「あ、えと、ただいま……」とアイちゃんのお母さんは言った。
アイちゃんのお母さんはミチコさんと言う。綺麗な黒髪を長く伸ばしてて、今はゆるく編んで背中に垂らしてる。アイちゃんの20年後はこんな感じの美人になるんだなって予感させる清楚な人妻だった。
どうやら私とアイちゃんの口付けシーンを見ていたらしいミチコさんは、めっちゃキョドってた。
「どうも、お邪魔してます。おかえりなさい」と私は礼儀正しく挨拶をした。
「あ、いえいえ、いつもアイと遊んでくれてありがとうね。いつでも来てね」とミチコさんは言ってくれた。優しい。
「お母さんおかえり」とアイちゃんは言った。「どうしてこっそりドア開けたの?」
「え、と、ドアの前に立ったら勝手に鍵が開いて、磨りガラスからユーリちゃんが見えたのよ」とミチコさんはドアを指した。
「丁度帰るところなんだな、アイと何か喋ってるな、いきなり声をかけて驚かそうって思ってこっそりドアを開けたの。うふふ、驚いたのお母さんの方だったけど」とミチコさんは笑った。喋ってるうちに落ち着いてきたみたいだった。
「ユーリちゃんもそうだけど、どうして人を驚かすのに一生懸命なんだろう。びっくりするからやめよ?」とアイちゃんは言った。
「びっくりするのって気持ちよくない? ドキドキしてテンション上がるけど」と私は持論を展開した。
「わかるわユーリちゃん。気分が高揚するのよね」とミチコさんが頷いた。
「わ、お義母様もそうだったんですね! あまり同意されないのでとても嬉しいです」と私は言った。
「そう! それよ!」とミチコさんは大きな声を出した。
「んにぃ! もう何!? びっくりした!」とアイちゃんは驚いてた。こういう所も可愛いな。
「お義母様なんて呼んでどうしたの? アイとき、キスしてたりするし、結婚でもす、……するのね?」
「ミチコさん正解」口調をいつも通りにして言った。
「うふふ、正解したので私に100万点」とミチコさんはほわほわした笑みを浮かべた。
アイちゃんも20年後にはこういう風に笑うのかな。それはそれで可愛いだろうな。
「とりあえず家の中入ろう? もう暗くなるし、ユーリちゃんはもう一泊しよう?」とアイちゃんは言った。
開けっぱなしのドアから空を見る。秋の空は素早く陽を落とし、夜が近かった。
「うん、そうする」と私は言った。
ミチコさんは着替えてからリビングへ来た。私は家に電話してもう一泊する事を伝えた。アイちゃんはキッチンで晩御飯の用意を始めてる。
私とミチコさんはダイニングテーブルに向かい合って席についた。
「飲み物取ってきますね。ミチコさん何飲みます?」と私は立ち上がりながら言った。
「娘が増えてめでたいのでビールを飲みます」とミチコさんは言った。
「はいよろこんでー」と私は返事をした。
アイちゃんが既にグラスを用意してくれてたので、私は冷蔵庫から缶ビールを取り出してミチコさんに持って行った。一旦キッチンに戻ると、今度はお茶が注がれたグラスが用意されていた。
「アイちゃんありがとう」と私はお礼を言った。
「どういたしまして。もう少しかかるからお母さんの相手しながら待っててね」とアイちゃんは言った。
「オッケー」と私は言った。
テーブルに戻ると、ミチコさんは真剣な顔でグラスにビールを注いでた。キリっとした目と、長い睫毛がアイちゃんにそっくりだと思った。逆か。
「乾杯しましょう」注ぎ終わったミチコさんが言った。
「はい、かんぱーい」
グラスは澄んだ音を立てた。
「はぁ、美味しい」
ミチコさんはうっとりしながら言った。アイちゃんより少し厚い唇はつやつやと濡れていて、柔らかく微笑みを浮かべてる。
私やアイちゃんにはまだ無い、大人の色っぽさがミチコさんにはある。例えるなら、私たちはジュースを注ぐコップで、ミチコさんは赤色に満たされるワイングラスだ。
何が違うんだろう。何かが違うんだろう。お化粧の仕方が違うのかもしれない。
アイちゃんが晩御飯を仕上げたので、配膳を手伝った。サラダと鳥肉の照り焼きとスープと白米。
食べながら私とアイちゃんは報告をした。
「私たち、今日からお付き合いをする事になりました」と私は言った。
「プロポーズしたらオッケー貰った」とアイちゃんは言った。
「今日からだったのねぇ。もう付き合ってると思ってたわぁ」とミチコさんは言った。
和気あいあいと食事は終わった。ミチコさんはビールを3杯飲んでご機嫌だった。
私はお風呂を頂き、寝る準備を整え、髪を乾かし終わったアイちゃんとマジックをして、ベッドに入った。
「ミチコさん反対しなかったね」と私は言った。
「お母さんユーリちゃんの事好きだから嬉しいんだと思うよ」とアイちゃんは言った。
「なら良かった」
アイちゃんはくるりと腕の中で回転して、私の目を見た。
私はアイちゃんの頬に手を添えて、そっと口付けした。
「今日はお母さんいるからしないけど、来週は、ちょっとエッチな事してみたい、な」とアイちゃんは囁いた。
「うん」と私は言った。
私たちは赤い顔をしたままおやすみを言い、眠った。