「アイちゃん、私ね、気付いちゃったかもしれない」と私は言った。
手に持ったカードは、ニヒルな笑顔が似合うワームくん。説明欄には長い文章が書かれていて、ワームくんの恐ろしさを伝えてくる。この長い文章をぎゅっと濃縮すれば、それはきっと《絶望》や《畏怖》なんかになるんだろうな。正直めっちゃイケてる。
「ユーリちゃん……」
ワームくんのカードを持つ手に、アイちゃんがそっと手を添えて寄り添ってくれた。言わなくては。気付いた事を。
「ワームくん、てさ。もしかして、あんまり強く無いっぽくない?」
「たは~」とアイちゃんは言った。ぺちんと音をたてて自分のおでこを叩いた。
空を見上げる。青い空。雲ひとつ無い蒼穹。でも今だけは、私にだけ雨が降って頬を一筋流れて行った。
「と言うわけでワームくんデッキから抜きまーす」と私は宣言した。
「やむなーし」とアイちゃんは言った。
アイちゃんの部屋。私達はラグが敷かれた床に座り、ちゃぶ台を囲んで向かい合っていた。
「でもワームくんは格好良いし、アイちゃんに貰ったお気に入りなので大切に保管しまーす」
「ふふ、ありがと。コレあげる」とアイちゃんが何かくれた。
何だろコレ。ビニールで出来た、袋、かな? ずいぶん小さくて薄い。たぶん薄さ0.01ミリとかそんなもん。
「これはカードスリーブっていう、カードを保護するための袋なの」
おー、これが。私はワームくんを丁寧にスリーブへ入れ、少し考えてから生徒手帳に付いてるポケットにしまった。
「アイちゃんありがとう」と私は礼儀正しくお礼を言った。
「どういたしまして」とアイちゃんはニコニコと笑った。
それはさておき。
ワームくんを抜いたので、代わりのカードを入れなくては。
「ユーリちゃんに言わなきゃいけない事があるの」とアイちゃんが言った。
「なになにどうしたどうした」
「マジックのデッキは60枚以上で組むの。でも最初に渡した箱には30枚で構築された《ハーフデッキ》が入っていたの」
「なんと」
箱を手に取り、裏面に書かれた文字を読んだ。
「30枚からなる構築済みデッキとルール参照カード入り。わ、ほんとだ」
「ユーリちゃんが使っていたのは、緑のデッキにワームくんを足した31枚デッキだったの。今はワームくんが抜けたので元の30枚ね」
つまりあと30枚足さなくてはいけないのか。
「何を足せば良いんだ……?」と私は途方に暮れた。
「簡単な方法があるわ」とアイちゃんが言った。
私には見当も付かないこの難題をサラリと解くアイちゃんは、まるで名探偵のようだ。格好良い。
ビシリ、と犯人を指名するように伸ばされたアイちゃんの指は、残りの《ハーフデッキ》を指していた。
「なるほどなー」と私は言った。
30枚足りないなら30枚足せば良いじゃない理論というわけね。ふふ、やるなぁ。
「でもアイちゃん。緑色のデッキはもうないけど」
「ユーリちゃん、これから教えるのが48の必殺マジックのひとつ、《マルチカラー》よ!」
「なんてこった! わお! そんな方法が有ったなんてぇ!」
二人で笑いながら寸劇を楽しんだ。
「それで、ね」
笑いを収めたアイちゃんは居住まいを正して、私をまっすぐに見た。長い睫毛がふるふると震えている。
「え、どうしたの?」と私は言った。
「オススメの、カードが、在って」
「うん」私は続きを待った。
「明日、学校終わったら、一緒に買いにいきまへんかぁ?」
「お、それはまさかカードショップってやつ? 行きたい!」と私は言った。
アイちゃんは、にへらっと笑って、うんうんと頷いた。
何でアイちゃんがこんなに緊張してるのかは分からなかったけど、珍しい笑いかたをしたその顔がめっちゃ嬉しそうに見えたので、まあ良いかな、と私は思った。