マジックに使うお小遣いは、月に1,000円までって決めてる。高校生はマジックだけで生きてるわけではないのだから。
お化粧を買ったり、お洋服を買ったり、友達とご飯食べに行ったり、カラオケに行ったり、お菓子を食べたりなどなど。新たに加わった趣味に割けるのは、それらを少しずつ切り詰めた余剰金。これが1,000円というわけだ。
期末試験が終わると本格的な冬がやってきた。気温はぐっと下がり、コートとマフラーが手放せなくなった。
私とアイちゃんは暖房の効いたカードショップをうろうろさまよってるとこだった。
ファイヤーズに習熟した私は、端的に言うとちょっと飽きそうになってた。アイちゃんに相談した結果、まだ使ってない色を触ろう、もう一個デッキを作ろうという事になった。
「核戦争が起こっても白ウィニーは生き残る。というわけで今度は白単ウィニーを組もう」とアイちゃんは言った。
「白単は、白色単色って意味だよね。ウィニーって?」と私は聞いた。
「ウィニーは、マナコストの軽いクリーチャーって意味。1マナとか2マナでたくさん並べて、全体強化して素早く叩くの」
「そんな小さいの並べて、それって強いの?」
「すっごく強いよ。しかも安い」
「えっ、矛盾してる」
「人は矛盾を抱えて生きてるんだよ」
「急に深いこと言うじゃん」
「アイキューごせんまんくらいあるから」
「私のお嫁さんが天才だった」
「……ふふ」
そんな訳で、いつものストレージコーナーだ。アイちゃんは手早くカードを選んだ。
「ユーリちゃんはカードの傷とかあんまり気にしないよね?」とアイちゃんは聞いてきた。
「むしろ安くなってラッキーじゃないの?」
「高いカード買わないしそれで良いと思う」
アイちゃんが探しだしたカードは50枚くらいになった。
「ハーフデッキのカードで使えるのは無いの?」と私は聞いた。
「《平地》は全部使うよ。数が足りないから何枚か追加してる。あっ、基本土地の絵柄バラバラで良い? 揃えちゃう?」
基本土地の絵柄? と私は思った。揃えてどうなるんだろう。
「揃えるとどういう効果があるんですか博士」
「お洒落の問題なんじゃよー」とアイ博士は言った。
お洒落か。お洒落なら仕方ないな。
「大切なやつじゃん。揃えよう」
「真面目な理由も一応あるよ」とアイちゃんは言った。
「ほう」
「手札を見られた後ドローしたとして。既に持ってた《平地》Aと、新しくドローした《平地》B、どっちから置くのが得だと思う?」
「あ、なるほど。絵の違う《平地》Bを置いちゃうと、今ドローしたのが《平地》Bだってバレちゃうんだね」
「ユーリちゃん頭の回転めっちゃ早いよね。今ふつうにびっくりした」
「アイキューごせんちょうあるし」
「私の恋人は美人で賢い」
「おうよ」
いきなり恋人とか言われると結構照れるもんなんだなぁ、と私は思った。
だいたい60枚くらいのカードと、白い無地のスリーブを買う事にした。これで今月のマジックお小遣いはおしまいだ。
「ファイヤーズとは回しかたが違うけど、慣れたら楽しいと思うよ」
「楽しみだな」
レジで受け取った品を鞄に入れながら、私は新しいデッキを回したくて仕方がなかった。マジックにはまだまだ私の知らないカードや戦略があり、この先もずっとアイちゃんと一緒にプレイしていきたかった。
「昔のデッキにはね、名前がついてる事が多いの。そのデッキも、最近なら白単ウィニーとか、白単アグロって呼ばれると思う」
「そうなんだ。このデッキはなんて呼ばれてたの?」
「今はもう世界から忘れられたカードとその亜種。それらを8枚フルで積んだそのデッキは【エイトクルセイド】と呼ばれてた」
世界から忘れられた。なんだそれは。
「私そういうの好き」
「それともう一つ、当時とカードは違うんたけど。かつてマジックにはネクロの夏と呼ばれた暗黒時代があったの。当時最強だった【ネクロディスク】を倒すために組まれた白単ウィニー。3種12枚の騎士を積んでたからこう呼ばれてた。【トゥエルヴナイツ】」
暗黒時代を打ち倒した12人の騎士。痺れてしまう。
「私そういうの好き!」
「だと思った!」とアイちゃんは笑って言った。
「でも、それだとこのデッキの名前は何になるんだろう」
「うーん、クルセイドって単語はもう使えないから、あえて名付けるなら【エイト&トゥエルヴ】とか?」
アイちゃんはちょっと考えてからそう名付けた。数字だけというのがシンプルで良いと思った。
「このデッキ、大切にするね。すごく嬉しい。いっぱい考えてくれてありがとう」と私はお礼を言った。
「ユーリちゃんが嬉しいと私も嬉しい。どういたしまして」私の腕に自分の腕を絡ませながらアイちゃんは言った。「ね、早く帰って、しよ?」
「うん」と私は言った。私も同じ気持ちだった。
冬の夜は長いけれど、やりたいことは沢山ある。私たちは白い息を吐きながら家路を急いだ。