【完結】私はプレインズウォーカー。   作:デーテ

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27.盤外遊戯

 夏休み。私はアイちゃんの部屋に連泊してた。

 一緒に宿題をして、ご飯を食べて、ゲームをして、毎日仲良くして過ごしてた。

 

 遅い朝御飯、あるいは早い昼御飯を食べ終えて、今はマジックをしてる。《稲妻》を4枚揃えたので久しぶりに【ファイヤーズ】を回した。

 

「5マナで《はじける子嚢》! お願い通って~!」

 

 マジックとは祈りなんだそうだ。アイちゃんと山内先生の2人ともがそう言ってた。だから、たぶんそうなんだろう。私も今めっちゃ祈ってるから、かなりの説得力がある。

 

「ふふ、通ると思う?」とアイちゃんは微笑んだ。

 

 おもむろにアイちゃんは手札を公開した。アイちゃんは2枚のカードを持ってたけど、その2枚は両方ともただの土地カードだった。

 

「実は通っちゃうんだな~」とアイちゃんは両手を上げた。

 

「わーい!」と私は言って、サイコロを2つ《はじける子嚢》の上に置いた。

 4と3を表示させたサイコロを置き、その後3を取る。そして4のサイコロを3つ、戦場に置いた。4/4の苗木トークンが3体というのを表現してる。

 

「ファイヤーズで速攻! 12てんあたーっく!」

 

「う、うわああああ!」とアイちゃんはやられボイスを出した。

 

 あまりにも真に迫った言い方がおかしくて笑ってしまった。

 

「あははっ! ヤバすぎ!」

「臨場感出てたでしょ?」とアイちゃんは笑いながら言った。

 

 

 

 カードを片付ける。墓地の《稲妻》はとても便利だった。前まで使ってた《稲妻の一撃》より1マナ軽く、効果は同じ。値段は20倍くらい違う。

 机の上にはサイコロだけが残った。4の面を上にしたサイコロが4つ。《子嚢》の上に置いてた物と、トークンだった物。

 

「トークンって何でも良いんだよね?」と私は言った。

「そーだよー」とアイちゃんは言った。「サイコロでも消しゴムでも何でも」

 

 苗木トークンとしてサイコロを使うのは分かりにくいようで分かりやすく、でもやっぱりちょっと分かりにくい。タップ状態とアンタップ状態が見分けにくい。

 山内先生の使ってた鳥トークンを思い出す。綺麗な青色の空と白鳥が描かれたトークンはお友達の手作りらしい。

 

「苗木トークン、作ってみようかな」と私は言った。

「おー、いいねー」とアイちゃんは言った。

 

 トークンを作るには何が要るんだろう。

 まず、紙が要る。ちょっと厚めの紙に絵を描いて、色を塗ったらそれで良さそうな気がする。それに自分で描いたトークンを使うのは楽しそうな気もした。

 

「アイちゃん買い物行こー?」

「いいよー」

 

 着替える。白いフレアスカートとブルーのストライプシャツ、白いストローハットをかぶった。

 アイちゃんはベージュのハーフカーゴと黒いタンクトップに、水色のシャツを羽織る。長い髪は首の後ろあたりでくくり、黒いキャップをかぶった。

 アイちゃんの唇にちょっとだけ色を乗せて、お裾分けを直接貰うと出かける準備は整った。

 

「今日も格好良いね」と私は感想を述べた。

「ユーリちゃんも可愛いよ。アゾリウスカラーが爽やか」

「アゾリウス、は白青だっけ?」

「そう。正解。100点」とアイちゃんは言った。

「イェー」

 

 玄関で靴を履く。アイちゃんは紺色のスニーカーで、私はブラウンのグラディエーターに足を通した。

 白い日傘を持ち、緑色のリュックを背負う。

 強烈な日射しと熱波を耐えながら駅まで歩いて電車に乗った。

 

「夕方まで待てば良かったかも」私はハンカチで額の汗を押さえながら言った。

「暑かったねー」とアイちゃんは応えた。

 

 日傘をたたんでリュックに入れる。冷房が効いてる車内はかなり空いてて私とアイちゃんは余裕を持って座ることができた。

 今が一日で一番暑い時間帯だから、外を出歩く人は少ないんだろう。

 

「向こうに着いたら甘くて冷たいものが飲みたい。飲む」と私は言った。

「うん。飲む」とアイちゃんは同意した。

 

 ガタンゴトンと電車は大きな川を越える。水面に反射した光がギラギラと車内に踊った。

 

 

 

 駅ビルの地下から、地下街を通って移動する。

「こっち側あんまり来ないから、なんか面白いね」と私は言った。

 紙を買うなら画材屋さんだろう、という浅い理由で普段は立ち入らない方へと歩いてる。

 増築された新しい地下街と、昔からある地下街とが繋がってる。使われた建材が違うので新旧の繋ぎ目が一目で分かって面白い。

 

 古い方の地下街に入る。床は光沢のある灰色で、年季の入ったお店が増える。

 何軒も古本屋さんが並び、唐突に楽器屋さんが出てきた。その隣には雑貨屋さんみたいなよく分からないお店、たぶんお酒と料理を出すお店っぽい屋台、純喫茶と書かれた看板が出てる喫茶店、よく分からないお店、八百屋さん、なんかパソコン関係っぽいお店、レコード屋さん、占い師のお婆さん、よく分からないお店、模型屋さん、特殊な本屋さん、服屋さん、フルーツジュースの屋台。

 

 雑然と並んだお店を眺めながら歩く。ジュース屋さんを見つけたら喉が乾いたのでりんごのジュースを買った。アイちゃんの葡萄ジュースと飲み比べをしながらゆっくり歩く。

 旧地下街は規模のわりに人口密度が低く、めっちゃ歩きやすい。

 飲み終わったジュースをゴミ箱へ捨てるとまもなく画材屋さんに到着した。

 

「画材屋さんに来たの初めて」と私は言った。

「私もー」とアイちゃんは言った。

 

 絵を描くのに必要っぽいアイテムが沢山あった。聞いたことの無い硬さのえんぴつ、曲がりくねった定規、大きな筆、羽箒、漫画用のペン先、カンバス。

 

「え、これだ」

 そう言ってアイちゃんが手に取ったのはトレーディングカードという商品だった。

 マジックのカードと同じようなサイズで、白紙のカード。

 

「え、これじゃん」

 欲しかったのはまさにこれだった。いくつか種類があったので店員のお姉さんにおすすめを聞いてから買った。

 

 リュックにカードを入れる。あっさりと目的は達成された。これからどうしよう。もう帰ろうか。

 

「もうちょっと探検したい」とアイちゃんが言った。

「いいねー。奥まで行ってみよ」と私はうなずいた。

 

 

 

「画材屋さんの場所調べたとき、近くにカードショップがあるって書いてた」

 アイちゃんはハーフカーゴのポケットからスマホを取り出して操作した。

「まず広場を探そう。『噴水の広場』っていうのがあるみたい」

 

 壁にかかった地図を見たり、アクセサリーショップを冷やかしたりしながらウロウロと歩いた。

 

 広場は円形に切り取られた空間で、中央に小さな噴水があった。天井は吹き抜けになっててビルの1階と繋がってる。

 近くにはエスカレーターが動いてて地上と連絡してた。

 

「天井高いとめっちゃ解放感あるね」と私は言った。

「うん。知らないうちに圧迫感あったんだね」とアイちゃんは言った。

 

 ちょっと歩き疲れたので広場に面したカフェに入った。

 窓際のめっちゃ良い席に通されてメニューを見る。

 

「カフェラテとカフェオレとコーヒー牛乳の違いがわからん」とアイちゃんは言った。

「えー、そんなのも知らないのー? おそろいだね」と私は可愛い声で言った。

「煽るのか可愛いのかどっちかにして」アイちゃんは笑って言った。

 

 クリームソーダとアイスココアを頼んだ。

 ソーダの透明な緑色が懐かしかった。小さい頃、色がついてるのに透き通ってるのが不思議だった。透明に近い。限りなく透明に近いグリーンだ。

 

「カードショップってこっからどう行くの?」と私は聞いた。

「んーと、『噴水の広場』から徒歩3分、らしい。あっちかな」

 アイちゃんは窓の外を指で差した。白くて長い指が綺麗だと思った。

 

 スマホで時刻を確認するとそろそろおやつの時間だった。

「今、無性にケーキが食べたくなった」と私は言った。

「奇遇。キグリスユーフラテス」とアイちゃんは言った。

「メソポタミアーん」

 ベイクドチーズケーキとフルーツタルトを頼んだ。

 

 

 

 ゆっくりとケーキを食べてからカフェを出た。

 広場から放射状に伸びる通路が5本あり、その内の1つを進む。カードショップにはすぐ着いた。

 

 ガラガラと音を立てて大きなガラス窓の付いた引き戸を開ける。左右の壁にショーケースが立ち並び、店内の中央には腰くらいの高さで、ガラス製の棚が置いてある。奥にはレジとストレージコーナーが見えた。

 

「マジックは置いてるかなー」とアイちゃんは呟いた。

「あー、無い場合もあるんだね」と私は言った。

 

 壁に立つショーケースは一方の壁に4面と、反対側にも4面の合計8面。国内産の、見慣れないカード達が目に入る。

 店内を進むと左奥の2面分がマジックの領域だった。

 

 ケースの大部分は知らないカードで、全部になかなかの値段が付いてた。

 

「前はカードの値段だけ見てドン引きしてたけど、今は書いてある事と値段の両方でドン引きするようになったよ」と私は言った。

 

「強いと高いからねー」とアイちゃんは言った。

 

「ね」と私はうなずいた。「でも、なんで高いのか分かんないカードもあるけど」

 

「どれだろ?」

 

「これ。この《血染めの月》ってカード。絵が格好良いから?」

 

 暗い夜のサバンナに、その名の通り真っ赤で禍々しい光り方をした満月が浮かんでる。正直めっちゃ格好良い。テキスト欄に描かれた三日月の透かし模様も素晴らしい。

『基本でない土地は山である』という短いテキストはそんなに強いのだろうか。

 

「あぁ、これはね、メタゲームの話になるんだけど」とアイちゃんは言った。

 

「マジックで、強いデッキの多くは3色以上で組まれてる事が多いの。逆かもしれないけど。

 強いカード順でデッキを組むと、各色の強いカードが集まり多色化する、かな。

 多色化すると、色事故なんかを起こしやすい。それを防ぐためにフェッチランドやデュアルランド、いわゆる特殊地形を沢山採用するの。基本土地を採用するスロットは残らないくらい沢山。

 強固なマナ基盤を持った多色デッキはとても強力で、環境のトップメタになる。するとどうなるのか。

 トップメタを対策したデッキが流行るの。極端かつ単純な例を言えば、この《血染めの月》を4枚採用した赤単が流行る。

 多色デッキはこのカード1枚で機能不全を起こして勝てなくなり、今度は赤単が流行る。

 このカード単体のパワーじゃなくて、需要の高まったその結果がこの値段、というわけ」

 

 生き生きとアイちゃんは語った。瞳は活力に満ちて力強く、声色は弾んで軽快なテンポで跳ねた。

 

「ゲーム外の情報まで見ないと正確な価値が分からないんだね。なるほどなー」と私は感心して言った。

 

「それとこのカードを使ったデッキは格好良い名前になる。青赤で組まれた【ブルームーン】とか、不死身になるコンボを積んだ【マッドキャップ・ムーン】とか」

 

「え、格好良い」

「でしょー」

 

 カードを眺めながらアイちゃんのお喋りを聞くこの時間が好きだ。綺麗で可愛い普段のアイちゃんと、溌剌としてエネルギッシュなアイちゃんはどちらも素敵だ。

 

 お高いカードを眺め終えてストレージコーナーを見る。

 レアリティの低いコモンや基本土地、トークンなんかが置かれてる。苗木トークンは1/1や0/1の物ばかりで、《はじける子嚢》に相応しい物は見つからなかった。《子嚢》から出るトークンはもっと強そうな見た目がいい。やはり自分で描くのが正解だろう。

 

 アイちゃんは嬉しそうな顔で何枚かのカードを手に取りレジへと進んだ。

 

 入り口からは見えなかったけど、レジから短い通路が横に伸びてて奥に行けるようだった。通路の壁にはスリーブやプレイマットが吊るされて売られてる。

 通路はさらに右へ折れて続いてる。パチパチというカードを弾く音と話し声が聞こえるのでその先はデュエルスペースになってるんだろう。

 

 精算を終えたアイちゃんとお店の外へ出た。

 

「何買ったのー?」と私は聞いた。

「ピカピカの《沼》だよ」とアイちゃんは答えた。「フォイルは健康に良い」

「健康に良い!? ノーベル賞物の発見じゃん!」

「ありがとう、ありがとう。そしてありがとう」

 

 レッドカーペットを進むアイちゃんをフラッシュを焚いたカメラが囲む。

 私とアイちゃんは博士とインタビュアーの寸劇を繰り広げながら夕飯の買い物をすませて帰宅した。

 

 

 

 アイちゃんと一緒に料理をして早めの晩御飯を美味しく頂く。

 まったりと過ごした後は、アイちゃんの部屋でお絵描きの時間だ。

 

「アイちゃん半分あげる」

 10枚入りトレーディングカードの半分、5枚をアイちゃんに渡す。

「ありがとう」とアイちゃんは言った。

 

 シャーペンを握り苗木トークンの製作にかかった。

《子嚢》のトークンは大体の場合4/4のサイズで場に出す。《ヤヴィマヤの火》の効果で速攻を付与されて獰猛に襲いかかる。

 イメージはバッチリ出来てる。イメージは! 出来てる!

 

 しばらくの間カリカリとペンが走る音が響き、キュッキュと色塗りの蛍光ペンが鳴った。1枚目が完成した。

 

「できた!」と私は言った!

 

 なかなか上手く描けたんじゃないだろうか!

 

「……えっと、強そうだね!」とアイちゃんは言ってくれた。

「でしょ!」

 

「……パワーとタフネスは、数字じゃなくて星の記号を描いておけば良いよ」

 アイちゃんはメモ帳を出して☆/☆と描いた。

 

 なるほどなー、とうなずいてトークンの下の方に記入した。

 

 2枚目にはすぐに取りかからず、一旦ペンを置いた。完成したトークンを色々な角度から眺める。

 

 スゥーと息を吸って、ゆっくりと吐いた。

 

「絵なんて授業以外で描いたこと無いよ……」

 

 自分を騙すのは難しい。出来上がったトークンは謎の物体が描かれた謎トークン☆/☆だった。

 

 絵心の無さに打ちのめされてしまった。

 

「あ、あわわ」とアイちゃんは言った。

 

 お風呂に入って、お風呂上がりのアイスクリームを食べて、夜はアイちゃんが一生懸命慰めてくれると私はあっさり持ち直した。

 

「めっちゃ、はぁ、慰められました」と私は言った。

「もっと練習したら、もっと巧くなるよ」とアイちゃんは言った。

 

 こういう日も楽しいな、と私は思った。

 一日中動き回ってクタクタになった私たちはおやすみを言って眠りについた。

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