【完結】私はプレインズウォーカー。   作:デーテ

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32.チョコレート・ディスエンチャント

 アイちゃん家のリビング。いつもみたいにソファに並んで座ってる。

 晩御飯を食べて、お風呂も済ませた。今はお風呂上がりの甘味を食べてる。

 アイちゃんと一緒に選んだ、気合いの入ったチョコレートはめっちゃ美味しかった。

 

「ん~! 美味しい~!」口に含んだ甘い欠片はサラサラとほどけた。

「高いチョコ、すごい」とアイちゃんは言った。「タルモより高いだけある」

「もっもー」と私は鳴いた。

「もっもー」とアイちゃんも鳴いた。

 

 短く揃えた爪は綺麗に磨いてある。指の先っぽにはチョコレートパウダーが残ってて、もったいないけどウェットティッシュで拭いた。

 

「2/3のタルモゴイフに《稲妻》撃っても倒せないのズルいよね」と私は言った。

「あぁ、墓地にインスタントが落ちて無い時で2/3。状況起因処理ははややこしいから。黒い呪文なら分かりやすく倒せるよ」

「《恐怖》とか、なんでも倒せるの強いよね。絵はちょっと怖いけど」

「みんなが黒いカード使わないからなんでも倒せるように見えるだけ。怖いのは、まあ、《恐怖》だし」

 

 黒いカードはクリーチャーや手札を破壊するのが得意で、サイズの大きなクリーチャーも1枚で対処できる。赤い除去で大きなクリーチャーを倒すのはめっちゃ大変なので、使ってみたい気もする。

 

「そろそろ自分用の黒いデッキ作ろうかな……」と私は言った。

 新しい色に手を出すには、そこそこの初期投資が必要になる。しばらくデッキの強化はしてないのでマジックのために使えるお金はまあまあプールしてあった。

 

「じゃあ明日もお出掛けだね」

 アイちゃんはそう言いながら寝転んで、私の膝に頭を乗せた。長い黒髪は電灯の灯りを艶々と跳ね返してる。手ですくうと、水みたいにスルスルとこぼれる。

 

「どんなデッキにしようかなー。黒っぽいのがいーな」アイちゃんの髪を撫でながら言った。

 

「黒の特徴は、ハンデス、除去、リアニメイト、ライフドレイン、ライフと引き換えのドロー。

 ライフ1まではかすり傷、が合言葉。殺戮や死を振り撒いて、自分自身すら捧げて目標を達成するの」

 目を閉じてアイちゃんは言った。撫でる私の手にグリグリと頭を押し付けてる。

 

「手札破壊は使いたいな。黒いカードにしかできないよね?」

「ん~、そう、かな? たぶんそう。私は黒以外でハンデスするカード知らないにゃー」とアイちゃんは言って、今度は私のお腹に顔を押し付け始めた。

 

「あはは、ちょっと! くすぐったいよアイちゃん。もう眠たい?」と私は聞いた。

「んー、ちょっと眠たい」

「歯磨きして、ベッド行こっか」

「うん」とアイちゃんは言った。

 

 チョコレートは箱に半分残ってる。丁寧に箱を閉じて、箱に書かれた成分表を読み、そして冷蔵庫に入れた。

 

 

 

 

 次の日。シャワーを浴びて朝の支度を進める。

 トースターに食パンをセットしてからアイちゃんを起こしに向かった。

 

「アイちゃん、もうすぐパン焼けるよ」私は布団にくるまったアイちゃんに声をかけた。

「ぅ~ぃ~」とアイちゃんは応えた。特に意味は無い声だ。

 

 私は布団の中に手を突っ込んで、色んな所を触ったり弾いたりした。にぁい! という声を出してアイちゃんは飛び起きた。

 部屋を出てダイニングのテーブルで待ってると、アイちゃんはゆっくりとやってきた。雑にジャージだけ着てる。

 

「おはよ」と私は声をかけた。

「おはよ~」とアイちゃんは言った。

 

 よたよたとした足取りで歩いてきたアイちゃんは隣の椅子に座った。上半身をねじって私の方を向き、両手を広げてハグを要求してきた。

 もちろんハグをして、それから触れるだけの口付けをした。

 

 大きく開いたジャージの襟からアイちゃんの鎖骨が覗いてた。ほんのりと赤く、内出血してる。

 

「今日はタートルネックにしようね」と私は言った。

「昨日、なんか凄かったね」とアイちゃんは言った。

「ね。チョコのせいかな」

「そうかも」とアイちゃんは言って、もう一度口付けをしてくれた。

 

 サクサクとトーストを食べ終えて、アイちゃんはシャワーを浴びに行った。

 私は食器を洗って、服を着替えてアイちゃんを待つ。

 

 今日はカードを買って、ちょっと良いご飯を食べて、それからどうしようかな。家具屋さんとか見に行っちゃおうかな。引っ越しは来月だから早すぎるって事は無いだろう。

 

 シャワーを終えたアイちゃんを乾かしてお出掛けの準備をした。

 

 

  ◇

 

 

 冬の空はどんよりと、低い雲が広がってた。風は冷たくお肌を切りつけて過ぎる。

 アイちゃんとひっついて歩くのに最適な日だった。

 

「ミサキちゃん、チョコ渡せたかな」と私は呟いた。

「先生はちゃんと受け取ってくれると思うけど、三浦さんがヘタレて渡さないという可能性がなくはない」とアイちゃんも心配そうに呟いた。

 

 今年のバレンタインは日曜なので、学校で渡す人は昨日の内に渡さなくちゃいけない。15日でも良いや、っていうのは友チョコに限られる。

 ミサキちゃんも山内先生に渡すためのチョコを用意してた。

 

 街を歩いてるとバレンタインの飾り付けが目立つ。

 今年はアイちゃんと2人でお金を出しあって、めっちゃ高いチョコを買って食べた。

 コンビニで売ってるヤツとは全然違って、同じ食べ物じゃないのかもと思った。

 

 いつものカードショップに着いた。

 

「なんか久しぶりだね」と私は言った。今年に入ってから初めて来た。

「前に来たのは《悪斬》買いに来たときだっけ」

「その後もっかい来たよ。ベニコちゃんと《悪斬》用のカード探しに来たじゃん」

「あー、来た来た。《サルカンの怒り》が強くてデッキにもピッタリだったから流石サルカンって言ってたんだった」

「探せばあるもんなんだねって、面白かった」

 

 アイちゃんとお喋りしながらショーケースを見たり、ストレージを漁ったりした。

 こんな感じのカードが欲しいと私が言うと、アイちゃんが具体的なカードを探してくれた。

 

 何とかデッキは形になった。黒赤の、手札を入れ換えながら墓地にクリーチャーを送って蘇らせる、というデッキになった。

 

「あとは【ファイヤーズ】から《稲妻》と《フレイムたん》持ってくれば良いと思う。土地は24枚で、9種4積み36枚と合わせて60枚」

 

「めっちゃシンプルな構築だね」私は感心して言った。

「細かい所は使いながら調整しよ」とアイちゃんは言った。

「おけまる水産」

 

 

  ◇

 

 

 ちょっと遅めのお昼ごはんを良い感じの洋食屋さんで食べてた。オムライスは卵がふわふわで最高だった。

 

「まさか先生に恋人がいたなんて」と私はスマホを見て言った。

 

 山内先生には先生の人生があって、私たちの先生になる前にも当たり前に生きてる。私のように、アイちゃんのように、ミサキちゃんのように好きな人とかと出会って、時間をかけて深い関係になったりする。

 

「なんか、みんな生きてるんだね」とアイちゃんが言った。

「そうだね」と私は言った。「みんな生きてるんだなぁ」

 

 幸いにも、と言うべきかミサキちゃんはあんまり落ち込んでないらしい。ショックは受けてるけど深刻な痛みは無いとベニコちゃんからのメッセに書いてある。

 

「月曜になったら、三浦さんに美味しいチョコを食べさせてあげよう」とアイちゃんが言った。

「そうだね。美味しいの買ってってあげよう」と私は応えた。

 美味しいチョコは、それだけで人を救える。

 

 

  ◇

 

 

 お風呂上がりに、昨日のチョコを食べてる。よく冷えてて美味しい。あっと言うまに食べ終わってしまった。

 

 短く揃えた爪は綺麗に整えてある。指の先っぽにはチョコレートパウダーが残ってて、はしたないけどペロッと舐めた。

 

 隣のアイちゃんがこちらをチラッと見たのが分かったので、私はアイちゃんの腰を抱き寄せてひっついた。アイちゃんの唇を人差し指で撫でると私は言った。

 

「綺麗にして」

「んっ、は、ぃ」

 

 アイちゃんの口内は温かくて、舌が一生懸命動くのが可愛い。小さな口に中指を追加した。2本の指で中をゆっくりなぞったり、舌を摘まんで引っ張ったりしてみる。

 

 口の外に伸びたアイちゃんの舌を自分の唇で捕まえた。チョコレートに混ざったアルコールのせいで酷く身体が熱かった。

 生きてるって実感がそこにある気がした。私はアイちゃんの舌を吸いながら、その上に残る微かな苦味を追い求めた。

 

 甘いはずなのに、甘いだけじゃないのが、もしかしたら、もしかしたら。

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