1.灯
新学期が始まり、高校2年生になった私は隣の席に座った綺麗な女の子と仲良くなった。
その子はアイちゃんといって、艶々の黒髪を長く伸ばしていて、オタクだった。好きなアニメやマンガの話をして意気投合した私達は早速遊ぼうということになり、アイちゃんの家へとやってきたのだった。
「えっ!? こんな紙切れが1,000円もするの!?」
思わず大きな声を出してしまった。
「強いから仕方ないね」とアイちゃんは微笑んで言った。
強いってなんだよ、と私は思った。手に持った紙切れ、アイちゃんが言うには《マジックのカード》とやらは大層な価値があるらしい。
「ほえ~」と私はおののきながらアイちゃんにカードを返した。
「こういうカードを60枚集めて、組み合わせて、自分の山札を作るの」
60枚! と私は思った。つまりそれは。
「ろ、6万円……ッ!」
恐ろしい。と私は思った。
今居るアイちゃんの部屋はきちんと整理されていて、机やベッドや本棚があって、ちゃぶ台を挟んで向かい合っているアイちゃんはニコニコ笑ってて、ちゃぶ台の上には推定6万円の山札があって、そして恐ろしいのは、アイちゃんの背後にはカードが詰め込まれた箱が山盛りになっているのだ。
あの沢山の箱にはカードがめっちゃ沢山ぎゅうぎゅうに詰め込まれているのだ!
「富豪じゃん」と私は言った。
「おほほ」とアイちゃんは金持ちの真似をした。
「へへ、肩でもお揉みいたしやしょうか」
「ふふ、手下Aじゃん」
「ていうかマジで金持ち?」
「箱の中のカードは1枚10円とかよ。数が多いのは、何年もかけて集めてたらいつの間にかって感じね」
アイちゃんはニコッと笑ってお茶を飲んだ。
私もお茶を飲んだ。そして気付いた事を尋ねた。
「このカードって、集めて山札作って、そんで何するの?」
「戦うの」と嬉しそうにアイちゃんは言った。「やってみる?」
そういう事になった。
「対戦型カードゲームって分かる?」とアイちゃんは聞いてきた。
「あー、俺のターン、ドロー! ってやつでしょ?」と私は答えた。「ルールは分かんないけどアニメ見た事あるよ」
「100点。パーフェクト」とアイちゃんは言った。
「採点甘過ぎない?」
アイちゃんはカードの詰まった箱のあたりからゴソゴソと何かを取り出してきた。
「これはカードショップで配られてる初心者用の山札。タダで貰える奴だからあげる」
「えっ、神ショップじゃん。ありがとう」
小さくてスリムな箱を5個渡された。
「マジックにはね、5種類の属性があるの。白青黒赤緑の5色。適当にどれか開けてみて」
促され、適当に取った箱を開けた。
ビニールに包まれたカードの束と、《ルール参照カード》なるものが出てきた。
アイちゃんにカードの読み方と簡単なルールを教えてもらい、取り敢えずやってみた方が早いと言われたのでそうする事にした。
「もう完璧に『理解』したわ」と私は言った。
手札を公開してアドバイスを貰いながら何度か遊び、基本的なルールを把握した。めっちゃ面白いと思った。《色》毎の得意な事や苦手な事も分かった。もはや極めたと言っても過言ではない。
「じゃあ、手札の公開無しでしてみる?」とアイちゃんは言った。
「うん」と私は返事をした。「する」
シャカシャカと山札をシャッフルしてアイちゃんに渡す。アイちゃんは受け取った山札をシャッフルしてから私に返した。これは《カット》と呼ばれる儀式で、いわゆる《積み込み》を防ぐ効果があると信じられている。
お互いの山札をカット&シャッフル。
そして先手と後手を決めるためにサイコロを使う。出た数字の大きい方が先後を決める権利を得る。サイコロが無ければじゃんけんでも良い。
「じゃーんけーん」「ポン!」
私の先手で始まる事になった。
一進一退。九死一生。熱戦死闘。なんやかんやで勝ったり負けたりした時には、私はすっかりハマってしまっていた。
「めっちゃ面白いねコレ」と私は言った。
テンションが上がって、胸の奥がちょっと熱い。
「マジックの世界へようこそ」とアイちゃんは言った。「あなたはプレインズウォーカー」
こんな感じで私は《プレインズウォーカー》になった。