 ならばここは……!

 

「ふっ───」

 

 正面から相手をするのは間違いなく悪手。飛んで来る一撃の側面へと這わせるように刀を押し当て、軌道をズラしながら直撃を避ける!

 例え迫り合いに強かろうが、一度攻撃を外せば隙が大きいのは変わらないはず。伸び切った飛掛の導線に沿うようにして一気に距離を詰めることができる——!

 

「これ、でっ」

 

 と。

 一旦は過ぎ去った危機から注意を逸らす余裕が生まれ、待ち望んだ攻撃の機会が訪れたと思った、瞬間。

 

「引っ掛けろ……」

 

 意識を向け直した先の、吼翔隊長のその表情には、『不正解だ』とでも言うかのような落胆の色があって——

 

飛掛(とびかけ)ェ!!」

 

 ぐわんっ! という音さえ聞こえるようだった。

 敵の攻撃を捌き切り、隙だらけの相手の懐へ潜り込もうと前に進んでいた僕を上回る速度で、吼翔隊長が()()()()()()()()()()()のだから。

 

「なん——」

 

 

 

「らおォ!!」

 

 

 

 ゴッバギィ! と。

 

「ぐっ──」

 

 攻め手の反応を正に擦り抜ける速度で、意識の外からの蹴りが僕の肋骨を抉り砕いた。

 

「が、あっあぁぁ!!?」

 

 カウンター!? まさか、そんな——こちらが反撃に移るタイミングとしては完璧だった! そもそも一撃を放ってからあんなに速く体勢を立て直して、しかも飛び蹴りを入れる余裕なんて出来る筈が……

 

「っは!?」

 

 血を吐きながら吹き飛ばされて倒れ込む寸前、伸び切った飛掛の刀身がはたと目に入った。

 “固定”されている……まさか!?

 

(空中に刃を『引っ掛けた』まま、柄側から引くことで本体を引き寄せた!? さながらゴム紐に物を挟んで飛ばすように……!)

 

 戦闘経験の差か、または戦いに向ける覚悟の差か?

 変幻自在、無数の戦術。その飛掛の力の一端すら引き出せていないはずなのに、ただ一つ確かな事。それは”固定”の能力を解放してからたったの二手にして、絶体絶命にまで追い込まれているという事実だけだった。

 




なんとしてでも瞬閧使い以外に白打を使わせたい系作者、人呼んで逆張りクソ野郎とはこの点=嘘よ。がはは!
……輔忌くん、そろそろ勝てそう、ですかね(申し訳なくなってきた)(結局死なせるための杯に出しておいて抱く感情ではない)(能力の後発開示等のイベントで大幅なOSR稼ぎが可能なので大丈夫です)

戦闘シーンを書くのが10ヶ月ぶりだからといって更新は遅いし分量も少し足りんのと違うか?すいません……
江戸時代的時代背景のくせに堂々と外来語を連発できるブリーチ二次で更新遅いのは言い訳なんぞできんわ!鬼滅ニ次とかの作者様はそのへん大変なんだぞ!
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