中間テストも終わって、もう秋だ。冬も近い。
いろいろ調べたし、カードも集めた。シミュレーションもした。やれることはやった。他に出来ることもあるかもしれないけど、もう思い付かない。
さあ、いざ! いざ! やるぞ! 心臓と魂を燃やせ!
「アイちゃんお願い、とーして?」
私は可愛い子ぶって言ってみた。たとえ99パーセント無理だとしても、1パーセントでも可能性があるのなら挑戦する価値はあるはず。
「んー、フレイムたん通すとブロッカー焼かれて、ファイヤーズの速攻で叩かれて4点。あー、火切って6点か。おのれパイロさえ、パイロさえなければ……」
「全然見てないじゃん」
「ユーリちゃん、わたし、いま、ピンチ」
なんと今、私はアイちゃんの【レベッカフェアリー】と戦ってる最中で、ちょっとふざける余裕があるくらい押してるのだ。
「どうしてレベッカはクリコマを描いてないの!? フレイムたん通ります……」
「やった!」
場に出たフレイムたんは花から出てきたフェアリーをやっつけて、そのままアイちゃんに向かって走った。
「う、アタック指定でスタッター出して、そのままブロックしたーいな?」
アイちゃんがめっちゃ可愛い顔しておねだりしてきた。
「えっ、うーん」
唯一の手札《稲妻の一撃》を見ながら迷った。アイちゃんのおねだりで迷ったわけでは無い。アイちゃんのおねだりで迷ったわけでは無くって、どうすれば勝てるかを考えた。本当に全然迷わなかった。
フレイムたんのアタックが通れば4点。《稲妻の一撃》より1点大きい。
「だーめ」とめっちゃ可愛い子ぶって言ってみた。
「んふっ」とアイちゃんは吹き出した。
「おい、今のは可愛いでしょ」と私は言った。
「ふふ、あ、あざと過ぎるから面白かったの」とアイちゃんは笑って言った。
「ちょっとやり過ぎたかなとは思った」と私は正直に言った。「とりあえずスタッターに《稲妻の一撃》撃ちまーす」
「焼けましたー。フレイムたんは何点?」
「4点だよー」と私は言った。
「んー、ファイヤーズは切らないの?」
「切る?」
「えーと、ファイヤーズの下のほうに書いてあるサクリファイスんにゃんにゃ+2/+2の部分は使わないの?」
なるほど。そういう言い回しをするのか。私はファイヤーズの英語を改めて読んでみた。
「そう言えばこんな能力あったね。完全に忘れてた」
「ふふ、マジックではよくあるよ。そういう事」アイちゃんはニコってしてフォローしてくれた。性格が良い。
「アイちゃんあと7点だよね? フレイムたん+2しても足りなくない?」
「ファイヤーズと同じように、実は《苦花》にも隠された能力があるの」
アイちゃんが《苦花》をこっちに向けてくれた。
「アップキーブにフェアリーが出て、ライフを1点失う……。アイちゃんこれって」
「ユーリちゃんの勝ち!」とアイちゃんはニコニコ笑いながら手を差し出してきた。
「か、勝った……?」
「ほら握手しよ! グッドゲーム!」
「うん……」
アイちゃんに両手でぎゅっと手を握られた。
「わあ」私はよく分からない声を出した。
「ユーリちゃん!」
アイちゃんは手を握ったまま立ち上がり、私を引っ張って言った。
「私と踊って!」
アイちゃんは片手を繋いだまま、体をピッタリとくっつけてきた。空いてるほうの手は腰に回され、グイと引き寄せられる。ほとんど抱き合う形になってゆっくり回ったり揺れたりした。
お互いの肩に顎を乗せないと顔がぶつかる距離。アイちゃんは私の頬に自分の頬をくっつけて話しかけてきた。
「ユーリちゃん強かったよ」とアイちゃんは言った。
「アイちゃん、今のマジック、楽しかった? 私とファイヤーズは、アイちゃんのお気に入りのデッキと楽しく戦えた?」
アイちゃんは私の首に両腕をまわして正面から抱きしめてきた。おでことおでこをそっとくっつける。
「そんな事を考えてたの?」アイちゃんはちょっと目を見開いて、驚いた顔をしてた。
「アイちゃんが使いたいデッキを、使わせてあげたかった」と私は言った。
「うん」
「私がいつもしてもらってるみたいに、いっぱい考えて、悩んで、ライブラリーの一番上のカードにお祈りしちゃうようなマジックを、私もアイちゃんにさしてあげたかった」
「うん。うん!」
「アイちゃん、私ちゃんとできてたかなぁ?」
「うん、ほんともういっぱい考えたよ! 致命的だったのは最後の一つ前のターンに撃たれたパイロ! 《紅蓮地獄》! トークンが全部無くなっちゃった! おかげで次引いたスタッターでフレイムたん消せなくなっちゃってすっごく困ったんだからね。手札の残りはスタッターと土地だし、お願いブロックさせてその手札除去じゃありませんよーに、ってお祈りしたんだから。案の定焼かれたし! ユーリちゃんもファイヤーズもすっごく、すっごく強かったよ!」
アイちゃんはめっちゃ早口で喋りまくった。
「それでねそれでね、私、すっごく、楽しかったよ!」
つぼみが綻んで花が開くような顔をして、アイちゃんは言った。