ガンダムビルドダイバーズ リビルドガールズ   作:守次 奏

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よく考えたらチャンプ始めとした化け物が出待ちしてるとこに突っ込んだアルスくんがクッソ不憫なので初投稿です。


第十七話「魂を手にした女〜ガンプラの民は修羅の民」

 あなたは何のためにゲームをしますか。

 そんな問いに対する回答が多かれ少なかれ「自分が気持ち良くなるため」に収束するとしても、その「気持ち良くなる」ものが何であるのかは千差万別だ。

 曰く、誰もがダイブ用のヘッドギアを叩きつけて破壊したくなるようなゲームをこそ憎み、苦しみながらも踏破することでその復讐と愛を証明することをその回答にする者がいる。

 また曰く、仮想の世界であれば自分は平凡な人間から世界を救う勇者になれることを、かつてコントローラを握りしめて夢中でプレイしていたゲームのフルダイブリメイクによって、その世界に文字通り入り込めることをその回答にする者がいる。

 GBNは変わった。

 ロビーの中心に設置されているライブモニターには、「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」の中でラクス・クラインーーその影武者であるミーア・キャンベルが歌い上げていた、劇中歌のアップテンポアレンジを、今日もダイバーネーム「ノゾミ」たちが率いるバーチャルアイドルユニット、「アルス・ノヴァ」が歌い、踊る映像が浮かんでいる。

 G-Tubeをある程度探し回れば、有名配信者であるキャプテン・ジオンがそうしていたように、第二次有志連合戦以降、大人の事情その他諸々が絡んだことで増設されたサーバー群を中心に生まれた、未知なるディメンションの探訪──戦いではなく、仮想の海に浮かべられたその景色をこそ視聴者に見せつける映像がある。

 或いは、不動のチャンピオン、クジョウ・キョウヤもそうしていたように自身の持っているモデリング技術を伝授すべく製作講座を開く者も、それこそ何気なく、ガンプラに乗らずによく知られたディメンションの中でフレンドたちと駄弁っている姿を思い出として記録する者もいる。

 だが、あえてこのGBNに限って先述した、「何のためにGBNをしているのか?」という問いかけを無作為にダイバーたちへと問いかけたなら、有名無名を問わずして、およそ八割ほどの人間がこう答えるだろう。

 ──強くなりたいから。

 ガンプラバトルを俺が、僕が、私が、あたしが一番上手いんだと証明してやりたいから。自分の作ったガンプラが、この世界で一番格好いい、可愛い、クールであると証明したいから。

 忘れがちではあるが、GBNは基本的に強いんだ星人、負けず嫌いにしてクソゲーと罵りながらも己を省みて次の勝利を手にすべく貪欲に機体の整備、改良に励むような、そこにバトルが絡まなくとも聖地・ペリシアと呼ばれるガンプラを展示するための非戦闘区域でも一番の注目を集めるべく退屈なヤスリがけに惜しみなく時間を費やす、狂人もとい修羅の民の巣窟である。

 確かに、その辺の電気屋で買って爪切りだけで組み立てたプチッガイを一応ログインのためにスキャンし、友人たちと戦いではなく放課後の延長線上にある時間としてGBNを満喫する新たな層も増えてきた。

 それはもしかするなら、「ビルドダイバーズのリク」が語ったように、「好き」の形を誰もが否定することなく「好き」だけをぶつけ合ってきた結果として生まれた一つの奇跡だったのかもしれない。

 しかし、それで旧来、果てはGPDの時代がその幕を閉じた時、それと運命を共にするのではなく、電子の海に新たなる戦いの場所を求めた古豪たち、そして「ビルドダイバーズのリク」が見せた、不可能と呼ばれていたジャイアントキリングの実現に心打たれて新たに飛び込んできた修羅候補生の心根が変わるはずはない。

 そう、今まさに、放課後の延長線上としてロビーで適当なミッションを受けようとしていたアイカたちの前に立ちはだかってきた、高笑いをあげながら盛大にむせかえっている女性(狂人)の振る舞いは、典型的な強いんだ星人のそれであった。

 

「ゲホッゲホッ……失礼、貴女たちが、フォース『リビルドガールズ』で間違いありませんわね?」

 

 同じ金髪であるアキノと比較しても赤みが濃い、ストロベリーブロンドと呼ばれるそれを見事なツインテールに結え、「鉄血のオルフェンズ」に登場するキャラクターである「アルミリア・ボードウィン」が着ていた服装をその、エリィとアキノにも勝るとも劣らない豊満な身体つきに合わせる形でアレンジした衣装に身を包んでいる女性ーーダイバーネーム「アリア」は、燕尾服を着た青髪の少年ーーダイバーネーム「ミツルギ」に背中を摩られながら、いきなりの高笑いと共に登場したのにドン引きしていたアイカたちへ問いかける。

 

(こいつ、胸に栄養吸われてるか頭のネジがニ、三本足りてねえんじゃねーのか?)

(やめなさい、チィ)

(うおお、いってえ!?)

 

 いつものように小言をぼそりと呟いたチィの頭を小突きつつ、アキノがそれを小突いて静止する。

 ちらりと横目でその様子を伺って苦笑するアイカはぎこちない動きで正面に視線を戻せば、ひゅうひゅうと乱れた呼吸を整えながら、何事もなかったかのように背筋をピンと伸ばすアリアの姿があった。

 

(聞こえてないのか気にしてないのか……いやあたしとしては前者であってほしいんだけど……)

 

 どっちにしろ、チィの小言の前半はスルーしておくとしても、変なのに絡まれた、というのはアイカに限らず、その背中に隠れているエリィも、頭を抱えてうずくまるチィも、呆れたように溜息を吐いているアキノも同意するところだ。

 いや、忘れていた。

 ハマモリと彼が率いる「名機アルビオン」との戦いからしばらくして、大破一つに撃墜が三つという有様であった「リビルドガールズ」のガンプラがゲーム内で完全修復されるまで、チィが何をしていたのかはわからないが、少なくともアイカとエリィ、そしてアキノは採集ミッションを受けたりロビー外の街区を散歩したりと平和なGBNライフを謳歌していたのは確かだった。

 そこで出会う人々も、戦いに赴く前の戦士、といった雰囲気のダイバーこそ少なくなかったが、朗らかに会話を交わした同じ年頃と思しきダイバーたちの言葉にはガンプラバトルのガの字も含まれていなかったし、そもそも自分はこういうGBNに憧れていたんだっけ、とアイカが初心に返るかのごとく感慨に耽っていたことを思い出す。

 だが、それがGBNのライトサイド、「光」の側面であるとするなら、それが強まれば強まるほど「影」たる修羅はその眼光を、闇を鋭くすることを忘れてしまっていたのだ。

 モヒカンとこの女性を同一視するのは失礼にも程があるからやめておくとしても、なんだかしんみりした雰囲気になっていたのと彼が折り目正しいせいで誤魔化されていたが、ハマモリもまた初手でビーム・マグナムを挨拶がわりにする程度にはGBNの民だ。

 それが標準的なダイバーの姿だったのだ。

 安穏に身を置いて、緩み切っていたアイカに、この女性の高笑いはそれを思い出させるのに十分だった。

 だが、それはすぐに思い上がりであったと、アイカは知ることになる。

 

「アリアさん……ですよね? 一応あたしたちは『リビルドガールズ』ですけど……何かご用ですか?」

 

 一応訊いてはみたものの、相手がフォースの名前を尋ねるときはガンプラバトルの申し込みだと相場が決まっている。

 それかもしくは運営のブラックリスト入りしている相手を通報してGBN-ガードフレームへと突き出す時ぐらいだろう。

 

「チィ、また何かやったのですか?」

「やってねえよ!? つーかチィは確かに金が欲しいけど運営に目ぇつけられるようなことしてまでじゃねーし!」

「…………」

「あん、何さエリィ」

「……あ、いえ、なんでも……ないです……ごめんなさい……」

「な? チィは悪くねえだろ?」

 

 明らかにエリィの向けた視線は「どの辺りが?」とでも言いたげだったが、確かに事実としてチィは違法な行為、規約に反する行為で報酬を獲得してきたのでないことはアキノもよく知っている。

 交渉の語り口こそ明らかに詐欺師か悪徳営業の類だが、一方的に相手に支払いを要求するのではなく自身が相応のリスクを負った上での対等な条件を提示しているだけだし、傭兵稼業や、アリアと出会う前にアキノが何をしていたのか問いただした「情報屋」という回答も、恐らくはモラルに則ったものなのだろう。

 運悪くアイカとエリィは悪質な情報屋に引っかかってしまったが、基本的にこのロビーで怪しいことをすれば、初心者の番人にしてGBNにおける皆のお姐さん、マギーに直接見つかるかその情報が伝わって、彼女とフォースを同じくする漢女(おとめ)たちにしょっぴかれ、いずことも知れない場所へと連れて行かれるのだが、それは置いておこう。

 とにかくここに無事に現れた時点でチィは潔白だ。そういうことだった。そういうことになった。

 

「あはは……うちのメンバーが騒がしくてすみません」

「いえ、賑やかであるというのは決して悪いことではありませんわ。多くの犠牲にその花弁を散らしながらも、止まることなく明日へと咲き誇り続けた鉄の華……かの鉄華団も、平時は和やかに笑い合っておりましたもの」

「鉄華団……?」

 

 一応、リアルではガンダムベースでバイトをしている都合上、アイカもその名前は知らないわけではない。

 だが、恍惚と自らの細い身体を抱き寄せ、身を震わせながらその名前を口にするアリアの様子は明らかに何かがおかしい。

 

「わたくしの敬愛するマクギリス・ファリド准将……その協力者にして物語上は主人公として描かれた三日月・オーガスが所属していた民間武装組織にしてオルガ・イツカの率いる居場所! ああ、ああ……! 三日月・オーガスはマクギリス・ファリド准将が見込んだ通りアグニカ・カイエルの魂に溢れた殿方でしたわ、准将のお言葉を受けて、彼の手をもしも取っていたならばあの逆境を、ラスタル・エリオンを撃ち破り!!! 世界に純粋な力のみが示す、アグニカ・カイエルの魂! その真実の輝きをもたらしていたに違いありませんわゲホッゲホッゴホッガハッッッ!!!!!」

「お嬢様あああああっ!!!」

 

 訂正しよう。

 確かにGBNのプレイヤーは修羅の民だ。強いんだ星人だ。

 仮に──ありえない話ではあるが、もしも「ガンプラを操る者」、つまりダイバーをこの世から消し去ろうとしている電子宇宙人か何かが侵略にやってきたとしても待ち構えているのはあのチャンピオンやロンメル、獄炎のオーガ、マギーさんに、そしてジャバウォックの怪物、ヴァルガに棲まうFOEさんらを始めとする、錚々たる面子に加えて果てはあの「ビルドダイバーズのリク」が雁首揃えて出待ちしているのだ。

 もしも自分がその宇宙人であったなら、侵略する気も起きないだろう。大多数のダイバーはそう答えることになるが、その大多数だって三桁ランカーまで及ばずとも二千万人の中で日々凌ぎを削り続けている修羅の一員であることには違いない。

 だが、そんな修羅の民であることとは無関係に、この女性は明らかに何か常軌を逸している。

 朗らかな笑顔でフリーズしたまま、アイカはこめかみの辺りに冷や汗が滲んでくるのを感じていた。

 そして、そこにある想いは一つだ。

 ──あっやべえ地雷踏んだ。

 端的に換言すればそういうことにして、リアルでもよくあることだ。良かれと思って振った話題が心の奥深くに埋め立てられたランドマインに触れて爆発する。

 厄介なのはそれがマイナスの感情だけではなく、プラスの感情にも適応されるということだ。

 チィはぺたぺたと自分の僅かに膨らんだ胸元を触りながら、まーこのルックで生まれてよかったな、なんてことを呟いていたが、それは流石に関係ないと思う。

 つられて、自分もチィよりは膨らんでいるものの、エリィやアキノのそれと比べると悲しくなってくる胸元を左手で触りながら静かにアイカは涙を流す。

 

(成長期だもん……まだ成人してないもん……)

 

 人はそれを、二重の意味で現実逃避と呼ぶ。

 むせ返ってくずおれては傍に立つミツルギの介抱を受けて立ち上がる、という、七転び八起きを無駄に短時間で無意味に体現しているアリアはようやく落ち着いたのか、こほん、と小さく咳払いをすると、薄くルージュを引いたような質感に彩られたアバターの唇から言葉を紡ぐ。

 

「失礼いたしましたわ。ごめんあそばせ……わたくし、貴女たちの戦いを見ておりましたのよ」

「と、言うと……」

「ええ、生憎名前は忘れてしまいましたが、貴女たちがあのユニコーンガンダムと戦っていた記録ですわ」

 

 確かナンブが言っていたように、あの戦いはモニターを通して中継されていたものであるらしい。

 アイカは面倒だからとデフォルトの設定をいじっていないどころかコンフィグ画面すら見ていないので戦闘中の映像が自動配信されるように設定したままになっているが、仮に切っていたとしてもハマモリがナンブの引退に花を添えるための試合だとして配信設定をオンにしていたのだろうから、遅かれ早かれこのアリアという女性(めちゃくちゃやべーやつ)に目をつけられるのは確定事項だった。

 そんな事情は露とも知らず、アイカはドン引きしているのを悟られないようににこやかな笑顔を浮かべて、アリアが続く言葉を紡ぐのを待つ。

 

「こほん……時に、アイカさん」

「はい」

「貴女……アグニカでしょう?」

 

 言葉はいらない、と、明らかに同好の士を見つめるようなつり気味の赤い瞳が、ハイライトに星が浮かんでいるアイカの青い瞳を撃ち落とさんばかりの「圧」を持って、その問いを叩きつけてくる。

 いや、やっぱバカだろこいつ。

 反射的に小声で呟いていたチィだったが、アキノはそれを止めることはしなかった。と、いうよりも右手で目を覆って、手の施しようがない患者と出会ってしまった薬師の如く月へと向けて匙を盛大にぶん投げんばかりの呆れを示している。

 しかし、アリアにはアイカ以外最初からその目に映っていないため、さしたる問題ではなかった。

 輝く目に映るのはいつもアグニカという輝く一等星。その魂を胸に秘める熱き逆境をこそ我が身の置き場とばかりに不可能の絶海を渡りきり、その掌の中に勝利という秘宝を、アグニカ・カイエルの魂という太陽を収める勇者こそ、アリアにとっては覚えるに値する相手であってそれ以外の人間がいくら無礼な行いをしようが銭ゲバだろうが自治厨だろうがメンヘラだろうが、記憶に留めないのだから関係ないのだ。

 

「アグニ……カ……?」

「……あ、あの……す、すみません……差し出がましい、かも……しれません……けど。けど……その……アグニカって、なんですか……?」

 

 おいバカやめろ。

 鸚鵡返しにその単語を呟いてフリーズしているアイカと、ガンダムシリーズをほとんど知らないからこそ、どこまでも純粋な疑問でエリィは言葉を返してしまったが、本来であればこの辺でそうですか本日はお日柄もよく散歩日和でフレに呼ばれたから抜けますね(逃げるんだよォ)としておくのが正解なのだ。

 そんなチィの静止も遅く、よくぞ訊いてくれたとばかりに赤い瞳をきらきらと輝かせながら、アリアはエリィの両手を取って、傍に立つミツルギが手を伸ばすよりも早く、小さく息を吸い込むと。

 

「エリィさん、でしたわね……? よくぞ! よくぞ訊いてくれましたわ! その様子ですと恐らくガンダムについてもあまり詳しくないとお見受けしますわ、ですからそのような方にネタバレを語ってしまうのはあまりにも無粋! ですので事実だけを抜き出して語るのであれば、勇気ある戦い……それも! 誰もが勝利を諦める! 逆境に置かれてこそ尚希望を失うことなく勝利を掴み取り、あるいは敢えて相手の攻撃に飛び込みながら肉を切らせて骨を断つがごとく、魂と魂が叫ぶ戦いをこそ行う、そんな戦いを世界を相手に挑みかかったわたくしの敬愛するマクギリス・ファリド准将が手にしていた永遠にして至高、そして黄金の輝き!!! それこそが……アイカさんがあの状況下に置いて己の剣一本で照射攻撃を防ぎ切って満身創痍の機体で勝利を掴み取ったその姿こそアグニカ・カイエルの魂に他ならないのですわァゲッホゲホゴホッゲハッガハッゴホッッッッッッ!!!!!」

「……ひ、ひぅ……!?」

「お、お嬢様あああああッ!?」

 

 今まで聞いたことのないレベルの長広舌だった。

 その反動なのか、血を吐きかねない勢いでむせ返ってロビーの床に膝を突き、ひゅうひゅうと大分危険な音の呼吸をしているアリアの背中を、ミツルギがこれまた先ほどよりも深刻に慌てた様子で優しく、宥めるように摩っている。

 

「覚えときなエリィ」

「……は、はい、チィさん……」

「ああいうのを……手遅れっていうんだぜ……」

「流石にそれは……いえ、今回ばかりは私も何も言いません……」

 

 ──なんだこれ。

 アイカの思考回路はドン引きしたままクラッシュを起こしてフリーズしてしまっていたが、フォースリーダーとしての責任感がそうさせるのか、生来の好奇心がそうさせるのかはともかくとして、アリアがぶちまけていた長広舌の断片を拾い上げながら強制的に脳を再起動させる。

 要するにアグニカとやらがなんなのかはわからないが、アリアは自分たちと「名機アルビオン」の戦いを見た上で、恐らくは戦いを申し込むために話しかけてきた。

 そしてやっぱりアグニカ・カイエルの魂とやらがなんなのかは理解できないが、その決め手となったのはアイカがあの時無我夢中で行っていた、対ビームコーティングが施されたビルドボルグの刃で、ウッキースの放った照射ビームを受け止めきったこと、ということになるのだろう。

 明らかに切羽詰まった、仮想空間だというのに過呼吸を起こして今も蹲っているアリアを横目に、アイカはそう考察する。

 

「……これ、事故だよね……?」

「おう、完全に巻き込まれ事故だからアイカは悪かねえよ……」

 

 ぽん、と、優しく、チィの右手がアイカの肩に乗せられる。

 なんだろう。ありがとうって言いたいのにこのいたたまれなくなるような悲しさは。構ってもらったのは嬉しいけど、そっとしておいてくれと、せめて明日の橋掛けとなる今日ぐらいはと答えたくなるような気持ちは。

 再び曖昧な笑顔とも泣き顔ともつかない表情を浮かべて、アイカはとりあえず、チィにそっとお礼だけは告げておくのだった。

 

「ひゅう、はぁ……っ……ごめんあそばせ、同じアグニカ・カイエルの魂を持つ者同士であれば言葉は不要。アイカさん、わたくしが何を口にしているのかは……お尋ねするまでもありませんでしょう?」

「ええ、悲しいことに……いや本当……」

「ならば! この『リビルドガールズ』に向けたアリア・ファリドの挑戦……いえ! 貴女の持つアグニカの魂、その甘美なる叫びを聞かせていただけるということで、よろしいですの!?」

 

 トゥ・ビー・オア・ノット・トゥ・ビー。

 使い方こそ致命的に間違っているが、それを決め台詞にして凛と背筋を伸ばし、その肩にかかったツインテールの片方をさらりと手の甲で優雅にかき上げながら、アリアはアイカへ問いかける。

 これで蹴ったらどうなるんだろう。

 なんとなく純粋な好奇心でそれを試してみたくなるが、恐らく今より最悪な目に遭うことは容易に想像できる。

 曖昧に笑いつつ、助けを求めるように背後を振り返れば、頼れる仲間たちは皆一様に同情を浮かべながらも、とりあえずは付き合ってやれとばかりに首を縦に振る。

 

「えっと、皆異存はないみたいだから挑戦自体は受けますけど……チィちゃん?」

「ん、ああ……こほん。それで、アリアのお嬢様。とりあえずリーダーのアイカから許可もらったんで、一つ提案させていただいてもよろしいですかい?」

 

 アイカとしては別に報酬があろうがなかろうが、もうさっさと戦いを終わらせてこのアリアとかいう暴走お嬢様の気を晴らしてやりたいところではあったが、チィがまさかタダ働きでこんな厄介な案件を引き受けてくれるとも思わないために話を振ってみれば、案の定嫌そうな顔こそしたものの、チィは割り切った上で手もみをしながら、腰を低くして自身の最重要課題をアリアへと持ちかけるのだが。

 

「そうですわね……一人当たり100万BC」

「なッ……!?」

「もちろん、ランク補正を考えれば正規のフォース戦で支払えるような額ではありませんわ。ましてやできたとしても貴女たちが敗北すれば、その負債は貴女たちへと押しつけられる……ですので、わたくしがクリエイトミッションを作るという形で、その挑戦に勝利すれば譲渡する、わたくしの報酬といたしましては、勝ち負けに関わらず、貴女たちが……アイカさんが持っているアグニカ・カイエルの魂。その輝きを見せていただくことこそ何よりの喜び」

 

 ──チィといいましたね。貴女は金銭をこそその喜びとしているのでしょう?

 先ほどまでおかしい様子を見せていた人物とは思えないほど冷徹に、チィを通してアイカたちへとアリアはその「挑戦」を突きつける。

 本物だ、こいつ。

 チィは口にこそ出さなかったものの脳裏でそう呟いていた。

 人が何を最上の価値とするかについて、チィは理解できなくともそれを否定はしない。

 このアリアが正気だろうがそうでなかろうが、アグニカ・カイエルの魂とやらをGBNにおける最上の価値として見出しているのは確かなことなのだろう。

 だが、金銭感覚に関しては異常だと言わざるを得ない。

 いかにチィとアキノが場慣れしているとはいえ、アイカとエリィという初心者──からはちょっと成長して初級者が二人混じったフォースに、成功次第とはいえ計四百万BCの支払いを約束し、その対価は事実上タダであることを確約するなど、正気の沙汰ではない。

 だが、クリエイトミッションという形に押し込めた辺り狂気の沙汰に金を払うのではなく、あくまでも正気で、そして。

 

「ミッションは申請が通るまで三日かかりますわ。ですので三日後にまたあいまみえましょう……それと、これはわたくしからのフレンド申請ですわ。蹴っていただいても構いませんことよ。では……貴女たちがわたくしという逆境を乗り越え、アグニカ・カイエルの魂を見せていただけることを、わたくしに敗北の剣先を突きつけていただけることを、楽しみにしておりますわ。参りますわ、セバスチャン」

「はっ、お嬢様……それと僕はセバスチャンという名前では」

「ふふ……心が躍りますわね……魂が叫ぶ……ふふふ……あはは……あーっはっはゲホッゴホッゴホッッッ!!!」

「お嬢様ああああっ!」

 

 きっと無駄に高笑いをしなければ、優雅に踵を返してさっていく姿はまさに気高く美しい令嬢のそれであったのだろう。

 ミツルギに介抱され、その肩を借りながらロビーを後にするアリアを横目に、あくまでも嫌悪ではなくポリシーとしてフレンド申請を蹴り付けながらチィはそう考える。

 だが。

 

「アリア・ファリド……S、ランク……?」

 

 アイカが受けたフレンド申請と、そこに伴っていたプロフィールカードに記載されていたランクは、開いた口が塞がらなくなるほどに驚異的なものだった。

 Sランク。この場で一番上手いアキノですら、まだその手前だ。

 そして、勝率こそ四割と低く止まっているものの、フレンドのミッションや戦闘履歴とその内訳を見れば、その殆どが格上のダイバーであるSSランクやSSSランクを相手にしたもので埋め尽くされ、ちらほらと勝利の文字まで見えている。

 

「こいつは……もっと要求しとくべきだったか」

「……あ、あわわわわ……うぅ……」

「……なるほど、確かにこれは試練でしょう」

 

 反応は三者三様だが、それでも受けてしまったことに対する後悔は少なからずそこに留まっていて、アリアのプロフィールカードを開いたまま固まっているアイカもそれは同様だった。

 

「……どうして……」

「あん? どしたのさアイカ」

「どうして、こうなったあああああっ!!!」

 

 そして、すっかりハイライトの星が消えてしまった瞳に涙を浮かべ、アイカは声の限りに、そう絶叫するのだった。




──エンカウンティングお嬢様!
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