【完結】私はプレインズウォーカー。   作:デーテ

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28.サイドボード

「アヤメリーナ! 勝負だ! 新たに手に入れたカードの力を見よ! うぇーい!」とミサキちゃんは言った。

 

「昨日のお買い物楽しかったね~」とアヤメちゃんは言った。

 

 月曜日。部室の窓を全開にすると心地の良い風がさらりと肌を撫でていき、暑さも和らいで過ごしやすい季節になった今日この頃。

 

 山内先生の『マジックで遊びたいから』という理由で創設されたクラブだったけど、初心者にルールを教えてプレイのコツをアドバイスするっていう、めっちゃ真面目な部活動になった。

 

 今はウェルカムデッキに自分で選んだカードを足して60枚に整え、色の特徴を引き出したりしながら戦うくらいに成長した。

 

 アヤメちゃんは新しく《アジャニの群れ仲間》と《魂の管理人》を手に入れて、ライフを回復させながら戦う戦術を強化した。

 

 ミサキちゃんは打ち消し呪文とバウンス呪文を加えて防御を充実させ《大嵐のジン》でデッキの攻撃力を上げた。

 

「せっかく育てたのにー!」とアヤメちゃんは叫んだ。

 

 ミサキちゃんの出した《分離主義者の虚空魔道士》が、6/6までサイズを上げた《アジャニの群れ仲間》を手札に戻した。

 

「オーッホッホ、相性が悪かったですわねー!」とミサキちゃんは煽った。「《フェアリーの悪党》でパーンチ! 1点!」

「残り23てーん」

「アヤメリーナのライフぜんぜん減らないんですけどー」

「きっと相性が悪いからですわよー」とアヤメちゃんは煽り返した。

 

 仲良いなー、と私は思った。

 

 私は長机の真ん中に座ってて、右隣のアヤメちゃんとミサキちゃんの戦場から目を離す。正面に座るアイちゃんの横顔を少しだけ眺めてから左隣を見た。そちらではベニコちゃんと山内先生が対戦してる。

 

 ベニコちゃんが使ってた赤いウェルカムデッキは、13枚の《山》と11枚のクリーチャー、その他の呪文6枚で構築されてた。

 クリーチャー11枚という数は5色のウェルカムデッキの中で最も少なく、しかもタフネスの低いカードが多いので簡単に相討ちを取られる。

 なのでマナコストの高い、強いクリーチャーは温存された除去呪文の餌食にされてしまう。

 レアカードの《シヴ山のドラゴン》も特別強いわけではなく、序盤から続いた不利な盤面をひっくり返せない。

 その他の呪文6枚の内訳は、除去呪文3枚、クリーチャー強化呪文2枚、一時的なクリーチャーのコントロール奪取呪文1枚で、やはり強いカードは入ってない。

 

 山内先生を含めて、部員の誰が使っても勝率は良くないデッキだった。

 私たちは部内会議を開き、ウェルカムデッキ間の戦力差を埋めるために《栄光をもたらすもの》という赤いドラゴンが1枚、先生から支給されることになった。

 

「よし、引いた! 4マナ! グローリーブリンガー!」

 

 必殺技を叫ぶヒーローのようにベニコちゃんは吼える。

 

 ドラゴン呪文のコストを減らす《龍王の召使い》を2マナ域に加え、多数追加されたドラゴンを次々と繰り出すようになったベニコちゃんのデッキはとても赤色らしい。

 

「ドローが上手い」と山内先生は嘆いた。

「ウッチーに貰ったこいつすげーつえー。デカイ。ハヤイ。ツヨイ」

「小林さんも順調にプレインズウォーカーらしくなってきましたね」と山内先生は微笑んだ。

 

 2ターン目《龍王の召使い》、3ターン目《雷破の執政》、4ターン目《栄光をもたらすもの》と綺麗に動いたベニコちゃんはめっちゃ楽しそうだった。

 

「ブンブンしてる」とアイちゃんも楽しそうに笑った。

 

 ベニコちゃんのドラゴンが山内先生に襲いかかる。そのまま数ターンが過ぎると先生のライフは無くなってしまった。

 

「ブンブンってなんだ?」デッキをシャッフルしながらベニコちゃんが質問した。

「ブン回るって意味だよ」とアイちゃんは答えた。

「ブン……回る? なにが回るんだ?」ベニコちゃんは不思議そうな顔をした。

 

「デッキが不都合無く機能する事を、デッキが回るって言ったりするんだよ。毎ターンちゃんと土地が置けたり、色マナがきちんと出たり。そのデッキで特に最高の回りかたをした時に、ブン回るって言ったりするの」

 

「おー、そうなのか。確かに今のは、ブン回った、な」

 ベニコちゃんは机に置いたデッキを眺めて満足そうに笑った。自分で組み上げたデッキで勝てたときの、嬉しさや楽しさを噛み締めるような笑顔だった。

 

 山内先生やアイちゃんも、ベニコちゃんの表情を見てニコニコと微笑んだ。

 ベニコちゃんのデッキを広げて、入ってるカードを4人で見ながら喋る。4マナや5マナのドラゴンが沢山入ってて、マナ加速から素早くドラゴンを出すというコンセプトが良く分かるデッキだった。

 私たちは3人がかりでベニコちゃんのデッキを褒めまくった。

 

「や、やめろよ。そんなに褒めんなよ」

 ベニコちゃんは嬉しそうにはにかんだ。

 

 

「うにゃー! 負けたー!」とミサキちゃんが叫んだ。

「わぁーい! 勝ったー!」とアヤメちゃんも叫んだ。

 

「ぅにっ!」

 大きな声にビックリしてわたわたと慌てるアイちゃんを視界に納めてから視線を右隣の2人に移した。

 

 頭を抱えて身をよじるミサキちゃんと、両手をあげて屈託無く笑うアヤメちゃんがいた。

 

「そのハンマー強すぎじゃない!? 先週まで入って無かったよね!?」

「猫の人に持ってもらうと強そうだなって思ったの~」

 

 盤面を見ると《ロクソドンの戦槌》を装備してる《アジャニの群れ仲間》が、7/4絆魂トランプルというサイズと能力で攻撃してた。めっちゃ強い。

 ライフが回復するたびに強くなる《群れ仲間》と、攻撃を当てるたびにライフを回復する絆魂能力の組み合わせが攻守を兼ねてて隙が無い。

 

「せ、先生ぇ~、あれはどうすれば良いんですか~?」ミサキちゃんは先生に泣きついた。

 

 山内先生はアイちゃんと席を交代してミサキちゃんの隣に座った。斜め前に移動したアイちゃんを見てると目が合って、ニコっと笑ってくれたのでちょっと照れた。

 

「ではデッキを拝見しましょう。そして、どうすれば良いのか皆で一緒に考えてみましょう。白鷺さんも、相手がどのように対処してくるのかを知っておく事で、さらに次の手を打てるようになりますよ」と先生は言った。

 

「は~い。よろしくお願いしま~す」とアヤメちゃんは言った。

 

 ミサキちゃんのデッキが机の上に並べられた。

 ドロー呪文、打ち消し、バウンス、飛行クリーチャーで構築された青色らしいデッキだった。

 

「まず、このデッキは弱いわけではありません。とても良く組めています。バウンスと打ち消しで相手の展開速度を落としながら飛行クリーチャーで攻撃をする。模範的な青いビートダウンです。

 この《大嵐のジン》は非力になりがちな青の軽量フライヤーとしては破格のパワーを持ちますし、これを維持しながら数ターン攻め続ければすぐに勝てるのではないでしょうか」

 

 デッキを褒められてミサキちゃんは安堵と嬉しさを混ぜた顔をした。

 

「その青い人が出てから大変でした~」アヤメちゃんは頷きながら言った。

 

 私はアイちゃんとベニコちゃんに目配せしてからミサキちゃんのデッキを褒めまくってみた。

 

「デッキリストが綺麗だね。4枚積んだカードが沢山だから安定性高くてめっちゃ使いやすそう。2枚入ってる《謎かけ達人スフィンクス》の名前が好き」と私は言った。

 

「カウンターに《取り消し》だけじゃなくて《本質の散乱》も取ってるのが良いと思う。まだ皆クリーチャー主体のビートダウンデッキ使ってるから、ちゃんとメタゲームを意識してる」アイちゃんも褒める。

 

「せっかくブン回っても打ち消しを警戒しなくちゃいけねーのは困っちまうなー」覚えたての言葉を使ってベニコちゃんも続いた。

 

「お、お? 皆すっごい褒めてくるじゃん。もっと言ってやって」

 

「ミミウサすーぐ調子のるー」アヤメちゃんは立ち上がって片手を掲げた。「そこが良いとこー!」

 

「うぇーい!」

「へぇーい!」

 ぺちんぺちんと音を鳴らして私たち5人はハイタッチをした。

 

「これが、若さですねぇ……」と先生は言った。

 

 私はミサキちゃんを見た。このノリで行け、と思いながらミサキちゃんを見た。

 

「あ、あの先生! い、いぇーぃ……」

 徐々に音量を落としながら、ミサキちゃんはそろそろと手をあげた。

「ふふ。はい。いえーい」と先生はミサキちゃんとハイタッチをした。「良いデッキですよ」

「え、えへへ」とミサキちゃんは笑った。

 

 良し、と私は思った。上手く行けば良いな、と私は思った。

 

「では、装備品の対策を考えていきましょう」と先生は言った。

 

「はーい」私たちは元気良く答えた。

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