隣を歩くアイちゃんはニコニコ笑ってるし、私もウッキウキだった。
放課後。私達は電車に乗って繁華街的な所にやってきていた。服屋とかバーガーショップとか大きな本屋さんとか色んなお店がめっちゃいっぱいある。
もちろんカードショップもあった。
「めっちゃいっぱいカードあるね!」と私は言った。
「ねー」とアイちゃんは応えた。
カードショップは結構広くて、目当ての場所までアイちゃんが手を引いてくれた。
紙で作られた細長い長方形の器にカードが詰め込まれていて、その器が何本も置かれている。
「ここはストレージコーナー」とアイちゃんが厳かに告げた。「役目を終えた戦士たちの眠る墓」
「つまりー?」
「使う人があんまり居ないカード達なのでー、すごく安い値段でカードが買えるってスンポーです。具体的には1枚10円」
「駄菓子じゃん」と私は言った。「あ、帰りお菓子買ってかえろ?」
「はーい」とアイちゃんはニコニコして言った。
ストレージコーナーには先客達が居て、みんな熟練の手付きでカードをなんかしてた。
アイちゃんも箱の前に立つと、左手にカードの束を握って、高速で右手へと移動させ始めた。なんかしてる。
「アイちゃんアイちゃん、それは何してんの?」
「これはね、目当てのカードを探してるの」アイちゃんは一旦カードをなんかするのを止めて、こっちを向いてニコってしてから説明してくれた。「はい、コレ」
アイちゃんが渡してくれたのは、あんまりマジックのカードっぽく見えなかった。カードの周りが鈍い金色っぽいマーブル模様でちょっと気持ち悪いと思った。
英語で文字が書かれてる。なんか木っぽいウネウネしたやつが燃えてて、牙の生えまくったゴリラが何頭かうろついてる絵が描かれてる。右上に書かれたマナコストの部分には、緑と赤のシンボルが印刷されてる。3マナ。
「こんなカード初めて見た」と私は言った。
「これがマルチカラーカード。2色以上使うので、単色のカードより強目の効果になるの」
「ほえ~」と私は言った。
マルチカラーカード。ちょっと気持ち悪いマーブル模様が、特別っぽい感じに見えてきた。英字っていうのもなんかそれっぽい。
「良いじゃない」と私は言った。
「そのカードはデッキのキーカードとして、沢山の人に使われたの。大袈裟な人なんかは、このカードはこのデッキの魂にして心臓だ、なんて言ってた」
魂にして心臓。なんだそれ。
「めっちゃ良いじゃん」と私は言った。
「ここはストレージコーナー。歴戦の勇者たちの眠る墓。その偉大なる者の名は《ファイヤーズ》」
「私そういうの好き!」と私は言った!
その後アイちゃんは追加で何枚かカードを選んでくれて、一緒にお店を適当に見て廻って、ショーケースに飾られてるめっちゃ高いカードにドン引きして、電車に乗って帰ってきた。
駅前の広場に出た時、空は夕暮れの橙色が茜色と混ざり、春から初夏へと移り変わる時の風がじんわりと肌を撫でていた。
私の隣にはアイちゃんが居て、同じように空を眺めている。その長い黒髪に夕陽の光が翻って煌めいた時、唐突にそれは来た。
マジックがしたい、と思った。
新しいカードを使って、デッキを60枚にして、アイちゃんと向かい合って座り、土地を置いて、呪文を唱えたいと思った。
「マジックにはね」アイちゃんは夕暮れを眺めながら口を開いた。
「うん」
「フライデー·ナイト·マジックっていうのがあるの。金曜日の夜は、みんな集まって、マジックして遊ぼうっていう、そういうの」
「うん」
「ユーリちゃんがね、もし良かったらなんだけど」
「アイちゃん」
「今日、家に親、いないんだ」
「泊まって一晩中して良い?」
「……良いよ」
そう言ってアイちゃんは、にへらっと笑った。
アイちゃんが私の手を握り、グイグイと歩き出した。
私も握り返し、グングンと歩いた。
アイちゃんはいつもみたいにニコニコ笑ってるし、私もウッキウキだ。
胸の奥が燃えるようだった。心臓と魂だ。ドクドクと脈打つそれらが熱を持ち、スパークが弾けてどこかへ飛んでいきそうだ。
「あー! アイちゃん!」
「どうしたのー?」
「お菓子買って行こ!」
「はーい!」
ケラケラ笑いながら歩いて帰った。
この後めっちゃマジックした。