「よいしょっと、さすがに多すぎたかしら。」
かごにあるのは全てトーンである。村では刈っても刈っても刈り切れない雑草として知られるだけあって、畑の二区画分でも相当な量が手に入った。
採取したばかりのトーンは土汚れが酷いので、一度軽く洗っておく必要がある。
私は村のそばの川から水を汲み、家の入口でトーンの土を粗方落としておいた。
「それじゃあ、必要なものも手に入ったことだし、続きを読もう。」
私は手慰みに作った葉っぱのしおりを挟んでおいたページを開いた。
「錬金術における素材の結合はある種の属性が関係してくる。水は水と植物は植物とといったように同一の性質を有するものは結合しやすく、異なる性質のものを結合することは困難である。へー、相性もあるのか。」
「しかしこの条件を覆すものも錬金術には存在する。それが中和剤である。中和剤とはすでに入っている素材の属性に偏りを与える薬剤の総称である。」
序文の次のページには中和剤と思われるスケッチとその特性について書かれている。
化学反応でいう触媒だろうか。そこには植物らしきものに中和剤を混ぜている様子が描かれている。
「属性の偏りというのはよくわからないけど、まずは中和剤を作るのがいいのは正しいみたいね。流し読みした感じだとほとんどのレシピには中和剤が書いてあるし、基礎というからにはそう難しくなさそうだし。」
ページを少しめくると中和剤の作り方のページが見つかった。中和剤は大別すると四つに分かれるらしく今作れるのは青緑黄色の三種類だけらしい。赤の中和剤は火薬が素材なので今は作れないが、残りの三つは村の周辺ですべて採取出来る素材で作れるようになっている。
「トーンで作れるのは、緑の中和剤ね。難しさ的には青と同等、一番下かしら。」
素材を下処理する関係上、赤、黄、青と緑の順に簡単になっていくらしい。
さすがに火薬と砂に比べれば、水と植物の方が手間がかからないのは、なんとなく理解は出来る。
「中和剤って液体みたいだけど、水分は何処から来るのかしら。」
中和剤のページには液体を入れるような記述はない。素材はトーンのみで刻んで魔力を込めながら混ぜるとしか書いていなかった。魔力もごく少量としか書かれておらず、ほぼ手探りでの調合となる。
私はいきなり成功するとは思っていなかった。トーンを多めに採取したのも何度か練習するためだ。釜も想定されるものよりはやや小さめのものだし、杖も調理用の長めのしゃもじのようなものである。
分量がはかれない以上、経験を積んで覚えるしかない。
「準備は十分じゃない。でもそれが楽しいわね。」
中和剤とはどういう物なのか、スケッチでも文字でもなく実物を見てみたい。未知を知る楽しさは準備不足の不安を軽々越えて私の中に確かにあった。
かごの中から二束ほどのトーンを取り出す。綺麗に土を落としたそれは根だけ僅かに紅く葉は青青としていた。
私は瑞々しいトーンの根だけ軽く切り落とすと、ナイフを使って細かすぎない程度に刻んでいく。
ほどなくトーンは小さなチップ状になり、最低限の準備は出来た。
「次は釜に火を入れて、トーンを投入っと。」
釜の中にトーンを投入すると、トーンから水分が出てくる。すかさずしゃもじで潰すように混ぜ、しばらくすると緑色のどろどろした液体が出来ていた。
「ここまでは上手くいったけど、問題はここからよね。」
しかしこのままではトーンの煮込み汁でしかない。中和剤にするには魔力を込める必要があった。
私の疑問は魔力ってどうやって込めればいいんだろうということである。
生まれてこのかた魔力なんて聞いたこともない力である。錬金術が学問である以上、おそらく全ての人間に備わっているものであることは間違いないが、それを込めろと言われても困る。
「念じながら、混ぜましょうか。」
とりあえず、混ざれー、混ざれーと念じながらぐるぐるかき混ぜてみた。
そうすると少しずつ煮込み汁が透明感のある色になっていき、そして最後に黒くなって爆発した。
部屋は少し煙臭くなる程度ですんだが、私は煤だらけになった。
「けほ。失敗すると、こうなるのね。」
私の初めての実験の成果は失敗したら爆発するという得がたい経験であった。