東方独剣録   作:らすこーす

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久しぶりの投稿です。
気が付けば最大文字数を更新してしまった……


調査団の帰還

 いつの世にも、人の頭を悩ますトラブルにはいろいろなものがある。例えば、口論だとか喧嘩だとか殺人だとか借金だとか。それらの多くの原因が人間関係のもつれなどからである。もつれと言っても、全てを一口では言えない。やはり多くの種類があるのである。その中でも、五割以上はこいつで埋まっているんじゃないかと思わざるを得ないものがある。それは、恋愛だ。

 人は皆、生きていく中で誰かを好きになることがあるはずだ。そしていつしかその人と結ばれ、家庭を築き、子を生し、伴侶と共に老いていく。誰もが皆、そんな風に生きていけたらいいんだけれど、まあ、人生何が起きるか分からないもので、友達と好きになった人が同じだとか友達の彼女と関係を持ってしまっただとか、いろいろとタブーなことが起こるのだ。そこから、各人の恨み妬みが暴走してドロドロの恋愛修羅場に発展していくのである。

 つまり、この長い前置きから、俺が何を言いたいのかというとだな。修羅場が発生したのだ。詳しくは、昨日、俺は長い間おざなりにしていた関係を断ち切り、ちゃんと恋人として共に生きていこうという誓いを永琳としたのだ。その晩、My Sweet Angelである永琳との熱帯夜のように熱い夜を過ごし、調査団が里に帰還した日にそれは起こった。

 

 

                    ◇

 

 

 深い眠りを覚ましたのは、町中に響く音楽だった。うるさいその音に強制的に意識が覚醒したのである。隣で眠る温もりを感じながら、裸の体を起こす。それにしてもやかましい。なんか今日あったっけ……?

「…………あ、帰還セレモニーだ……」

 重い頭でそう考える。そうだった。そういえば、永琳がお祝いの挨拶をしなければならないんだった。それにこの騒ぎようはすでに調査団は帰ってきているぞ。時計を見ると予定時間にだいぶ迫っていた。早く起こさなければ間に合わない。そう考えると、頭もすっかり軽くなり、今の状況のヤバさを自覚する。

「おいっ、永琳起きろ! ちょっとまずいことに! いや、ちょっとどころじゃねー!」

「ん~~」

 思わず乱暴に揺さずるが、隣の彼女はまだ眠たいようだ。それにしても、くそっ、彼女の裸体が眩しい! 体を揺するたびに揺れる二つの巨大な果実に目がいき、猛烈にムラムラしてくる。いや、落ち着け。昨晩あれだけ揉んだり吸ったりしたじゃないか。今は彼女を起こさなければ。

「永琳! 挨拶! 調査団帰って来てるぞぉ!」

「!?」

 この言葉を聞いた瞬間、永琳は飛び起きた。さすがに起きるよな。起きなかったら逆にすごいぞ。

「嘘!?」

「マジだぁ!」

 焦った表情で韋駄天のごとく速さで着替えだす永琳。彼女がここまで焦っている姿を見るのは、考えてみれば初めてなんじゃないだろうか。

「貴方も裸で勃起していないで用意をして!」

 …………仕方ないじゃん。

 

 

                    ◇

 

 

 高速で身の準備を終えた俺と永琳は家を飛び出し、大通りから外れた道を走っていた。ほとんどの人間が行進中の調査団を出迎えようと大通りへ向かっているので、ここには人が全然いない。

「はぁ……はぁ……この調子で、ま、間に合うかしら……?」

 途中、小休憩で立ち止まり汗まみれの彼女の額を布で拭きがなら俺は答えた。

「そうだなあ……」

 街中にいくつか建てられている簡素な時計台を見る。現在の時刻を見るに、どうやらこの時間なら歩いても余裕だな。

「なんとか間に合うな。ここからなら歩いても大丈夫だ」

「なら、良かったわ……」

 手を胸に当て安心したように息をつく永琳。その姿はとても疲れている。

「走らした俺が言うのもなんだけど、人前で喋れる程度には息整えとけよ」

「分かっているわよ……」

 彼女が挨拶をする広場に繋がる道は大通りだけなので、最終的には大通りに移らなくてはならない。人の雑多な道に入り人混みをかき分けながら進んでいると、永琳が俺の袖を引いてきた。

「どうした?」

「見て。あの青髪の男が、月夜見よ」

 彼女が指さす方へ目をやると、確かに行進中の調査団の行列の中に青髪で長身の男がいた。見るからに賢そうな顔をしていて、目つきは獲物を狙う狩人のように鋭い。腰には彼の武器であろう剣が差している。しかもすげーイケメン。腹立つのう。

「なんか見るからに出来る男って感じだな」

「まあ、実際出来る男よ。今回の調査団じゃ幹部級の立場だし、戦闘技術もこの里の五本指に入るわ。しかも昔から私の研究を手助けしてくれていたから知能もなかなかね」

 完全な超人じゃん。まさにエリートだな。

「そんな奴にずっと昔から好かれてたのか……」

 あいつに勝てる要素が全く見つからないんだけど。へこむぜ……。

「何? 嫉妬?」

「嫉妬というか……勝てねえなあ、と思いまして……」

「別に勝たなくてもいいじゃない。ていうか、もう勝ってるわよ」

「は? いやいやどう考えてもあんな完璧超人に勝てるわけねーだろ」

「巧は私が月夜見に取られるんじゃないかって心配してるんでしょ?」

「……恥ずかしながら」

「確かに彼は貴方より強いし賢いし人望あるし顔も良いし昔から私のこと好きだし」

「……………………」

 ……なんだこいつは。いつの間に言葉攻めなんて高度な技を覚えたんだ? いたいけな俺の心を痛めつけて何が楽しいんだ? うっ、病みそう……。

「だけどね……」

 瞬間、人混みの波に押された永琳が体のバランスを崩し、俺の胸へと倒れこむ。俺は彼女を倒すまいと体を抱え込む。そうすると、必然的に俺と永琳は抱きしめあうような体勢になった。人々の熱気の中、彼女は真っ赤になった顔をこっちへ向け、潤んだ瞳で俺を見つめて言った。

「私が愛しているのは、巧なんだから……」

「………………」

 永琳のその言葉には俺の心にグッとくるものがあった。月夜見という男を直に目の当たりにして生まれた彼に対する嫉妬心や羨望、永琳を奪われるかもしれないという不安は、瞬く間に消え去り、胸の内には溢れんばかりの永琳への愛情と安心感が湧き出ていた。

「貴方は私を惚れさせたんだから、変な不安は持たなくてもいいの。恋愛という勝負じゃ、しっかり勝っているのだから、ね?」

「……うん」

 やっぱり八意永琳という女は、世界で一番良い女だ。彼女を好きになって、好きになってもらえて、本当に良かったと思う。

 改めて彼女を抱きしめる。彼女自慢の美しい銀髪からはとてもいい匂いがする。いつまでも嗅いでいたくなるなあ。

 いつまでもこうしていたいところだが、生憎と時間が迫っていた。抱きしめていた体を離す。

「ほら、そろそろ行こうか」

「ええ……」

 突然、鋭い視線を感じた。顔を上げると、視線の先には青髪の男が俺を睨んでいた。冷や汗が背中を伝う。

 

 

                    ◇

 

 

 その後、挨拶の予定時間前に永琳を無事に送り届け、人混みから少し離れたところで壁に背を預け、遠くから聞こえる永琳の挨拶を聞いていた。花形の調査団は多くの見物人に覆われているのでここからじゃ姿が全く見えない。正直、帰っても良かったんだが、永琳に終わるまで近場での待機を命じられたので帰るに帰れない。もし言いつけを破ったりすると、ものすごく不機嫌になる。そうなると当分は喋ってくれなくなるというめんどくさい事態になるので、それを避けるためにもここで待つしかないのである。

「暇だな……」

 何もすることがないので手持無沙汰である。ここで携帯ゲーム機なんかがあれば退屈しないですむんだがなー。ずっと立っているのも疲れてきたのでしゃがむ。

「巧さん!」

「ん?」

 突然呼びかけられたのでそちらを向くと、知り合いの十六夜茜ちゃんがいた。特徴的な銀髪は今日はポニーテールにしている。可愛い。

「こんにちは。茜ちゃん」

「こんにちは。巧さんはこんなところで何をしているんですか?」

「何もしてない。強いて言うなら退屈してる」

「あははっ、退屈してるってなんですか~?」

 相変わらず元気な娘だなあ。

「退屈は退屈だ。暇なんだよ」

「調査団の皆さんのお姿は見ないんですか? 団長の御方は里一番の剣術家でとても素敵な方なんですよ」

「別にいい。そういう茜ちゃんは?」

「私は少し人混みに疲れまして……よろしければ、ご一緒してもいいですか?」

「いいよー」

 なるほど。確かにあの暑苦しい集団の中に長時間いるのはしんどいだろう。

 茜ちゃんも俺に倣ったように横に並んでしゃがむ。

「……巧さん」

「ナニー?」

 暇すぎて気力がなくなり返事も適当になってきた。ごめんな、茜ちゃん。

「調査団の月夜見様はもうご覧になられましたか?」

「あー……ちょっと前に少し見たな」

「ど、どうでした?」

 なんでそんなことを聞くんだ?

「なんか完璧な男って感じだったな。あの永琳が評価してたぐらいだし」

「確かにすごい人ですよね……。他のみんなも尊敬してるって言っています」

「茜ちゃんも尊敬してんのか?」

「……巧さんだから言いますけど、私は、正直怖いです」

「怖い?」

 想像していなかった言葉だったので少し驚いた。まさかあの茜ちゃんが誰かを怖いだなんて言うなんてな。昔何かあったんだろうか?

「なんで怖いんだ?」

「……月夜見様って、とても八意博士のことを大切にしておられるんですけど……」

「らしいね」

 だがしかし、俺の方が大事にしているけどな。

「それの度合いがちょっとおかしいっていうか……異常っていうか……、あっ、こんなこと私が言ってたって誰にも言わないでくださいね!?」

 茜ちゃんは少し焦った表情でそう言う。当然だろう。里のみんなが敬愛している人物を否定するようなことを言っているんだから。

「心配しなくても言わないって」

「あ、ありがとうございます……」

「で、なんでおかしいんだ?」

「えっと、実は月夜見様がまだこの里にいた時の話なんですけど……」

 彼女が言うには、百年以上前、永琳と月夜見がまだ里にいたときに永琳に恋をした男がいたんだそうだ。その男は周囲の人間によく好かれていた好青年で、茜ちゃんもたびたびよくしてもらっていたそうだ。そして彼は、ある日永琳にデートに約束を取り付けた。その時の彼の様子は、今にも昇天しそうなほど嬉しさで舞い上がっていたそうだ。しかし、約束の日に彼が永琳の前に姿を現すことはなかった。その時の永琳は少し悲しそうだったらしい。とにもかくにも、彼女を悲しませた男の評判はガタ落ち。一転して嫌われ者になった。しかし当の本人は約束の日の前日から行方不明で、数日後に里の外で惨殺死体で見つかった。当時里を治めていた指導者によると、デートの前日に何らかの理由で里の外に出た男は妖怪か恐竜に襲われ死んだ、ということであった。それらに襲われたにもかかわらず死体が喰われていないままであったことは不可思議だったが、人々は納得して事件は終わりを迎えたという。

「その話のどこに月夜見様は出てくるんだ?」

「実は……私、見てしまったんです」

「何を?」

 そう促すと、彼女は周りを窺いながら俺の耳元で囁いた。

「……月夜見様が、その男性を手にかけている姿を……」

「え!?」

 思わず大声で驚いてしまった。しかし、大勢の人たちは相変わらず賑わっていたので聞こえてはいないようだ。

「それって、殺人じゃあ……」

「そうなんです……」

「……嘘とかじゃないよな?」

「違います! 私、しっかりと見たんです! お使いの帰りに、何気なく目を向けた路地裏で……見たんです」

「そうか……」

 正直少し疑っているが、あの正直者の茜ちゃんがわざわざこんな嘘を言うとは思えない。だとすると、あの月夜見という男は人を手にかける危険人物ということだ。

「月夜見様は、八意博士をとても好いていらっしゃいますから、もしかしたら嫉妬でそんなことをしたんじゃないかと思っています。だから、その……八意博士と、特別な関係の巧さんももしかしたら危ないと思って……すみません。めでたい日にこんな不吉なことを言って」

「いや、誤らなくていい。知らないまま殺されたりするよりよっぽどいいよ」

 それにしても、だいぶヤバいことを聞いてしまったぞ……。嫉妬して相手を殺すなんて、まさにヤンデレじゃねーの? 対策をしようにも、俺はすでに永琳と同居しているから急に距離を置こうなんてことをしたら永琳に殺されそうだ。自衛手段として能力もあるにはあるが、まだ実践どころか喧嘩で使ったこともないぞ。やばい、詰んだかこれ? かくなるうえは、恥を捨てて永琳に守ってもらうしかないな……。

「茜ちゃん、とりあえずこのことは他の人には絶対言ったらダメだぞ。言ったらえらいことになるからな……?」

 茜ちゃんからの反応がない。下を向いていた顔を上げると、そこには怯えた表情で震えている茜ちゃんがいた。

「茜ちゃん?」

「た、巧さん……ま、前……」

 彼女はおぼつかない口調でそう言った。何かあるのかと思い目線を彼女と同じ方向に向けると、今しがた噂していた男がいた。

「……月夜見様?」

 俺の前方に月夜見がいた。敵意を込めたその紫色の瞳は俺を捉えている。月夜見のただならぬ様子に彼の周囲にいる人々は彼と距離をとっていた。あれ? これ、俺ヤバくね? 思わず立ち上がる。嫌な冷や汗が出てくる。

「茜ちゃん。どう見ても俺狙いだ。離れてろ」

「え……巧さんはどうするんですか?」

「いいから」

 彼女は心底心配している顔をして聞いてくるが、そんなことはおかまいなしに俺は彼女から離れる。そして月夜見と睨みあうが、ダメだこりゃ。怖すぎて足が震えているし、体が石のように固くなって動かない。蛇に睨まれた蛙とはまさしく俺のことだな。

 月夜見はゆっくりとこちらに近づいて、俺の目の前で止まった。残念ながら、彼は俺の身長をはるかに超えており、俺を見下ろしていた。

「貴様……永琳に何をした……」

 彼がそう呟いたのが微かに聞こえた瞬間、いきなり頭が真っ白になり、岩でなぐられたような強烈な痛みが顔面を襲った。

「……っっっっ!!!」

 声が出なかった。何がどうなっているのかよく理解できないまま俺の体は宙に浮き、後ろに跳んでいき、地面を転がっていく。鼻や口から鉄の味がした。遠くで茜ちゃんが俺を呼ぶ声が聞こえた。

「っうっくぅぅぅ……」

 あまりの痛みに顔を歪ませていると、こちらに向かう足音が聞こえた。震えながら開けた目に映ったのは、血の付いた手を固く握りながら歩いてくる月夜見の姿だった。

「…………」

 冷酷な目で俺を見下ろす月夜見の姿を見て、先程の茜ちゃんの話は真実だなと本能的に確信した。初対面の男にいきなり全力打撃をくらわしてくる奴がいるか! 絶対さっき永琳と抱き合ってたの見てキレたんだろ!? ただの八つ当たりじゃねえか! こっちはちゃんとした恋人だぞ!

 そう考えると俺の中から沸騰した怒りが沸いてきて、立ち上がりながら月夜見を睨み返す。絶対殴り返す! 闘志を燃やす俺を見たあいつは同じく怒りが沸いたのか歯を食いしばり、俺を殴ろうと駆け出してきた。こちらも拳を握り、あいつへと駆ける。月夜見の方が出が早かったので、攻撃のモーションに入るのもあいつが早かった。相手の拳が勢いよくこちらに向かう。対して俺は拳を構えた状態だった。喧嘩もまともにしたことのない奴がかわせるような打撃ではなかったが、月夜見の攻撃は俺には届かなかった。俺の顔面にもう一度届くはずだったあいつの拳は、いきなり淡い光に阻まれ急ブレーキをかけたかのように止まった。その異常事態に驚く月夜見だったが、拳を撃ってきた俺にすかさず反応して止まった腕を引っ込め逆の腕の拳を撃ってきた。信じられないほどの速さで撃たれた攻撃だったが、またしても光に阻まれ止まる。驚愕する月夜見。その間にも、思いっきり力を込めて撃った俺の拳があいつへと駆け、驚く月夜見の顔面を撃ち砕いた。殴った瞬間間をおかず俺は月夜見から距離を離す。周りはあまりの展開に驚き目を見開いていた。

「くっ!」

 呻き声を出す月夜見だったが、さすがに素人のパンチはあまり効かなかったようで、奴の姿からはあまりダメージを受けた様子は見られない。だが、精神的には効果抜群なようだ。

「……この僕が、こんな奴に…………っ」

 月夜見はそう呟きながら、血が出るほど拳を握る。

「殺す……っっっ」

 月夜見は腰に差していた剣を抜き、構えた。

「マジか……」

 剣とかパンチより怖い。先程のパンチはなんとか【ありとあらゆるものを阻む程度の能力】で防御したが、それだってかなりよく拳を見て攻撃が来る場所を予想してふさいだんだ。剣筋とか見れる気がしない。だから防御なんてできねえよ。なんだったら、俺の全身を護る様に光の壁を張ってやろうか。

 そんな風に第二ラウンドの対策を考えていると、遠くから声が聞こえた。

「博士! こっちです!!」

 茜ちゃんの声だった。そちらに視線を向けると、走りながら彼女は誰かを連れていた。

「巧!!」

 茜ちゃんに手を引かれながらこっちへ走って来ていたのは、永琳だった。彼女は俺たち二人の姿を見ると、顔面蒼白になりながらこちらに向かって走ってきた。

「永琳! 僕だ!」

 月夜見は永琳の姿を認めると、彼女を抱きとめるように両手を広げる。が、永琳は月夜見が目に入ってないのかそのまま通り過ぎ、俺のもとへと駆けつけた。

「大丈夫!? 口から血がでてるじゃない!」

 永琳は飛びかかるように俺に抱きつき、体中をまさぐる。こしょばいな。

「顔以外に傷は!?」

「ないって」

 心配してくれているのはありがたいんだけど、顔面殴られただけだから。メチャクチャ痛いけど。……これ、鼻折れてるかもしれないな。後で永琳に診てもらおう。

「俺のことはいいから。あいつをなんとかしてくれ。いきなり殴りかかってきやがった」

 そう俺が言うと、永琳はようやく月夜見の方を向いた。月夜見は呆然とした顔つきでこちらを見ている。そう言えば、なにげに永琳とあいつって百年ぶりの再会じゃないのか? 完全に放置状態だなあ。可哀想すぎる。

「月夜見」

 永琳が毅然と言う。

「何故彼に攻撃を加えたの? 納得できる理由を教えなさい」

「…………」

「黙っていないで答えなさい。言っておくけど、私は怒っているのよ?」

「……永琳……」

 黙っていた月夜見がおもむろに口を開く。

「何故、君の側にその男がいる……?」

「恋人だからよ」

 手探る様に尋ねる月夜見に、永琳は当たり前のことのように答えた。

「……!?」

 月夜見は見るからにショックを受けた表情を見せた。そして崩れるように項垂れる。そりゃあ、そうだろうな。思いを寄せる女性が、会わない間に知らない男と結ばれていたんだから。俺なら発狂ものだ。件の知らない男である俺は、完全に勝者の余裕でいた。

 すると、項垂れていた月夜見から言いようない気配を感じた。

「……ぃ……さない……るさない……許さない!!!」

 あれはなんだろうか? あいつの全身からどす黒いオーラのようなものが噴き出ている。体中に電撃が走るような衝撃が走る。それはまるで激しい濁流のようだった。

「なんて不吉な霊力なの……」

 隣で永琳が驚いたように呟く。彼女が言うように、月夜見の体から迸る霊力からは何かおぞましいものが感じられた。

「うっ……」

 あまりのおぞましさに体が恐怖で震える。周囲の人々は我先にと蜘蛛のように散っていった。

「この下郎があああああああああ!!!」

 月夜見が叫びながら剣を構えて俺目がけて目にも止まらない速さで迫ってきた。

 あまりの速さに、俺も永琳も考える暇がなかった。ただただそれが接近してくるのを視界に映すのが精一杯だった。漆黒に染まったあいつが迫る。目の奥に、剣で一刀両断され、血しぶきをあげる自分の姿が見えた。思わず歯を食いしばり、目を強くつぶる。

 …………何もない。斬られた痛みも滝のように流れる血も何もない。目を開けると、視界には見慣れない人の姿があった。服の上からでも分かる、ボディビルダーたちも真っ青なほどの肉体の持ち主であった。彼は片手で持った大剣で月夜見の剣を抑え、もう片方で彼の頭を地面に押し付けている。体の動きはあいつの腰に座ることで動きを封じている。月夜見はあまりの押さえつけに動きたくても動けないようだ。

「ぐぅぅ……うぐっ」

「全く……お前はこんな日に何を早速騒ぎを起こしているんだ?」

 なんだあの人……。あんなおぞましい霊力を出していた月夜見を赤子をあやす様に押さえつけたぞ……。

「八意博士。それとそこの青年。怪我はないか?」

「は、はぃ……」

「ええ。私は大丈夫よ。けれど、この男は骨が折れているかもしれないわ。すぐに診療所に連れて行きます」

「わかりました。……おい、月夜見。お前、一般人に怪我ぁさせるなんて、なんのつもりだ? あぁん!?」

「っっっ!?」

 月夜見は悔しそうに唇を噛んでいる。あの巨体の男に恐れをなしているようだ。ていうか、あまりの凄味に怒られてない俺がビビッてるよ。

 俺はというと、永琳に手を引かれ診療所へと連れて行かれているところだった。その様子を見た茜ちゃんが、隠れていたと思われる物陰から出てきてこちらに駆け寄ってきている。永琳は振り返り、巨体の男に声をかける。

「ありがとうございます。綿月団長」

「いいってことですって!」

 礼を言われた男は何でもないように言った。

 …………え? 団長!?

 

 




 新キャラが二人出ました。生粋の嫉妬ボーイ月夜見くんと、筋肉ゴリラの綿月団長。この二人はこの章のキーキャラです。特に嫉妬ボーイ月夜見くんは後々えらいことになりますよ。ええ、なりますとも。
 ちょこっとでしたが初の戦闘描写でした(2話3話?あれは自分の中ではノーカン)。いかがでしたでしょうか? アドバイスがあれば、ぜひともお願いします。では。
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