ガンダムビルドダイバーズ リビルドガールズ   作:守次 奏

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ロンド・ロンド・ロンドの幕引きが気になりすぎて夜しか眠れないので初投稿です。


第十三話「ネゴから始まる初陣宙域〜確かに白けりゃアルビオン」

「あの……」

「あん?」

 

 今度は未遂ではなく、正式にフォースを結成した直後、四人を呼び止める声があった。

 チィが半ばチンピラのような応答を返したのを皮切りに、アイカたちは声がした方へと踵を返して振り返る。

 そこに立っていたのは、地球連邦軍──宇宙世紀0083年のものである──の制服に身を包んだ、どこか人の良さそうな青年と、その後ろに付き添う、浅黒い肌に、同じ年代のフライトジャケットを着用している壮年男性だった。

 声をかけてきたのは制服の方なのだろう。二人を一瞥し、歴戦の軍人といった雰囲気を漂わせる、フライトジャケットの方が向けてきた視線に怯えてか、びくりと身を震わせるならアイカの背中に身を隠したエリィの髪の毛をそっと撫でる。

 

「大丈夫だよエリィちゃん、で……えっと」

「ああ、すいません。俺はハマモリ。こっちの方はナンブさんっていうんですけど」

「それで、そのハマモリさんとナンブさんが私たちにどのような御用件でしょうか?」

 

 ハマモリと名乗った制服姿の青年が傍に佇むフライトジャケットの男を指し示すと、ナンブというらしい男は片目を瞑ってそれを挨拶に代える。

 コミュニケーションが苦手なのかあえて喋らない理由があるのかはわからない。だが、どちらにせよナンブという男が纏っている空気がチィやアキノとよく似た歴戦のそれである以上、何か意図があってハマモリに説明を一任しているのだろうか。

 アイカは小さく首を傾げて、冷や汗をかきながらいかにもこちらの出方を伺っている、という態度の彼を一瞥した。

 

「ええと……さっき聞いたんですけど、あなたたち、フォース作ったばっかりなんですよね?」

「はい、そうですけど……それがどうか?」

「単刀直入に言うと、俺たちと練習試合をしてくれませんか?」

 

 練習試合。

 聞こえてきた言葉が空耳でなければ、このハマモリという男はわざわざ組んだばかりの、それも初心者が二人も所属しているフォースにわざわざそれを申し込んできたことになる。

 じと、っと、ハマモリを見つめるアイカの瞳が微かに濁りを帯びる。

 練習試合という言葉を額面通りに信用するなら、彼のフォースとアイカたちリビルドガールズとの戦いはどのような形式であるにしろ、スコアや報酬、そして勝率と機体の損傷度に影響しないプラクティスモードで行われることになるのだろう。

 だが、ただ練習試合をしたいというだけなら、そこにアイカたちを選ぶ必然性はどこにもない。

 野良試合をしたいのなら練習だろうが本番だろうが、掲示板で募集をかけるなり、ロビーの真ん中にいるNPDに頼んでマッチングシステムを利用すれば一秒足らずで誰を相手にするか困るほど候補の名前がずらりと並ぶ程度に、GBNはフォースで溢れている。

 となれば、目的は狩りか。

 アイカが疑いの視線と共にハマモリの提案を蹴ろうとした時だった。

 

「ハマモリだっけ? あんたら、なんでわざわざチィたちに声かけたのさ」

「ちょっと、チィちゃん……!」

 

 何かを考え込むように小首を傾げて押し黙っていたチィが親指で物質化した1BCを弾きながら、アイカの前に歩み出て、ジト目で見られ続けたことで怯んだのか、腰が引けているハマモリへと問いかける。

 

「落ち着きなよアイカ、ここはあの猿山じゃねーんだ、一応相手の話聞いてやるぐらいはタダっしょ?」

 

 その上で受けたくねーってんなら、チィはアイカに従うけど。

 肩を竦めてアイカを制すと、チィは続きを促すように細い顎でハマモリを指して、再び唇を引き結ぶ。

 確かに、相手に何か特別な事情がある、というケースはアイカの脳内から抜け落ちていた。

 あのハードディメンション・ヴァルガで鍛えられた猜疑心が悪い方向に働いた結果だろう。

 視線でアキノとエリィにチィの意見に対する賛否を問えば、アキノは黙って頷いて、エリィもリアクションこそしなかったものの、警戒しつつもとりあえずは保留といった風情でアイカの両肩を握る指先に力を込める。

 となれば、多数決で二対一の棄権一。民主主義の原理に従うなら、チィの提案を受け入れるのが筋、ということになるのだろう。

 フォースを結成して数秒後にまさかリーダー、というよりは代表者としての責任を問われるような事態に見舞われるとは思わなかったが、思えばGBNに潜った時、トラブルや予想外の事態に見舞われなかったことの方が少ないのだ。

 相変わらず自分の運がいいのか悪いのかわからないトラブル体質に嘆息しながらも、アイカはチィの意見を採用することを決める。

 

「さっきはすみません、ハマモリさん。それで改めて……なんであたしたちなんですか?」

「ありがとう、疑いを解いてくれて……いや、俺たちもフォースを組んでいるんだけど、実は最近メンバーの入れ替わりがあったばかりなんだ」

 

 ハマモリが語った経緯を要約するのであれば、彼の所属しているフォース、「名機アルビオン」には初心者一人とナンブの知り合いが二人加入することになったのだが、それと入れ替わる形でリーダーを務めていたナンブがある事情から脱退することになったため、彼に代わる形でリーダーとなったハマモリがメンバー間の連携を組む練習をすべく、アイカたちに声をかけた、ということだった。

 

「見た感じ、えっと……アキノさんとチハヤさんは経験者で、アキノさんはAですし、俺よりランクが上ですよね? ならこっちは初心者一人と経験者二人と俺の計四人で、ちょうど釣り合いが取れるんじゃないかって思ったんです」

 

 AどころかGぐらいありそーだけどな。

 ハマモリが必死に説明している間、退屈だったのか、チハヤと呼ばれたことが不満だったからかチィがぼそりと呟いた小言に、無言でアキノがその頭に拳骨を落とす。

 GBNのマッチングシステムは、完璧な精度であるとは言い難い。

 アイカたちに声をかけるまでは実際に受付に話しかけていた旨を伝えて、ハマモリはがくりと肩を落とした。

 フォース戦を野良で申し込む場合、所属しているダイバーのランクや、フォースポイントで絞り込みをかけることこそできるのだが、具体的にどのようなメンバー構成であるのか、またランクの分布がどうなっているのか、については一件一件表示されたリストから詳細を確かめなければ確認できない。

 自分たちと釣り合いそうなフォースを探している間に、目星をつけたフォースが別なフォースと試合を始めてしまったり、かといって大雑把に平均ランクや保有フォースポイントだけで決めてしまうと、SSランクのダイバーが一人にそのリアルフレンドであるFからEランクのダイバーが数人、のような歪な構成に遭遇して、練習にならないようなことも決して珍しくはないのだ。

 

「……って訳で俺たちとしては渡りに船だったんですけど、アイカさんたちはどうですか?」

 

 別に、ハマモリとしても試合を無理強いするつもりはない。

 たまたま今が千載一遇のチャンスだったから、つい若気の至りでぐいぐい行ってしまっただけで、時間こそかかるがGBN内の掲示板で詳細な条件を指定して募集をかければ、需要に沿う相手と巡り合える可能性は高い。

 この辺りがナンブさんならもっとスマートにできてたんでしょうけど、と、彼に助けを求めるようにハマモリは振り返るが、依然としてナンブは黙したまま唇を真一文字に引き結んで、言葉を発することはない。

 リーダーとしての素質を鍛えようとしているのだろうか。だとすれば見た目に違わず随分なスパルタだ、と、アイカは小さく呟くが、それさえ意に介した様子はなく、場末のラーメン屋の店主の如くナンブは腕を組んだまま黙り込み、ぴくりとも動く様子がない。

 

「うーん……それなら、別にあたしは断る理由はないんですけど……」

「アイカさん、貴女がリーダーなのですから私たちは貴女が決めたことに従うまでですよ」

「り、リーダー……重いなぁ……じゃあ、ハマモリさんを助けると思って、受けてもいいかなエリィちゃん、チィちゃん?」

 

 なんだかリーダーというよりは中間管理職、というよりは自分とどこか似た匂いを感じ取ったのか、アイカは困ったように笑いながら、背中に隠れたまま震えているエリィと、しゃがみ込んで拳骨を落とされた頭を摩っていたチィへと問いかける。

 

「……わ、わたしは……アイカさんが、いいなら……」

「ってて……んー、まあアイカが決めたんならチィとしては異存はねーよ、でも」

「でも?」

 

 まだ擬似感覚が痛みを訴えている頭を左手で抑えつつ、すっと立ち上がると、チィは何やらにやりと、子供がいたずらを企んでいる時のような笑みを浮かべて、空いた右手の親指と人差し指で輪っかを作る。

 

「ハマモリの旦那、こいつの話を忘れてますなぁ」

「こいつ……?」

「鈍いなぁ、金だよ金。報酬の話」

「報酬、って……」

 

 プラクティスモードでは報酬の獲得は不可能なように設定されている。相手が提案してきたのが練習試合である以上、どうあってもそこにチィが求めるものは見込めないはずなのだが。

 困惑しているアイカをよそに、チィは視線をハマモリからナンブに移して、両手を広げながらつらつらと長広舌をぶち撒ける。

 

「ナンブの旦那、あんたがどんだけの想いでこのフォースを抜けんのかはチィにゃわかりやせん、けど、こんだけ厳しくハマモリを見守ってるってこたぁ、こいつにかける期待は……『本物』ってことでしょう?」

「む……?」

 

 沈黙を保っていたナンブが、少し驚いたように瞑っていた片目を見開き、にやりと微笑みながら右手の人差し指と親指で再び輪っかを作り上げて、それを自身へと突きつけてくるチィを睨む。

 しかし、それに臆するチィではない。むしろ、釣れたとばかりに唇を歪めて、嬉々とした調子で言葉を紡ぎ続ける。

 

「チィはリーダーのアイカが決めたってんならそれに従いまさぁな、でも、旦那がそこまで『本気』で……手塩にかけて育ててきたであろうフォースの新生に立ち会うとなりゃあ、チィたちもそれ相応に仁義ってもんをもって、旦那の心意気に応えなきゃならんでしょう」

「つまり、お前は何を言いたいんだ?」

 

 大仰な、芝居がかった仕草で言葉をつらつらと並び立てるチィを訝しみながらも、自身の真意を見抜いてきた点を買って、ナンブはとうとう保っていた沈黙を破って応答を返す。

 さらりとリーダーに全ての責任を押し付けようと保険をかけている辺り、このチィという女が相当な食わせ者であることぐらい、ナンブは見抜いている。

 だが、嘘が本当かはともかくとしてナンブが「名機アルビオン」にかけてきた想いを汲んで、次代を担うに相応しいと認めて引退するその日まで徹底的に鍛え上げようとしたハマモリの門出を飾ってくれるというのなら、話ぐらいは聞いてやろうという気にはなるものだ。

 明らかにリーダーであるアイカはチィを制御し切れていない様子だが、その様子もどこかハマモリと重なって見える。

 運命とでもいうのだろうか。GBNというのは、いつだって予想外の偶然を自分たちに運んでくる。

 現役時代を思い出してか、ふっ、とニヒルに笑うナンブに、チィはしめたとばかりに手もみをしながら、交渉の「詰め」にかかる。

 

「いつの時代も人間、本気となりゃあ……失うものがある時でしょう? なら、プラクティスモードなんてぬるま湯じゃなくて、互いに失うものを、金と機体のダメージをかけた上で、正々堂々『本気』でやりましょうじゃあねえですか、そうですなぁ……十万BC、なんていかがです、ハマモリの旦那?」

「え、ええ!? 今の流れで僕に聞くのかい!?」

「やだなあ旦那、チィはあくまでナンブの旦那と『お話』してただけで、受けるかどうか決めるのはハマモリの旦那ですぜ?」

 

 ──詐欺師だこれ。

 流れるように相手の感情のツボを刺激しながら自身の利益へと誘導していくチィの話術にアイカはドン引きしながら、自分以上に困惑しているハマモリへと静かに同情を寄せる。

 いや、よく考えたらこれフォースのリーダーってことで全部あたしの責任になるんだろうか。

 試合後に訪れるかもしれないギスギスとした空気を想像して、仮想空間だというのに、アイカはどこか胃袋がきりきりと締め付けられるような錯覚を覚える。

 

「……はっはっは!」

「な、ナンブさん?」

「どうやら試合前の戦いは俺たちの負けみたいだな。いいだろうハマモリ、チィとかいう奴のいう条件で受けてやれ。金なら俺が出してやる」

 

 どうせ引退したら腐るもんだし、プラクティスじゃ本気になれないってのはあの小娘の言う通りだろう。

 寡黙に徹していたのが嘘のようにバシバシとハマモリの背中を叩きながらナンブは豪快な笑い声を上げて、チィの詐欺……もとい、提案を受け入れる。

 まあ、相手を騙して一方的に金銭を巻き上げるのではなく戦いに敗れればそのBCは自分たちが払わなくてはいけない、という条件が天秤のもう片方に乗っているという意味では確かに対等な取引なのだろうが。

 

「チィ」

「あん? なんだよアキノ」

「プラクティスモードで試合を受けない、というところに私は異存はありません。それが相手にとって為になる、というところもそうです。ですが……リーダーであるアイカさんを通さずに金銭のやり取りを条件に加えるというのは、些か出過ぎた行いではありませんか?」

 

 じっと、チィを見下ろすアキノの視線は冷たい。

 それはアキノの中で、「リビルドガールズ」の敗北によってチィが提示した金額を相手に支払うことになるという選択肢が現実的な可能性として織り込まれている、というのもあれば、言葉通りにフォースという集団においての秩序である、リーダーの決定に従うという基本的な方針から逸脱した彼女の行いを咎める意味もある。

 

「ああ、それならごめん。ちょいと興奮しすぎたね。事後承諾になっちまうけど……負けたら金は全部チィが払うよ、それでいい、アイカ?」

 

 チィという女はどこまでも食わせ者だ。

 アキノの怒りを否定することなく、今度は自分が身を引く形で非礼を詫びて自らが取る責任を示すというその手口は、規律が厳格化していない集団においては事後承諾を通すのによく用いられる手法だ。

 チィの厄介なところは数知れないが、一番は引き際を弁えていることだろう。

 今回の場合は、アイカたちに自分が「金銭」に一番の価値であること及び、誠意の形であることを事前に知ってもらった上で、もし敗北した時は自身が提案した報酬の金額を全て負担して、相手に渡すという最大限の「誠意」を見せていることがそれだ。

 しかも、相手の実力者からの同意を勝ち取った上でだ。

 GBNよりいっそ営業でもやった方が稼げるんじゃないかと訝しみつつも、アイカはメリットとデメリットを頭の中で指折り数えた上で、チィの言葉に答えを返す。

 

「次からは一応あたしを通してっていうか、皆に訊いてねっ。てかあんまりガチガチに縛られるの、あたしもヤなんだけど……」

「ん、りょーかいりょーかい、だってさアキノ」

「何故私に振るのですか」

「さあね……っとエリィ、ナンブの旦那ならもう行ったぜ」

 

 未だにアイカの背に隠れて怯えているエリィにフォローをかけつつ、チィはアイカが承諾したフォース戦の通知から参戦を選択し、ロビーから解けてコックピットへと転送されていく。

 

「……釈然としませんがまあいいでしょう、私も参ります。アイカさん、エリィ、よろしくお願いしますね」

 

 アキノもチィに続いて、コックピットへ解けて融ける。

 

「……アイカさん……」

「うん」

「……チィさん……凄かったですね……」

「なんていうか、あの子本当にお金が好きなんだなって……」

 

 二人同時に、コンソールに浮かぶ参戦のメッセージを受諾すると、溜息混じりにアイカとエリィも先に行った二人に続いて、アバターのテクスチャがさらさらと解けてロビーからコックピットへと意識か転送される感覚に身を委ねる。

 確かにチィの行いは一方的で、今も釈然としないものを抱えているのは事実だ。

 それでも、というよりはそれだから、とでもいうべきか。彼女の言葉が全て間違いであったかといえばそうではないことが、アイカの心情をより複雑にする。

 

(まあ、あたしは別にエリィちゃんが嫌じゃなきゃ、なんでもいいんだけど)

 

 チィの策略に巻き込まれて練習のつもりが金を賭けることになったハマモリとナンブには同情するが、ナンブは快諾している以上不憫なのはハマモリだけだろう。

 それに何より、自分は慣れているのだ。トラブルに巻き込まれるのもバカを見るのも火傷をするのも、責任を取らされるのも、全て。

 だったら、エリィがよっぽど嫌だと言って傷付くようなこと以外は全部あってないようなものだ。

 一秒に満たない間にそれだけの諦めを出力しながら、アイカの意識は完全に、ロビーから愛機のコックピットへと飛ばされていくのだった。

 

 

 

 名機アルビオン。機動戦士ガンダム0083に登場する、主人公たちの陣営がその母艦としているペガサス級戦艦から名前を取ったと思しきフォースで、リーダーのハマモリと、今回の試合には関わらないナンブ以外の面子は見ていないものの、二人の格好から察するに、その0083に出てくる機体、それも連邦軍側のものをメインにした構成なのだろう。

 出撃前に設けられたブリーフィングフェイズで、チィは自身の推察をメンバーたちに語った。

 今回設定しているルールは、フォース戦としては標準的な、参戦するダイバーの名前とランクだけを開示した上で互いのどちらかが全滅するまで戦うというものだ。

 もう少し時間があれば「名機アルビオン」というフォースについても調べられたが、何分中堅どころで少人数、しかもメンバーが入れ替わりを経ているのであればどの道得られる情報は今と大差ない。

 誤差だよ誤差、と推察を締め括るチィに、それは死亡フラグなのでは、と懸念を抱きつつも、一応商品を扱う時に聞いたことがある0083という作品をアイカは思い返していた。

 

「確か、物騒なバズーカ持ってるガンダムは敵なんだよね?」

 

 ジオニストと呼ばれるジオン公国軍及びその残党の愛好家が聞いたら怒り狂いそうな疑問を、アイカは出撃前のコックピットで投げかける。

 

「物騒なバズーカ……アトミック・バズーカですか。ええ、それを使用するガンダム試作2号機サイサリスは物語上ジオン残党、デラーズ・フリートの所属ですね」

「……で、でも……ガンダムって、味方なんじゃ……」

「はい。エリィの言う通り基本的に宇宙世紀作品で、ガンダムタイプは主人公の陣営として設定されることの多い地球連邦軍に所属するものです」

「なら、どうして?」

「奪われたのですよ、アイカ」

「そーいうこった。まあ元が連邦ってとこがややこしいっつーか、アルビオンって戦艦に積まれる予定だったから向こうさんが使ってくることも一応警戒しとけよ!」

 

 ブリーフィングフェイズとして設けられた時間が終わり、特定のフォースネストとして戦艦を持たないアイカたちは、デフォルトで設定された格納庫のようなテクスチャで再現されたカタパルトにその両足を固定することになる。

 

「そんじゃあ先に……チィはグラスランナーで出るぜ!」

「アキノ・ベルナール……ミネルヴァガンダム、発進します!」

 

 お約束の出撃シーケンスを慣れた振る舞いでこなしながら、チィとアキノが先行して出撃する。

 

「それじゃあ……アイカ、コメットコアガンダム、行っきまーす☆」

「え、あ……わ、ヘイズルⅡ、エリィ……出撃します……!」

 

 アイカは右眼の前でピースサインを作る決めポーズをしながら、エリィはまだ慣れないのか困惑しつつ操縦桿を握りしめ、音声入力を認識したカタパルトが二人の機体を、今回の戦いの舞台として選ばれたステージ……地球、衛星軌道上へと投射する。

 出撃時にかかるカタパルトからのGも、バージョン1.78は極めて忠実に、しかし人体に悪影響を及ぼさない絶妙な範囲で再現していた。

 フィードバックされる感覚に歯を食いしばりつつも、アイカたちは無重力の戦場へとそのまま吐き出され、眼下に見下ろす地球と空を照らす星々のか細い明かり、そして背後に浮かぶ暗礁宙域が、フォース「リビルドガールズ」の初陣を出迎える。

 

「わぁ……!」

 

 エリィが思わずこみ上げてくる感嘆に声を上げたように、今が戦いの場であることを忘れてしまいそうなほど、GBNのグラフィック班がきっと血反吐を吐きながら作り上げた仮想の宇宙は、現実の写真で見るのとそう違わない美しさを誇っていた。

 違いがあるとするならそこかしこにモビルスーツや戦艦の残骸など、スペースデブリが漂っていることだろうか。

 とはいえ現実でも宇宙ゴミの存在が問題視されている以上、浮かんでいるものがシャトルやロケット、人工衛星の残骸でもモビルスーツの残骸でもそう大差はないのかもしれない。

 アイカもこみ上げてくる感動を胸に押し留めながら、ぴしゃりと自分の両頬を叩いて気合を入れ直す。

 

「おうエリィ、感動するなら勝ってからだぜ! アキノはわかってっと思うけど、宇宙じゃ常に下からも攻撃が飛んで来っからな!」

 

 ハードコアディメンション・ヴァルガに救いがあるなら、それは主にユーザーが好んで利用して、デフォルトでのスポーン地点として設定されているのが重力下であることだ。

 どこの誰が残したかはわからないが、絶界行をする者たちにとって、それらは実感を伴った名言として脈々と語り継がれている。

 あの場所で迂闊に空を飛べば、自分が食らう攻撃の方向が増える。

 それかどれほど過酷なものであるかは、ヴァルガにダイブしたことがあるダイバーであれば誰もが知っていることだ。

 中にはFOEさんや獄炎のオーガのような、あの地獄で自由に空を飛び回る存在もいるがーー彼らは例外だから割愛しよう。

 とにかく、機体の上下というのは決まって死角になりやすい。

 初心者へのアドバイスとして、先に飛ぶことは咎めながらも、相手を追い詰める時の手段として、あえてメインカメラが視認しきれない、或いは上を向くというワンアクションを挟まざるを得ないことを逆手に取って真上からの攻撃が推奨されることもその証だろう。

 

「鬼が出るか、蛇が出るか……っ!?」

 

 その光が彼方に煌めいたのは、チィがミラージュコロイドを展開しつつ先行し、背部の武装コンテナから今回は無線の観測機を敵陣に飛ばそうとした時だった。

 

「全員全力で横に逃げろ! 死ぬぞ!」

 

 チィの叫びが焦りを伴っていた以上、その警告は本物なのだろう。

 脳が理屈を組み立てるより先に、アイカの指先は操縦桿を握り締めて、その指示の通りに真横へと全力でブーストを蒸していた。

 

「あれは……」

『まさか、こいつを避けるなんて……間違いない、初心者だが、こいつらは、エースだ……!』

 

 星の光を背にして、反対側から出撃してきたのであろうその機体から、0083の主人公であるコウ・ウラキが纏っていたのと寸分違わないヘルメットとノーマルスーツに身を包んだハマモリが、先程困惑していたのとは別人のように渋く顔をしかめる姿が通信ウィンドウにポップする。

 

「……って、ユニコーンガンダムじゃねえか!!! アルビオンどこ行ったんだよ!!!」

『うるさい、ちゃんと白いしフルバーニアンだろ!!!』

 

 先陣を切ったハマモリが開幕の狼煙とばかりにぶっ放してきた光の正体は、果たしてビーム・マグナムのものであった。

 肩や胸元は青色にペイントされ、爪先も赤に、そして背中にはライトニングガンダムフルバーニアンが背負っていたと思しきユニバーサル・ブースト・ポッドが接続されたそのガンダムは、チィがブチ切れた通り、0083を出典にするものではなく。

 

「一応、UCにもトリントン基地が出てきますからね……」

 

 呆れたように呟くアキノの愛機と出典を同じくする機動戦士ガンダムUC、その主役機であるユニコーンガンダムの改造機に、他ならなかった。




アルビオン……機動戦士ガンダム0083に出てくる連邦軍の戦艦の名前。もしくはラテン語の「白」を語源にする、ブリテン島の異称を意味する単語。
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