あー、一面の砂だらけ。
ペリシア・エリアに通じるゲートを、受付からレンタルしたオフロード対応のジープで潜り抜け、同時に購入した一帯の地図に表示された目標地点の遠さに辟易しながらアイカは声には出さず、げっそりとそう呟いていた。
見渡す限りの砂、砂、砂。地方都市から数駅離れた辺りで見かける
GBNにおける世界の縮尺は、現実世界のそれと比べれば遥かに縮小されているが、それでも量子コンピュータの普及でCPUの処理能力が飛躍的に上昇し、またサーバー技術も大幅な革新を迎えたことで、現実と比べれば狭いもののゲームとしては極めて広大な世界を仮想の海へ浮かべて尚、二千万人のアクティブを養い切ることに成功している。
アイカたちが生まれる遥か昔、今よりコンピュータがローテクだった頃にもそうした「限りなくリアルに近い」戦場を作ろうと試みてオーストラリア大陸を実際の縮尺に限りなく近い形で再現したガンダムゲームも存在したが、巻き起こったのは興奮ではなく悲劇だった。
まず敵と出会えない。理由は単純に広すぎるからだ。
そして、プレイ人口が少なすぎたのもあるが、ジムに乗って当てもなく荒野を彷徨うこと何時間、ようやく向こう側から接近するザクの機影を視界に収めた時、果たして巻き起こるものが殺意や敵意であったのならその古豪はハードコアディメンション・ヴァルガを存分に楽しむ才能があることだろう。
だが実際は、それこそ果てのない砂漠でオアシスを見つけたが如く、「そもそもこのゲームをプレイしている同志」という貴重な存在に対して向けるものは銃口などではなく、純然たる友好だった。
茫漠の大地で連邦とジオンの垣根を越えて手を取り合う者がいる。
それは運営が目指していたものと遥か遠かったのかもしれないが、ガンダムとして見るなら極めて美しい光景だった。
しかし、ゲームとして見れば極めて屈辱的な反省点に他ならない。
リアルとリアリティは別物だ。そしてリアルに作ったことが面白さに直結するわけではない。
だからこそGBNのグラフィック班は、広大な世界を絶妙な縮尺に押し込めて、より解像度が高い世界のテクスチャを貼り付けることで旅路を苦にしないようにと最大限の配慮をしていたのだが、モチーフが砂漠となれば流石に限度はある。
「なんていうか砂しかないね、エリィちゃん……」
「……あ、あはは……砂漠、ですから……」
砂漠から砂を輸入することになる、なんてオチが付けられたブラックジョークが存在する程度に砂漠というのは不毛にして過酷な存在だ。
だからこそそんなものに地球が飲み込まれていくことへシャア・アズナブルは怒りを示したのだろうし、ハサウェイ・ノア──マフティー・ナビーユ・エリンもまたそれに追従したのだろう。
そんなガンダム作品の事情は知らないが、アクセルをベタ踏みしながらなんとか、地図上のビーコンを頼りに目的地へと向かえていることがわかる、それだけが救いな旅路をアイカとエリィは言葉少なく歩んでいく。
一説によれば「ビルドダイバーズのリク」は、駆け出しの頃に聖地ペリシアへと向かうこの不毛の大地を徒歩で踏破したなどという噂がGBNではまことしやかに囁かれているが、流石にそれは嘘だろうと、車を使っていても前に進んでいるのかわからず、正直挫けそうな砂塗れの景色を一瞥して愛香は溜息をつく。
「……夜……?」
エリィが呟いた言葉に返事をする前に、何やらかんかんと二人を照らしていた擬似太陽の光が遮られ、視界が暗くなっていくのをアイカは視認する。
まさかそんなに時間が経過していたのだろうか、と疑うが、遠くに見据える砂にその闇が落ちていないのなら。
アイカは咄嗟に上を見上げる。
そこにあったのは、関節にシーリングと呼ばれるカバーのようなものを被せる処理を施した、白と青、白と黒というHi-νガンダムとνガンダムを思わせる色に染められたカスタムモデルのガンプラが二機、轡を並べて悠然とペリシアの空を舞う姿だった。
そして二人はその内の片方に見覚えがあった。
「あのクアンタ、あの時の……」
「え、ええ……」
すぐにその姿は視界から消え、影が落としていた光は形を取り戻したものの、あの粒子のマントを翻すクアンタのカスタムモデルは以前にチィがハードコアディメンション・ヴァルガで、MPKに利用した、確かFOEさんとか呼ばれている歩く災害みたいなダイバーが駆っていたものであったはずだ。
もう片方、G-セルフを改造したと思しきものについては残念ながらアイカもエリィも知らないものの、魔物と一緒に行動するのは大体が魔物だと相場が決まっている。
多分、凄い人なのだろう。色んな意味で。
屑運なのか剛運なのかわからない、太古から生きる龍が空を舞う姿と遭遇したがごとく二人は顔を見合わせて。
「ぷっ……あはははは!」
「……ふふっ……えへへ、わたしたち……」
「うん、運が良いんだか悪いんだかわかんないねっ☆」
とはいえその出会い、乱数の神様が引き起こした気紛れは、一面のクソサンドブラウンに辟易した二人にとって旅路の清涼剤となりうるものだった。
地図を見れば、現在地に対してペリシアの位置が表示されるビーコンは丁度折り返しといったところだ。
「飛ばしていくよ、エリィちゃん。しっかり捕まっててねっ☆」
「は、はい……!」
多分、自分は免許取れないのかもしれない。
アクセルベタ踏みで加速していくジープの足元が、対策をしているとはいえオフロードに絡め取られるのを巧みに制御しながら、アイカは一心に聖地を目指して爆走するのだった。
ペリシアがビルダーの聖地と呼ばれるのにはそれ相応の理由がある。
荒寥たる砂漠を渡り切り、駐車場にジープを停めて見上げる中東風の街並みと、聳え立つ宮殿のような建物の美しさもさながら、その景色には決して現実であり得ることのないものが同居している。
ガンダム。正確には、ガンプラ。
アイカたちのようなごく普通のビルダーが聖地へその愛機を並べるには通常、極めて高いお値段の展示権を購入する必要こそあるものの、ここにその愛機を並べているビルダーのほとんどはこのペリシアを舞台にしたビルダーコンテストの常連であり、その上位報酬として与えられるフリーパスによって、渾身の作品を展示しているのだ。
そして何よりも訪れる者たちが異口同音に言葉にする面白さは、そのガンプラたちが、バトルを前提にしたものとは限らない、というところだ。
ペリシアの街に降り立って、お上りさんのようにきょろきょろと忙しなく周囲を見渡しながら、アイカとエリィはその超絶技巧をもって創り上げられた愛の結晶のどれから見ようかと悩み始める。
だが、アイカたちの目に真っ先に留まったのは。
「むむむ……なんか見てるだけで上手くなりそうって勘違いしちゃうぐらいよくできてるね、このガンプラ……」
「……これ、絵じゃないんですか……?」
「ううん、絵だったらダイバーギアにスキャンできないし、これ多分ガンプラを二次元の絵みたいに塗ったやつだよ」
二人が見上げる視線の先にあるものは、保護カバーを取り払って立ち上がろうとするRX-78-1、プロトタイプガンダムだが、そこにはいわゆる「ワカメ影」やハイライトなどが描き込まれることで、まるで騙し絵のごとくアニメのワンシーンを切り抜いてきたような錯覚を与える技法で作り込まれたものだった。
「それにこれ、多分旧キットを徹底的に改造してるやつだ……スキャンできてるってことはこの布っぽいのもプラ板で作ったんだろうし、え、え……? マジで……?」
「アイカさん……?」
「いや、凄すぎて言葉にならない……」
アイカは確かに四苦八苦しながらコメットコアガンダムを作り上げたが、旧キットと呼ばれるモデル群を当時のプロポーションから大胆に改修するのには技術もさながら、極めて高いセンスが必要になる。
アニメ「機動戦士ガンダム」に、プロトタイプガンダムという機体は登場しない。だが、目の前にあるガンプラはまるでそんなシーンが存在したかのごとく、「動」の中の一部を切り取ることに特化して、どこか昭和特有の手描きに宿る柔らかな雰囲気を与えつつも、メカとしては勇壮で鋭角的な印象を持たせるようにプロポーションの調整が行われている。
アニメ塗りの技法も、確かに素晴らしい超絶技巧であることに他ならない。だが、その真骨頂は塗りを活かすために入念に調整されたそのプロポーション調整にあるといっても過言ではない。
「……わたしは、ガンプラのこと……わかりません……」
「エリィちゃん」
「わたしがガンプラを見れるの、この世界の中だけですから……でも……このガンダムを見てると、なんだか、心があったかくなって……」
エリィはきゅっと胸元に腕を寄せて、その「今にも立ち上がらんとする」プロトタイプガンダムの姿を目蓋の裏へ焼き付けるようにそっと目を伏せる。
そこに、どんな祈りがあるのだろう。
アイカはほわほわとした柔らかく温かな雰囲気で、しかしながら敬虔な信徒のごとく祈りを捧げるエリィと、魂を尽くして作り上げられたプロトタイプガンダムとを交互に見遣れば、自然に口元が緩んでいくのを感じていた。
「ええ、それが愛……あのお爺様は、このプロトタイプガンダムにそれだけの愛を込めて制作しているのです」
そしてそんなアイカたちに、言葉をかける存在があったことに気付いたのは、鼓膜を甘く、小指の先でなぞるように甘い声が聞こえて数秒後のことだった。
声がした方に振り返れば、アラビアンな街並みにはなんだかミスマッチな、夜の帳を生地にして縫い上げられたような和服に身を包み、その長い黒髪を同じ色のリボンで飾った少女と、その半歩後ろでこれまたクソ暑そうな黒スーツに黒いトレンチコートという出で立ちの青年が静かに瞑目している姿がある。
「お爺様?」
「ええ、プロトタイプガンダムの足元にあるパラソルに座っている、あちらの御仁です……ふふ、ビルダーとしては極めて高名な方なので、こうして見ているだけでも励みになりますね……?」
全体的に甘美な眠気を誘う、飴玉でできた鈴を叩いたような声で和服の少女──ダイバーネーム「ユユ」はアイカの耳元に囁きかけ、掌で指し示した方角を振り返れば、そんなやり取りを交わしている二人とエリィ、そして瞑目する青年を、まるで孫を見るかのように穏やかな目で見つめる老紳士の姿があった。
彼が何を思っているかは、アイカにもエリィにもわからなかった。
だが、彼の作り上げた渾身の作品と、その瞳がどこまでも奥深く、果てのない光を湛えていることから、きっとそのダイバールックに違わず、どこまでも長い時間をかけてガンプラと寄り添い続け、ユユが口にしたように、我が子や孫を可愛がるがごとく「愛」を注ぎ続けてきたことだけはわかる。
「お久しぶりです。ご健勝で何よりです、そして……また一段と腕を上げられた」
黙り込んでいた青年は老人に歩み寄り、先ほどまでのどこか威圧されているような雰囲気さえ感じさせる仏頂面を緩めてそう言った。
あのクソ暑そうな格好の人は知り合いの元を尋ねてきたのだろうか。どこかハイライトのない死んだ目をしてこそいるが、その瞳に宿る熱意やリスペクト、そして──この聖地にはおよそ似つかわしくない、隠しきることのできない、果てのない闘争心にアイカとエリィは思わず身震いする。
「なんの……人生百年、それを考えれば儂もまだまだ未熟な身よ。だが、こうして孫のような若者たちに喜んでもらえたとあれば未熟千万なれどこの儂も……プロトタイプガンダムも、本望というもの」
「ご謙遜を。旧キット……その奥深さを貴方は追求し続けた、その愛が為せる業を見て、何も感じないビルダーなどいませんよ」
「ほっほ……精進なされよ、君たちに与えられた時間はまだまだ長い。そして儂もまだまだ長く生きるつもりだ、うかうかしていて抜かれてはかなわんからの……日々是精進、千里の道も一歩から。常に忘れず、挑戦者でありたいものよ」
完成とは絶望のことだと誰かが言った。
アイカには、まだその感覚がわからない。あのご老人が口にしていた言葉だって謙遜にしか聞こえないのだが、恐らくそれが本気で、自らを挑戦者と定義した言葉であることぐらい、その細められた目を見ていればわかる。
あれほどまでに登り詰めても、まだまだ先がある。あれほどまでに技術の奥底まで潜り、その手に収めてもまだまだ深く、ガンプラの可能性は広がっている。
それのなんと、途方もないことだろう。
今にも立ち上がらんとするプロトタイプガンダムと、ガンダムベースの店頭でサンプルとして展示されていたそれからほぼ完全に外装を作り直したのであろう、別物な姿をしていたアリアのガンダム・バエルを思い出してアイカは、そしてエリィは息を呑む。
「お兄様」
「ああ、ユユ……今日は君と付き合う約束だからね。それではお元気で、そして」
青年は老紳士と固い握手を交わすと、踵を返して振り返り。
「リビルドガールズのアイカとエリィだったか。君たちもまた……未来であいまみえることを楽しみにしているよ」
「ふふ……ユユも、いつか刃を交えることをお兄様と共に待っています。この電子の海で……そしてお兄様、今日はユユ以外を見ないでくださいと言ったはずですが……?」
「青田買いぐらいは許してもらいたいな」
「いいえ、ダメです。ユユは傷つきました……なので、埋め合わせは相応にしていただきますからね?」
「……そのノリを外でもやらなければ、って約束はどこに行ったんだ」
──名前が売れるのもいいことばっかじゃないんだけどねぃ。
アリアとのクリエイトミッションでの勝利とその難易度が丁度昇格ラインを満たしていたことでBランクに上がったチィが、どこか複雑そうにそう溢していたことを思い出す。
キョウスケとユユがどこの誰で、このGBNにおいてどんな位階にいるのかはフレンド申請をしたわけでも、プロフィールカードを交換した訳でもないからアイカにはわからない。
だがあの二人の目はアリアが向けてきたそれと同じ、穏やかに振る舞おうと決して隠しきれない、ギラつく闘争心に満ち溢れていた。
どこで何をきっかけに自分たち、放課後の部活の代わりみたいなフォースの名前が知れたのかはわからない。
だが、アリアは色んな意味で有名な存在だとチィから聞いていることから察するに、彼女に関するルートからどこかに流れていったのだろう。
「……あたし、お祓いとか受けてきた方いい?」
「……え、あ、その……えっと……じゃあ、わたしも……」
げっそりとしながら肩を落としてとぼとぼとペリシアの街を歩くアイカに、エリィはわたわたと身振り手振りを交えてフォローを入れようとしたのだが、これではフォローになっていない。
慌てて自分の両手で口を塞いで涙を浮かべるエリィに大丈夫、と囁きかけると、アイカは現実逃避とばかりに街中に所狭しと並んだガンプラたちを眺めながら、喉元まで出かかった溜息を呑み下す。
(まあ、別にあたしたち戦闘狂ってわけでもないしいいか……)
一応エリィが後継機を探している、という悩みでこの聖地ペリシアを訪れているのだが、アイカもエリィも流石にあの二人みたいに立っているだけで並のダイバーを恐れさせるような闘争心を持って、このGBNにログインしているわけではない。
もし何かの間違いであの二人に再会することがあったなら、それこそ乱数の神様が気まぐれに投げた百面、いや、一万面かそれ以上のサイコロが、盛大に
苦笑しつつもエリィと共に、先程のキョウスケとユユがそうしていたように腕を絡めて歩きながら、アイカは立ち並ぶガンプラの中からエリィに似合いそうなものや何か参考になりそうなものを探し続ける。
「エリィちゃんはなんか見つかった?」
「え、えっと……どれも凄くて、なんだか目移りしちゃって……」
「だよね、焦らなくていいからじっくり行こっか」
露店を営んでいるNPDにメロンジュースとイチゴジュースを注文し、メロンの方をエリィに渡しながらアイカは言った。
聖地というだけあって、ペリシアに並び立つガンプラはいろんな意味で凄まじいものばかりだ。
先程のプロトタイプガンダムがそうであったように、芸術作品として特化したものから、三桁の英傑と称される上位ランカーが組み上げた戦闘用のミキシングビルドまで、多種多様なガンプラが集うこの場所は確かに聖地の呼び名に相応しい、ビルダーにとっての理想郷だといえるだろう。
だが、そこには一つ問題があった。
「……す、すごすぎて……」
「うん、一周回って参考になんないよね……」
あのご老人のプロトタイプガンダムを最初に見たときは、あの不毛極まりない砂漠を抜け出せた高揚感でランナーズハイのような状態になっていたから、見ているだけで上手くなりそう、なんて錯覚を抱いたものだが、見れば見るほどどの作品も凄まじく完成度が高いため、何かを参考にしようにも何を取っ掛かりにすればいいのかよくわからない、という風情なのだ。
──ここにそんなこと書き込む暇があるならヤスリがけでもしてろ。
特定のパーツが強すぎる、といった類の文句や不満で、愚痴スレ以外のスレッドを埋め尽くそうとする荒らしが出没したときに、ビルド構築スレで無慈悲に放たれたその一言は、ある種の金言として今も語り継がれている。
あのご老人が口にしていたように、千里の道も一歩から、ということはわかっているのだが、その一歩が果たして千里の道に続いているのかを考えたときに、アイカも、エリィもまた暗澹たる気持ちを抱いてしまうのだ。
イチゴジュースを啜りながら、「二桁の魔物」が作り上げたと思しき、内部フレームから何まで全スクラッチしました! と機体説明に狂気の一文が記された105ダガーを一瞥して、アイカが溜息をついていると。
「わぁ……!」
「ん、どしたのエリィちゃん」
「アイカさん、あれ……!」
エリィがいつになく目を輝かせて指さしたのは、ペリシアにそびえる宮殿前に展開されていた一つのジオラマだった。
シン・アスカとマユ・アスカ。本編ではあまりにも凄絶な死別という結末を遂げてしまった兄妹が、怒りとは遠い無垢な、なくしていくばかりの幼い瞳で、マユがその頭にシンが作ったと思しき花冠を載せているのを見つめている姿と、そして、その花畑に膝をついて、ボロボロになりながらも血涙を流したようなフェイスエクステリアにさらなる憎悪を滲ませたようなデスティニーガンダムが、兄妹を優しくその掌で包み込んでいる──そんな、慈しみと哀しみが、悲劇と祈り、シンが本当に欲しがっていた世界とそれが叶わずに戦い、傷付き続けるデスティニーという景色が、宮殿の前には広がっている。
何故だかはわからない。
だが、アイカもエリィも、血涙を流し、憎悪に身を焦がしながらも花畑の後ろで燃え上がり、フェイズシフトダウンを起こしたフリーダムガンダムの残骸に背を向け、楽園で戯れる兄妹を優しくその掌に包み込むデスティニーの姿が、そしてその掌にはパルマ・フィオキーナという武器が搭載されている事実が無性に哀しく、胸を締め付けてくるように錯覚するのだ。
「……アイカさん、泣いて……?」
「エリィちゃんだって……」
アイカはガンダムのことをよく知らない。エリィもそれは同じだ。
だが、仮想の世界の中で展開されたそのジオラマはそこにある悲劇と果たされるべきだった祈り、そしてそれが叶わずに戦火へと飲み込まれていく運命がまざまざと表現されている。
技術的な面から見れば、元が1/144というスケールであるものをGBNの中では元のスケールに拡大しているのだから、あの表情と所作まで伝わってくるようなシンとマユは、小指の先ほどの大きさのフィギュアで作り上げたという、執念さえ感じさせるレベルの超絶技巧がそこにはあって、そしてジオラマの肝となる損傷したデスティニーもより慚愧にその身を焦がした印象を与えるようなダメージ加工と、フェイス部の改修などが行われていることをアイカは直感的に理解していた。
だが、肝要なのはその超絶技巧それ自体ではない。
──ええ、それが愛。
先程エンカウントした、ユユの言葉が脳裏を過ぎる。
そうだ。技術はあくまでも手段、どんな形であれ、己の中に滾る「愛」を表現することこそが、きっとガンプラの本質なのだ。
アイカは、胸に手を当てながら静かに目を伏せる。
愛。あたしにも、あるんだろうか。あたしは、どんな愛を。
「惑っているね、その愛に」
声が二人の耳朶を震わせたのは、エリィも同様に涙を滲ませながら、ジオラマが見せつける愛の眩しさを理解して目を逸らしてしまった、その時だった。
声のする方向にいたのは、薄い紫色の長髪を結い上げて、ペリシアのモデルとなったどこかアラビアンな服装をその細くしなやかながらも均整の取れた筋肉が浮かぶ身体に纏った、獣人姿のダイバーだった。
「……あ、貴方は……し、シャ……シャフリヤール、さん……?」
「ああ、そうとも。私がシャフリヤールだよ」
乱数の神様が振ったサイコロが、ファンブルを出したのか六ゾロを出したのかはわからない。
だが、アイカたちの目の前に現れたのは、間違いなく、世界一のビルダーと人々から畏敬の念を集める、シャフリヤール本人に他ならなかった。
FOEさんのお名前とシャフリさん初登場
Q.FOEさんのお名前出してよかったの?
A.アイカはキョウスケとFOEさんが同一人物だと知らないので