【完結】私はプレインズウォーカー。   作:デーテ

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33.灯の再覚醒

 卒業式はアッサリと終わった。進学する人はだいたい同じ大学に行くし、だいたいの人は進学するしでみんな落ち着いた感じだった。

 クラブの娘たちが送別会をしてくれて嬉しかった。

 

 卒業式から数日後。私とアイちゃんは引っ越しを済ませて新居に落ち着いてた。

 広めのリビングと、寝るための部屋がある縦長の1LDKは最高に楽しい。

 アイちゃんと一緒に起きて、アイちゃんと一緒に過ごして、アイちゃんと一緒に寝る。永遠にこんな日が続けば良いのに。

 

 

 

 

「実家に帰らせてもらいます」とアイちゃんは言った。

「さみしい」と私は正直に言った。

 

 今日はリビングに置くソファが届く予定だった。

 リビングにはこげ茶色のラグが敷いてあって、長方形の白いローテーブルがぼつんと佇んでいる。ここに灰色の小さなソファが追加されるわけだ。

 

 アイちゃんは用事があって実家へ行くことになっていて、私が1人でお留守番をすることになった。

 

「晩ごはんまでに帰ってくる?」と私は聞いた。

「うん、帰ってくるよ」とアイちゃんは言った。

「気を付けて行ってらっしゃい」と私はアイちゃんを送り出すために別離の儀式を行った。

 すなわち、両手を広げて、ハグをして、行ってらっしゃいの口付けをした。

 

 お昼ごはんを独りで食べてからほんの少しすると、ソファが届いた。リビングの良い感じの場所に置いてもらってお礼を言う。

 アイちゃんが帰ってきてから細かい位置を調整したら良いだろう。

 

 もうお留守番する理由は無くなっちゃって、そして晩ごはんまでは結構な時間がある。

 

(今からアイちゃん追っかけても、邪魔になっちゃうかな)

 

 私はソファから立ち上がって寝室に入った。

 寝室にはちょっと大きめのベッドと本棚、ベッドから手が届く位置にサイドテーブルが置いてある。

 クローゼットの扉を開けて、中からデッキケースを取り出した。

 

 この部屋を借りるとき、近所にカードショップがあるという立地が決め手のひとつだった。マジックを扱ってるのも既に把握してる。部屋を探すのを中断して買い物をしたのでバッチリだ。

 沢山の人と対戦する機会が欲しかった。高校の部活に顔を出し過ぎても、後輩ちゃんたちだって困るかもしれない。

 

 先月組んだばかりの、赤黒のリアニメイトデッキ。サイドボードはまだ無い。まだまだ回し足りない。

 

 リュックにデッキケースとスマホ、おサイフを突っ込んで、新しく買った軽いデニムジャケットを羽織って外へ出た。

 

 

 

 

 少し歩いて、大きな道路沿いにカードショップはあった。2階建ての小さな一軒家を改装して、1階はショーケースとデュエルスペース、2階は倉庫になってるっぽい。

 

 ショップは開店したばかりで、他のお客さんはまだいないみたいだった。

 

「あぁ、こんにちわ。いらっしゃい」四角い黒縁のメガネに、白いブラウスの店長さんが奥から出てきて言った。

「こんにちわ」と私は礼儀正しく挨拶をした。

 

「貴女は、たしかプレインズウォーカーの子だったね。2人組の」

「覚えてるんですか?」と私は少し驚いて聞いた。

「まぁ、小さい店だからね。何百人もお客さんが来るわけじゃ無いから」

 

 店長さんはショーケースの鍵を開けて、中のカードを整えた。私の知らない種類のカードで、可愛い女の子の絵が描いてある。

 

「今日は買い物?」鍵を閉めながら店長さんは言った。

「ああ、いえ。デッキを回したいなって思って」と私は言った。「サイドボードを組んでなくて、それも考えたいなって」

「なるほど。私で良ければ相手をしようか? ご覧の通り、開店直後は暇なんだ」

「わ、良いんですか? ぜひお願いします」と私は喜んで返事をした。

「では、奥へどうぞ」

 

 デュエルスペースには4人掛けの机が2つ置かれてた。机は贅沢な間隔を開けて配置されてて、ゆったりと落ち着ける。

 私は適当に席を選んで座り、リュックからデッキケースと、サイコロの入った小さな巾着を取り出す。この巾着は後輩ちゃんたちから貰った物で、6種類の内から茶色を選んだ。

 アイちゃんは黒、ベニコちゃんは赤、アヤメちゃんは白、ミサキちゃんは青、山内先生は緑。

 

 準備を終えて少し待ってると店長さんがやってきた。

 

「お待たせ。そういえば、フォーマットは何? スタン?」

「カジュアルです。分類で言うと、ゆるふわレガシーらしいです」と私は答えた。

「あはは、ゆるふわ! 可愛い」店長さんは笑って言った。

 

 デッキをシャッフルして、サイコロを振って、私の先行になった。

 

「よろしくお願いします」

 

 7枚の手札はかなり良さそうに思える。土地があって、除去があって、ドローがある。

 

「マリガンは無しです。キープ」

「私も大丈夫。キープ」

 

「ゲーム開始時に手札の《ドロスの大長》を公開します。3点ドレイン」と私は言ってカードを見せた。

「珍しい物を積んでるね。コンボかな。ライフ17」

「コンボみたいな物らしいです。《血溜まりの洞窟》をタップイン。1点回復して24。エンドです」

 

 20面体のスピンダウン・ライフカウンターの横に6面体のサイコロを置いた。

 

「コンボみたいな物で、手札の《大長》。何だろう。ドロー。《森》から《エッジウォールの亭主》。エンド」

「あ、店長さんは【アドベンチャー】ですね」

「バレちゃった」と店長さんはお茶目に言った。

 

《稲妻》でクリーチャーを焼いたり《殺害》で除去したりして数ターンが過ぎた。《胸躍る可能性》で手札を入れ換えて、《不穏の標》で《ドロスの大長》を墓地から復活させたりもした。

 

「なるほどリアニメイト。6/6絆魂が動き出したらもう無理だ。参りました」

「ありがとうございました」と私は言った。

 

 デッキがめっちゃ綺麗に回って嬉しい。

 

「他にはどんなクリーチャーが入ってるの?」

「《フレイムたん》と《ウラモグの破壊者》です」

 デッキからカードを抜き出して見せた。

「《カヴー》がゆるふわレガシー要素なんだね。懐かしいなぁ」

 店長さんは微笑んで《フレイムたん》を眺めた。

 

「サイドボードはまだ無いんだよね。どうする? サイド用のカードいくつか出すよ」と店長さんは親切に提案してくれた。

「めっちゃ助かります。お願いして良いですか?」

「まかせてよ。実はここ、カード屋さんなんだ」

 

 お茶目な人だなぁ、と私は思った。

 

 

 

 

「お手軽な墓地対策カードは、今のスタンなら《魂標ランタン》で、モダン以下なら《RIP》、《黒力線》、《檻》、《遺産》その他多数って感じかな。あとは《サージカル》とか」

「どれもあんまり聞いたこと無いです」と私は正直に言った。

「まあ、カジュアルリアニメイト相手にこんなの出したら戦争だから」

 

 レジカウンターの奥から戻ってきた店長さんは何種類かのカードを持ってた。

 

「そして、墓地対策カードへの対策カードがこれ。アーティファクトを割れて、クリーチャーの除去も出来る《削剥》。黒色なのにエンチャントにも触れるようになって、もちろんクリーチャーの除去も出来る《大群への給餌》。ここらへんはメインから入るかもね」

 

 紹介してもらったカードを15枚選んで買った。《大群への給餌》はアイちゃんが大騒ぎして喜んでたので知ってた。

 

「週末はここで大会もやってるから、もし良かったら遊びにおいで。スタンとモダンだから、デッキは調整しないといけないけど」

 

「大会かー。カジュアルデッキでも戦える感じなんですか?」

「いろんな人がいるよ」と店長さんは言った。

 直接的な答えを言わないのが、大人の人って感じだった。

 

「行けたら行きます」と私は言った。

「それ行かない人のセリフー」と店長さんは笑った。

 

 きっと、アイちゃんと一緒に参加することになるなと思った。

 

 リュックの中からスマホの着信音が聞こえた。それを合図みたいにして店長さんは仕事に戻って行った。

 

 スマホを見るとアイちゃんからのメッセで『今から帰るー。あいたい!』と書かれてた。

 

『私も! 気を付けて帰ってきて! 好き!』と返信した。

 

「お邪魔しましたー。また来ますー」と店長さんに声をかけてショップを出た。

 店長さんはヒラヒラと手を振ってくれた。

 

 

 

 

 夕方にはちょっと早くて、おやつの時間はぎりぎり過ぎちゃってて、春の陽気はポカポカとしてる。桜色のスカートとブルーのデニムジャケットは軽くてふわふわと揺れた。

 アイちゃんの趣味を反映して買った茶色のショートブーツが小気味良い音を鳴らす。

 

「あー、春だー」と私は言った。

 

 新しい何かが始まりそうな予感がしてて、いつも通りの幸せもちゃんとそばにあって、胸の奥があったかい感じがしてた。

 変わったり、変わらなかったりしながら進むんだなーと思った。

 

 晩ごはんの用意を相談しながら、私たちの家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 




おまけ
ユーリの
【ヴィジュアル系リアニメイト】
※スペルが全て4枚積みでデッキリストが美しいため

クリーチャー 12枚
《火炎舌のカヴー》 お気に入り
《ドロスの大長》  強い
《ウラモグの破壊者》ヤバい

スペル 24枚
《過酷な精査》   ハンデス

《血の署名》    ドロー
《胸躍る可能性》  手札を墓地に送りながらドロー

《不穏の標》    何でも生き返る

《殺害》      絵が怖い
《稲妻》      偉い

土地 24枚
《血溜まりの洞窟》  4枚
《ラクドスのギルド門》4枚
《山》        7枚
《沼》        9枚


サイドボード
大群への給餌  4枚
削剥      4枚
強迫      4枚
衰滅      3枚
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