私の居る3年A組は進学クラスで、クラスメイトのほぼ全員が付属の大学へエスカレーターで進む。
キャンパスは少し離れた場所にあるので、卒業したら実家を出てアイちゃんとルームシェアをしようと準備をしてる。
卒業を意識したとき、ふとクラブの事を思う。部員が全員3年生なのは、不味いのではないだろうか。
放課後の部室。山内先生を含めた全員で会議を開いた。
「えーっと、下級生に知り合いが居る人ー?」と私は言った。
皆は顔を横に振った。残念ながら誰も下級生との繋がりは無いようだった。
「中等部なら妹がいるんだけどな」とベニコちゃんは言った。
「わ、そうなんだ。いいな」と私は言った。
「お、マジー? 私も中等部に妹いるよ!」とミサキちゃんも言った。
「マジか。何年? ウチのは今3年で、来年上がってくる」
ミサキちゃんの妹は中等部1年生らしい。
「去年までランドセル背負ってたから、妹の制服姿見たときは、こう、大きくなったなぁって思ったよ」
「5コ離れてるとそんな感じになんのか。あー、いや、でもちょっと分かるな。それ」
しばらく妹トークを聞いた。姉妹喧嘩の可愛い理由や、年長故の理不尽な仕打ちなどを聞く。
「それで、部員の勧誘の話なんだけど」
なんとなくのタイミングで話題を移した。
「勧誘なー。どうやるんだ?」とベニコちゃんが言った。
「わからん」と私は正直に言った。
「私の持ってる書物によれば、ポスターを貼ったりチラシを配ったりするのが定石らしい」とアイちゃんが言った。
「なるほどなー」と頷いた。
シンプルな文面と、紙面の隅っこにデフォルメされた天使と悪魔の絵が描かれたポスターが作られた。
天使はアヤメちゃん、悪魔はアイちゃんが描いた。
山内先生、ベニコちゃん、ミサキちゃん、私の4人は謎のクリーチャーを産み出してしまい項垂れてた。
「可愛いね。天使と、悪魔」と私は言った。
山内先生がポスターをコピーして、部室のドアに1枚、掲示板に1枚を貼ってくれた。
チラシは60枚くらい刷り、手分けして配ることにした。
私とアヤメちゃん、アイちゃんとベニコちゃん、ミサキちゃんと山内先生で2人組を3つ作る。もしマジックについて聞かれたとき、それなりに説明できる人間を分散した組分けだ。
「配り終わるか、下校時間の10分前になったら部室に集合って感じで~」と私は言った。
「りょー」とアイちゃんが言った。了解という意味だ。
「どこから回ろうかな?」と私はアヤメちゃんに話しかけた。
「ん~、下の子たちの教室見て回ろ。残って遊んでるって事は、暇って事でしょ~」とアヤメちゃんは理路整然と言った。
「めっちゃ頭いいじゃん。行こー」
「ひゅーう」
アイちゃんとベニコちゃんは校門の方角へ向かい、ミサキちゃんと先生は部室棟の中で暇そうな娘を見つけるつもりのようだった。
部室棟を出て校舎に向かって歩く。
秋になって日が落ちるのが早くなり、空に茜色が混ざり始めてる。風はちょっと冷たくなってきてて、そろそろセーターを準備した方が良さそうだ。
歩いてる私とアヤメちゃんの横を運動部の娘たちが走って追い越してった。
「こないだベニベニのさー、ドラゴンがヤバくって無理~ってなった」
「あー。あのデッキヤバいよね。よく出来てる」
「ソッコーが駄目なんだよね~。トクレーして4て~ん、で皆燃やされちゃう」
アヤメちゃんとお喋りしながら歩いて、1年生の教室に着いた。1ーA~Cまでの3クラスがあり、試しにA組をこっそり覗くと何人か残ってるのが見えた。
「ん~、ダベってるだけだね~。ゆーりん、行く?」
「行こう」と私は言った。
教室のドアを開けて乗り込むと、下級生の娘たちがこっちを見た。教室の真ん中に6人組が1つだけ。
「こんにちわ」と私は近づきながら言った。
「こんにちわ~」ドアを閉めながらアヤメちゃんも続いた。
「え、こんにちわ……。わ、3年生の人? なんで?」
「誰かなんかやった?」
1年生の娘たちはわちゃわちゃしてて、少し混乱してるっぽかった。
アヤメちゃんのプラチナゴールドの髪も気になるようで、私とアヤメちゃんを交互に見てる。
「私はユーリ。こっちの綺麗な娘はアヤメちゃん。3年A組だよ。よろしくね」と私はにこやかに言った。
「よろしく~」アヤメちゃんも愛想良く言った。
「よ、よろしくお願いします?」と1年生の娘たちは言った。
「すぐ済むんだけど、ちょっと君たちの時間をもらっても良いかな?」
1年生たちは戸惑いながらも頷いてくれた。
「ありがとう」と私は言った。
どういう風に話を持っていこうかな。チラッとアヤメちゃんを見ると、ノープランですって顔をしてた。
いきなり本題に入っても良いけど、何か雑談しても面白そうだ。1年生たちの顔を眺める。
ちょっとだけお化粧してる娘がいて、髪を染めてる娘はいない。これが2年生になると、もう少し手が込んだ見た目になってくる娘が多い。
「あれ、君に見覚えがあるな。たまにバスで一緒になる娘だ」
たまたま見たことのある顔があったので会話の取っ掛かりにしてみる。いつだったか、バスの席を譲ろうとしてくれた娘だ。
「は、はい! そうです!」
「いつもこのメンバーで遊んでるの?」
「え、えと、はい、だいたい、このメンバーで、です!」
随分と力の入った返事をしてくれる。
「どうしたの? 何か緊張してる?」
「い、いえ! あの! 今日は黒髪の人は一緒じゃないんですか? お二人が別々に居るところ、初めて見ました」
「黒髪の人は、今校門の辺りかな。チラシを配りに行ったんだよ」
そう言って持ってたチラシを人数分差し出した。
「MTG……。カードゲーム?」
「部員が今全員3年生なんだ。ルールはちゃんと教えるし、カードも支給するよ。興味があったら来てくれると嬉しいな」
「今なら、先輩に教えて貰えるんだ……」
「チャンスじゃん! 行きなよ!」
どうも、色々と込み入った事情がありそうだった。成るように成るだろう。
「前向きに検討してくれてるんだね。君の名前を教えて欲しいな」
「チカです! 青葉チカ! 決めました! 私このクラブ入ります! よろしくお願いします!」
チカちゃんは勢いよく立ち上がって宣言した。
随分と思い切りの良い娘だな、と私は思った。
チカちゃんと連絡先を交換して、チラシ配りに戻ることにした。
1 ーAを出るとアヤメちゃんが笑った。
「ゆーりん、やばー! カッコ良かったよ!」とアヤメちゃんは言った。
「アイちゃんの持ってる書物によると、後輩に接する先輩はああいう感じがセオリーなんだよ」と私は説明した。
「アイクロなに読んでるの〜? ウケる」
B組とC組にも同じようにしてチラシを配った。チカちゃんみたいに即決する娘はいなかったけど、そんなに悪くない感触だった。
「これで来年もクラブが残ると良いなー」部室棟に向かいながら私は言った。
「ねー。何人か来てくれそうだったけど、続かないかもだから〜」
部室に戻ると、まだ誰も戻って来てないみたいだった。
「なんだかんだで、皆ハーフデッキ卒業したよね。丸々残ってる」
「土地は借りたままだから買わないと駄目だね〜」
後輩に配るカードを確認すると、それなりの数のハーフデッキが残ってた。
「新しく入る娘は、ハマってくれるかな」
「ゲームの面白さも大事だけど、一緒にやる人がジューヨーだと思う〜。ベニベニと、ゆーりんと、アイクロ、ミミウサ、スイちゃん先生が居たから続けたんだよ」とアヤメちゃんは言った。
私はちょっと感動してアヤメちゃんを見た。
「めっちゃ嬉しい。チョー青春っぽい事言うじゃん」
「でしょ〜?」とアヤメちゃんは笑った。
「入ってくれる後輩ちゃんたちにも、良いお友達が出来ると良いね」と私は言った。
「それ大事〜」とアヤメちゃんは言った。
「皆が戻ってきたら、さっき言ってた事喋って良い?」
「恥ずいからダメ!」とアヤメちゃんは言った。
ちょっと赤くなった頬っぺたが可愛いと思った。