結論からいえば、確かにカレトヴルッフは愛香の要求を全て満たしていた武装であった。
家に着くなり開封したランナーの真っ白さ……多色成形による色分けが格段に進歩した現代において、HGFAトールギスⅢを見たときのような驚きの白さに頭を抱えながらも、愛香がそれを組み立て終わった時、凛音の言葉が嘘ではなかったと確信したものだ。
だが、世の中そう上手い話ばかりではない。
例えば、現在のGBNにおいていわゆる「環境構築」とされている、装備しているだけで他機に対してのアドバンテージを得られるパーツに、機動戦士ガンダム00に登場した動力源でありスラスターとなる太陽炉、GNドライヴの存在が挙げられる。
GNドライヴを採用することで見込める最大のリターンは、やはり時限強化特殊兵装であるトランザムシステムが機体に組み込まれることだろう。
細かい原理は割愛するとしても、とにかく発動するだけで機体の出力、速度、パワーが造り込みに応じて、一説によれば通常の三倍まで引き上げられるという具合だ。
ハードディメンション・ヴァルガで千人斬りを達成した「獄炎のオーガ」も、そしてELダイバー……電子生命体の救世主、GBNとガンダムベースのアイドル店員にして史上初だと日本政府に公認された電子生命体、「サラ」のどちらかを消さねばならないという時にそのどちらをも救い出した先駆けの英雄、今、最もチャンピオンに近いとされる「ビルドダイバーズのリク」もその愛機に太陽炉を組み込んでいることからも、有用性が窺えるというものだろう。
それだけを聞くなら、じゃあ強さを求めるなら適当に太陽炉を機体から生やしてしまえばいいのか、と誰もがこぞってGNドライヴを採用しそうなものだが、トランザムシステムが機体に齎すのは先述したメリットだけではない。
まず、造り込みが浅ければトランザムの出力上昇に機体が耐えられずに自壊するし、そのラインをクリアしたとしても、原作通りの超スピード、超パワーを得るには更なる造り込みが必要になるし、加えてそのラインをクリアしていざその力をその手に収めてもそのスピードを制御しきれず、破壊不可能オブジェクトに突っ込んで壁の染みになるダイバーも星の数とまではいわなくともそれなりに存在する。
要するに何事もメリットばかりではない、ということだ。
カレトヴルッフが銃器としての運用も可能としていたのは、愛香にとって嬉しい誤算だった。
だが、その色分けだけではなく愛香はその「銃として使える」事実にも頭を抱えることとなってしまった。
まず、当たらない。
愛香のエイミングに問題がないとはいわないが、基本的にシステムとしてオートロックオンを採用している以上、狙いをつけても当たらない、という状況は、相手に弾を避けられたか、銃口が発射の瞬間にブレたかの二択なのだが、今回の問題は後者だった。
カレトヴルッフは溶接用トーチ……という名目のビームライフルであるコアユニットにビルドナイフとビルドカッターと呼ばれるそれぞれ大剣の刃を構成するユニットが接続されることで完成する。
だが、その合体機構の都合上、グリップの抜き差しを前提にしているために塗装で上手いことクリアランスを調整してやらないと、射撃時にグリップがブレるという問題が発生する。
それをクリアしても、今度はカレトヴルッフという工具……という名目で作られた事実上の武器が抱えている構造そのものが、愛香にとっては問題であった。
まず、ビルドナイフ……剣モードでは先端となる大型の刃を構成するユニットが銃身の真上に接続されることで、よほど手首関節を補強していない限り、重力化ではその重量を支えきれず、銃身が下を向いてしまう。
凛音は確かに嘘は言っていない。
カレトヴルッフを純粋な剣として運用するなら、後に発売されたRG版やHGCEガンダムアストレイレッドドラゴンに付属するそれと比較して、組み立てるパーツ数が少なくて済むため重量そのものは軽く済んでいる。
つまり、カレトヴルッフを銃としても剣としても扱うのであれば、その強すぎる個性でありクセと向き合った上で機体を調整するか、もしくは割り切ってどちらかに固定した上での運用を行う必要がある、ということだ。
そして更なる問題は、元々本キットが発売したのは、HGSEEDシリーズ、「ガンダムアストレイレッドフレーム フライトユニット装備」と連動する形で模型誌に付属したということだった。
単純に言ってしまえば持ち手が合わない。
一応、カレトヴルッフのランナーに専用の角度付き手首は付属してくるためそれをコンバートすれば、ジャストフィットで持たせることは可能だが──
「……あたしのコメットコアガンダム、丸指なのよね……」
「……あ、あの……愛香さん……な、泣かないで……ください……あの……メロンパン、あげますから……」
「いいよ大丈夫だよ泣いてないよ絵理、これは脳が摩擦熱とオーバーロードでどうにかこうにかして出てきた何かだよ……」
流石に友達が毎日食べている昼ごはん、それも泣きそうになりながら差し出してきたものをいただきますと言えるほど愛香の面の皮は厚くない。
いつもの昼休み、愛香は絵理の机に突っ伏して、素組み状態で試験運用したことで浮き彫りになった様々な課題に絶望しかけていた。
一応Eランク相応のミッションであれば、ゲート処理とフラッグ──ガンダム00に登場するモビルスーツではなく、安全基準のため、主に鋭角に当たる部分に配置されたゲートのようなものだ──の処理を丁寧に行っただけのカレトヴルッフでもその威力の程は実感できたが、銃身のブレ、そして微妙に緩いことで勢いよく振ったらすっぽ抜けていくカレトヴルッフと、絵理のアシストがあったためにクリアできたものの愛香の戦果だけを抜き出せば散々だったといっていい。
「とはいえ、これ以上の剣なんて見当たりそうもないんだけどね……」
一応、あの後愛香はHGCEデスティニーガンダムを追加購入して比較検証用にアロンダイトもコメットコアガンダムに持たせてみたが、こちらの場合ビームサーベルと実体剣の両方の性質を持つ、という癖に振り回されそうになったため、すっぽ抜けてしまうことにさえ目を瞑れば、剣としての好みはカレトヴルッフに軍配が上がることになる。
「……も、持ち手が……」
「うん……?」
「……あ、あの、えっと……ごめんなさい、わたし……」
「ううん大丈夫、続けて?」
「……あ、あぅ……そ、その……持ち手が……ビームサーベルと同じ、なら……扱い易いのかなぁって……あの、ごめんなさい、わたし、差し出がましい、こと……」
「それだよ絵理!」
俯き、例によって食べるのが遅いため六割近く面積を残していたメロンパンで顔を隠してしまった絵理の両手を取って、愛香は言い放った。
そうだ。コロンブスの卵。コペルニクス的転回。持ち手がコメットコアガンダムに合わないのなら、コメットコアガンダムが持ち手に合わせようとするのではなく、その逆をすればいいのだ。
徹夜明けなのもあって異様なテンションになった愛香と絵理に好奇の視線が突き刺さるが、もはや天啓を得た気分になっていた愛香にとってそれはさしたる問題ではなかった。
単に寝不足で周りが見えていないともいう。
「愛香、なんかめっちゃ嬉しそうだけどいいことあったの?」
騒ぎを聞きつけたのか、珍しく学食ではなく教室で弁当を食べていた恵美が数人の友人を引き連れて、絵理の机近くの席に訪れる。
タイミングが悪かった。普段絵理の後ろに座っている野球部員の男子やその隣の女子サッカー部に所属する生徒は、大盛りが山のようだと定評がある学食に行ってしまっている。
慣れない、大人数に囲まれる感覚に絵理の両手は震え出し、左眼にはじわり、と涙が滲む。
この恵美という生徒が自分に危害を及ぼすような存在ではないことはわかっている。
事実として愛香は普段恵美とも楽しそうに会話をしているし、恵美も、いつまで経っても取れる気配のない絵理の包帯について心配はしてきてもそこに悪意はない。
恵美の友人たちだって、絵理の存在について何かとやかく言ったわけではない。だが。
だが、とにかく。とにかく、絵理にはその大人数に囲まれるということそのものが怖くて仕方なかったのだ。
「ん、恵美? いやね、ちょっと絵理が天才なんじゃないかって思ったの」
「へー、そういや絵理ちゃんこの前歴史の小テストで九十点取ってたよね」
アタシは赤点だったけどね、と、渋い顔で小テストを返してきた壮年の歴史教師の姿を浮かべながら、苦笑しつつ恵美は絵理に話を振る。
「……い、いえ……あの……わたし、そんな……」
「あれで九割取れんのマジ? うちらも赤点ギリギリだったんだけど」
「……ぐ、偶然……偶然、です……です、から……」
まずったか、と、愛香が気付いたのは、俯きながら恵美たちの振ってきた話に応対している絵理の瞳から涙が溢れているのを見てしまったからだ。
やらかした。徹夜明けなんて言い訳にもならない。
恵美たちが、絵理を迫害するような存在ではないことは愛香にも保証はできる。
だが、それを絵理が受け入れられるかどうかについては全く別の話なのだ。
「それより恵美、次の授業体育だけど行かなくていいの?」
「えっそうだっけ? ……ってうわマジじゃん、絵理ちゃんも早いとこご飯食べちゃった方いいよ」
見学でも遅刻されると露骨に機嫌悪くなるから。
ゴリラの渾名を生徒から影で頂戴している強面の体育教師が露骨に仏頂面をするのを想像して、恵美たちは黒板近くの壁に貼り出された時間割を一瞥するなり、体育館にある更衣室に向けて駆け出していく。
「……ごめんね、絵理」
「……い、いえ……愛香さんは、悪く……悪く……ない、んです……ぜんぶ、わたしが……」
体育教師、通称ゴリ先の仏頂面と露骨に不機嫌な低い声を恐れてか、泣き出した絵理に注意を払うことなく、食事を終えたクラスメイトたちも、我先にとばかりに体育館へと駆け出していった。
「……保健室行こっか」
「……ごめんなさい……愛香、さん……ごめんなさい……」
──わたしが、わたしで。
その言葉に込められた絶望は、一体どれほどのものなのだろう。
絵理の手を握りながら、保健室へ誘導する廊下が、果てしなく長いものに感じられる。
きっと、自分がさっきまで抱えていた絶望なんか比較に出すのも失礼だ。きっと、自分にとって最大のトラウマになっている徒競走と吹奏楽のことだって、きっと今も心の中でひび割れて砕け続けている絵理の絶望には届かない。
それでも──
(絵理にとってのGBNって、何なのかな)
それでも絵理は、数人に囲まれただけで泣きそうになるのに、それ以上の人数が行き交って、人口密度が凄まじいことになっているGBNにログインし続けている。
きっと絶望と同じぐらいに重い、そこに懸けた理由に対して、自分は釣り合う存在なのだろうか。
保健室のベッドに腰を落ち着けて泣きじゃくる絵理の背中を優しく撫でながら、愛香は一人自らの失態に押し潰されそうになりつつも、その答えを問い続けるのだった。
後味の悪い結果にこそなってしまったが、絵理の提案はまさに天啓、革命的なものであることに違いはなかった。
バイトを終えて帰るなり愛香は小学校の時に使っていた粘土板兼カッターマットを作業台に、コメットコアガンダムのバックパック、その右側に配置されたビームトーチと、HGCEデスティニーガンダムのアロンダイト、そして素組みのカレトヴルッフ、バイト帰りに滑り込みで買ったHGBCバトルアームアームズを並べ、ニッパーに手をかけた。
複数のキットを混ぜて、自分好みの形にするーーミキシングは、愛香にとって初めての経験ではない。
コメットコアガンダムのソールになっているHi-νガンダムヴレイヴの踵部分がまさにそれなのだが、その工作は偶然でこそあるが接着を伴わない、驚くほど簡単なものだった。
だが、接着を伴う、本来合わない規格を無理やりに統一するという意味でのミキシングは初めてだった。
だからこそ、つけすぎた接着剤で指紋型のモールドを作ってしまったり、真鍮線を通さなかったことでうっかり落としてしまった時に接合部がもげたりして色々と手間取ったりもしたけれど。
「本邦お披露目! これがあたしの……『ビルドボルグ』だっ☆」
「わぁ……!」
アイカは、カレトヴルッフのコアユニット、ビルドトーチにHGCEデスティニーガンダムのアロンダイトを加工したグリップガードと、グリップ部分にコアガンダムのビームトーチをそのまま取り付けた大剣、カレトヴルッフ改めビルドボルグを天に掲げてみせる。
結果としてカレトヴルッフが持っていた強みである鍔に当たる部分に配された追加バッテリーを失うこととなったが、元々銃としての機能はオミットするつもりだったために問題はない。
むしろ、ビームトーチを基部に用いたことで刀身を赤熱化させ、斬れ味を上昇させる効果を得たメリットの方が大きい。
アイカとエリィは今、対モビルアーマーの討伐ミッションを受けている最中だった。
Wikiを確認したところ、検証班のそれが正しければ、二人のダイバーポイントはあと少しのミッションクリアでDランクに到達するレベルの数字らしい。
対モビルアーマー討伐ミッションは、敵が大型かつ難易度が高めということもあって、クリア時の獲得ダイバーポイントは高めに設定されている。
だからこそ、念には念を入れて、という意味と、せっかく大きな剣を作ったのだから大物狩りにチャレンジしてみたい、と、GBNに順調に染まりはじめてきたアイカのリクエストによるチョイスだった。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
「……っ、アイカさん、来ます……!」
「オッケー☆」
エリィの指摘から僅かに間を置いて、十二時方向から飛来したビームの色は白に赤のプラズマが走った、SEED系特有のものだ。
右のビームトーチを犠牲にこそしたものの、接続部の三ミリ軸を利用して、愛香はそこにアームアームズからコンバートしてきた一番小さいアームを接続し、さらにアームの三ミリ穴を同系の軸に変換するパーツを挟み、カレトヴルッフのコンデンサ部分に穴を空けることで、取り回しの問題を解決していた。
とはいえ、しまうのにビルドナイフ部分を銃モードの時同様先端から上端に組み換えなければならないのだが──小柄なコメットコアガンダムでも、大剣を邪魔することなく持ち運べるメリットとトレードオフなのだから致し方あるまい。
アイカはビルドボルグを一旦背部のマウントに戻すと、それに、メリットの方が遥かに大きい──腰部のアタッチメントに接続していたコアスプレーガンを牽制射としてビームが飛んできた方向に放つ。
このステージは、遮蔽物の少ないNPDチュートリアルミッションでも採用された空軍基地モチーフのものだ。
牽制射撃を放ちつつも基地の滑走路に着陸し、二人が見上げた空、そこに浮かんだ雲を割いて現れたのは。
「ザムザザー、だっけ」
「……は、はい、確か……」
確かこの前HGCEの新作として発売されたことで、ガンダムベースにこぞって客が買い求めにきたからアイカもそれは覚えていた。
なんでこんな可愛くもないゲテモノを、と不思議に思ったものだが、蓼食う虫もなんとやらだ。根強いファンの存在はどこにでもあるのだろう。
そんなアイカの身も蓋もない評価に激昂したのかしていないのか、緑色の化蟹、といった風体のモビルアーマー……ザムザザーは怪獣のような桃色のツインアイを光らせて、空中に浮遊したままX字状に伸びたユニットから砲身だけを地上に向ける形で一斉砲火を放つ。
「うそ、聞いてないんだけど!?」
「わ、わわ……っ……!」
迂闊に飛んでいれば真下が死角になる。
それはハードディメンション・ヴァルガで嫌というほど教えられたことだし、実際NPD相手でも、それ自体に特化してこそいるものの、迂闊な先飛びを咎めるようなルーチンに設定されたいやらしい敵がEランクからは現れはじめる。
だが、そんなお約束など知っているとばかりに真下へ砲撃を放ちながら、ザムザザーはアイカたちを抹殺せんと怪しくセンサーを光らせた。
一応原作でも真下にいたシン・アスカのインパルスガンダムを狙って撃っているのだが、アイカたちは生憎それを知らない。
しかし、何よりザムザザーという機体の厄介なところは、死角をカバーする矛を備えていることではない。
「……ビームが、弾かれて……っ……!?」
弾幕砲火を小刻みに回避しながらエリィのヘイズルIIが撃ったビームライフルの一矢を、ザムザザーは自身の正面に展開した虹色の光で受け止める。
陽電子リフレクター。原作でも猛威を振るった鉄壁の盾だ。
「射撃が通じない、ってことは……」
だが、カレトヴルッフがそうであったように、メリットがあればその裏にはほぼ必ず何かしらのデメリットが存在している。
アイカはそれを、格闘戦に弱い、と踏みかけたのだが。
(待って、それだと流石に誘導が露骨すぎる)
ハードディメンション・ヴァルガに潜っていなければ、アイカは嬉々として飛び上がり、ザムザザーに格闘戦を仕掛けていたのだろう。
ビルドボルグに伸ばしかけた手を止めて、一旦回避のマニューバで機体の体勢を立て直しながら、猜疑心がもたらした警告を再考する。
良くも悪くも、というより八割ぐらいは悪だがーーハードディメンション・ヴァルガは、アイカの動体視力だけではなく、猜疑心を鍛えてくれた。
例えば、自分たちがスポーンした瞬間を狙ってGNビームキャノンを放ったケルディムガンダム。あの機体がチィの投擲弾で破壊されたのは、射線が露骨すぎたからだ。
襲撃者の攻撃に対して物影に隠れてやり過ごそうとすれば、偶然撃破こそできたもののあのスローターダガーのような伏兵がいる。
つまり、わかりやすさというのは罠である可能性が高い。
そして、アイカの推察は正しかった。
ザムザザーの四つ足に当たる部分に装備されていた、着陸脚と目していたパーツが展開し、「爪」と化したそれを急降下したザムザザーがアイカたちへと叩きつける。
「やっぱりね……!」
「……アイカさん」
ザムザザーの爪、超振動クラッシャーは近くに固まっていたアイカのコメットコアガンダムとエリィのヘイズルIIを分断し、追撃の弾幕砲火でその連携を更に崩しながら、空中へと退避していく。
エリィが何かを考え込むように俯かせていた顔を上げたのは、まずい、と、久しぶりに操縦桿を握る手に汗が滲む嫌なフィードバックにアイカが顔をしかめていた時だった。
「どうしたの、エリィちゃん?」
「……ビルドボルグを、敵に……叩きつけられますか」
可能か不可能かでいえば可能だろう。だが、その為にはあの四つ足から展開される爪に捕まらないという条件がつくと、アイカは浮かんだ答えを要約して短く伝えようとしたが。
「……足は、わたしが止めます……!」
「……オッケー、エリィちゃん。信じてるからね!」
エリィがいつになく力強くその言葉を紡いだことで、アイカは張りかけていた予防線を引きちぎり、迷いなく背部にマウントしていた「ビルドボルグ」に手をかける。
ザムザザーは確かに強い。あの陽電子リフレクターは、二人は知らないものの原作においては戦艦の特装砲……平たくいえばあのクアンタの改造機が放っていた砲撃に近い必殺の武装さえも受け止める。
もちろん、Eランクに合わせてステータスが調整されている為あのクアンタが放った砲撃をこのザムザザーは受け止められないだろうが、それはどうでもいい。
エリィの見立てでは、あの盾を展開するのには。
「……足が、止まる……!」
ならば、ダメージこそ通らないものの、攻撃は効く。
一人であれば、きっと絶望していた。きっと、挑戦しようとさえ思わなかった。
エリィは人差し指でトリガーを何度も連打しながら、アイカのコメットコアガンダムがザムザザーに向けて飛びかかるのを見る。
──お昼休みには、迷惑をかけてしまったかもしれませんけど。
「こんの……蟹ぃぃっ!」
ビルドボルグ。エリィのアイディアが取り入れられた、アイカの新たなる剣。
もしも、わたしが、アイカさんの助けになれたのなら──そう、信じたい、信じさせて、くれるのなら──
エリィの祈りに呼応するかの如く、天高く飛び上がり、くるりと機体を反転させてブーストを再び全力で蒸したコメットコアガンダムが構えているビルドボルグの刀身が赤熱し、虹の盾へと重力の勢いも乗せた一撃が叩きつけられる。
果たしてその刀身は、鉄壁の陽電子リフレクターを貫いていた。
鉄壁の盾を貫いて、コックピットに当たる部分までビルドボルグは易々とその装甲を貫通して侵入する。
──想定以上の威力だ。
アイカは、凛音が託してくれたカレトヴルッフ、エリィが作り上げてくれたアイディア、その思いの結晶が組み立てたことでまた偶然手に入れた機能の力に身震いした。
愉悦。感動。恐怖。様々な感情が綯い交ぜになった思いが胸の内側でスパークする様を、人は何と例えたのか。
爆散しようとしている機体からビルドボルグを引き抜いて、コメットコアガンダムは華麗に着地を決める。
──高揚、だろう。
【Mission Success!】
【ダイバーネーム:アイカのランクがDに昇格しました】
【ダイバーネーム:エリィのランクがDに昇格しました】
ウィンドウがポップし、ダイアログに並ぶ昇格の二文字さえ、今は意識の外側だ。アイカとエリィは通信ウィンドウ越しに顔を合わせて、胸に沸き起こる高揚にむずむずと唇を動かしながら。
「エリィちゃん」
「……アイカ、さん……」
──ごめんね。そして、ありがとう。
──ごめんなさい。そして、ありがとうございます。
二つの言葉を交わして、同じ笑顔を浮かべるのだった。