山内先生はかなり人気のある先生で、歳も近いのでお姉さんみたいに慕ってる娘が多い。パッと見可愛い系の顔なのに、意外と目力が強くてそのギャップにやられる娘も沢山いるらしい。
「あー、えっと、鈴木さん、今ちょっと良い?」とミサキちゃんは言った。
「良いよ」と私は言った。
放課後の教室。アイちゃんたちとお喋りしてるとミサキちゃんが話しかけてきた。ミサキちゃんは短い黒髪で、ぽてっとした唇とたれ目がセクシーな娘だ。
「邪魔しちゃってごめんね。ちょっと、聞きたいことがあって」ミサキちゃんはアイちゃんたちに断りを入れた。
「どうした~? 座ろー?」とアヤメちゃんが椅子を用意した。
私たち4人は自分の席に座ってた。私の右隣にベニコちゃん。前にアヤメちゃん。右斜め前にアイちゃん。
アヤメちゃんは5つ目の椅子を中央に置いた。
「なんで真ん中に置くんだよ」とベニコちゃんは椅子の位置を修正した。私とベニコちゃんの間。
「え、すごい歓迎してくる。さんきゅさんきゅ」ミサキちゃんは用意された椅子に座った。
邪魔だったので私とベニコちゃんの机を彼方に追いやった。
「や、たいしたアレじゃないんだけど」と前置きをしてミサキちゃんは語った。
私とアイちゃんが、山内先生が作ったクラブで何をしてるのか知りたいんだそうだ。
「そんで、あー、あわよくばせんせーと親しくなれるかもなー、なんて思ったり思ったり」
「動機が不純過ぎる」とベニコちゃんは大笑いした。
「なるほどなー」と私は言った。
アイちゃんを見ると、特に何にも考えて無い時の顔をしてた。お澄まししてる顔は凛としてて、涼しげな目元、すぅーっと通った鼻梁、私がプレゼントした薄桃色の口紅が完璧な配置と調和をもたらしてた。なので私が喋ることにした。
「先生が作ったクラブはね、対戦型カードゲームで遊ぶクラブだよ。トランプで大富豪とかやったことある? あれをちょっと複雑にした感じのやつ」
ブレザーの内ポケットから生徒手帳を抜き出して、スリーブに入ってるワームくんを取り出した。
「こういうカードを集めて、60枚の束を作って、戦うの。これは世界一格好良いワームくんのカード」
皆の視線を集めてワームくんは誇らしげに笑ってた。白い枠。くっきりと黒く印刷された『Ⅵ』のエキスパンション・シンボル。重厚なフレーバーテキスト。取り換えたばかりのスリーブ。
「こう、うろこのワーム」とミサキちゃんは言った。
「ワームってなんだ?」とベニコちゃんは言った。
「え~かわいい~」とアヤメちゃんは言った。
物事の多様性について思いを馳せてるとアヤメちゃんが口を開いた。
「ミミウサはスイちゃん先生に教えてもらえば良いと思うな。これ」
アヤメちゃんからワームくんを受け取り、生徒手帳に付いてるポケットにしまった。
「良いと思う。先生も言ってたよ、他にやれそうな娘がいたら連れてきてって。歓迎されると思う」
「あー、連れてってくれんの?」ミサキちゃんは言った。
「連れてくよ。先生にメッセ送っとく」
スマホを手に取って先生に連絡をした。
「ワームっていうのは、手足の無いドラゴンみたいな架空の怪物の事よ。見た目は蛇と似てるけど主に大きさが違う。大きなミミズみたいな姿で描かれる事もある。英単語の意味としてはミミズとかの細長い、……虫?」
「うへー、でっかいミミズはキショいな」
アイちゃんとベニコちゃんは仲良く喋ってた。先週一緒にカラオケで遊んだからアイちゃんの人見知りはちょっと緩和されてる。
スマホが震えた。先生からの返信だった。
長文のメッセージを要約すると、デッキを用意しといてね、無くても良いよ。という内容だった。
「活動日は明日なんだけど、今日このあと時間ある?」と私は言った。
「あるよ。どうして?」とミサキちゃんは言った。
「遊ぶのに必要なカード、貰いに行こうよ」
「えっ、貰えるの?」
「アイちゃん、ショップ行ったらハーフデッキって貰えるよね?」
アヤメちゃんとベニコちゃんにマジックを語ってたアイちゃんはこちらを見た。
「お店に残ってれば貰えると思う、けど」と言ってアイちゃんは教室の壁にかかってる時計を見た。「今から行って、残って無かったら骨折しちゃうし電話した方が良いかも」
「あいあい。電話してみるね。ありがとう」と私は言った。
スマホでショップの番号を調べて電話した。
丁寧な店員さんのお話を要約すると、めっちゃ沢山いっぱい余ってるらしい。礼儀正しくお礼を言って通話を終えた。
「いっぱいあるって。アヤメちゃんとベニコちゃんも暇だったら一緒に行こ」
「あたしらもか? サギーどうする?」とベニコちゃんは言った。
「行ってみたーい。どんなとこだろねー」とアヤメちゃんは言った。
そういうことになった。彼方から机を呼び出して綺麗に整える。リュックに筆箱と教科書を何冊か詰めて背負った。
ダラダラと喋りながら教室を出た。
「あー、そういえば、1年の時から気になってたんだけど、なんで私のあだ名ミミウサなの? 私うさぎっぽい?」ミサキちゃんはアヤメちゃんに話しかけた。
私はミサキちゃんの顔を見た。うさぎっぽくは無いと思った。たれ目はちょっと眠そうにトロンとしてて、唇は艶々と膨らんでる。
「うさぎはエロいって言うし、三浦の顔もエロいからじゃねーの?」とベニコちゃんはとんでもないことを言った。
「ねえ! せめてセクシーとか言って! ちょっと気にしてんだから!」とミサキちゃんは抗議した。
「え、そうだったのか。ワリー」とベニコちゃんは謝った。
「ミサキちゃんは綺麗だし、唇とか柔らかそうで可愛いよ。短い髪も似合ってる」と私はフォローした。
「す、鈴木さんありがと~。ベニやんは鈴木さんを見習ったほうが良いよ。ほら、ちょっと誉めてみ?」
「うわ、付け上がり出したよこいつ」
「うさぎには似てないねー? 豹っぽい」とアヤメちゃんは言った。
「はい、階段だよー。気を付けようねー」と私は注意を促した。
「アイクロは猫っぽいよね。黒猫」とアヤメちゃんは言った。
「えっ、猫? そうかな」とアイちゃんは言った。
まあ、そうだろうなと私は思った。
「ベニコちゃんは?」と私は聞いた。
「ベニベニはアホ犬ー」とアヤメちゃんは笑って言った。
「アホはお前だー」後ろでミサキちゃんと喋ってたベニコちゃんが遠吠えのように言った。
「アホじゃないですぅ? 2年の期末は私の勝ちでしたしぃ?」とアヤメちゃんはベニコちゃんを振り返って煽った。
「腹立つー! その顔やめろ!」ベニコちゃんは周囲をぐるぐる回るアヤメちゃんに抗議した。
仲良いなーと私は思った。
「ふふ、猫だって。ユーリちゃんは猫好き?」とアイちゃんは言った。
「うん、好きだよ」と私はアイちゃんの目を見て言った。
「ふふー」とアイちゃんは笑った。
「私は何だろ」
「ユーリちゃんはね、サイだよ」とアイちゃんは微笑みながら言った。
サイ?
「どうしてサイ?」と私は聞いた。
「いろんな物を吹き飛ばして、まっすぐ来てくれたから」とアイちゃんは言った。
よく分からなかったけど、悪い意味じゃなさそうだった。
サイか。格好良いから好きだ。
「そう言えばサイのカードってあるの?」
「あるよ。今度見せてあげるね」とアイちゃんは言った。
アイちゃんは楽しそうだった。
《サイの暴走》
恋はサイのようなもの。性急で、まわりが見えない。もしも道がないならば、突き破ってでも進んでみせる。
──フェメレフの格言