ノスタルジー・サマー   作:黒マメファナ

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今回は、松原さん回です!


第九話:理由

 台所でのことがあった後、オレとこころは少し二人でいさせてほしいと奥沢さんと松原さんに頼んで二人きりにしてもらった。泣いてしまい、少し恥ずかしい思いをしてしまった後だから何を言えばいいのかわからずに秒針を聴いていると、こころがふと星を観に行きたいわと言い出した。

 

「どこまで?」

「すぐそこでいいわよ!」

 

 そう言って、オレたちは近くの空き地にやってきた。蚊に刺されないようにと念入りに準備をして、寝転がって見れるようにしたいわねと言いながらどうしようと考えながらひとまずは懐中電灯を頼りに進むと、そこには今の今までキャンプでもしていたのかと思うほどの完璧なセットが置いてあった。あー通常運転だなぁと思ってしまうところが、もう慣れって怖いね。

 

「あ! また流れ星だわ!」

「……こころはホント目がいいね」

 

 手を繋ぎながら二人で並んで寝転び、ゆっくりとペルセウス座流星群を見ている。けどこころがオレの十倍くらい流れ星見つけてる気がする。目がいいんじゃなくて目ざといって言った方がいいのかなこの場合は。漸く三つ目を見つけたところで、今度は金色の流星が降ってきた。暗闇の中にあってなお、輝く瞳と髪を持った、なによりも甘い流星だった。ただし三回願いごとなんて言う前に、唇に堕ちてきてしまって、何も言えなくなる。

 

「こころ」

「やっぱり、恭介のことが……好き」

「流星は?」

「忘れてしまえるくらい、恭介に夢中なの」

 

 ぎゅっと胸が痛くなった。今すぐにその首に手を回して、もう一度とは言わず願いが叶うまでその流星を味わいたいと思ってしまうけれどオレは出し掛けた左手をそっと降ろした。そうしてじっとまた瞳を潤ませるこころを見つめているとその背中にひときわ大きな流れ星が光の尾を引きながら落ちていった。

 

「ほら、オレばっかり見てたら、見逃しちゃうよ?」

「恭介……」

 

 ごめんね。元はと言えばオレが呪いをかけたせいだ。これでもし、もうこころが世界を笑顔にできなくなってしまうとしたら、それはオレがそうしたんだ。浅はかで、あり得ないくらいに、稚拙な呪い。ヒトを呪わば穴二つという言葉通りにオレに全部返ってくるような、呪いを。

 

「ねぇこころ」

「……なぁに?」

「一つだけ、お願いしてもいい? すごく贅沢なことかもしれないけど」

 

 でもその呪いの解き方なんてオレは知らない。だから情けないのかもしれないけど、そのための方法をこころに頼らせてもらうことにする。オレがどうしても嫌いだったものを、太陽のようなキラキラを余すところなく発揮できる場を見たい。

 

「ハロー、ハッピーワールド! のライブが見たい。チケット代が必要なら払うし──」

「──なら、明日! 明日でいいかしら?」

「え、明日って、ライブの予定なんて……」

「今できたわ! 世界を笑顔にするために、それが必要なら……あたしは何人だって、どこへだってライブしに行くわ!」

 

 立ち上がって、こころは手を両手に広げながら星に向かって宣言をした。そんなこころの背中を、寂しさ半分嬉しさ半分で見ているとその空にひときわ大きな流星……火球が激しく燃える音を立てながら流れ落ちていった。

 

「わぁ!」

「あんなの始めて見た」

「あたしも!」

 

 それを共有できた嬉しさか、こころはまたオレに抱き着いてじゃれてくる。誰も来ないことをいいことに、流星を忘れてしまうくらいに。でも、いつも家で見るよりも鮮明に映る星空たちをきっと、オレは忘れることはできない。その下で大好きよと笑った彼女の顔もきっと。だからこそ、きっとオレとこころは前に進めると信じられるんだと思う。信じられなかったらきっと、オレはどうあっても世界を笑顔にするヒーローである弦巻こころを拒絶してしまうだろう。

 

「最終日に、ライブ?」

「ええそうよ! 美咲たちに相談したら、その方がいいって言われたの!」

「そうだね」

 

 こころは帰る前日にいつも借りてる場所でライブをしてくれるらしい。よかった、あの奥沢さんのテンションならもう関わるなーって言ってきそうだったから心配してたけど、と話すとそうはいかないわとこころは笑った。

 

「あたしの呪いを解くためなのだもの、そうじゃないといつまでも恭介にくっついていたくなるばっかりだわ」

「それは困っちゃうね」

「困ってるならその能天気お嬢様から少しは目線外してしゃべってもらっていいですか?」

 

 奥沢さんがすごい苦いものを飲んでいるような顔でペットボトルのお茶を飲んでいるから思わず大丈夫? と言いそうになるけど、苦い原因は間違いなくオレの眼下にある金色のかわいらしい太陽のせいだろう。当の彼女はめちゃくちゃ幸せそうにオレの手に自分の手を重ねて遊んでいらっしゃる。

 

「というか、別れるハナシどうしたんですか?」

「お別れはするわよ! この合宿が終わったら、あたしはちゃんと世界を笑顔にするわよ!」

「まぁほら、こころもこう言ってるし一応これっきりだからさ」

「か、花音さぁ~ん」

「あ、あはは……ごめん、ちょっとフォローしきれない……かな?」

 

 ──ところで、現在は日付が変わって、ライブまで後四日、帰る日まで後五日となっており、オレとこころ、そして奥沢さんと松原さんは買い物をするために、車でショッピングモールにやってきていたそのお昼だった。四人向かい合っての食事なのだが、待ってる間、というか隙間があればすぐにくっついてくるこころに奥沢さんの頭痛が段々と心配になっていた。オレが心配したら逆効果なんだろうけど。

 

「なんだかちゅーしたくなってきたわ」

「流石にフードコートは人が多いから我慢してね」

「むう」

 

 いやむう、じゃなくてと奥沢さんがツッコミを入れる。ヒトの肩に顔を埋めて不満を表現してくる言葉通りのわがままお嬢様に、松原さんはやや驚き半分、残りは若干引き気味にこころちゃんってそうなっちゃうんだと笑った。

 

「笑いごとじゃないですって花音さん」

「でも、新鮮なこころちゃんを見れたのは、なんだか嬉しいなぁって」

 

 曰く、ヒーローにだってお休みの時間があってもいいのだとか。今のこころは呪いのせいでヒーロー活動ができなくなっちゃったのが問題なのであって、ずっと気を張るのは難しいだろうしね。曇りで太陽は隠れてしまう時があるように、そろそろここにも雨が降るらしいし、よく止まない雨はないってのは聞くけど逆に晴れ続ける場所も存在しないってこと。

 

「あたしは不安になります」

「大丈夫、ね?」

「ええ、心配してくれてありがとう美咲」

 

 奥沢さんは優しいヒトだよね、と言うと心配性なの! と何故か元気に言われてしまった。知ってる知ってる。別に奥沢さんのことをオレとこころを引き剥がした悪魔だなんて思うこともないからさ。

 

「別に、その認識でいいですよ。あたしは嫌われる覚悟で言ったし、正直夏目さんのこと嫌いだし」

「美咲」

「いいよ、嫌われても」

 

 オレはキミじゃないからさ。オレじゃあ世界を笑顔になんてできない。誰にでも差し伸べられるあったかい両手なんて持ち合わせてないから。誰かに好かれてる分、誰かに嫌われてるくらいで丁度いいよ。だいたい太陽だったこころを独占したんだから、嫌われるくらいならどうってことない。いやごめんカッコつけた。それなりには傷つく。だけど、それを見透かしたようにこころはオレの手に唇をつけた。

 

「こころ?」

「それでも、恭介が痛い思いをすると、あたしも痛いの」

「それも呪いのせいだよ」

「こんなにあたしの気持ちを操れるなんて、魔法使いみたいだわ」

「悪の魔法使いだけど」

「でも、好きよ」

「だから」

「ええ、呪いかもしれないけれど、好きなの」

 

 あーまたいちゃいちゃし始めると奥沢さんに呆れられてしまうくらいに、オレとこころはフードコートという雑踏の中でもお互いの世界を形成し合っていた。だけど、それだけにそれが普通に育まれたものじゃないってことが、オレの胸を傷付けた。

 

「私は、それでいいと思うんです」

「……どういうこと?」

 

 その日の夜、また大学の課題をやっていると松原さんがやってきて、今日の話をしていた。奥沢さんに車の中でも愚痴を言われて、彼女も同じことを思っているのだろうかと不安になりながら謝罪をするけれど、逆にふわっとした笑顔で肯定されてしまった。

 

「確かに、こころちゃんが世界を笑顔にするって活動を止めちゃうのは、すっごく……寂しいし、悲しいし、どうして……ってなっちゃいます。でも、そうだとしても、恭介さんの自戒は、違うな……って思います」

「もうちょっと詳しく」

「ええと……好きって気持ちが生まれる瞬間って、ありますよね? 恭介さんがいっつも野菜ジュースを飲んでるのも、こころちゃんのことを嫌いだったのに、好きになったことも」

 

 野菜ジュースも、こころも、最初は嫌いだった。でもちょっとのきっかけで好きになった。この二つの好きってのは違うようで()()()()()()()()()()()と松原さんは微笑んだ。そして、その好きって気持ちはふとした時に生まれて、理由はそれほど重要じゃないと言った。

 

「意味とか、意義とか、価値とかを求めるのは……好物に当てはめると、違うなってなりませんか?」

「確かになるね」

「同じだと思うんです。吊り橋効果って言葉があるように、ほんの少しのきっかけで好きになっても、愛し合っても、いいと……私は思います」

「……すごいね、松原さんは」

 

 そう素直に感嘆の声を上げるとそんなこと、と謙遜したうえで続けて私はその好きが多いからとなんだか眠りのオーラみたいなのを感じる笑みを浮かべられてしまった。好きが多い……ってどっちの好きなんだろうと一瞬考えてしまっていると松原さんは慌てて、恋愛じゃないですよと訂正してきた。

 

「ペンギンとか、クラゲとか……あとは紅茶に、ドラム。私の生活は、なんだか人よりも好き……って気持ちで構成されている気がするから……」

「確かに、そう言われるとそうだね」

「ふふ……だからもっと、肩の力を抜いてこころちゃんのことを好き……って言えればいいと思いますよ?」

「……ありがとう、松原さん」

 

 少し、肩が軽くなったような気がしてお礼を言うと、これは私なりの、こころちゃんへのおまじないですからと微笑まれた。その微笑みはびっくりするほど大人っぽくて、思わず見惚れてしまうほどだった。こころへのおまじない。彼女は彼女なりの魔法を持ってるってことか、すごいなハロハピって。

 

「それじゃあ、私はそろそろ」

「おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」

 

 そのふわふわの水色が揺れる後ろ姿を見送ってから、オレはまたパソコンに向かい合った。向かい合って、ひと段落するかしないかというところでふと、じいちゃんがどうしてヒトと関わるのが好きだったのかということがわかった気がした。

 

「意義とか、意味とか価値とかじゃ、ないんだ」

 

 好きはその始点よりも終点や過程を大事にするべきなんだろう。証拠に、たくさんの知り合いがそこへやってきた。たくさんの知り合いが、じいちゃんのことを語り合っていた。思い出話、涙や笑顔、色んな感情があったことをオレはすっかり忘れていた。

 

「忘れちゃダメだよな」

 

 松原さんの言葉は、オレの呪いも少しだけ解いてくれた。それが意図されたものなのか、そうじゃないのかわからないけれど。なんだかうずくまっていた背中を押された気分だった。

 

 

 




評価が来ていました! 二件目! とっても励みになりました。割にはちょっと遅くなりましたけど……

こころと恭介を一話一回以上はいちゃいちゃさせてる気がするけど、そういうイチャラブものなのでこれ!

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