魔王直々の指名手配は、何故に!?   作:/\三瀧/\

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プロローグ

 もし、願い事がかなうなら、どんな願いを叶えようか。誰もが一回は考えただろう。かくいう俺もしょっちゅう考えてる。叶うあては無いけど。

 

 しかし、今程強く願ったことは無い。もう命以外の全てを賭してでも叶えたい願い。それは……。

 

「ト、トイレ!トイレに行きたい!」

 

 尿意の処理である。いや、行けよ。そのくらい。皆そうお思いだろう。しかし、それはできそうにない。

 

「うるせえぞ!テメェは今から魔王様に納められるんだよ!」

 

 今いるのは何も無い薄暗い石の牢屋。窓すら無いから日が全く当たらない。「温かみ」の「温」、いや、「氵」すら見当たらない。看守をしているのは筋骨隆々な緑の肌のオーク。凡人の俺に解決する手段は見当たらない。

 

 いや、没収された剣があれば別だけどさ。

 

「おかしいじゃん!なんで俺を連れ去るんだよ!何もしてないし何の才能も無いぞ!」

 

「お前が雑魚なのは見りゃわかる!それでも命令だから仕方なくなんだよ!」

 

 えぇ……。酷い言い方だな。せめて俺の輝く才能が欲しい、とかだったら良かったのに。

 

「た、頼むよ!お前だって知らない奴のおもらしなんて見たくないし、処理もしたくないだろ?」

 

 鉄格子にしがみつき、説得にかかる。

 

「そんなもんの処理はテメェでやれ!俺たちゃ今まではそんな環境で生きてきたんだよ!いい加減黙らねぇと一発腹に入れるぞ!」

 

 馬鹿力のオークの一発をもらおうものなら上からも下からも出ちまう。そりゃ勘弁だ。

 

 絶対にもらせない戦いがここにある。仕方なく尿意に抗う為に牢屋内をうろつきながら、思い出す。全く。どうしてこうなったのか……。

 

 

 時は遡り一時間前。

 

 幼馴染三人で組んだパーティーで魔物と戦っていた。

 

 目の前では普通の倍は大きいであろう狼と犬ころが威嚇している。禍々しい紫色の毛並みに、こちらを睨む鋭い目。合わせて三十はいる。

 

 対して、こちらはさっき言った通り、三人だけだ。俺と、明るい幼馴染の女の子と気弱でネクラな男の子だ。

 

 戦況はかなり難しい。前衛は女子一人。俺は、リーダーにして中衛。後衛を気弱な彼が担っている。

 

 いや、気弱と女の子ポジション変われや。そんな厳しい意見もあるだろう。だが、これにも理由はある。

 

 

 状況を整理する為には、まず何と戦っているのか、を説明すべきだろう。

 

 さっき魔物、と言ったが、あれはかなり大きな括りになる。

 

 まだ謎多き物質、魔力。それを体に受け過ぎた動物がなるのが魔物だ。普通の動物の数倍強くなり、数十倍凶暴な性質になる。

 

 それだけなら、まだ人間でも勝つことが出来る。しかし、その中で知性を秘めた個体が産まれ、繁殖した。それらは魔物よりも質が悪い。

 

 人を虐殺し、強奪することを目的に生きているのだ。それらは魔族と呼ばれ、対処は、生身の人間には厳しい。

 

 オマケに、そいつらはまとまって国を作ってしまった。それが、魔王軍。国なのに軍なのか。それは俺も結構思う。ただ、人を襲う為だけに生きてるから、軍でも良いのかな。

 

 王様は名の通り魔王である。

 

 魔王軍は各地方で湧いた魔物を集めて回っているのから、ちょこちょこ見回って倒しているのだ。戦力を少しでも抉るために。

 

 ここだけ見れば、魔力は人類の敵だ。しかし、糾弾するにはまだ早い。

 

 魔力は、人類には魔法をもたらした。魔法とは、魔力を体内で練って、想像した物を具現化させるものだ。

 

 もちろん人によって才能が違うから出来ることも違うが、生活を数段豊かにしたのは確かだ。

 

 簡単に光や水が手に入るし、攻撃するのだって、遠距離から炎を飛ばしたりできる。

 

 魔力が産んだ脅威に魔力で抗うというマッチポンプ方式で魔力の評価が上がるのは腹立たしい限りだ。しかし、文句を言って魔法を消されたらたまらない。しょうがなくこの理に従うしかないのだ。

 

 とりあえず今この世界は人と魔王軍の全面戦争にある、ということを理解してもらえればそれで今回の説明は十分だ。

 

 

 そんな訳で、平和な緑の平原のど真ん中。全面戦争中の勢力の末端同士の戦いが始まりそうなのだ。

 

 現在敵対するのは、下等な魔物だ。それにしたって、数が多すぎるけど。

 

「一人で十体くらい倒せばいけるか……?」

 

 小粋な冗談で場を和ませようとする。だが、かえって仲間の逆鱗に触れたらしい。

 

「何言ってんの?シュンはバカだった?前衛と中衛と後衛が同じ配分ってどういう事?」

 

 それに噛み付いてきたのは、幼馴染その一の女の子。明るい顔立ちに常にニコニコした彼女は、人懐っこいおかげで誰とでも仲良くなれる。ポニーテールも明るさをアピールるしている。

 

 しかし、俺には容赦なく罵倒やらゲンコツやらをくらわす凶暴女でもある。

 

 割としっかりした鎧に盾とロングソード。重装兵だ。

 

「いや、今のは多分冗談だよ、ラン。」

 

 小さな声で呟いたのは、幼馴染その二。おカッパに長い前髪の地味な男の子だ。俺達相手でさえこれだが、他に出ると、もっと酷い。

 

 だが、魔法のセンスは人一倍あるのだ。だから、男なのに後衛なのだ。逆に、ランは剣の才があるから前衛をやっている。

 

 ウィッチハットにダボッとしたローブ。少し身長の低い彼は背伸びした子供みたいだ。

 

「良く言ったレン!このセンスが理解出来るよな?」

 

「どこにセンスがあるの?変人がパーティーリーダーとか嫌だよ。」

 

 俺も何となく言っただけでどこにセンスがあるかは分からないが、何となくふっと浮かんだのだ。

 

「何を!魔法も剣も出来るからリーダー兼中衛をやれって言ったのはランだろ!?」

 

「何よ!あんたがダメだからやっぱり私が前衛しながらリーダーやるって言ったら駄々こねて嫌がってたじゃん!」

 

 家で遊んでる時みたいなノリで喧嘩を始める俺達を、しばらくレンが交互にアワアワしながら見る。

 

「や、やめよ?ほら、今はまさに戦闘直前なんだから。」

 

 これ以上困らせちゃダメだと思わせる弱々しさのあるレンを流石にほっとけない。

 

「わーったよ。やるか。」

 

「後で会議。絶対にだからね!」

 

 文句を良いながら、定位置につく。いつもこうだ。ランとは喧嘩ばかり。別に、お互いのことは嫌いじゃないけど。

 

 

 戦闘自体は割と直ぐに終わった。俺とランで魔物を足止めしながら削ってる間にレンが広範囲を破壊できる魔法を溜めて、それを放つだけ。

 

 いつもやってるから、そんなに苦労することは無い。いつもより数は多かったから体力の消耗は激しかったけど。

 

 問題はそこから。倒しきった俺達の前に現れたのは、下等な魔族に分類されるオークだ。それも五匹。普通、俺達くらいの駆け出しの冒険者のパーティーは、魔族二人倒せたら良いな、くらいの力なのだ。それが五匹。死ぬしか無い。

 

「お、おい……!どういう事だよ!なんでこんな所にいるんだよ!」

 

「こんな辺境になんで魔族がいるのよ!」

 

 俺とランは半ば逆ギレで不満をぶちまける。レンは、ただただ震えてる。

 

「安心しろ。今回は穏便に済ませてやるよ。」

 

 リーダー格と思しき少し体格の大きいオークが、性悪な笑みを浮かべながら言う。

 

「何が目的だ……?」

 

 人の宿敵にして天敵魔族が穏便に済ませる訳が無い。疑って当然だ。

 

「お前だよ、シュン。テメェを魔王様の命令で連れ去らしてもらうぞ。」

 

 突然かつ最低の命令だ。

 

「ふざけないで!何でよ!シュンが何したのよ!」

 

 俺が叫ぶ前に、ランが叫ぶ。いつものツンとした態度からは想像出来ないほどの必死さだ。

 

「知ったこっちゃねぇな!命令は命令だ。邪魔すりゃ殺す。それだけだ。」

 

 残酷な現実。俺に待つのは最低の未来だけだ。

 

「いや、おめぇはなかなか可愛い顔してんなァ。ついでに持って帰るか?」

 

 舌なめずりをしながら、ゲラゲラ下品に笑っている。

 

 ここでどうするべきか。リーダーの俺が考えなきゃいけないことだ。そして、もう結論は出てる。

 

「分かったよ。ついてきゃ良いんだろ?行くよ。ただし、こいつらには手を出すな。」

 

 三人死ぬより一人死んだ方がマシだ。誰にだって分かる。どうせ死ぬんならカッコつけたいじゃん。

 

「何カッコつけてんの!?ついてったらろくな結末迎える訳ないでしょ!?だったら私達も戦うよ!」

 

「そ、そうだよ!僕だって戦うよ!」

 

 こんな時だけ勇敢なレンと、いつになくデレ成分の多いランが止める。

 

 だが、男は度胸だ。

 

「うるさいな!男に二言は無い!さらば!元気に暮らせよ!」

 

 転移魔法を使える俺は、二人を家に飛ばす。転移魔法ってのは近距離で他人相手なら割と直ぐに使えるのだ。

 

 これで、味方はいない。

 

「へへっ。いい判断だ。じゃ、行こうか。」

 

 そう言ってオーク達は踵を返して行く。

 

 …………………………こえぇぇぇぇぇぇ!

 

 なんか雰囲気でカッコつけたけど、めちゃくちゃ怖い!

 

 だって、だって、こんなん絶対苦しんで死ぬじゃん!どうしよう!

 

 だって、いよいよ逃げられないし!転移魔法は自分に使うには時間がかかるし!

 

 あ、そうだ!俺の居場所が分かるようにしとけば良いんだ!こんな時のために魔道具を仕入れてあったんだ!

 

 取り出すのは白いクリスタル。こいつに魔力を込めると、対応するクリスタルの持ち主はこのクリスタルの位置が分かるのだ。

 

 オークにバレないように強く握り込む。これで、できることは全てだ。あとは待つだけだ……。

 

 

 あれからどれだけ経ったか……。今の所助けが来る気配は無い。どうしよう……。漏らしたくない……じゃない、死にたくない!誰か助けて!

 

 

 自分達の村に転移してきたランとレンは焦燥しきっていた。さっきまで一緒にいた仲間が連れ去られた。オマケに、自分達を庇って。

 

 今すぐにでも助けに行きたい。なのに、自分達にはその力が無い。むず痒くて仕方ない。

 

 こんな時どうすればいいのか。やることは一つ。人を頼ることだ。二人で無理なら衛兵を呼べば良い。

 

 そう判断した二人は、村の出入口にある衛兵のいる小屋へ駆け込んだ。

 

 

「すみません!シュンが!シュンが魔族に連れ去られたちゃいました!」

 

「あ、あの、助けて……下さい。」

 

 ドアを吹き飛ばす勢いで木製の小屋へ突入した私達は、驚く衛兵達なんて気にしないで用件を押し付ける。

 

「え、えっと……。もう少し詳しく説明してくれるかな?」

 

 鉄の鎧に身を包んだ二十代前半程の青年は困り顔だ。

 

「平原にオークが五匹現れて!なんでか分からないですけど、シュンを連れ去ってっちゃったんです!」

 

 私の隣ではレンがしきりに頷いている。

 

「どこに連れ去られたんだい?」

 

「分からないです。あいつバカだから私達を転移でここに送り返したんです。」

 

「うーん。居場所が分からないんじゃ、時間がかかるからなぁ。その間に村に何かあれば大変だしな……。でも、救うのが衛兵の仕事だし……。」

 

「でも!時間が無いんです!」

 

 青年はしばらく考え込んでいる。場所も何も分からないんじゃどうしようもないだろう。

 

 どうしよう……。こうしてる考えてる間にもあのバカは命の危険に晒されてるのに。

 

 そりゃ確かにシュン個人より村のが大事だ。それでも、ここで譲る訳にはいかない。

 

「あっ……。そういえば……。」

 

 沈黙の中小声で呟いたレンが取り出したのは白いクリスタル。

 

 それは、対になるものに魔力が込められると、こちらも魔力を込めれば位置が分かるというものだ。

 

 もしシュンが相当なバカじゃなければ使ってるはず。

 

 シュンとレンと私で揃って買ってあるから、私も取り出して、祈るように握りしめる。

 

 しばらくすると、クリスタルが光り出す。細長い光が二つ飛び出す。片方はレンのクリスタルに繋がっている。

 

 もう一つは、草原の方に向かっている。ちなみに、この光は壁を貫通するなんていう便利機能は無い。

 

「衛兵さん!こっち!こっちだよ!」

 

「あ、あぁ。分かったよ。今から衛兵達を集めてくる!」

 

 流石に確証を得た以上動かざるを得ない衛兵が、村へと飛び出してく。

 

 私達も、村の入口の方へ向かう。早く集まらないかな……。

 

 

 牢屋を歩いて約十分。限界と共に良い案を思いついた。この尿意、活用法あるんじゃね?

 

 んなわけねぇだろ。皆そう思ったな?だが、冷静に状況を見ると、これは最初で最後のチャンスだと皆分かるはずだ。

 

 現在、看守のオークは気持ち良さそうに居眠りをこいている。

 

 そして、牢屋と廊下は鉄格子で区切られてるが、隙間はある。

 

 極めつけは、俺の遠距離攻撃がそろそろ暴発しやがる。

 

 やるしかない。やれと神が言っている。ここまで来ると人としてどうとか言ってられない。

 

 恐怖は無い。ここは敵の本拠地。やらねばやられるのが戦いだ。

 

 魔物の命を刈り取って来たツケはまだ払いたくない。いや、遠距離攻撃じゃ勝てないかもしれないけど。

 

 だが、少しでもダメージを与えれば後続が楽になる。ワンチャン窒息を狙えるし。

 

 やれ!やるんだ男シュン!さっきもカッコよく幼馴染を送り出したじゃないか!

 

 最後は美しく(?)散りたいものだ。

 

 ズボンに手をかける。羞恥を捨て去って。ズボンを下ろしたら、パンツにまで手を出す。そして、今まさに下ろそうとした時、最悪の事態に陥った。

 

 世界が凍りつく。最悪の元凶も、俺のアクションにめちゃくちゃ大きなショックを受けている。

 

 空いた口が塞がらないとはこの事か。相手方は、そう思えるようなポカンとした表情。さっき捨て去ったはずの羞恥心が見事に帰還した。

 

 真っ赤な顔でヘラヘラニヤけて誤魔化しにかかる。

 

 しかし、それがダメだったらしい。恐怖が体を支配する。奴はポカンとした表情から鬼か悪魔のような恐ろしい表情に変化した。

 

 自然と体が土下座する。しかし、そんなものでは怒りは収まらなかった。

 

「シュンってバカ中のバカ!?なんでそんなもん出してんの!!」

 

 眠ってるオークをよそにランが叫ぶ。後ろには周りを警戒してビクビクしてるレンがいる。

 

「だって!死ぬくらいなら一矢報いてやりたいじゃん!」

 

「報い方考えて!?そんなことして死んだ奴の知り合い名乗りたくない!パンイチとかサイテーだよ!」

 

 確かに。それは嫌だな。絶対他人のフリしたい。

 

「悪かったって。流石に今回は焦り過ぎたよ。」

 

「それもそうだけどさ……。私達が来るって信じてくれてもいいじゃん。もし本当にやって死んでたら流石に悲しいよ……。」

 

 表情に影を落として、寂しそうに呟く。今にも泣き出しそうだ。

 

「そ、そうだよ。残された方の気持ちだって考えてよ……。」

 

 レンは既に半泣き。罪悪感が込み上げてくるせいで、

 

「残された方って。死んでねぇよ。」

 

なんて冗談も言えない。

 

「ごめんよ……。次からは気をつけるからさ。」

 

「次が無いようにして!」

 

 胸が張り裂けるような想い。今まで誇張しすぎだろ、とか思ってたけど、本当みたいだ。胸がズキズキして苦しい。

 

 しばらくの沈黙。それを破ったのは、俺達三人じゃなかった。

 

「なぁ、おめぇら俺の事忘れてねぇか?」

 

 昼寝してたオークと、増援一匹。計二匹がこちらを睨んでいる。

 

「悪かったな。お前らなんてどうでも良くなるくらいあつーい友情がここにはあるんだよ。」

 

 挑発。別に意味は無いけど、ここまで連れてきやがった恨みだ。

 

「へぇーー。そりゃ良いな。かっこいいよ、かっこいい。だけどよぉ、お前何か忘れてないか?」

 

 ニヤけたオークの態度で、気が付いてしまう。やめてくれ。指摘してくれるな。だって……。

 

「啖呵切った割には、狭いとこに閉じ込められてんなぁ?おい。」

 

 まだ脱出してなかった。ついでに言えば、小便にも行ってないし、ズボンも降りてる。ピンチはむしろ悪化している。今日は本当に締まらないな……。

 

 

 ランとレンが臨戦態勢。俺はズボンを履き直す。オーク共はこの牢屋のある廊下の入口を二匹で塞いでる。正直狭い空間ではレンが足でまといだ。

 

 それを理解してるのだろう。背負った俺の剣を檻の方へ近付かせてる。

 

 お互い牽制し合っている。そんな中。最初に動いたのは……。

 

 ガチャン!

 

 レンが俺の剣を牢屋の中へ投げ込む。それを拾い、檻の鍵を壊し廊下へ出る。ここまで五秒だ。伊達に十数年一緒に居ないからな。連携はバッチリ。

 

 前から俺、ラン、レンの順で並ぶ。

 

 三十分ぶりにパーティで集合した。目の前のオークは咄嗟のことすぎて対応出来ていない。唖然としてる。

 

「それにしたって、どうやってこんなとこ来たんだ?」

 

 この牢屋がある所は、平原のすみ、割と大きな小屋の地下である。小屋にはオーク五匹以上いるんだがら、どう考えたって二人じゃ無理だろう。

 

「衛兵さん達を呼んで、一斉に攻め込んだの。不意打ちだったから楽勝だったよ。」

 

 ドヤ顔だが、装備は所々汚れている。結構修羅場だったんじゃないのか?

 

「そりゃー良かったよ。そんで?なんであいつもいるのさ。あ、もしかして怖くて逃げてたとか?居眠り野郎が頼りになるかは知らんけど。」

 

「あぁ?ちげぇわ!そこの二人を追いかけて来たんだよ!」

 

 緑の顔を真っ赤にして怒鳴る。こいつら煽り耐性無いのか?

 

 近くにあった別の檻の鉄格子を片手で歪めている。まるで飴細工みたいにグニャリとひしゃげている。脳筋ゴリラめ。

 

「テメェらよぉ!人間風情が調子に乗るな!ぶっ潰してくれるわ!」

 

 狭いとこに向かないだろう大剣を俺に向ける。居眠りしてた方は、短剣だ。めちゃくちゃ殺意を感じる。

 

「おぉー怖っ。」

 

 ここぞとばかりにイキリちらかす俺へのヘイトは最高潮。

 

 正直尿意的にも戦力的にも余裕は無い。だけど、打算ありの舐めた態度だ。ご容赦下さいな。

 

「殺す!」

 

 短く吠えた短剣を持つオークが駆け出す。人二人しか通れない狭い通路。図体のでかいオークは並んで通れない。

 

 後ろでは余裕そうに大剣を持ったオークがふんぞり返ってこちらを眺めている。

 

 鎧を剥がされた上に盾のない俺には止める方法が無いと判断して、体の前に短剣を構えて突進してくる。

 

 奴らの毛皮はやわな刃は通らない。仮に俺が切りつけてもろくなダメージにはならない。

 

 だから、入れ替わる。重装のランと。奴らの装備はお世辞にも高品質とは言えない。いくら奴らの力が強くても、武器が粗悪品だ。

 

 人お手製の盾には敵わない。

 

 俺がランと入れ替わっても、勢いの強すぎたオークは止まれない。

 

 オークとランの盾が激突する。衝撃で飛ばされないように俺も後ろから支える。

 

 バチィ!と火花を散らして、短剣がへし折れる。勢いのまま盾にタックルするが、人二人相手には流石に勝てない。

 

 むしろランが盾ごとオークを押し倒す。そして、間髪入れず、驚いてアホみたいに開いた口に剣を突き立てる。容赦は無い。

 

 体の内部まで固い生物なんてそういない。しばらくもがいたあと、動かなくなる。命が散るのはいつでも一瞬の油断だ。

 

 冷静さを失えば尚更だ。後ろのオークもありえない、という顔をしている。虚ろな目のオークから、血塗れの剣を引き抜いたランが立ち上がる。

 

「なぁ、どういう気分だよ。人間風情にお仲間を瞬殺された気分はよ。」

 

 再び挑発する。しかし、奴は全く反応しない。俯きひたすら震えている。

 

「どうしたよ。なんか答えてみろよ。」

 

「ふざけんなよ……。ふざけんな!テメェらだけは殺す!」

 

 さっきよりも深い怒りだ。仲間を殺されたら、そりゃ怒るだろうな。

 

「それはさっきも聞いた。それで?こいつぁどうなったんだ?」

 

 血溜まりに浮かぶオークを指さす。

 

「死人を冒涜するな!畜生!このっ!」

 

 相手は怒り狂っている。しかし、奴は迷っている。突撃して大丈夫なのか。確かに大剣なら盾ごとランを粉砕出来るかもしれない。

 

 しかし、その間に俺の攻撃が飛んできたらどうしようもない。良くて一人と相打ちだ。

 

 だが、それを考でも、多分あいつは突っ込んでくる。どうせ死ぬなら、一人ぐらい巻き込んでやろうと。

 

 魔族は自分の命を軽んじる癖がある。

 

 それを読んで、手は打ってある。

 

 隣に来たランと目を合わせる。そして、

 

「伏せるぞ!」

 

「もちろん!」

 

 同時に伏せる。オークは突発的な行動に目を見張り、次に、俺達の後ろにいるレンと目が合い顔一杯に絶望を浮かべる。

 

「く、くらえ!アイスランス!」

 

 ここまで溜めた魔法をレンが放つ。俺達の頭スレスレを氷塊が過ぎ去り、逃げようと背を向けたオークを、断末魔をあげる暇もなく潰してしまう。

 

「やった……の?」

 

 ランがぼーっと氷塊を眺める。

 

「そのセリフはやめた方がいいぞ。それ言った奴はなんでか知らんが死ぬ気がする。」

 

「何それ。」

 

 目を合わせて、ふふふっと小さく笑う。

 

「二人とも、危なっかしいよ……。見ててヒヤヒヤしたよ。」

 

 レンが少しフラフラしてこちらへ寄ってくる。

 

「悪かったって。にしたって、レンの魔法と気配の消し方はすげぇな。」

 

「確かに。オーク達絶対レンのこと忘れてたよ。」

 

「そ、それって褒めてるの……?」

 

「もちろん。あれが無かったら危なかったね。」

 

 仮に勝てたとしても、俺かランが犠牲になってた。

 

「今回のMVPはレンだな。」

 

「えむぶいぴー?なんだい?それ。」

 

「ん?まぁ、功労者ってこと。」

 

「いやいや、今回はシュンだって。あの挑発は凄かったよ。」

 

「確かにそうね。あれが無かったらもっと苦戦してたよ。」

 

「えぇー?それ程でも……あるな。」

 

「あるんだ……。そんなんだからガッカリーダーなんだよ。」

 

「ひでぇな。俺が居なきゃ死んでたんだぞ!それをガッカリーダーって。略すなよ!」

 

「略さなきゃ良いの?」

 

「うーん……。いんじゃね?」

 

「やっぱりガッカリー……何でもない。」

 

「おう、それなら良い。」

 

 ランと軽口を叩いてると、落ち着いてくる。やっと安心できた。

 

「それじゃ、帰りますか?」

 

「そうだね。私達の村に。」

 

「やっと怖い思いをしなくて済む……。」

 

 三人揃って廊下を登りる。上の階、というより小屋の中はめちゃくちゃだった。八匹ほどのオークが倒れている。戦いのあとが生々しい。

 

 二十人以上はいる衛兵達もかなり疲弊した様子だが、大きな怪我は無さそうだ。

 

「おぉ、君達。彼を助けられたんだね?」

 

 若い衛兵が声をかけてくる。装備は今にも崩壊しそうな程ボロい。

 

「はい!お陰様で!ありがとうございました!」

 

 ランがペコーっと深いお辞儀をしてるのを見るに、ランが呼んだ人なんだな。

 

「すみません、本当にありがとうございました。」

 

 ランに習って俺もお辞儀をする。

 

「いやいや、むしろ君のおかげでアジトを叩けたから、ありがたいくらいだよ。」

 

 感じの良い衛兵さんは、笑顔で俺の肩を軽く叩く。

 

「それじゃあ、俺達先に帰っていいですか?」

 

「おう。気をつけて帰れよ。」

 

 手を振る衛兵さんに見送られて、俺達は小屋を出た。

 

 

 村へ歩き出して約一分。

 

「あ、忘れてた。」

 

 ふと思い出した。

 

「何よ。まだ何かあるの?」

 

「トイレ行ってない。」

 

「早く行きなさい!この年で漏らしたら縁切るから!」

 

 猛ダッシュでオークの小屋へ戻る。確か、あそこにはトイレがあった。締まらなすぎるな……。まぁ、これくらい緩い方が俺達っぽいかも。

 

 

 村へ戻ると、かなり騒がしいことになっていた。

 

 村の衛兵より豪華でゴツイ鎧に身を包んだ兵士が五人。村の入口に居座っている。

 

 正直かかわり合いになりたくない。そーっと入口を避けて裏に回り込もうとする。

 

 だが、そんなの怪しすぎる。

 

「おい!そこのお前!貴様がシュンだな!」

 

 いとも簡単に見つかってしまった。しかも、俺に用があるらしい。

 

「はい。そですけど、なんですか?」

 

 用件を聞くと、兵士の一人が鎧の隙間から小さな紙を出す。そこには、真顔の俺が写っていた。

 

 したには、贅沢しなければ一生暮らしてけるくらいのお金が書かれている。

 

「何ですか?これ。」

 

「指名手配書だ。お前には魔王直々に指名手配がされている。報酬もバカデカい金額がかけられている。」

 

 はぁ!?なにそれ!

 

「何で俺なんですか!?」

 

「知らん!魔王に聞け!」

 

 あれ?これさっきも見たやり取りだ。

 

「で?守ってくれるんですか?ですよね?」

 

 兵士が来るってことはそういうことだろう。

 

「違う。どうせ呼ばれるなら、行けばいい。魔王討伐にな。」

 

「へぇ?つ、つまり?」

 

「国からの要請だ。貴様を勇者に任命する。」

 

「なんで!!?」

 

 ふざけんな!平民様に向かって何言ってんだ!?だが、逆らえそうも無い。従うしかないのか、俺は……。




 いかがでしたか。もし興味があればもう一つの恋愛ものも読んでみてください。

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