ノスタルジー・サマー   作:黒マメファナ

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四倍速で頑張りました!(遅い)


第十一話:世界

 ついにやってきた、観客はオレだけのライブ当日。最後の調整を行うのだとこころとはぐみは朝から気合十分に、薫さんもなにやら気合が漲っているようで、対して松原さんと奥沢さんは比較的平常通りに出かけていった。

 ご飯を食べながら、奥沢さんはちょっとだけ愚痴をこぼしていた。

 

「ヒトが少ないと盛り上がらないから、それだけは心配してる」

「あー……頑張ってオレが盛り上げる、じゃうまくいかないよね」

「具体策ください」

「一緒に踊る?」

「はぁ、却下」

 

 知ってたよ。具体策なんてあるわけないじゃないか素人なんだもんと言うと何か希望があればあたしたちがなんとかするわよ! とこころが笑顔を煌めかせてくる。希望ってなに? 具体的には何が行われるの? と問いかけるとはぐみちゃんが素早く手を挙げて具体例を挙げてくれる。

 

「空中浮遊とか!」

「演劇がご所望とあらば……私が」

「ええっと……ドラム、触る?」

「花音さんまでボケに回らないでください」

 

 なんで私だけ~? とショックを受けた松原さんのリアクションにまた笑顔が生まれる。そうしてとにかくなんでも! というものすごく逆に抽象的な案を突き付けられたもののそっちに演出は任せると伝えたうえで一つだけ注文をつけさせてもらった。

 

「せっかくの合宿だったんだから、その二週間が伝わるものがいいな」

「ふふ、それはバッチリよ!」

「あ、そうなんだ」

「元々成果発表の意味もありますから」

 

 じゃあ楽しみにしてるよと見送ってから数時間後、オレはパソコンを閉じて玄関に立っていた。ホントだったらだいぶ世話になったし、ばあちゃんにも見せてあげたいけれど、今回はオレとこころの呪いを解くためのものだから、と断られてしまった。だけどやっぱりいつかは見せてあげたいとも言っていた。

 

「いいわよ、行ってらっしゃい」

「……行ってきます!」

 

 そのいつかが叶わなくならないようにと願いつつ、オレは出かけていった。松原さんとスイカを食べながら過ごした縁側の前を通って、薫さんがいっつも演劇の練習をしていた空き地を横に通り過ぎて、はぐみちゃんがいつもランニングに使っていた坂を下って、奥沢さんがやっぱ本数少ないですよねと苦笑いしたバス停でバスを待ち、こころと一緒に乗ってきたバスの反対方向へと進んでいく。あるいは戻っていく、と形容してもいいのかもしれない。

 

「お待ちしておりました、夏目様」

「受付ですか?」

「今回はスタッフ等もおりませんから」

 

 講堂のようになっているその門に通される。ガランとした場所だった。席は何百人か入るだろうに、観客がオレ一人だなんて、奥沢さんの言った通り盛り上がれるのか心配になってしまうね。お好きな席へと言われ、最前列から少し離れた。目線をまっすぐに見れる場所を選ぶと座席にくっついていた腕輪のようなものを手渡された。なるほどね。

 

「さぁ、始まるわよ!」

 

 やがて周囲が暗くなって、次にパッとスポットライトがコッチを向いて明るくなったと思ったら、なんといつの間にか真横にこころが座っていた。え、なにそれ手品? めっちゃびっくりしたんだけど。でも、こころは()()()()()()()のままだった。でもマーチングバンドのような衣装を身に纏った彼女は、いつもとは違う輝きを持っている気がした。

 

「こころ」

「恭介、まだあたしね、あっちに行ってもいいのかわからなかったの」

「……うん」

「だから、ここにいるの」

 

 手を繋いで、まるで二人で映画でも見るみたいに前を見て……なんかキグルミがいる。メンツ的にたぶん奥沢さんだろうけど。目線があれだったのかそれじゃあ自己紹介から始めようと薫さんがギターを鳴らした。

 

「そうね! まずはギター、瀬田薫!」

「子猫ちゃんたちがいなくても、演るものは変わらない。どうか楽しんでいってくれ」

 

 バングルが紫色に代わるその中で、普段よりも数倍キラキラオーラを放つ薫さんはギターを鳴らし終わると優雅に一礼をしてから、こころに笑顔を向け、そしてこころも笑顔で返した。

 

「お次は、ベース! 北沢はぐみ!」

 

 普段通りすがりに音楽を聴いてもあまり耳に入ってくることのない重低音がお腹に響く。でも、はぐみちゃんのベースを退く姿はなんだかポップで、そのギャップがなんだかよりはぐみちゃんのキラキラを引き出しているような気がした。

 

「恭介さんが笑顔になってくれるように、はぐみ頑張る!」

 

 今度はいつの間にかバングルがオレンジに変わっており、どういう仕組みなのかはよくわからないけれど、手動じゃなくて自動なんだね。そんな感心をしているところではぐみちゃんがブイサインをオレとこころに向けて、こころもまた嬉しそうな笑顔で対応する。

 

「ドラム、松原花音!」

 

 松原さんがドラムって想像できなかったけれど、やっぱり実物を見てもギャップがすごいな。スティックを持ってパフォーマンスする姿は非常にパワフルで、実は別人なんじゃないかと一瞬考えてしまうくらいだ。

 

「えへへ、楽しんでいってくれると嬉しいな……!」

 

 でもはにかむ彼女は間違いなく松原さんで、水色になったバングルをした方の右手を上げて笑顔に応える。こころはそんなオレや松原さんの顔を見て、瞳を輝かせていた。うずうずと今にも動き出しそうな身体を必死に抑えるようにして、最後の人物を紹介していく。

 

「ハロハピと言えば、あの子で決まりよ! DJ、ミッシェル~!」

「はいは~い、ミッシェルだよー。ま、頑張りますかねっと」

 

 ターンテーブルを回すキグルミ姿に驚かされるけれど、あれはやっぱり奥沢さんだったんだね。こころはそんなミッシェルのパフォーマンスについにこらえきれなくなって立ち上がった。太陽のような煌めく笑顔を舞台に向けて、そしてピンク色に輝いてるバングルのついてるオレの右手の指に自分の指を絡めてきた。

 

「そして、ボーカル! 弦巻こころ!」

「──行ってくるわ」

「……行ってらっしゃい、こころ」

「ええ」

 

 薫さんの紹介を受けて、こころは一度目を瞑って、オレが声を掛けた次の瞬間にはもう瞳に揺らぐことのない光を放っていた。バングルが黄色に輝き、こころは、弦巻こころは舞台の上へと戻っていく。そして舞台全てにライトがついたそこには、オレがいつも見てきた景色が再現されていた。駅、バス、そして海と街が見えるあの景色とひまわり畑。

 

「さぁ、出発よ!」

 

 ──それは、まるで夢のような時間だった。飛んで跳ねるこころに様々なパフォーマンス。そして最後の曲は、しっとりとプラネタリウムのように空に星を浮かべながら、ひまわりを回りに咲かせ、星を見上げながら。ああ、うん、そうだね。ボクも見つけなくちゃ、本当の幸せってやつを、その笑顔を。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 翌日になり、帰りの新幹線。荷物は黒服さんがオレの分もついでに全部自宅に届けていってしまったようで、オレたちは二週間以上の長い間同じところに留まっていたとは思えないほど軽装で帰り道を見ていた。

 

「流石に昨日は帰ったらすぐ寝ちゃったね」

「いっぱい歌って踊ったから、疲れちゃったもの」

「そっか」

 

 昨日は夢のような時間を過ごすことができた。オレは行きと同じくこころを窓側に置いて隣同士で座っていた。行きとは違うのは嫌だなとか思わなくなったことくらいだろうか。彼女は変わらず通り過ぎていく景色に見惚れているようだった。

 

「恭介? どうしたの? 」

「……いいや、呪いは解けたんだなぁと思って」

「そうかしら、自分ではまだ全然、実感が湧かないわ」

 

 オレはもう一度そっかと呟いて、()()()()()()()()を向けてくる彼女から目線を外した。こころの呪いが解けたということは、必然的にオレの呪いも解けているってことでもあって、とっくになんだけど太陽みたいなこころは嫌いじゃなくなっていた。逆に、そうすると行きと変わらない姿ではしゃぐこころを思わず後ろから抱きしめたらどうなるんだろう、とかよろしくない想像をしてしまう。腰を抱いて、顔をぴったり近づけたら、彼女はどんな反応をするんだろう、なんて。

 

「恭介さん、なんか変な顔してるよ」

「……はぐみ、周りの迷惑だから身を乗り出さないで」

 

 ──そうだった。そういえば帰りは前後挟まれてるんだった。危ない危ない。前がはぐみちゃんと奥沢さん、後ろが薫さんと松原さんというメンツだ。ちょうどこころが、さっき花音と隙間で目が合ったわとか言ってきた。危ないどころじゃなかった。

 

「窓側が奥沢さんと松原さんか」

「こころを押し倒したら見てるんで……花音さんが」

「あたし、こんなところで恭介に迫られちゃうのかしら……」

「なんで満更でもなさそうなんですかねぇ」

 

 ごめん奥沢さん。オレのせいです。冗談みたいに純粋だったこころに知識を詰め込みました。そんなことは言えずに黙って目を逸らしてごまかすことにする。はぐみちゃんは首を傾げ、奥沢さんから大きなため息が聞こえてきた。

 

「恭介が来てくれないのなら、あたしから行くわ」

「ちょっ」

「せっかく近くにいるのだからぎゅーってしてほしいわ」

 

 そんなキラキラした純粋無垢な目で不純なこと言うのやめよう? あなたぎゅーってしたら基本的にちょっと顔を離して見上げてくるでしょう? なんなら唇突き出してきますよね? そのパターンは流石にお見通しなんだよ。

 

「お見通しになるくらいなんだって!」

「いや、あの……はぐみちゃん?」

「私はいいと思うけどなぁ」

「花音さんは甘いんですよ」

「美咲は厳しく、花音は甘く……ああ、儚いね」

「いや何が?」

「恭介! もっとぎゅーって!」

 

 惜しいのは、ここで他に人がいたら静かにして! って言えるところなんだけど、なんで帰り道は完全一車両貸し切りなんでしょうかね。なのにみんな固まってて、どうするんでしょうか。これはこころがみんな一緒がいいわって言ったのが原因だったけど。

 

「ついたぁ」

「なんだか疲れているわね?」

 

 そして、駅へ着いた。戻ってきた、という感慨が強くなる。今年はいつになく長居したから、そう感じるんだろうか。駅に着いたら、そこからはオレは両親が、こころたちは黒服さんの車でそれぞれ別れることになる。案外遠くには住んでないらしいことが、余計に十年もの間会えなかったのが不思議なくらいだと思ってしまう。疲れてるのは結局こころの構って攻撃に付き合わされたからだよ。流石にぎゅーだけで済ませましたけど。

 

「ね、こころ」

「なにかしら?」

「二人きりで話せない?」

「……ええ、もちろんよ」

 

 奥沢さんが何かを言いたそうにしていたけれど、薫さんと松原さんがそれを止めていた。大丈夫、これ以上こころを呪ったりなんかしないよ。そこは、安心してほしい。じゃないと昨日のライブの意味がまるっとなくなっちゃうからね。

 

「それで、お話ってなにかしら?」

「うん、あのさ、お願いがあるんだ。とっても重要なお願い」

 

 あのライブは、すごく素敵だった。こころの輝きを、本当の輝きを見ることができたんだから。太陽みたいで、それでいて時には満天の星のような、無二の輝きを持った世界を笑顔にするヒーロー。かく言うオレもちゃんと、笑顔にされてしまった。じいちゃんを亡くして、前になんて進めないと思っていたのに、こんなに気持ちが晴れやかになってしまっているんだから。

 

「──オレと別れてほしい」

「恭介……?」

 

 驚きの顔をされてしまうけど、オレからすればこの言葉をこころからもらわなかったことが奇跡のようなものだ。

 ──晴れやかになったからこそ、オレはまたこころを好きになるわけにはいかない。十年前に一瞬だけ交わっただけの世界だ。暗闇に沈んだオレを笑顔にするために、こころの世界とオレの世界が交わっただけ。こころはこれからも世界を笑顔にしていく活動に向かって進んでいく。それを、オレの感情でオレにだけ向けさせちゃ、ダメなんだ。

 

「……わかったわ」

「うん」

「わからないけれど、わかった」

「……何がわかって、何がわからなかった?」

「恭介の傍にあたしがいると、恭介が笑顔にならないってことがわかったわ。だけど、お別れは嫌」

「でも、こころの気持ちは」

「──呪いなんかじゃないわ。恭介があたしにかけた呪いは、傍にいてほしいってだけ。好きになってほしいわけじゃ、なかったでしょう?」

 

 そんなのは詭弁って言うんだよ。どちらにせよ、オレとこころの世界は分けなきゃいけない。こころが世界を笑顔にするためには、オレが本当の意味で前に進むためには、お互いのことを過去に置いていかなきゃいけないんだよ。

 

「……あたしは恭介が、好き」

「オレだって、こころが好きだ」

「──それなら、わかったわ。お別れ、するわ」

「うん」

 

 そう言って、オレとこころはみんなが待ってる場所に戻ってきた。今度は松原さんが何かを言いたげにしていたけれど、オレが手を振ると何か納得をしてくれたようではぐみちゃんたちと一緒に手を振り返してくれた。

 

「あれ、思ったより早かったね」

「ああ母さん、ちょうどいい感じだったよ」

「そうだ、こころさんにお礼をしたいけれど」

 

 けれど、それならと振り返った先に、もうこころたちはいなかった。さっきまであんなに騒がしかったのに、まるで長い夢だったかのように。

 ──それでいい。こうして、ボクとこころの世界は再び分けられた。まるで、じいちゃんを亡くした悲しみに寄り添うように現れた妖精は、妖精じゃなくて、みんなに笑顔をくれる、ピカピカで金色の太陽だった。

 

 

 




こうして、こころたちの恋は終わりを告げました。というところで、たぶん次回最終話です。ハロハピほとんど出てこないだろうけど。
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