「もしかしたら、貴女たちはプレインズウォーカーでは?」と山内先生は言った。
私とアイちゃんは顔を見合わせた。意外な人から意外な言葉を聞いた、とアイちゃんの目は言ってた。
「えっと、はい、そうです」
私とアイちゃんは肯定の返事をした。
「良いですね。素晴らしい。私もプレインズウォーカーです。頼みたい事というのは、私とマジックで遊んで欲しいという事なのです。私を顧問にして新しいクラブを作ります。それの創設メンバーになりませんか?」
言われた事についてちょっと考えた。マジックで遊びたいというのはとても良く分かる話だ。新しいクラブを作るというのはどういう事だろう。
カードショップの大会に出るとかではダメなんだろうか。ダメなんだろう。アイちゃんみたいに、独りで通うのは寂しいタイプなのかもしれない。
「アイちゃんどうする?」と私は言った。
「クラブ活動……。やってみたいかも」とアイちゃんは言った。
ならやってみよう。私とアイちゃんは了承の返事をした。
「どうもありがとう。助かります。活動日についてですが、月、水、金曜日の放課後を予定しています。構いませんか?」
金曜はお泊まりの日なので駄目だ。
「金曜日は予定があるので無理です」とアイちゃんは言った。
「私も金曜日は駄目です」と私は言った。
「月曜と水曜の放課後は大丈夫ですか?」
私とアイちゃんは頷いた。
「では活動は週に2回。部室の準備などがありますので活動は来週からです。メンバーは貴女たち2人。他にプレインズウォーカーの当てがあれば誘って貰っても構いません。私には見つけられませんでした。連絡先を交換しましょうか」
私とアイちゃんはスマホを出して先生をメッセージアプリに登録した。
「私からの話は以上です。何か質問があればどうぞ」
「アイちゃん何かある?」
「えっと、フォーマットはどうするんでしょうか?」とアイちゃんは言った。
フォーマット。聞いた事はあるけど意味は知らない単語だ。コンピューター関係の単語じゃないのだろうか。違うのだろう。
「フォーマット? マジックでフォーマットってどういう意味?」と私は聞いた。
「んー、格闘技とかなら体重で階級が分けられてるでしょ? マジックの場合は発売された時期で使えるカードが決まるの。ここからここまでの間に発売されたカードでデッキを組みましょうって取り決めの事」とアイちゃんは教えてくれた。
「そうなんだ。教えてくれてありがとう」と私は礼儀正しくお礼を言った。
「どういたしまして」とアイちゃんはニコニコして言った。
笑ったアイちゃんはびっくりするくらい可愛かった。特に唇の形が良い。もちろん味も良い。
「フォーマット。そうですね、カジュアルで良いのではないでしょうか。貴女たちは普段カジュアルのようですから」
「ではそれで」とアイちゃんは返事をした。
今日のところはこれで解散となった。
「それでは気をつけて帰宅してください。また明日」
山内先生は教室の鍵を閉めて去って行った。私とアイちゃんも下駄箱へ向かって廊下を進んだ。途中でお手洗いに寄って指輪をはめた。
「びっくりしたね」と私は言った。
「うん。びっくりした」とアイちゃんは言った。
「カジュアルってどんなフォーマットなの?」
「カジュアルは、好きなカードを使ってゆるく遊びましょうってフォーマットだよ。つまりいつも通り」
「なるほどなー」と私は言った。
ホームルームが終わってからそこそこ時間が経ってた。廊下を歩いてるのは私とアイちゃんだけで、グラウンドの方から運動部の声が遠く聞こえてる。春の日差しは柔らかくアイちゃんを照らして、微かな風が吹いて髪を撫でた。
サラサラ揺れるアイちゃんの髪に触れたくなって、そっと手を伸ばした。
「どしたの?」とアイちゃんは言った。
私は廊下の前後と窓の外を確認した。誰もいない。
「チューしたい」小さな声で私は言った。
「いいよ。ふふ、唐突だね」とアイちゃんも小さく笑って言った。
髪を撫でてた手を動かしてアイちゃんの後頭部を押さえた。少しだけ力を込めて抱き寄せて、アイちゃんの素敵な唇に口付けた。
柔らかくて、少し濡れてるような感触。舌の先でちょっとだけつつくとアイちゃんは素早く舐めとった。
離れる時に瑞々しい音が鳴って、私はその音が好きだ。
「この音ちょっとエッチだね」とアイちゃんが小さな声で言った。
「そうだね」と私も小さな声で言った。
小さな声で笑い合うと手を繋いだ。階段を下りて、下駄箱で靴を履き替える。バス停まで歩いてベンチに腰掛けた。
「アイちゃんはクラブ活動ってしたことある?」
「んーん、したこと無いよ。ユーリちゃんは?」
「私もなーい。なのでちょっと楽しみかも」
「良かった。私もけっこう楽しみ」
アイちゃんは繋いだ私の手をにぎにぎと揉んだ。私もにぎにぎした。
「お昼どうする?」と私は聞いた。
太陽は一日で一番高い位置にあって、気持ちの良い光を届けてた。
「ユーリちゃんどこ行きたい?」
「アイちゃんとなら何処でも良いよ」と私は言った。
「今そういうのいいです」
アイちゃんはぎゅっと力を込めて私の手を握った。
「あれー?」
「そういうの駄目だからね。私チョロいんだから」
「アイちゃん手、あったかくなってるよ」
「ユーリちゃんがき、キスするからでしょ」
「明日は金曜日だし、今から盛り上げていこうかなって」
「ぅ、あ、明日?」
アイちゃんは信じられないものを見た時みたいな顔をした。
「そう、明日」
私は繋いだ手をほどいて、アイちゃんの腰に手を回した。グッと力を入れてアイちゃんの体を引き寄せる。小さな声で囁いてあげる。
「おあずけ」
「ひぅ、は、はい」とアイちゃんは言った。
きっと喜んでくれるだろうと思っていろいろ考えた。
「こういうのどう?」と私は聞いた。
「あ、新しいパターン……! めっちゃ良い……!」
アイちゃんが喜んでくれたので嬉しい。
バスが来るまでお喋りをして過ごした。