「ぐぬぬ……」
フォース結成(未遂)から数日後、愛香は学校の昼休みに、設定をデフォルトのままにしていたために保存されていた第二回絶界行のリプレイと、その後にランクを上げるために受けたロビーミッションのリプレイを比較しては唸り声を上げるという奇行を繰り返していた。
初めて正式に受けたロビーミッションは、当たり前だがあの蠱毒の壺とは比較すべくもなく平和なものだった。
初期配置のリーオーNPDを合計六機撃破すればクリア。NPDナビゲーターから操作レクチャーを受けつつ、最初は棒立ちのそれ相手に射撃や格闘、そして操作の確認を行い、受けた人数に応じて敵の数やステータスは割増されるというチュートリアルミッションとしては模範的な程にテンプレートなものだ。
一機ずつリーオーNPDが降ってくる、操作、射撃、格闘の各々三フェイズをクリアした後は開けた空軍基地に陣取って攻撃や反撃を行ってくる残り三機との戦闘が待っている。
待っているのだが、なんと表現すればいいのか、あまり棒立ちの敵と戦った感触が変わらない、というのが愛香の所感だった。
数の優位を生かして十字砲火を試みてくるのでもなく、こちらの攻撃を先読みしていたかのごとく先行入力で格闘攻撃を出してきたとしか思えない超反応でビームサーベルを振ってくるのでもなく、単純にふらふらと動いては散発的に射撃を繰り返し、たまに気が向いたら格闘を振る、というような思考ルーチンに設定されたそれらをコアスプレーガンの一撃で屠ったとして、なんの感慨が湧くだろうか。
もちろん、チュートリアルミッションでいきなりそんな超反応や戦術連携を浴びせてくる方が非常識的なのはわかっている。
──というか、そんなチュートリアルで初見殺しを浴びせてくるようなクソゲーがあってたまるか。
愛香とて頭の中ではそうわかっている。わかっているのだが。
(あたしたちがやってきたの、そのクソゲーなんだよね……)
強くてニューゲーム、というのはちょうどこういう感覚なのだろうか。
仮に自分たちの行動が初心者を育てる最短ルートの正解なのだとしても、間違いなく、他人に同じことを勧めたいだなんて心の底から思わないが。
静かに溜息を吐き出しながら、愛香は人差し指でスクリーンをなぞり、再生が終わったチュートリアルミッションのリプレイから画面を切り替える。
その後に受けた、Fランク推奨ミッションにおける討伐ミッションに設定されたエネミーの思考ルーチンもそう大差ない。
精々ガンダムの原作キャラを再現したNPDは他の名前を持たないNPDよりも少しだけ攻撃や戦術の幅を広げた高度なAIを搭載しているのだが、それでもランクに応じた、明確に隙や見逃しが多いものとなっている。
ただ、バージョン1.78へのアップデートでAIの大幅な技術革新が導入されたことでネームドのNPDはより原作キャラに近い行動や思考を行うようになっていたのだが。
「……いくらなんでもなんも考えないで突っ込んでくるとは思わなかったなあ」
「……そ、そうですね……あはは……」
愛香のスマートフォン画面に表示されているミッション、「クジャン家当主、誇りの模擬戦」におけるリプレイ映像では、黒と金という勇ましさを感じさせるレールガン装備の機体、「レギンレイズ」がそのレールガンを抱えたままアイカとエリィに向けて全力で直進してくる姿と、それをフォローしようにも思考ルーチンの枷が邪魔をしているのか、各々混乱した様子で好き勝手に動いては二人の十字砲火を受けて爆散していく緑色のレギンレイズが映し出されている。
黒と金のレギンレイズは耐久値が高めに設定されていたものの、あくまでこれは初心者向けミッションだ。
明らかに近距離での取り回しが悪い射撃兵装を、足を止めて撃ち続けているのであれば多少ビーム属性を持つ攻撃に対する耐性があったとしても、その隙をついてちまちまと削り倒せる。
実際、二人は教則通りにその隙をつく形で、名前は覚えていないがーーとにかくクジャン家当主なるネームドのNPCを撃破していた。
だが、愛香の指先がすっ、と画面をなぞれば、そんな、どこかほのぼのとした雰囲気さえ感じられる初心者向けのミッションとは対照的な地獄を映し出したものへと切り替わる。
先日、ハードディメンション・ヴァルガにおいてアイカが上げたキルスコアの数は三だ。
一機はすっ転んだ先で硬直していたスローターダガー。もう一機はもう二度と名前も思い出したくないモヒカンを踏み台にして背後から貫いたドライセン。もう一機は、その名前も思い出したくない奴の愛機であるザクⅢ。
数と内容だけ見れば、確かにそれは華々しい戦果だといえよう。
スローターダガーは棒立ちに近い状態で硬直を晒していたから例外だとしても、奇襲で一機を、正面から一機をーーそれもカスタム機を撃破したという内容だけを見つめれば、愛香の上げた戦果は大金星に近い。
だが、その内容の中で、純粋に愛香の力で撃破できたと評価できるのはその例外の一機だけなのだ。
「……あの、愛香さん……どう、されたんですか……?」
気づけばまた溜息を吐き出していたらしい。
依然として右目と額は包帯で覆っているものの、左頬に貼っていた絆創膏を剥がした絵理が、憮然として機嫌が悪そうな愛香に、もそもそと、小鳥が啄むように齧っていたメロンパンで顔の下半分を隠しながら恐る恐るといった風情で問いかけてくる。
「ああごめん、絵理……ううん、なんでもない……ってわけじゃないんだけど」
「?」
「なんていうか、あたしの火力が足りてない」
味方の火力が足りてない。
昔のゲームで野良の即席パーティーを組んだ時、足を引っ張っていた方のプレイヤーが残したことで広まり、スラングと化した迷言だとされるが、その経緯と詳細については割愛しよう。
貢献の是非、誰が足を引っ張っていたなどの責任問題も置いておくとして、客観的に見てもそのような事態に陥ることは、GBNにおいてもそう珍しいものではない。
ロビーのNPDに設けられた機能であるマッチングシステムを利用して野良で即席パーティーを組んだら全員が偵察型だったとか、逆に全員が格闘型のアタッカーで射撃特化の相手になす術もなく全滅したとか、そういう悲劇は笑い話に姿を変えて、今も巷を飛び交っている。
愛香たちの場合、あのハードディメンション・ヴァルガへのダイブを三人パーティで受けたミッションとして見るなら、そのMVPは間違いなくチィだった。そこに疑いの余地はない。
愛香たちが始めたばかりで不慣れだったということもあるが、それを差し引いても先ほどのチームにおいて自らの立ち回りを省みるなら、先ほどの一言に、「自分の」火力が足りていないということに尽きるといった風情だ。
「元々あたしのガンプラ、戦うために作ったやつじゃないんだけどね……それでもやっぱりフォース組むなら、そういうことも気にしなきゃいけないし」
愛香が溜息まじりに語った通り、コメットコアガンダムが自前で備えている武装は最低限だ。
コアスプレーガンに、背部のバックパックに装備されたビームトーチ二基。普段はビームダガーと変わらない刀身の短さで、それよりも出力が劣るといった有様だ。
一応、出力を集中させればビームサーベルとしての使用も可能であるが、それを行ったところで特別な、必殺と呼べるほどの火力にはならない。
あくまでも汎用機に備えられた標準的なビームサーベルに姿を変えるだけ。事実ではあるのだが、羅列すると悲しくなってくる。
「……で、でも……その……」
「いいよ、言って? あたし一人だと煮詰まっちゃってさ」
遠慮がちに、メロンパンで顔を隠したまま絵理がぼそぼそと何事かを呟こうとして引っ込めたが、愛香は気にすることなくその続きを促した。
それは配慮とかそういうものではなく、純粋な本心だ。
一応あれこれと考えてはいるのだが、結局のところ自分でもどうすればいいのかよくわからない、というのが愛香の抱えているもやもやとした気持ちの正体なのだ。
そんな状況で第三者から意見を貰えるなら、願ったり語ったりだろう。
愛香が促したのに答える形で、しかしどこか気まずそうに八割以上の面積が残っているメロンパンで今度は顔を完全に覆いながら絵理はぼそぼそと、打ち切りかけた言葉を続ける。
「……ええ、と……その……ミッションを、受けるだけなら……今は、その……えっと……問題は……」
「まあ、確かに……」
実際、もう一度ハードコアディメンション・ヴァルガにダイブする予定があるかと訊かれれば即座に首を横に振るし、今後潜るつもりがあるかと訊かれればそれだって絶対にノーだ。
アキノにお礼を言う、その目標を達成した以上絵理としてもあの場所にこだわる理由はなかったし、今も絵理はモヒカンに嬲り殺されかけた光景を夢に見るほど、ハードコアディメンション・ヴァルガにおける一連の戦いはトラウマになっている。
とはいえ、火力が足りないという問題が避けて通れないものであることぐらいは二人とも理解している。
上のランクで受けられるミッションに登場するNPDの耐久値がどれぐらいに設定されているのかはわからないし、とりあえずフォースを組める手前のEランクまで上がって、腕試しに受けたEランク推奨ミッションも、確かにFランク推奨のそれよりは苛烈さを増していた。
しかし、此処までがチュートリアルだ、といった風情で反応や攻撃密度の上昇こそあっても行動ルーチンには露骨な隙が設けられていたり、耐久値そのものこそ上がっているものの、あのモヒカンカスタムのような理不尽さはない。
問題を先送りにして、火力不足に陥った時に悩めばいいというのはそれも確かだ。
自論を語ってしまった後悔なのか気恥ずかしさなのか、愛香から目を逸らしつつもそもそとメロンパンを啄むのを再開した絵理を見つめながら、愛香はまた喉から飛び出そうとした唸り声を押し留める。
先送りにすることはよくないことだ、とは小学校から高校まで一貫して教えられてきたが、それでも国語の授業で教えられたらあの青い空が落ちてくることを心配し続けて毎日眠れない夜を過ごしたらしい人物よりは健全であることは確かなわけで。
横目で見遣った窓の外に広がる空は、絵理の瞳よりもどこかくすんだ青を湛えていた。
都会の空は煙っていると、県外から引っ越してきたらしい同級生が、そんなどこか詩的な言葉を呟いていたが、都会生まれの都会育ち、そしてこの都会から修学旅行以外で出たことのない愛香にはその言葉が本当かどうかはわからない。
修学旅行では空なんて見ている暇もなかった。だが。
(まあ、くすんでるんだろうなあ)
焦点が合わず、いわゆるハイライトが消えて濁っていても、それでも絵理の瞳が湛える青は、見上げる空より遥かに澄み渡っている。
「……あ、あの……愛香、さん……?」
「ん、どしたの絵理」
「……えっと、その……わ、わたし、何か……? 愛香さんに、悪い……こと……」
「ううん、なんかハムスターみたいだなって思っただけ」
「……?」
「だから気にしなくていいよ」
それでも、愛香が綺麗だと信じて疑わないそれは、きっと絵理にとっては触れられたくないことで、持っていたくもないものなのだろうから。
銀髪に鳶色の瞳といった出で立ちの「エリィ」と、黒髪に青い瞳という「絵理」の姿を脳裏に重ねて、愛香は誤魔化すように、曖昧に笑った。
半分は嘘。でも、半分は本当。
純粋に、もそもそとメロンパンを齧っている絵理が小動物じみていて可愛らしいというのも、また事実なのだから。
「店長、ちょっと相談なんですけど」
「随分とまた唐突だね、愛香ちゃん」
今日の分のバイトを終え、人がいなくなったビルドブース……ガンプラ製作を行えるコーナーの片付けを手伝いながら、愛香は紺の布地に、機動戦士ガンダムやその他様々なシリーズに登場するマスコットロボット、「ハロ」の刺繍が施されたエプロンを首から下げた黄色いポロシャツにジーンズといった姿の中年男性──ガンダムベースシーサイド店の店長である、マツムラ・ケンへとその話を持ちかけていた。
利用客がニッパーで切り離した際に床へと飛んでいったゲート──ランナーとパーツを繋いでいる部分だ──の破片を箒とちりとりで丁寧に掃き取りながら、マツムラ店長は珍しい人物からの相談にその手を止める。
愛香はコミュニケーションを取らない、というわけではないし、むしろ積極的にわからないことは訊いてくれるし、利用客に対しても愛想良く接しているが、どこかで何かの線を引いているのか、仕事に関する質問こそすれど「相談」を持ちかけてきた記憶はないように思えた。
人間関係についても同僚とは上手くやっているとマツムラ店長は思っているし、実際愛香が仕事上でミスをした、という報告は何度か受けたことはあるが、朝村愛香という個人について何か折り合いが悪いスタッフがいるという話は聞いたことがない。
「それで……何かあったのかな? 相談に乗れることならいいんだけど」
「ああいえ、餅は餅屋というかなんていうか、ガンプラについての相談なんですけど」
「ふむ?」
そういえば愛香が先日GBNを始めた、というのはマツムラも覚えている。店舗の巡回中、なんだか重傷患者みたいな感じの黒髪の女の子……奇しくも愛香本人と、その同僚であるムカイ・ヒナタ及び、マツムラ個人が昔から懇意にしている利用客であるクガ・ヒロトと同じ学校の制服を着ていた──と、一緒にゲームブースを利用していたことは記憶に新しい。
ガンダムなんて興味ありません、とばかりに棚卸しや陳列の仕事も商品リストと睨めっこをして、たまにカフェブースを利用する以外は仕事が終わるなりすぐに帰っていた彼女に何があったのかはわからない。
だが、ガンダムに、ガンプラに興味を持ってくれるのであればそれに勝る名誉はない。
苦節十何年、ガンプラマイスターという、卓越した製作アドバイザーに与えられる称号をマツムラが手にしてから、幾星霜の時が経った。
GPDやGBNというゲームの後押しこそあれど、ガンプラがここまでブームを引き起こした世の中には、確かに感慨深いものを覚えている。
だが、何度経験してもこの興味のなかった子がめくるめくガンプラの世界に足を踏み入れてくれた嬉しさに勝るものはない。
小首を傾げてマツムラの返答を待つ愛香に、その熱と感慨を悟られることがないように平静を装うために小さく咳払いをして、彼は答える。
「ごほん。それで、相談っていうのは何かな」
「えっと、多分見てもらった方が早いんでちょっと見てほしいんですけど」
そう言って、愛香が鞄の中から取り出したものは緩衝材がギッチリと詰め込まれたタッパーだった。
彼女が蓋を開けてみれば、緩衝材に丁寧に包まれたその中に眠っていたものは、果たしてマツムラにも見覚えがある、と、いうよりは最早見慣れたものであるガンプラの姿だった。
「コメットコアガンダム、っていうんですけど……いや、なんていうか、あたしGBNで戦うつもりなかったんです」
「う、うむ……」
キャプテン・ジオンが製作講座の中で話題としてコアガンダムを取り上げていたことはマツムラも覚えているが、それでも懇意にしているクガ・ヒロトのそれと同じ機体を同じ学校の、しかも同僚がアルバイト先にいる女の子が使っているというのには、どこかセンチメンタリズムな運命と、少しの複雑さを感じてしまう。
「なんていうか……こう、この子、可愛いじゃないですか」
「可愛い?」
「はい、ちっちゃくて、でもただ可愛いだけじゃない、って感じで」
キャプテン・ジオンの製作講座においてコアガンダムを取り上げた回を、愛香はスマートフォンに穴が開くほど見返している。
その中であの全身タイツの彼は、ベースとなったコアガンダムが備えている拡張性──四肢を換装して十八メートルクラスまで機体をグローアップさせる特殊機構、プラネッツシステムに着目しながらも、コアガンダムはあくまでその前座ではない、とした上で自身の考案する、コアガンダム自体の戦闘能力を引き上げるカスタマイズを紹介している。
それを参考にしようにも、作例の中に使われていたサポートメカのマシンライダーはアイカのランクでは受けられないミッションの報酬だし、かといって動画を締めくくる時に紹介されていた、「コアガンダムの随伴機となる二機の量産型、コアジムを用意し、それぞれにプラネッツシステムのアーマーを用意した上でコアガンダムにその全てを纏わせる」という派手な作例は愛香の技量ではとても再現し切れるものではない。
それに何より、十八メートル級の機体になってしまっては、可愛くない。
身も蓋もない感想だが、それでも愛香が情動を突き動かされた部分はそのどこか愛らしさすら覚える小柄な体躯なのだ。
頭部にはG-セルフを思わせる前向きのアンテナ、腰のアーマーに、バックパックに補助フライトユニット、そしてアーマーの脚部が接続されるハードポイントにはHi-νガンダムヴレイヴの靴を、接続パーツを介して装着しているのがコメットコアガンダムだ。
大きさこそ純粋なコアガンダムより大きいものの、それでも小柄によくまとまっている。
マツムラから見たコメットコアガンダムに対する所感は、そのようなところだった。
「そういう見方もあるね。で、多分だけど……愛香ちゃん、火力不足に悩んでるのかい?」
「えっ……すごっ、どうしてわかったんですか?」
「ははは、これでも何年もガンプラと向き合ってきたからね」
バトル用ではない、という愛香の前置きも鑑みるに、この機体はコアスプレーガンとビームトーチという基本装備しか持っていないのだろう。
そして愛香が友人……かどうかはわからないが、同行者と共にGBNを始めたとあれば、バトルをしている可能性は高い。
それがマツムラの組み立てた推論だった。
「そしてプラネッツシステムでのグローアップは愛香ちゃんのポリシーに反する……と、なれば、そうだなあ、軽くて大型の実体剣なんか、いいんじゃないかい?」
小柄な機体、というよりSDガンダムは、HGブランドのような大型の機体に対して不利を背負っている、というのがGBNにおける定説だ。
それは手足の短さから来る可動範囲の狭さに由来する、とされているが、もちろんその定説を覆す形で、あえてSDガンダムで近距離ビルドを組んで活躍するダイバーも存在している。
そして、コアガンダムの体躯はSDのそれに極めて近いが、最大の特徴を挙げるとすればその可動範囲はHGと同じフォーマットを採用している、ということだろう。
「大型の剣を持って戦場を走る小さな機体、っていうのが愛香ちゃんにとってどうかはわからないけれど、個人的には可愛いと思うなあ」
姪が嵌っている魔法少女ものの特撮、「マジカル☆クラウン」なる番組の中には魔法少女らしからぬ物騒な武器、鎖分同を振り回して敵である悪魔を残虐ファイトで一掃する魔法少女が登場するが、姪はその、長い黒髪を白滝みたいな髪型に結んだキャストが演じる役柄と戦闘スタイルを「可愛い」と評していたし、そういうギャップも何か需要があるのだろう。
マツムラには理解が及ばなかったが、価値観の多様化した世の中だ。誰かの作り出した「可愛い」にケチをつける権利など誰も持ち合わせてなどいない。
その魔法少女の真似をしてイヤホンを振り回している姪の姿を脳裏に浮かべながら、マツムラは愛香に提言する。
「剣……なるほど……ありがとうございます、店長」
「うん、いつも後片付け手伝ってくれてこっちもありがとうね、愛香ちゃん。暗いから帰り道は気をつけるんだよ」
何かに弾かれたように駆け出していく愛香の後ろ姿を横目に見ながら、マツムラはどこか昔を懐かしむように小さく息をつく。
「いいねえ、若いって」
自分が彼女たちと同じぐらいの年の頃、愛香や──かつてのクガ・ヒロトがそうしていたように、がむしゃらに夢を追いかけていた姿を思い出す。
あの日の夢はこの手に掴んだ。それでも、その時は夢を掴めるのかわからずに、いや、夢がなんであるのかさえ漠然とした状態で、ただ熱意と情動だけが自分を動かしていた。
「認めたくない過ちも、後悔も……ただ認めて次の糧にすればいい、か」
──時間はいるだろうけれどねえ、ヒロト君。
店内に流れるBGMが「蛍の光」に変わり、客がいなくなったことを確認した上でマツムラは掃除機をかけて、そう独りごちるのだった。
第二部、始動