【完結】私はプレインズウォーカー。   作:デーテ

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26.ウインド

 強い光が地面を焼いてて、グラウンドは校舎の作る影でくっきりと白黒に塗り分けられてた。

 

 放課後。授業が終わって、廊下の窓からグラウンドを見てた。

 土は照り返しで真っ白に光ってて、運動部の娘が何人か、その白い地面の上をクラブハウスへ向かって真っ直ぐ歩いてる。

 あの照り返しのせいで、帽子を被ってても下から光が当たって日焼けしてしまうらしい。

 

 運動部に入ってるクラスメートたちは皆もう引退しちゃってて、今年は日焼けせずに済んで嬉しい、とちょっと寂しそうな顔で言ってた。

 

 毎日何かに打ち込んでて、それが終わってしまう。

 もっとやりたかったって思うのか、もうやらなくて済むって思うのか。もしかしたらその両方なのかもしれない。

 

 窓を開けると外の音と熱気が入ってきた。どこかから楽器をチューニングする音が聴こえてくる。むわっとした空気を浴びるとじんわりと汗がにじむ。

 

「あっつぅ~」と私はぼやいた。

 

 放課後になると教室の空調は切られてしまうので、窓とドアを全開にして風が通るように祈る。

 廊下から教室へと戻る。

 

 教室には日直の娘と、それに付き添う娘、集まってお喋りしてるグループなんかで10人くらいが残ってた。

 お喋りしてる娘のうち、何人かが窓を開けるのを手伝ってくれたので笑顔で手を振りあった。

 

 自分の席に座り背もたれに体重を預けてだらんと力を抜く。ちょっとの間ぼーっとしてるとベニコちゃんが帰ってきた。

 

「冷房切れるとあっちーな。あいつらまだか?」

 ベニコちゃんはスカートをバタバタさせて起こした風で涼を取った。推奨されてる長さよりもちょっぴり短いスカートの裾から白い太ももがチラチラと覗いた。

 

「まだー。こんな暑い日にジュース買いに行かされてかわいそー」

 脚を閉じると肌のくっついた部分から汗が出るので、はしたなく大股を開いてだらける。脇も同様なので意識して大きく腕を広げてる。

 

「じゃんけん弱いあいつらが悪い」

 ベニコちゃんは私の前の席に逆向きに跨がった。そこはアヤメちゃんの席で、ベニコちゃんは体をひねって机の中から勝手に下敷きを引っ張りだした。

 とても体が柔らかい。そしてひねった腰がすごく細い。暑くなって薄着になってから分かった。ベニコちゃんはめっちゃスタイルが良い。

 ベニコちゃんは指でブラウスの襟を広げて、下敷きであおいだ。

 

 開け放した窓から風はちょっとだけ吹いてて、そよそよと空気を動かしてた。涼しくは無い。遠くでセミの鳴き声がシャワシャワと聞こえる。窓から入ってきたらやだなと思った。

 

「窓からさー」と私は口を開いた。「セミが入ってきたらー、やばいね。ベニコちゃんは虫平気?」

 

「絶対無理」とベニコちゃんは言った。

 

「ねー、無理だねー」と私は同意した。

 

 夏の嫌なところは昆虫が活発になるところだと思う。怖い。

 

 ねっとりと漂うぬるい空気は耐え難く、私はベニコちゃんを真似して机から下敷きを取り出した。パタパタと動かして汗をかいてた部分に風が当たるとひんやりとした心地が広がる。ブラウスの襟を引っ張って風を流し込むとデコルテを中心に良く冷やされた。

 スカートの中にも熱がこもってる気がしたので、そっと裾をつまんで風を送った。内ももにかいてた汗に当たるとすっと清涼感が広がり、洗われるようだった。

 

「シャワー浴びたーい」と私は思ったことをそのまま口にした。

「おー、あたしはプール行って泳ぎてー」とベニコちゃんは言った。

「あー、いいねー。夏休みになったらみんなで行こーよ」

「だなー」

「ウェーイ」

「へぇーい」

 

 意味の無い言葉で意思の疎通をはかる、めっちゃ高度なコミュニケーションを交わして私とベニコちゃんはだらだらした。

 

 ベニコちゃんとお喋りして過ごしてるとアイちゃんたちが帰ってきた。

 

「おかえり~」

 私とベニコちゃんは声をあげて迎えた。

 

「あつ~。夏やばい~」

 アヤメちゃんとミサキちゃんは机の上に紙パックのジュースを置いた。私はりんごジュースを手にとると3人にお礼を言った。

 

 アイちゃんはビニール袋を持ってて、その中からアイスクリームを取り出して並べた。

 

「チョコかバニラの2択でーす。あたしチョコ!」とミサキちゃんは言ってチョコを取った。

 

 木の棒に付いたアイスと、それを包む銀色の紙が微かに水滴を浮かべてた。

 

「アイス残ってたんだ。珍しいね」と私は言った。

 アイちゃんがチョコを選ぶのを見てからバニラを取った。

 

「たまたま今日遠征してる部活が多くって、校内に人が少なかったらしいよ」とミサキちゃんが説明してくれた。

 

「平日に遠征なんてするんだね」

 

 アイちゃんは私の隣に座った。とても暑そうな顔をしてたので下敷きであおいであげた。

 目を細めて風を堪能してる。おでこにかいた汗に前髪がひっついてた。

 

「ありがとう、もう大丈夫」柔らかく微笑んでアイちゃんはお礼を言った。

「あいあい。アイス食べよ?」と私は言った。

「うん」とアイちゃんは返事をした。

 

 銀紙を剥いてアイスにかじりついた。冷たくて甘い。少し溶け始めてて柔らかい。

 

「ん~、おいし~」とアヤメちゃんが弾んだ声で言った。

 

 半分くらい食べたら私とアイちゃんはお互いのアイスを交換した。

 これは私とアイちゃんで編み出した特別な技で、いろいろな物事を2倍楽しんだり、あるいは半分に軽減したりできる。

 チョコとバニラ両方の味を楽しんだ。

 

「今度みんなで水着買いに行こーよ」りんごジュースにストローを差しながら私は提案した。

 

「あー、プールとか行きたいね」とミサキちゃんは言った。

「そうそう。さっきベニコちゃんと話してたんだけど。夏休みにプール行きたいねって」

 

「どこのプール行くのー?」とアヤメちゃんが言った。

「市民プールで良いんじゃねーか? 近いし」とベニコちゃんが言った。

「良いと思う。めっちゃ綺麗になったらしいよ」と私は思い出しながら言った。

「あー、なんか聞いたことある気がする。2年くらい前」とミサキちゃんは思い出す顔をしながら言った。

 

「泳ぐのなんて中学生以来。覚えてるかな、泳ぎ方」

 アイちゃんはオレンジジュースを飲みながら不安そうな顔をした。

 学校にプールは無いので私も泳ぐのは久しぶりだ。もし泳げなかったら、水辺でパシャパシャしてるだけでも涼しいだろう。

 

 なにはともあれ。プールへ行くなら新しい水着が必要だ。中学生の時に着てた水着は流石にもう無理だ。

 

「日曜あたり買いに行こーよ。みんな暇?」と私は言った。

「ヒマ!」とアヤメちゃんが手をあげて元気一杯に宣言した。

「私も私も!」とミサキちゃんもノリを合わせて万歳をした。

 へぇ~い! ぅえへ~い! と意味の無い言葉を発しながら2人はハイタッチをした。暑さのせいでやけっぱちなテンションなんだろう。

 はしゃぐ2人にアイちゃんは下敷きを使って風を送り始めた。

 

 不意に、ベニコちゃんが微笑んだ。

「なんか、楽しいな。こーゆーの」とベニコちゃんは小さな声でつぶやいた。

「うん。そーだね」と私は同意した。

 

「……去年は、遊んだりするのはサギーとだけだった。沢山いると、楽しいな」ベニコちゃんは眉を複雑な形にしながら言った。

「うん。……よく分かるよ」と私は言った。

 

 窓から風が入ってきた。

 セミの鳴き声は騒ぐ2人に消されて聞こえない。

 するりと私たちを撫でて、そよ風が吹き抜けてった。

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