「じゃーんけーん」「ポン」
私の先手。初手の7枚をドローする。めっちゃ良い。《森》と《山》と、眼帯をした強そうなエルフのラノワさんに、そしてファイヤーズ!
「キープぅ!」にやけた頬とともに力強く宣言した。
「じゃあ私もー」アイちゃんはいつもみたいにニコニコして言った。
「じゃあはおかしく無い?」
「おそろい」
初手ってそんな感じでキープするんだったかなぁ?
とりあえず《森》を置いて、ホワンとマナを出してラノワさんを呼んだ。アイちゃんは土地を置いただけでターンを終えた。
「アンタップ、アップキープ、ドロー」
手札から《山》を置いて、ボワっと赤いマナを出し、ラノワさんと《森》からホワホワっと緑のマナを出した。
「ラノワさんありがとう! ファイヤーズ!」
2ターン目に3マナのカードを唱えるのは最高の気分だった。ラノワさんは、相手を叩く代わりにマナを生み出す平和主義の化身みたいな人で、たぶん野菜しか食べない。
「ユーリちゃん、気持ち良さそうだね」とアイちゃんは笑って言った。
「アイちゃんがラノワさんを教えてくれたおかげだね。ありがとう」と私は言った。
「じゃあ、もっともっとユーリちゃんの知らないこと教えてあげるね」
「うん、いっぱい教えて」と私は言った。
「ふふ、じゃあコレ」
アイちゃんは自分の土地からマナを出して、呪文を唱えた。
「ファイヤーズに《魔力の乱れ》を唱えるよ」
「え、なに?」
「これは打ち消し呪文っていうの。あと1マナ払わないとファイヤーズは消えちゃう。悲しいね」
「ラノワさん! なに寝てるの、早く働いて?」
「ブラック企業じゃん」
ファイヤーズは消されてしまった。何という事だ。
「うぅ、とても悲しい」
「ユーリちゃんがマジックを好きになってくれて、どんどん強くなっていくから新しい事を教えようと思ったの。ユーリちゃんはルールを覚えるのも早かったし、戦闘も上手。私はユーリちゃんとマジックできてとっても嬉しい」
「誉められたから嬉しい」と私は言った。
「機嫌直るの早すぎる」
そのままターンを進めていく。私はアイちゃんの《魔力の乱れ》を警戒して、常に1マナ余らせて呪文を唱えるという戦法を編み出した。
「ユーリちゃんすごい。天才じゃん」
「へへ、よせやい」
毎ターン1マナ余らせるという事は、毎ターンの動きがちょっとずつ遅れていくという事だと気付いた頃に、アイちゃんはランプの精みたいなクリーチャーを呼んだ。
「青いデッキにも色々あるんだけど、今回のは相手を邪魔して展開を遅らせて、壁を並べて、飛んでるクリーチャーでトドメって感じ」
「カニさんめっちゃ硬い」
「相手を抑え込んで、動きを縛り付けて一方的に好き放題する、ていうのもマジックはできるんだよ」
「飛行止まらない」
「パワー5で4回叩くと相手は倒れる」
「まいりました」
「ありがとうございました」
戦った後は気付いた事をアイちゃんに質問したり、感想を言い合ったり再戦したりして過ごした。
季節はもう夏で、今週から金曜日はアイちゃんの部屋に泊まって遊ぶという新しい習慣が出来た。アイちゃんのお母さんとも仲良くなり、快く許可してくれた。
交代でお風呂に入り、アイちゃんの部屋でまったりと扇風機の風を浴びる。もちろんエアコンも効いてる。先に上がったアイちゃんはドライヤーを使って長い髪を乾かしていた。大変そうだ。
「手伝ったげる」と私は言った。
「え、いいの? ありがとう」とアイちゃんは言った。
まだ乾いてない部分を乾かし、タオルで丁寧に拭いた。
「アイちゃん寝るとき髪どうしてるの?」
「夏はお団子にしてるー」
「じゃあやったげる」
「くるしゅうない」
「殿様」
まあ、お団子もちょんまげも似たようなものか。原理は同じだ。
私はベッドに上がり、アイちゃんはベッドの真ん中にペタリと座る。
アイちゃんの髪に触れるのは二度目だった。サラサラで艶々で電灯の明かりをキラキラと跳ね返してる。
「青いデッキも楽しそうだね」と私は言った。
「私も久しぶりに打ち消し使ったけど楽しかったよー」
髪を引っ張らないように頭の上でゆるゆるっと丸めた。
「あ、これ使ってー」
アイちゃんからシュシュを受け取り、丸めた髪をフワフワっと纏めた。
「まだ動かないでね」
アイちゃんのうなじを見るのは初めてかもしれない。イタズラ心がウズウズしてきた。
アイちゃんの背中にピタリと抱きつき、両脚でアイちゃんの胴体を腕ごと巻いて締める。暴れると危ないので両手で頭をガッチリと固定した。
「相手を抑え込んで一方的に好き放題するのが楽しいと申すか」
まあ、気持ちは分かる。
うなじは目の前だ。歯をたてないように唇で覆い、あむあむと噛んだ。
「まー!?」とアイちゃんは叫んだ。
思った通り暴れたので、怪我だけはしないようにしっかりと抱き締めて抑え込み、すぐ噛むのをやめた。
「く、首? なにしたの?」
「唇であむあむしてみた」
「なんで!?」
「そこにうなじがあったから、つい」
「びっくりするからいきなりは止めよ? 言ってからにしよ?」
「言ってからなら良いんだ?」
「まあ、痛いとかじゃないから。こういう風にぎゅうってされるの、むしろ好きかも」
「おー、私達ウィンウィンじゃん」脚と腕から力を抜き、拘束を緩めながら私は言った。
私の腕と脚に抱え込まれながらアイちゃんはゆったりとリラックスしていた。定期的にぎゅっと絞めたり緩めたりしながらダラダラと喋る。アイちゃんの体は柔らかくて温かい。エアコンの効いた部屋で抱き締めるのにこれ以上無い存在だと思った。
夜も深くなり、そろそろ眠ろうとなった。アイちゃんが、試しにぎゅうってされながら寝たいと言い出し、私も快諾した。
「意外と難しい」とアイちゃんは言った。
アイちゃんが言うには、向かい合ってぎゅうっとされると、自分の腕が邪魔で密着感が薄れるらしいのだ。
試行錯誤の末、横を向き、体を軽く丸めて寝たアイちゃんを後ろから包むように抱き締めるという形に落ち着いた。
「あー、なんか、すごく良い」とアイちゃんは言った。「包まれてる感が、こう、良い」
「語彙力」と私は言った。
私も似たような感想で、温かいアイちゃんを包んでいると、こう、めっちゃ良い。なんかめっちゃ良いのだ。
「おやすみ」とアイちゃんは言い、私も同じことを言って、次の瞬間に二人とも寝た。