アイちゃんに組んで貰った新しいデッキを、買ってきたばかりのスリーブに詰めた。詰めながらカードのテキストを確認する。とてもシンプルなデッキだ。
クリーチャーを並べて、全体強化エンチャントを置いて、叩く。相手のクリーチャーはほんわかふわふわな気分にさせて無力化する。このフレーバーテキスト可愛いな。
フレーバーテキスト。ゲームには関係ない、雰囲気作りのための短い文章。
スリーブに詰めたばかりのカードを手に取る。《平和な心》というカードで、クリーチャーが戦闘出来なくなる効果がある。めっちゃ怖い顔をしたお兄さんが描かれてる。
フレーバーテキストを読むと、このお兄さんはグラックさんという人で、生まれて初めてほんわかふわふわした気分になってるらしい。
こんなに怖い顔なのに、内面はほんわかふわふわしてる。なんか可愛いと思った。生まれて初めてって事は、普段は乱暴な人なんだろうけど。
フレーバーテキストを読むのが結構好きだ。
デッキをシャッフルする。新しいスリーブは滑りやすくて、手からデッキが弾け飛んだりする。ぎこちない手付きでカードを混ぜた。
ちゃぶ台の対面に座るアイちゃんを見る。アイちゃんはニコニコ笑ってこっちを見てた。
「お待たせ。準備できたよ」と私は言った。
「体感5秒だったよ」とアイちゃんは言った。「ずっと見てられる」
「左様でございますか。照れますな」と正直に言った。
「わ、そのお澄まし顔可愛いね。見たこと無い」
「え、そう?」誉められたので嬉しい。
お互いのデッキをカットした。
「じゃーんけーん」「ポーン」
私の先手だ。カードを7枚引いた。《平地》が2枚、残りは《風立ての高地》《サバンナ・ライオン》《善意の騎士》《平和な心》《セラの天使》。良い手札に見える。
「キープ、かな。たぶん良い手札。キープ」と私は宣言した。
「キープ基準は難しいよね。初見のデッキだと特に」とアイちゃんは手札を見ながら言った。「こっちもキープ」
「はーい。それじゃ平地出して、《サバンナ・ライオン》出して、終わり」
ライオンのフレーバーは『単独の一頭は恐ろしい。群れの一頭は手に負えない。──ベナリアの諺』って書いてある。ベナリアって何だろう。地名っぽい。
「良い初動。アップキープ、ドロー」
アイちゃんは《沼》を置いて、ターンを終えた。
「アンタップ、アップキープ、ドロー」
引いたのは《平地》だった。引いたカードを手札に加え、軽くシャッフル。今から出すカードが、引いたばかりなのか、もとから持ってたのかを分からなくするためだ。
《平地》を出す。ワサワサっと白マナを2個出して《善意の騎士》を唱えた。フレーバーは『影を貫く光。』とだけ書かれてる。格好良い。このデッキに入ってる3種の騎士の1体だ。
「平地出して《善意の騎士》唱えるよ。その後戦闘入るね」
ライオンと騎士を攻撃させた。
「あ、騎士はまだ酔ってるよ」とアイちゃんは言った。
盤面を見る。確かに出したばかりの騎士は酔ってるはずだ。クリーチャーは私が魔法で呼び出した、という設定になってる。呼ばれたばかりのクリーチャーは召喚酔いという状態になって、すぐに攻撃出来ないのだ。
「わ、ごめん。間違えた」と私は謝った。
「前まで使ってたのが【ファイヤーズ】だもんね。仕方ない仕方ない」とアイちゃんは笑って許した。
「寛大」
「責任はライオンくんに取って貰うね。《致命的な一押し》を唱えるよ」
「え、こわ」
ライオンは責任を取らされてしまった。なんという事だ。
「速攻の無いクリーチャーは、第二メインで唱えた方が良い場合が多いよ。今の場合だと、《善意の騎士》に黒い除去は唱えれないからライオンに使ったの」
《善意の騎士》は、相手の黒い呪文に狙われない能力を持ってる。
「なるほどなー」と私は言った。
クリーチャーを出すタイミングにも工夫の余地があるのか。
そして《善意の騎士》は黒い呪文を掻い潜って攻撃するから『影を貫く光』なのか。めっちゃ格好良い。
何戦かして勝ったり負けたりした。少し疲れたので休憩することになった。
アイちゃんの使ったデッキはボードコントロールという種類で、除去呪文で盤面(ボード)を捌いて、後半大量のマナを出して勝負を決める豪快なデッキだった。
アイちゃんは私のプレイングを誉め、自分のデッキを語り、私のデッキを語り、私の質問に答え、感想を述べた。もちろん早口でめっちゃ楽しそうだった。
私は楽しそうなアイちゃんを見るのが好きなので、幸せな気持ちだった。アイちゃんも同じように思ってるはずだ。
「アイちゃん、今の私はほんわかふわふわな気持ちだよ」と私は言った。
「ふふ、私も」とアイちゃんは微笑んで応えた。
一緒に晩御飯を作り、一緒に食べて、お風呂に入り、風呂上がりのアイスクリームを取り出した。
私はバニラで、アイちゃんはチョコミントのカップアイスだ。アイちゃんはやたらと私にチョコミントを食べさせようとしてくる。
「はい、あーん。私けっこうチョコミント好きなの」とアイちゃんは言った。
「私も好きだけど、自分で食べないの?」と私は聞いた。
「ユーリちゃんがチョコミント味なら、どういう気持ちになるか試してみたくて」
するするとアイちゃんの腕が首に巻き付いて、私はつままれてしまった。
「美味しい」とアイちゃんは言った。
ドキドキとした気持ちだけど、間違いなく私は今《平和な心》だった。