ガンダムビルドダイバーズ リビルドガールズ   作:守次 奏

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気付けば今月末だけで10万字近く書いてたので初投稿です。


第十四話「臆病勇者とNT-D〜激突戦域・前編」

 ビーム・マグナム。

 それは原作の読者、視聴者のみならず、初期のGBN、ひいてはその前身となるGPDを体験している者にとっては、ある種恐怖の代名詞として脳裏に浸透している。

 標準的なビームライフル数発分のエネルギーをマグナム弾と呼ばれる専用カートリッジに圧縮することで、戦艦の主砲やメガ・バズーカ・ランチャーのような大型ビーム兵器に匹敵する出力の火砲を、標準的なビームライフルと同じサイズで取り回せるという設定のそれは、果たして造り込めば造り込むほど原作に近付くというこのゲームにおいて、極めて凶悪なシナジーを誇っていた。

 端的に表現するなら掠っただけで死ぬ。造り込みが完璧なら掠めなくてもその余波が及ぶ範囲にいただけで死ぬ。

 チィが早口で捲し立てたその言葉通り、ハマモリの【ユニコーンガンダム・フルバーニアン】が放った一撃をアイカたちは完璧に回避していたものの、一瞬モニターにノイズが走るなど、電装系にダメージが伝わったと思しき瞬間はあった。

 ただ、GBNがオンラインゲームである都合上、初期に猛威を振るった威力がそのまま今も君臨しているわけではない。

 何度も修正が重ねられた結果、多くのダイバーが「まあ妥当じゃないか」と思う程度には弱体化が施されているが、それは「余波でも死にかねない」「掠っただけでも死ぬ」部分へのテコ入れであって、まともに直撃すれば一撃で機体が消し飛ぶ本体部分の威力は据え置きだし、機体によっては今も掠めただけで一撃死という事態もありえるのだ。

 要するにアイカとエリィ、そしてチィの機体はあのビーム・マグナムに掠っただけで死ぬから修正など関係ない。

 今回は爆薬の入っていないダミーバルーンを慌てて投下してロックを分散させながら、チィはハマモリの頼りない印象に騙されていた自分への怒りで舌打ちをする。

 

「この野郎、お坊ちゃん顔の割にやってくれるぜ……!」

 

 ダミーをばら撒くついでに飛ばした無線観測機も、ユニコーンガンダム・フルバーニアンの頭部バルカンによって即座に叩き落とされて重力圏へと落ちていく星屑と化したが、それでもあれらは確かにあの機体の腰部に、五発一組になったマグナム弾のカートリッジが二つマウントされていることを観測していた。

 

『褒め言葉と受け取っておくよ、チャッピーさん、ヨネヒトさん、今です!』

『へっ、テメェに言われるまでもねぇ!』

『あいよ、狙いは……』

 

 恐らく一直線に並んでいたのだろう。ユニコーンガンダム・フルバーニアンの背後から、ガルグレーとモンザレッドのツートンカラーに黄色の差し色をダクト部等に塗装した、ジム・カスタムの背中と脚部にガンダム試作1号機フルバーニアンのそれを丸々移植したような機体が飛び出し、先行するチィを無視する形で、アキノの後ろに二人で固まっていたアイカとエリィに狙いをつけて、牽制射撃を放つ。

 

「高機動型ジム・カスタム……!」

「高機動型……?」

「MSVと呼ばれる外伝群の機体です、まだキット化されていないのでミキシングで作り上げたのでしょう……アイカさん!」

 

 ──私が盾になってユニコーンを抑えます!

 宣言するなりフレキシブル・スラスターの出力を全開にしたシナンジュが大剣を振りかぶり、ハマモリのユニコーンガンダム・フルバーニアンへと肉薄する。

 

「要するに、アキノさんの援護は期待できない、か……! エリィちゃん、絶対離れないでね!」

「……は、はい……!」

 

 事前に開示されたダイバー情報を信用するなら、あのチャッピーと呼ばれた、髭面にリーゼントという名前に似合わない強面のダイバーと、ヨネヒトと呼ばれた金髪でこれまた強面のダイバーは、顔こそ歴戦の雰囲気を漂わせているものの、ダイバーランクとしてはチャッピーがC、ヨネヒトがDと、自分たちとそう変わらない。

 アイカとエリィは背中を合わせるように陣形を組んで、セオリー通り上下からの挟撃で自分たちを追い込もうとしている高機動型ジム・カスタムを迎撃しようと試みる。

 

『青いなぁ!』

『そうだ……ウッキース、そこから叩いてくれ!』

 

 だが、挟み撃ちと見せかけて、アイカとエリィへ肉薄しようとしていたチャッピーとヨネヒトは、突然各個に散開して左右に大きく分かれるマニューバを取った。

 何かがある。アイカが予感を抱く、刹那。

 

「アイカさん!」

「アイカ、エリィ、避けろ!」

 

 二筋の閃光が、ジム・カスタム高機動型を目眩しにしてアイカのコメットコアガンダムと、エリィのヘイズルIIを呑み込まんと彼方から飛来してくる。

 そうだ。事前の情報では相手も四機。ダイバーランクこそEと低いものの、敵兵はもう一人いたのだ。

 それを観測していたチィが指摘するより早く、エリィが叫んだことを根拠に、アイカはコメットコアガンダムをヘイズルIIから大きく引き離してしまうものの、飛来したビームを回避することには成功していた。

 だが、それもハマモリは織り込み済みだったのだろう。

 アキノにクロスレンジまで肉薄されたことで、ビームマグナムという攻撃手段は事実上封じられたが、両腕に設けられたビーム・トンファーを巧みに操って、大剣による攻撃、そのベクトルを逸らすような形で受け止めながらハマモリは静かにほくそ笑む。

 多分、してやられている。

 アイカはエリィとチィの位置をレーダーで確認しつつ、まだ慣れない無重力空間で崩してしまった姿勢を立て直しながら、ハマモリが立てていたであろう作戦について、高速で脳内回路を駆動させながら考察を立てる。

 

(多分、あのビーム・マグナムとかいうのは釣り……あたしたちの中で一番上手くて火力があるアキノさんを盾にさせたんだ)

 

 ウッキース、というなんだか機体がオーバーヒートするまで格闘攻撃を振り回していそうな名前のダイバーが何に乗っているかはわからない。

 だが、遠距離から届く武装を持っていて、かつ自分たちよりも経験が浅いと見れば、恐らくは遠距離攻撃という役割だけをこなし、前線の連携を遠くから見届ける形で経験を積ませるという算段なのだろう。

 そして、ハマモリの真の狙いは恐らく。

 

『悪いなアイドルっぽいお嬢さん、少しばかり俺と踊ってもらうぜ』

「アイドルは恋愛禁止だから、お断り……っ!」

 

 気障な口説き文句を蹴り飛ばすように、ジム・ライフルと呼ばれる実弾銃をリズミカルな三点射撃で放ってくるヨネヒトを振り切ろうと、アイカもコアスプレーガンによる応戦射を放つが、彼も中々の食わせ者だ。

 アイカの機体が大剣を背負っていると見るなり、肉薄してのドッグファイトではなくジム・カスタム高機動型の持ち味である足回りを活かして、付かず離れずの位置で散漫な射撃を繰り返しながら、当たらなくともコメットコアガンダムが先に進むことを許してくれない。

 ツーマンセルによる連携攻撃をチラつかせたのもブラフで、ヨネヒトとチャッピーが真に狙っていたのは遊撃による各個撃破なのだろう。

 そして、アイカの前に立ちはだかったのがヨネヒトであるなら、フリーになってしまったエリィを狙うのはCランク、格上のチャッピーだということになる。

 

『弾がもったいねぇんでな、悪いが片付けさせてもらうぜ泣き虫の嬢ちゃん!』

「……う、ぐ……っ……!」

 

 攻撃の合間に、アイカがモニターを横目で見れば、そこにはビームサーベルを抜き放ったチャッピーのジム・カスタム高機動型が、同じくシールド裏からビームサーベルを引き抜いたエリィのヘイズルIIと切り結ぶ光景がある。

 エリィのヘイズルIIが素組みであることも考えれば、切り結んでいられる時間にも限度があるだろう。そしてそれは、限りなく短い。

 彼女もそれを理解しているのか、チャッピーのマニューバを見定めつつ、奇しくもハマモリがアキノにそうしているように、なるべく強い力を逃すような形で鍔迫り合いを行なっているが、何度か押し負けそうになって一瞬体勢を崩したところを狙い、高機動型ジム・カスタムは強かに頭部バルカン砲を叩きつけている。

 一発一発の威力は大したことのない牽制用の武器だ。

 だが、例え一ダメージしか与えられない武器があったとしても、百万回当てればHPが百万ある敵を倒し切れるように、蓄積するスリップダメージのようなその攻撃は決してバカにできるようなものではない。

 そして、その作戦に続きがあるなら──

 

「エリィを殺ってアイカを挟み撃ちにするってか? 後手に回らされたがしゃーねえ、させっかよ!」

 

 ロックが外れてフリーになっていたチィのガンダムグラスランナーが、エリィのカバーに入るべくチャッピーの機体に向けて両手のビームマシンガンを連射しながらブーストを蒸す。

 これで、ウッキースというダイバーがフリーになってしまったのも恐らく相手の術中なのだろう。

 のらりくらりと弾を避けて、消費を節約しながらも的確にアイカの動きを読んで偏差射撃を行なってくるヨネヒトに舌打ちをしながらも、アイカは読み切った中に見出した微かな希望に、唇の端を吊り上げる。

 もしも相手の誤算を突けるのであれば、それは恐らくハマモリやチャッピー、ヨネヒトがチィの機体を過小評価していることだ。

 確かにチィのガンダムグラスランナーは、陸戦型ガンダムを原型機にしているのもあって、重力下で機能する武装を多く積み込んでいる傾向にある。

 だが、多分ではあるが、多くのフォースに斥候として雇われた経験を持っているだろうチィが、宙間戦闘を全く想定していないということがあるだろうか。

 もしもあったなら彼女は自分たちにあんな警告を飛ばしていない。

 アイカは、そう判断すると。

 

「チィちゃん!」

「おうよ任せな!」

 

 ビームマシンガンで牽制射撃をかけて、チャッピーによるエリィへの攻勢を弱めながらも、チィは僅かに生まれる間隙ーーチャッピーがエリィへと斬りかかるその瞬間に、機体を百八十度反転させて腰部ラッチから取り出した投擲弾を、ヨネヒトに向けて投げつける。

 

『宇宙空間で投擲弾なんてなぁ!』

「ううん、違うよっ☆」

 

 得意げに叫んだヨネヒトに、アイカは獰猛な笑みを浮かべて、トリガーを引くことでその返礼とした。

 この状況下でアイカが求めていたものはなにか。そして、相手の意表を突けるものは何か。

 投擲弾の持つ、地面への着弾という形で爆風を発生させるという使い方が宇宙空間で大きく制限されることは確かだ。

 だが、チィがそのことをわかっていない、などということがあるだろうか。

 念入りに進路のクリアリングを行い、自分が望んでいた導線へ丁寧に敵を誘導していく、ハードディメンション・ヴァルガにおける彼女の活躍を脳裏に描きながら、アイカはチィが投擲した弾を狙って、コアスプレーガンを撃つ。

 

『うおおおおっ!?』

 

 瞬間、爆ぜた弾頭から朦々と立ち昇る黒煙がアイカとヨネヒトの間を覆い尽くす。

 この状況下におけるアイカの課題は、ヨネヒトから離れてエリィのカバーに回るか、或いは距離を詰めて彼をしまうかだが、相手の足回りが易々と許してくれない。

 ならば有効打になる一手は、相手の動揺を誘うことだろう。

 スモークディスチャージャー。発生させた煙に紛れることで機体を隠す古典的なステルス兵装だが、こうして目眩しに使うことも可能だ。

 

『落ち着けヨネヒトォ! 宇宙なら振り切れんだろうが!』

 

 エリィのヘイズルIIがとうとう右腕にかかる負荷に耐え切れずスパークを起こしているのを、限界が近づいているのを確認しながらも、チャッピーはクレバーにそう叫んでいた。

 宇宙空間には高度の制限も、重力による影響もない。

 GBNの宇宙が電子の海に浮かぶ架空のソラであるなら、正確にはシステム上設けられた「天井」は確かに存在するのだろう。

 だが、アクティブ二千万人を抱えて、しかも高精細な機体や背景のグラフィックを再現してそこで様々な地域、国々からのアクセスを処理しているGBNのサーバーやCPUが作り上げたその限界に到達したという話は誰も聞いたことがない。ならば、ゲーム中は現実のそれとほぼ同じだと考えて差し支えはないだろう。

 チャッピーに指摘された通り、舌打ちをしつつもヨネヒトは機体を上昇させて、スモークを振り切るが。

 

「宇宙は……底がないんだからぁっ!」

『しまった、クソ、しくっちまった……!』

 

 アイカのコメットコアガンダムが、その真下から姿を現して、手にしていたコアスプレーガンを連射する。

 ジム・ライフルを持つ右腕。左のユニバーサル・ブーストポッド。そして左足の関節部。全弾を撃ち切った成果にしては命中率が芳しくないとアイカは自虐するが、足が自慢の相手から足を封じたのだ。

 ならばそれで十分仕事は果たしている。それに。

 

「あたしのコメットコアガンダムは……っ!」

『うおおおああああッ!?』

 

 マスコットではない。インファイターだ。

 アイカの脳裏に浮かんだ言葉は分泌されるアドレナリンに上書きされて形を持つことはない。しかし、それは確かな殺意を形にして、ワンアクションを挟むビルドボルグの展開ではなく、バックパック左側のビームトーチ、その刀身を伸長させるという判断をアイカの身体へ形にさせる。

 懐に飛び込まれたヨネヒトのジム・カスタム高機動型は、頭部バルカン砲の斉射でアイカを迎撃しようと悪足掻きをするが、コメットコアガンダムがいかに小柄であるとはいえ、バルカン砲で沈むほど装甲が薄いなどという道理はない。

 ならばコックピットに突き立てられた光がもたらす仮想の死、その予感も必然のものだった。

 

「やるじゃん」

 

 コメットコアガンダムがヨネヒトのジム・カスタム高機動型を撃破したのを確認して、チィは弾を全て撃ち切ったビームマシンガンを投げ捨てて、背部の武装コンテナからアーミーナイフを取り出してチャッピーの機体へと斬りかかる。

 エリィはよく耐えてくれた。

 ヨネヒトを抑える都合上、一瞬とはいえチャッピーとの疑似的な一対一を押し付ける形になってしまったが、果たしてチィの予測通り、スパークしていた右腕を脱落させ、左腕で構えたシールドもジム・ライフルによる攻撃で穴だらけになって使い物にならなくなってこそいても、エリィは確かに任せてしまった間、チャッピーとのタイマンを持ち堪えさせていた。

 

(索敵役のチィより先にあのウッキースとかいう奴の攻撃を読んだのは多分偶然じゃねえ)

 

 エリィは、とにかく周りをよく「見て」いる。

 それがチィが観察する中で見て取った彼女の長所だった。

 確かにエリィは、普段は何が怖いのか知らないが四六時中びくびくと怯えてアイカの背中に隠れていて、口を開けばその意見はアイカと同じ、の繰り返しだし、戦闘中だって恐怖に負けてびーびーと泣いてしまうことがあるような、臆病な女だ。

 だが、臆病であることは決して戦闘にマイナスだけをもたらすわけではない。

 チィは確かに格上が相手だろうが強面のダイバーに交渉を持ちかけようが、基本的にはそこに物怖じなどしない。

 だが、誰に語ることも決してないだろうが、戦場においては誰よりも臆病であることをこそ、その信念に置いていた。

 勘違いするダイバーは後を絶たない上に、口だけで説明すれば何を言っているんだと笑い飛ばされそうなものだが、チィは、あの不動のチャンピオン、クジョウ・キョウヤも臆病だと、そう考えている。

 それは決して、チャンピオンを勇気のない意気地なしだと罵っているのではない。むしろチィとしては、臆病だというのは最上の褒め言葉なのだ。

 敵を恐れない勇者はいつだって格好良く民衆の目に映るだろう。

 だが、なぜ勇者は敵を恐れないのか。

 それを考えた時、自ずと答えは二つに分けられる。

 一つは、そいつが単純にバカだからだ。

 そして、同じ思考回路を持った一部の人間はその、文字通りに命知らずな、バカな行いをこそ勇気だとかなんとか持て囃したりするのだが、それこそ「匹夫の勇」というものだろう。

 そしてもう一つは、そいつが臆病だからだ。

 臆病であるからこそ勇者は己の死を恐れ、どんな状況であろうと相対した敵がどのような実力であるかを適切に見定めて、自分にできることと照らし合わせた上で勝算を組み立ててから戦いを挑むからこそ、人々の目にはそれが死をも恐れない勇気に見える。

 エリィは恐らく本当の意味で臆病で、怖がりなのだろう。

 だからこそ、本能的な部分で仮想とはいえ己や仲間の死を回避しようと無意識に直感を働かせている。

 そしてそれは、きっとチィを上回る天賦の才なのだろう。

 

「よくやったぜエリィ、後は任せな!」

「……ち、チィ、さん……っ……」

 

 あのチャッピーとかいう髭面が怖かったのだろう。眦に涙の粒を湛えながらも決して、格上相手に引くことなく戦いを凌ぎ切った泣き虫な勇者に称賛を送りながら、チィはアーミーナイフを振りかざして、高機動型ジム・カスタムと切り結んでいく。

 

『ちい……っ! SD使いが生意気なんだよ!』

「へっ、泣き虫でか弱い女の子から狙うような変態のおっちゃんじゃあ旧キットそのまま組んだチィにも勝てねえだろうよ!」

『このアマ、言わせておけばァ!』

『ダメです、チャッピーさん! 挑発に乗らないで……!』

『うるせえぞハマモリ! ナンブさんのオキニだからって俺に偉そうに命令してんじゃねぇ!』

 

 チィの見立て通り、このチャッピーというダイバーは見た目通りの単細胞だ。

 リーダーであるハマモリの制止も張り切って、ビームサーベルの出力を最大まで引き上げた高機動型ジム・カスタムが、先程クレバーにエリィをじわり、じわりと削っていたのと同じ人物だとは思えないほどにがむしゃらで無軌道な太刀筋で、意趣返しとばかりにのらりくらりと付かず離れずの距離を保っているチィを振り払おうとする。

 

(ありゃあ長く持っても二、三分ってとこか? それに……)

「エリィちゃん泣かせんな! このヒゲオヤジぃっ!」

 

 無理をしてサーベルの出力を引き上げれば、その発振部分にかかる負荷も凄まじいことになる。それこそガンダム試作2号機サイサリスのように、最初からブーストアップとして出力調整機能を備えていないそれのリミッターを外せばどうなるかなど自明の理だ。

 だが、それさえ頭から抜け落ちるほど今のチャッピーは怒りに囚われている。

 だからこそ、ヨネヒトの機体、そのコックピットを貫いていたアイカがクロスレンジにまで接近していたことにも気付かなかったのだろう。

 今度は十分な猶予を持って組み立てられたビルドボルグの刀身と、ホースの噴出口を握った時のような勢いで出力されるビームサーベルの刃がぶつかり合って、漆黒の宇宙に火花を散らす。

 このままではまずい。

 その様子を、なんとかアキノの猛攻を凌ぎつつもモニターから確認していたハマモリの額に、脂汗がじわりと滲む。

 元々彼が立てていた作戦は、アイカが読んだ通りで、初手のビームマグナムをDランクの二人が躱せるのであれば自分がAランクのアキノを引き付けて、随伴機のチャッピーとヨネヒトを目眩しに、後方で待機させていたウッキースの機体……ジム・キャノンIIのビームキャノンをザメルのカノン砲に匹敵するまでに延長させたもので狙撃し、それもダメなら分断した上でチャッピーとヨネヒトへ各個撃破を行わせるという算段であった。

 だが、これは相手を褒めるべきなのだろう。そして自分を責めるべきなのだろう。

 何度もミネルヴァガンダムが振るうIフィールドソードを受け流し続けてきたことで腕関節が悲鳴を上げ、注意を示す黄色に染まったコックピットでハマモリはぎり、と奥歯をきつく噛み合わせる。

 アイカもエリィもハマモリの予想を超えて持ち堪えていた。

 特に、チャッピーがエリィを落としきれなかったというのはハマモリにとっての想定外であったし、軽く動揺もしている。

 しかし、何よりハマモリが許せなかったのはあのSDCS陸戦型ガンダム改造機──チィのガンダムグラスランナーを過小評価していたことだった。

 チャッピーのように、特定のグレードを見下していたわけではない。だが、火力に乏しくすばしっこいであろうそれの役割はあくまで斥候であり、しかも相手が作ったばかりのフォースであれば、連携も甘いのではないかと、そう思い込んでいたのが大きな間違いだった。

 コンソールに指先を伸ばしつつ、ハマモリは己の選択を後悔する。

 実際には彼の予想を超えてアイカとチィは息の合った連携を見せつけたし、それでヨネヒトが撃墜されてしまったことで自分の描く勝利への方程式は破綻しかけ、そしてチャッピーが挑発に乗ってしまったことでそれは決定的に瓦解したといってもいいだろう。

 だが。

 

『それでも……僕はナンブさんからリーダーを託されたんだ、負けられないんだああああっ!』

 

 ハマモリは迷いなく、必殺技の発動を選択する。

 

「ぐ……っ!」

 

 瞬間、ユニコーンガンダム・フルバーニアンを中心として不可視のサイコ・フィールドが展開され、脚部から順番に閉じていた各部のスリットが伸長、解放されていき、バイザー顔に覆われていたユニコーンガンダム、その証明であるガンダムフェイスを曝け出した。

 NT-D。ニュータイプデストロイヤーと呼ばれるその時限強化こそが、ハマモリにとっての逆転へ一か八かの賭け金なのだ。

 最後に閉じていた一本角が展開したことで、ユニコーンガンダム・フルバーニアンはその名の通り、「ガンダム」としての姿をアキノの眼前に現した。

 

『どいてくれ、チャッピーさんを助けるんだ!』

「その心意気やよし……しかし私も、シルバリィ……いえ、今はフォース・リビルドガールズの守護の盾! そう易々と貫けるとは思わないことです!」

 

 NT-Dが解放されたことで、ハマモリの機体はアキノのミネルヴァガンダムと互角に斬り結べるほどにその性能を引き上げている。

 しかし、NT-Dシステムがもたらす恩恵は機体の強化、ただそれだけではない。

 ビーム・トンファーとIフィールドソードが斬り結ぶ最中、おもむろにユニコーンガンダム・フルバーニアンが左手をかざしたかと思うと、アキノの機体に──正確には今この瞬間まで剣戟を繰り広げていた武器に、拭い難い違和感が生じる。

 

「まさか……!」

『できたか、サイコミュジャック……!』

「く、抜かった……っ!」

 

 アキノのIフィールドソードには、それ自体が遠隔操作を可能とできるようにドラグーン・システムが組み込まれているのだが、それが裏目に出る形となった。

 ユニコーンガンダム・フルバーニアンが掲げた左手から、展開されて露出した赤いサイコフレームと同じ色をした靄が放たれたと思いきや、Iフィールドソードは本来の持ち主であるアキノの手を離れて、ハマモリの手に渡ってしまったのだ。

 GBNにおけるサイコミュジャックは、作品における垣根を超えている。

 ドラグーンシステムであろうとGNファングであろうと、オールレンジ兵装だと判断された瞬間に、問答無用でユニコーンガンダム系列の機体がサイコミュジャックを発動すれば造り込みに応じた時間限り、その制御下に置かれるという仕様は当然の如く賛否両論であった。

 だが、このGBNがガンダム作品に囚われず多彩なガンプラがしのぎを削るゲームである以上、そういう遊び心を捨ててしまいたくはない、という運営の方針で今もその仕様は残されているのだ。

 

『俺はこのままで……終わるつもりなどない! そこをどけえッ!』

 

 アキノから奪ったIフィールドソードが、その斬撃を受け止めようとしたビーム・トンファーごとミネルヴァガンダムの左腕を、そしてその半身を強引に切り裂いていく。

 そうしてハマモリはチャッピーに助け舟を出すべく、制御限界に達したIフィールドソードを放棄すると、機体のブーストを全力で蒸し、半身を失ったミネルヴァガンダム──原作でユニコーンのライバルだったシナンジュのカスタムモデルを振り切っていくのだった。

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