ガンダムビルドダイバーズ リビルドガールズ   作:守次 奏

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ハルートの変ゲロ盾してもシザビからのアシストで捲られるので初投稿です。


第十九話「銭ゲバ、その心はどこに〜チィとアキノの決戦前夜」

「ふむ……んっと」

 

 アイカはバイトでログインできない。エリィは連絡こそないが、恐らくアイカがログインしないから自分もそうしている。

 アリアとかいうアグニカ愛好家(頭バエってる奴)から受けた挑戦までの時間は残り一日。チィはコンソールに複数のタブを開いてそれら全てに目を通しながら、静かに唸り声を上げた。

 エリィのリアルがどんな人間か、チィは全く気にしていないしなんならGBNでの振る舞いも気にしていない。

 報連相は確かに大事だが、フォース・リビルドガールズはこの修羅の巷を生き抜くために生まれた一個の戦隊(タスクフォース)ではなく、それこそアイカとエリィが作り上げた、放課後の延長線上の寄り合いだ。

 だからこそ、規律という名前のローカルルールにガチガチに縛られないし、それ故にチィの奔放な外部での生業、金稼ぎについてもとやかく言うメンバーがいないというのはなんだかんだで居心地がいいのだから、その辺りは各々が好き勝手にすればいいし、チィ自身も好き勝手にする。

 だからまあエリィからの連絡がないのも別にいいか、と、チィが割り切ってフォース用の連絡網を開いていたタブを閉じようとしたその時だった。

 

「ん? お……っと、なんだエリィ、やっぱいいやつじゃん」

 

 通知がポップする音と共に、「ごめんなさい今日はログインできません」という簡素な文面がスレッドに浮かぶ。

 多分エリィのガワと中身が同じなら、この文字を打つのにも死ぬほど苦労して悩んだ末に送ってきたのだろう。

 そんなエリィの姿を想像しつつ、チィは苦笑しながら了解だよん、と短い返事を連絡用スレッドに書き込んで、そのタブを閉じた。

 GBNにおけるスレッド、というのは二つの意味がある。

 一つはフォースやフレンドといった身内での連絡網として使える、名前とプロフィールカードのアイコンが表示されるもの。

 そして、もう一つは、今チィが複数のタブを開いてそこに表示している画面に並んだ無機質な文字の羅列──名前を一様に隠しながらGBNにおける悲喜こもごもを主題に掲げたスレッドで各々好き勝手に語り合う、古い時代の匿名掲示板を再現したものだ。

 GBNにおける匿名スレッドは、運営が厳格に監視の目を光らせている。

 そのためPKやチートツールの使用といった明らかに利用規約に違反する話題を持ち出すなら、その古い外部掲示板を始めとした各種メディアを利用しなければならないのだが、そんなものに興味がないチィには関係ない話だった。

 付け加えるならどいつが、頭アグニカとかそういう意味ではなく、真性の、危険なという意味でやべーやつなのかという話題については、晒しと特定に当たらない範囲で共有されている。

 そんな共通認識を抱かれている時点でそのアカウントが運営から降り注ぐダインスレイヴ(垢BAN)に焼かれるまでは時間の問題だ。

 どうせ新規アカウントでまた復活してくるのかもしれないが、GBNがVRMMOである以上、複数アカウントを所持するのには主に金銭的な面で厳しい制約がかかる。

 だからこそ悪質PKやチーターとのいたちごっこをしなければならない、という前時代のMMOに付き物だったトラブルは飛躍的に改善されているのだが、そこはそれ。

 どこにでも例外というものは存在するのだから、チィは常に掲示板を眺めることでGBNの情勢を監視するのを日課にしていた。

 

「ほうほう、フォースネストを改修した巨大電脳迷宮ねぇい……」

 

 パートスレと呼ばれる、長期に渡って同じ話題を扱う雑談スレッド群において半ば定形化されて数字だけが更新されるタイトルが並ぶ中、見慣れない文字があったのに目をつけて、チィは指先でコンソールを操作しながらそのスレッドを拡大する。

 曰く、これでGBNを引退するらしい古豪が、己の全財産の半分を使ってあるディメンションの土地を八割ほど買い占めた上で巨大なフォースネストを設営し、それを迷宮として改修した。

 そして、その巨大迷宮を踏破した者に、残りの全財産を報酬として譲渡する、という趣旨のクリエイトミッションを作ったらしい。

 そこに記されていた成功報酬の額は膨大だ。

 なんと破格の3000億BC。正気を疑うその額にチィは本能的にごくり、と生唾を飲み込むものの、話題をよく読んでみればそのスレッドに溢れているものは前向きな攻略情報などではなく、ミッションのギミックに対する怨嗟とクリエイトミッションを作ったダイバーに対する愚痴がほとんどを占めている。

 それもそうだろう。己の全ての財産を使い果たして、ディメンションの八割という想像もできないような領域を買い占めて作った巨大迷宮なのだ。

 易々と攻略された上であっさりと3000億BCを誰かに譲渡するほど、このゲームにのめり込み、最前線を走り続けた古豪の性格がいいはずもない。

 とはいえ、剣呑な話題にも愚痴にも「情報」は含まれている。

 最前線組と呼ばれる探索の凄腕たちが未だ第三層で止まっている、という魔境の情報と第一層、第二層におけるダイバーの死因を記憶の片隅に刻みつけながら、チィはそっとスレッドを閉じる。

 こういうデカいヤマは出遅れた時点で、得てしてアドバンテージなど失っているようなものだ。

 それに巨大迷宮型のミッションは、お約束として後から追いかける者にも公平なよう、必ず最前線組が「詰まる」ボトルネックをそのギミックとして準備している。

 だったら、焦ることはない。

 アドバンテージを取れるタイミングを絶妙に見極めて、横からかっさらっていくのが後発組の常道なのだから。

 物質化した1BCを指先で弾き飛ばしつつ、チィはニヒルに唇を歪める。

 

「貴女はそこに赴かないのですか」

「うお、びびった……なんだアキノか、あの巨大迷宮の話ならまだチィは行かねーよ」

「と、いうと?」

「ふつーの迷宮探索ミッションから考えて、多分序盤の……そうだな、第六層ぐらいに最初のボトルネックが作られてるんじゃねーかな、なら最速でもそこの情報が出てきてからだね」

「ふむ……」

 

 予想外にドライだったチィの受け答えに、やることもなく惰性でログインしながらロビーを歩いていたところで彼女を見つけたアキノは小首を傾げる。

 普段であれば傭兵なり、またハードディメンション・ヴァルガに飛び込んでマナー違反の不届き者に銀の鉄槌を下しているところであったが、生憎明日に決戦を控えている以上、機体の調子は万全を保っておきたい。

 それでも、アキノの見立てでは勝てるかどうかを考えれば、残念ながらその可能性は著しく低い、と断言せざるをえなかった。

 あのアリアというダイバーがどれほどの実力を持っているか、チィほど器用ではないにしろ、アキノもまたGBNに偏在する情報網を活用する形で下調べを行なっていたが、案の定というかなんというか、アリアは良くも悪くも有名な人物だった。

 曰く猿山の猿。頭マクギリス。バエルに魂まで捧げ尽くした結果まともな人間性を喪失した女。SAN値ゼロお嬢様。

 散々な罵倒ではあるが、ハードディメンション・ヴァルガスレでバエルの三文字か飛び出てくる時は、概ね彼女のことを指していると思しき話題がほとんどだ。

 恐ろしいことに、というよりはアクティブ二千万人を抱えている以上の必然というべきか、バエルとそのパイロット、マクギリスの熱烈な愛好家はどうやら彼女だけではなく複数人いるらしいが、その中でもアリアはとりわけ有名な存在であるらしい。

 

「あのアリアってやつのことでも考えてんの?」

「……やはりわかるものですか」

「アキノはわかりやすいからねぇい、まあチィはそーゆーとこも嫌いじゃねえけどさ……っと、あの頭マクギリスについてなら残念なことに実力は本物だよ」

 

 FOEさんと呼ばれる存在がいる。

 以前にチィが200BCというあまりにも割に合わない報酬で請け負った絶界行で生存するためにMPKに利用した彼は、ダイバーランク世界39位……から更なる昇格を果たして、今は28位にいるらしいがあの辺りの順位は魔境中の魔境ゆえの水物だ。またすぐに39位に逆戻りすることもあるだろう。

 とはいえ、彼がサービス開始以来その二桁上位から転落したことがない、と語ればその実力こそチャンピオンや「ビルドダイバーズのリク」、獄炎のオーガといった「一桁の現人神」たちに敵わずとも、「二桁の魔物」に相応しい存在であることは伺い知れる。

 

「あのFOEさんに何回も懲りずに挑みかかっては塩試合で完封されてっけど、逆に言うならそりゃあ、あのFOEさんに完封するって選択肢を選ばせてるってことだ」

「……なるほど、鋭いですね貴女は」

「わりーけど、アキノが鈍いだけだよ。その分アキノはどんな敵でも恐れねーから、本質的にゃあのお嬢様に近けーのかもな」

「それは私を馬鹿にしてるのですか?」

「違ぇよ、褒めてんだよ。そう聞こえなかったらチィが悪かったけどさ……」

 

 

 勇気と蛮勇は違う、というのがチィにとっては座右の銘だが、それらは複雑なことに紙一重、背中合わせの存在であることは確かだ。

 露骨にむくれて頬を膨らませ、目を逸らすアキノに謝りつつも、チィはその蛮勇と勇気の違い、何をもって「匹夫の勇」から脱することができるのかについて思いを馳せる。

 この世に百パーセントは存在しない。

 例えばあのFOEさんが始めたての初心者に、そしてそのFOEさんとタイマンを張った上で堂々たる勝利を収めた二桁の壁、ジャバウォックの怪物と呼ばれる巨龍が負ける可能性があるかと問われれば、多くの人間はないと答えるだろう。

 だがもしその初心者が偶然死ぬほど作り込まれたダインスレイヴやアトミック・バズーカといった戦略兵器をどこかで拾って、それを偶然あの二桁の魔物たちのコックピットに直撃させたなら?

 答えは勝ちだ。このゲームにはコックピット判定が存在し、装甲値によって直撃かどうかの判定はブレるものの、SSランククラスが丹精を込めて作り込んだ戦略兵器の直撃をコックピットに受ければ、例え二桁の魔物だろうが一桁の現人神だろうが、そしてあの不動のチャンプ、クジョウ・キョウヤですら撃墜される。

 そんなことがあるわけないだろうと、天から降り注ぐ隕石に当たって死ぬより確率が低いことだろうとそれを言葉にして人々に聞かせたならその多くは笑い飛ばすだろうが、上位の魔物たちは本気でそれを恐れている。

 チィが以前、チャンプをいい意味で臆病だと評したのはこの辺りだ。

 そして、それほど無謀ではないにしろ、蛮勇と罵られてもその逆境を跳ね返し、見事にチャンピオンを屠るという偉業を成し遂げたのが「ビルドダイバーズのリク」なのだ。

 だがもし、チィがあくまで純粋なプレイヤーとして「リク」の立場であったなら、まずチィは挑戦を選ばない。

 当たり前だ。ありえなくないとはいえ、実現の可能性が著しく低い賭けに打って出るほどチィにその蛮勇と紙一重の勇気はない。

 だが、アキノはそうするだろう。そして、あの暴走お嬢様はその逆転劇を実現させるために日々二桁の魔物たちに喧嘩を売っている、それこそが答えに他ならない。

 それは、純粋にチィが持っていないものだ。だからこそ褒めたつもりだったのだが、生来の口の悪さが邪魔をしたらしい。

 少しの気まずさに肩を竦めて、弾き飛ばした1BCを、チィは手の甲で受け止める。

 

「……まあ、いいでしょう。チィ、貴女はクレバーな方です。私は秩序と安寧をこそ、このGBNに求めている……だから、今私を拾っていただいた恩義のあるリーダー、アイカさんが受けると決めたのであれば、私は無謀な任務であろうと喜んで引き受けましょう。ですがチィ、貴女はそうではないのでしょう?」

 

 アキノが言っているのは、今回の報酬がいかに破格であれ、それより更に破格な迷宮探索に対して一歩引いた目線で見ていた通り、いかに銭ゲバであろうとも無謀な賭けを嫌うはずのチィがわざわざ勝ち目の薄い戦いに首を突っ込む心理が理解できない、ということになるのだろう。

 

「アキノはさ」

「はい」

「今チィが手の甲に隠してるコインが表か裏か当てたら100BC貰える、って賭けを持ちかけたら受ける? 勿論外れても何もないよ」

「……それなら、受けますが」

「……っと、裏か。縁起わりーな……まあ、あくまで例え話だからやんないけどね。次の質問。今ここに、押すと1%の確率で100万BC貰える代わりに、外れたら残り全部の確率で50万BC持ってかれるボタンがあるとするよ、ならアキノは押す?」

「いえ、押しません」

「そういうこったよ。今回のミッションがあのお嬢様と執事の撃破って形のフォース戦だったら、チィはいかにアイカが決めようが、エリィが泣き喚きようが、アキノにぶん殴られようが断固として拒否してたよ」

 

 恐らく、エリィは同じ結論に達しているんじゃないだろうか。

 1BCの物質化を解いてストレージに戻すと、困惑するアキノに、チィはその鈍感さをどこかもどかしく思いながらも、胸の辺りに何か温かな綿を詰められていくような感覚を覚えながら答える。

 

「今回のクリエイトミッションをさっきのボタンに例えんなら、押すと1%かそれ以下の確率で400万BC貰えるけど、外れてもチィたちは何にも損しない……ただ悔しいだけ。それなら丸儲けだ。押すっきゃないっしょ?」

 

 それに、あの頭マクギリスお嬢様の撃破は必須条件じゃない。

 フォースの連絡網に表示されているクリエイトミッションの概要を提示しながら、チィは肩を竦める。

 

「なるほど、わかりました……ならば今回の作戦、想定されるバエルの足止めを私が行って、その隙に三人の内どなたかが宮殿に侵入すると」

「まあ、そうならぁな……ただ向こうさんもただのバカじゃねぇ。それを警戒してんなら、ミツルギってやつがどんなダイバーかは知らねえ……というかどこ探しても情報がなかったからわかんねえけど、恐らく奴さんらにはチィがミラコロ持ってんのと、アキノが強ぇことは筒抜けだ」

 

 まず、上手くはいかねえだろうな。

 溜息と共に連絡網のタブを閉じて、チィは厳しく顔をしかめる。

 

「ならば……」

「しょーじき言っちまえば、アイカとエリィに戦力としてチィは期待してねえ」

 

 ミツルギとやらがどれぐらいなのか、によってはあの二人も戦力として数えられるのだろうが、不確定要素があるなら常に最悪を想定した上でチャートは立てるべきだと、安定重視こそ絶対の正義だとチィは考えている。

 暴走お嬢様のバエルだけを考えたとしても、残念ながら、戦闘経験が少ないだけで機体の完成度は高い方なアイカはともかく、臆病でかつ、素組みのガンプラを使用しているエリィは、チャッピーの時のような鍔迫り合いすらできないだろう。

 

「けど……この戦い、案外鍵になんのはあの二人かもしれねぇぜ」

「と、いうと?」

「アイカはアキノに似てて、エリィはチィに似てる。まだ何もかんも足りてねえかもしれねえが……あいつらはニコイチだろ」

 

 だったら、アキノの勇気と合算して、ひょっとしたらこの無謀な賭けを覆してくれるかもしれない。

 結局最後はお祈りに収束することに苦笑しつつも、チィは全てのウィンドウを閉じてくるりと踵を返す。

 どんな奴にもいいところがあって、どんな奴にも悪いところがある。

 例えばチィたちを散々な目に遭わせてくれたあのモヒカン共、その親玉のモヒー・カーンは満場一致でダイバーのクズだと烙印を押されるような人物だが、初心者狩りに特化しているとはいえガンプラの製作技術もそれなりにあって、それなりに知恵も働く。

 ろくでもない使い方ではあるが、それは紛れもなく彼の長所といっていいだろう。

 誰に決して語ることもないが、それはチィのもう一つのポリシーだった。

 

「……チィ、最後に一つ聞いていいですか」

「残念だけどものによるね」

 

 金くれんなら考えなくもないけど。

 アキノに背中を向けたまま答えるチィの声はどこまでもドライだった。

 

「……貴女は、どうして報酬に……金銭に、そこまで執着するのですか」

 

 きっとアキノの問いかけには、「そこさえなければ頭が切れる参謀として、口こそ悪いがいいやつだ」という含意があるのだろう。

 その不器用さも含めて、誰かを慮って秩序的な正しさに引き込もうとするのはアキノの長所なのかもしれないが、それは裏を返せば、自分が正しいと思ったことは相手にとっても正しいという、危うい思い込みを抱いている短所に他ならない。

 そして、人の心には多かれ少なかれ触れられたくない部分が、答えたくない理由が深く埋没して根を張っている。

 

「……わりーけどアキノとチィは同じフォースでこそあれ、フレンドじゃねえからな。そこんとこ覚えとけよ。まあ……100万BC払ってくれるってんなら、あることないこと交えて面白おかしく語ってやっけど?」

「チィ……」

「……アキノこそ、なんでそんな、チィからしたらくだんねー、秩序とかルールとかに拘ってんだ?」

 

 ああ、答えなくていーからね。

 それだけ返して、チィは雑踏に紛れて消えていく。

 

「……私は……チィをもっと信じたいのです。仲間のことを深く知りたいと思うのは、いけないことなのですか……?」

 

 ぽつりとこぼれ落ちたアキノの言葉は、誰に届くこともなく、電子の海に溶けて霧散していく。

 きっとアキノの思いは正しかった。だが、チィの拒絶も間違ってはいなかった。

 だからこそすれ違う。正しさと過ちが、正解だけが常に正しいとは限らないこの世の、人の在り方から、電子の海にその意識を泳がせたとしても人の肉体が縛り付けて、傷つけあってしまうのだ。

 そんな、どこにでもありふれた、それゆえに流れることのできない痛みは、今日はアキノとチィに降り注いだ。

 ただ、それだけの話だった。

 




すれ違いって百合なんだよな……(彼は正気を失っていた)
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