【完結】私はプレインズウォーカー。   作:デーテ

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23.放課後の魔術師たち

 水曜日の放課後。ベニコちゃんたちを連れて部室にやってきた。

 山内先生は体験入部を歓迎してくれて、初心者の3人にルールを教えた。

 

 昨日貰ったウェルカムデッキにはハーフデッキが2個入ってた。

 箱に描かれたプレインズウォーカー色のハーフデッキと、ランダムで他の色のハーフデッキが合わさり60枚になる。

 浅い理由によってベニコちゃんは赤を。アヤメちゃんは白、ミサキちゃんは青のデッキを選んだ。私とアイちゃんも緑と黒のデッキを貰って共用の備品にした。

 ゲームに慣れるまでは30枚のハーフデッキを使うことにして対戦を繰り返す。

 今はアヤメちゃんとミサキちゃんが対戦してるのを4人で囲んで眺めてる。

 

 ハーフデッキは毎年更新されてるらしくて、私の持ってるヤツとは中身が違ってた。

 今ミサキちゃんが唱えた《謎かけ達人スフィンクス》は初めて見る。名前の語呂が良くて好き。

 フレーバーテキストには『安全な道中に必要なのは、簡単な問いに対する簡単な答えのみですよ、旅人さん。』と書かれてた。アートにはスフィンクスと、その正面に置かれたブーツが描かれてる。

 このスフィンクスはクリーチャーを手札に返す能力を持ってるから、ブーツの持ち主は謎かけに答えられなくてどこかへ飛ばされちゃったんだろう。

 アヤメちゃんの《セラの守護者》が手札に戻された。

 

「ねぇねぇ、手札に戻しても出しなおされるだけだし、青色って弱くない?」とミサキちゃんは言った。

「そうだよねー。はい、もっかい天使~」とアヤメちゃんは《セラの守護者》を唱えた。

 空中で天使とスフィンクスがにらみ合って数ターンが過ぎると、アヤメちゃんが《平和な心》を引いてきた。スフィンクスはほんわかふわふわな気持ちになって天使の攻撃を素通りさせるようになり、ミサキちゃんは負けた。

 

「あの、先生、これどうやったら勝てるんですか?」ミサキちゃんは山内先生に泣きついた。

「そうですね。勝てるようになるにはどうすれば良いか。それを考えるのが醍醐味という説もありますが、勝てなくてはつまらないという事実もあります」

 先生はミサキちゃんの横に椅子を寄せて座った。

「マジックに必勝法はありません。勝敗には運が絡むので当然ですね。しかし、勝ちやすくなる方法や考え方という物はあります。

 私の分かる限りの事を教えます。三浦さんがマジックを楽しく遊べるようになってくれたなら、こんなに嬉しい事はありません。どうでしょう、教えさせてくれませんか?」

 山内先生はミサキちゃんの目を見詰めて力強く言った。

「あ、は、はい、いっぱい、教えてください、先生」とミサキちゃんは言った。

 

 先生に口説かれてるミサキちゃんはひとまず置いといて、私は隣に座るアヤメちゃんを見た。

 アヤメちゃんは《セラの守護者》を眺めてた。6マナ5/5、飛行と警戒の能力を持った天使は白いハーフデッキの最大戦力だ。

「どうしたの?」と私はアヤメちゃんに尋ねた。

「この人、チョー歌うまそうじゃない?」とアヤメちゃんは言った。

 浅黒い肌に、捻れた長い黒髪、手には槍を持ってる。ソウルフルでパワフルな感じだった。

「わ、ほんとだ。R&Bって感じするね」

「ね! 絶対うまいよねー。持ってる武器もスタンドマイクみたい」

 アヤメちゃんは少しの間《セラの守護者》を眺めてからデッキに混ぜてシャッフルした。デッキトップから7枚ドローして新しい手札を作る。

「最初は土地が沢山欲しくてー、でも多すぎると駄目~。いい感じの枚数を、いい感じのタイミングで引かないと負けちゃう。勝ちやすくなる方法ってどんなだろ~?」

 再び手札をデッキに加えてシャッフル。7枚引いて新しい手札。手札を確認して、アヤメちゃんは対面の山内先生とミサキちゃんを見た。

 

「通常、マジックでは損をしない事が大事です。相手のクリーチャーと相討ちをしたなら、それは損ではありません。こちらの大きなクリーチャー1体と、相手の小さなクリーチャー2体とで相討ちなら、それは得です。こちらのカード1枚で、あちらのカード2枚と交換したりする事をカードアドバンテージを取る、等と言います。

 まずはアドバンテージを意識する所から始めてみましょう」

 

 先生の言葉に頷いて、ミサキちゃんはデッキのシャッフルを始めた。アヤメちゃんも持ってた手札を混ぜてシャッフルする。

 

 部室に置いてる長机には、長辺に3人並ぶ事が出来る。今は真ん中にアヤメちゃんとミサキちゃんがいて、私の対面には山内先生。反対側にはアイちゃんとベニコちゃんが向かい合ってる。

 アイちゃんたちも対戦を始めるみたいだ。ミサキちゃんには先生が付くようなので、私はアヤメちゃんのセコンドに付くことにした。

「私は横から見守ってるね。相談にも乗る感じで」

「昔テレビで見たアニメみたーい。主人公にしか見えないお助けキャラが、ヤバい、強いのが来るぞ! とか言うやつ」

「あ、私も見たことあるかも。小学校の頃じゃない?」と私は言った。

「それかもー」とアヤメちゃんは微笑んだ。

 

 ハーフデッキには13枚の《平地》と13枚のクリーチャー、4枚の呪文が入ってる。除去は《平和な心》が1枚だけ。コンバットトリックが3枚。

 私なら、序盤から攻めて、やられそうなクリーチャーを呪文で守って、並んだクリーチャーで総攻撃して仕留めるプランでゲームを進める。戦場に出た時にライフを回復してくれる天使が2枚入ってるので、相手の攻撃はわりと無視できる。

 

 ターンが進み、カードの応酬があり、中盤から後半戦へと差し掛かった。

「ゆーりん、攻撃して良いときとダメなときって何が違うのー?」

「んー、攻撃したあと、盤面が有利になってそうならアタックって感じ。

 例えばこの2マナ3/1のカラカルでアタックして、相手の4マナ飛行3/2のドレイクと相討ちになるならお得なの。相討ちしないなら相手に3点通るし。ただ、今は硬いカニさんが居るから地上は止まっちゃってるけど」

「あー、あのカニはどうすれば良いの~?」

「実はこのデッキであのカニさんをどうにか出来るカード、《平和な心》しかないんだよね。勿体ないから使わないけど。放置して、場にクリーチャー貯めてから一斉攻撃しよう。これはとても白いデッキらしい戦い方だよ」

 

 お互い、アタックした方が不利になる盤面になった。ハーフデッキのクリーチャーはカードパワーが低く、きっちり守りながら戦った場合相手のライフを削りきれないという事態が起きうる。

 30枚しかないデッキはすぐに底をつき、ドロー呪文を打ってた青いデッキが先にカードを引けなくなった。

 

「せ、先生~。負けちゃいました~」とミサキちゃんは再び先生に泣きついた。

「今のは相手も上手でした。それに結果だけを見れば負けですが、内容はかなり良くなっています。ライフは守りきっているので格段の進歩ですよ。

 白鷺さんもお疲れ様でした。とても上手でしたよ。丁寧な戦闘で、堅実なプレイでした」

 先生は腕時計を見た。私もスマホを見て時間を確認する。下校時間まであと少しだった。

 

「2人ともルールは完璧に覚えましたね。今日はそろそろ終わろうと思います。次回の活動日は来週の月曜日です。今日遊んでみて、またやりたいと思えたならぜひ来てください。歓迎しますよ」

「はーい。また来ま~す」とアヤメちゃんは元気に返事をした。

「絶対来ます!」とミサキちゃんは勢い良く応えた。

 

「黒野さん、小林さんはどうでしたか? 赤いハーフデッキは難しかったのでは?」

「えっと、ルールの理解度は問題無いです。赤のデッキは5色の中で最弱みたいなので、そこは可哀想だったと思います。デッキを交換して遊んだら普通に負けてしまったので上手だと思います」

「いやこれ、黒いデッキ強すぎじゃねーか? 生き返るの反則だろ」とベニコちゃんは言った。

 

「各デッキ1枚だけのレアが、黒だけ段違いのカードパワーでした。マナを払うだけで無制限の蘇生が出来るので実質無限のリソースです。イェー」アイちゃんは嬉しそうな顔で小さくピースをした。

「そうでしたか。赤いデッキはテコ入れが必要ですね。何か用意しておきましょう。黒いレアはどうしましょうか。《夢魔》にでもしましょうか?」先生は少し考えてから言った。

 

「先生がウィザーズみたいな事を言う……」とアイちゃんは言った。

「ンッフ。まあ、おいおい考えましょうか。取り敢えず今日は解散しましょう」喉が詰まったような音をたてて先生は少し笑った。

 

 部室の隅に用意された棚からリュックを引っ張り出して背負う。5人分の荷物を詰め込むにはちょっと小さいかもしれない。廊下に出る。

「では、気を付けて帰宅してください。また明日」と言って先生は部室に鍵をかけて去って行った。

 

 私たちもダラダラと喋りながら帰路についた。

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