夏休みに入った。アイちゃんとマジックをしたり、一緒に買い物に行ったり、並んで宿題をしたりして過ごした。
お盆になり、アイちゃん一家は田舎へと帰ってしまった。
自室でデッキを独りで回したり、宿題を仕上げたりして過ごした。静かな部屋で、アイちゃんが居ないのがすごく不思議だった。
よく考えてみると、初めてアイちゃんの部屋に行ってから今日までで、アイちゃんと会わない日がほとんど無かった。平日は毎日学校で会い、土曜日は朝から一緒で、日曜日もなんやかんやで一緒の事が多い。
まあ、居ないのは仕方ない。そういう時もある。
適当に外でもブラついてみようと思い、クローゼットを開けた。
ガチャリとドアを開けると、夏の光が強く射し、蝉の鳴き声が押し寄せた。うっ、と躊躇したけど、気合いを入れ直して外へ踏み出した。帽子のつばに手をやり、キュッと被りなおす。
今日は服を買いに行くぞ、という断固たる決意が私の脚を動かしている。
新しい服がクローゼットの中に全然無かった。ちょっとはあったけど、ちょっとしか無かった。
スカートが欲しい。ちょっとウェスト高めの、脚を長く見せれるやつ。長い脚を見せるんじゃなくて、脚を長いと錯覚させるやつ。
脚が短いわけでは無い。無いが、長く思われるぶんには困らないわけだ。
電車に乗り、冷房の偉大さに思いを馳せ、街に着いた。
いつも行くお店を何軒か周る。服屋のお姉さんがめっちゃ可愛いスカートをはいてたので話しかけてアドバイスを貰う。マジでイケてるスカートを探して貰い、試着した。
軽い生地でフワフワ揺れるのが楽しい。
お姉さんが誉めまくってくれる。マジ可愛い、似合いすぎ、天下無双の可愛さ。
誉められて嬉しくなったので買った。
ちょっと疲れたので適当なカフェに入り、窓際の一人席に座った。甘くて冷たいラテにクリームを乗せてチョコのソースをかけたやつを飲む。
窓の外を見る。いろんな人が歩いてる。可愛い服の人。格好良い服の人。モヒカンぽい髪型の人を見てラノワさんを連想した。
沢山の人が通りすぎたけど、長い黒髪の綺麗な女の子はどこにも居なかった。
この近くにカードショップがあるのを思い出した。アイちゃんがファイヤーズを探してくれたお店だ。特に買うものは無いけど、ついでだしちょっと眺めてみようと思った。
カードショップに着き、ショーケースを見ながらウロウロしてるとスリーブコーナーに行き当たった。
カードスリーブ。マジックのカードには、とても高価なものもある。カードに傷がつかないよう保護するために使われる。今使ってるデッキは、まあほとんどタダなのでスリーブに入れてはいない。
いろいろ見ていると、絵柄の入ったスリーブを見つけた。アニメのキャラクターが描かれたのや、風景が描かれたのや、ちょっとエッチな絵もある。
目に留まったスリーブを手に取る。それは水彩画のタッチで、華奢な女の子が描かれてる。背景は黄色い空と草むら。体のラインが出るくらい薄い生地の青いワンピースを着てて、腕の先っぽから葉っぱに変わって散ろうとしてる。長い黒髪をなびかせて、こちらを切れ長の目で見てる。
綺麗だな、と思った。
このスリーブにデッキを入れてマジックをするのは、きっと楽しい。
家に帰って晩御飯を食べてお風呂に入った。
クローゼットに買ったスカートを吊るす。可愛い。洗濯は明日にして今日は眺めてよう。
スリーブにカードを入れる。めっちゃ可愛い。デッキの厚さが倍になった。
これを見たら、アイちゃんはなんて言うかなぁ。可愛いって言ってくれるのかな。楽しみだな。
「……逢いたいなぁ」
その時スマホが鳴って、私はそれがアイちゃんからだと直感した。
アイちゃんの顔を頭に浮かべながら、私はスマホに手を伸ばした。