統合整備計画、というものがある。
簡単に言ってしまえば、規格が複雑化しすぎて整備班が死ぬほど大変だから共通化してしまおうぜ、という話で、兵器の種類が多様化しすぎた一年戦争期ジオン公国軍において提唱された計画なのだが、まあ、その話が出るのが遅すぎた。
一応の理屈づけとしてはOVA「ポケットの中の戦争」で登場するモビルスーツ群は当初、アレックスやケンプファーといったオリジナルのものを除けば「一年戦争期におけるザクやリック・ドムやゲルググを高い解像度で描いたデザイン」という、今でいうところのガンダムWにおけるテレビ版とEW版の違いがあったため、それを別機体として再設定するに当たって考案された設定なのだが──その経緯も不明瞭であるため今は割愛しよう。
ただ、この「多様化しすぎた規格の整備」というのは、現実世界においてもガンプラに導入される運びとなった。
より組み立てやすく、そしてよりミキシングしやすくすることで今までは高い擦り合わせの精度や真鍮線による軸打ち、なんなら関節の新造ないし市販パーツへの置き換えという極めてハードルの高い工作を簡略化し、「自分だけのガンプラ」を作りやすくしようという版元の試みだ。
採用された当初こそ共通化による関節部デザインの変更などで批判あったものの、それが成熟してきた頃には「機体の特徴を出来る限り再現しながら、出来る限り共通規格を取り入れる」という方向性へと変化したことで、ユーザーにこの試みは広く受け入れられることとなった。
だがそれは、新たな沼への呼び声に他ならなかったのだ。
──ミキシングというのは、複数のキットをミキシングするからミキシングというんですね。
当たり前のような言葉だが、ビルド構築スレに書き込まれたそのビギナーの言葉は迷言として構文化されつつも、ビルダーたちに自分たちがどのような行いをしているのかを直視させた恐怖の言葉として、茶化さなければやっていけない、ということでミームとなった側面を持ち合わせている。
要するに、金がかかるのだ。
ガンプラは、他社の版権ものキットと比べれば驚異的なまでに安価に抑えられ、そして異常なまでのパーツ精度と、恐怖さえ覚える成形色による色分けと、組み立てやすさの実現という一見二律背反とも取れる要素を両取りした狂気の産物だ。
全てはユーザーのために。その声に応える形で版元は日々努力を重ねることでガンプラをプラモデルにおける一つのジャンルとして確立するまでに至らしめた。
だが──当たり前だが、複数のキットを買えば、いかに単価がお安かろうとキットの数だけ財布にかかる負担は増していく。
一つキットを買えば沼に浸かるように財布を差し出し、二つ買えば更に倍、三つ買えばそのまた倍、そしてビルダーは今日も積みプラの塔を作りながら、版元にお布施をするように財布を差し出す。
故にガンプラ。故にミキシング。愛香もそれは覚悟していた。
覚悟こそしていたが、まとまった額の金が一気に飛んでいくというのは小市民としては胃袋が削られるような感じを覚えてしまうのがどうしても悲しいところなのだ。
絵理と分かれたあと、「AOZ」そして「チームの目」というコンセプトから、可愛さではなくあくまでも彼女の願いを叶えるためのガンプラは何かと電気街を駆けずり回っていた愛香だが、一つだけ誤算があった。
この「AOZ」のガンプラ、いわゆるレアモノ揃いなのである。
以前、受注販売限定という形で扱われていたそれらは通常の家電量販店や模型店に並ぶことは少なく、時期を逃せば大体が古物店でプレミア価格を付けられた状態で見かけることになる。
しかし、版元はGBNという追い風を得たことで強気の攻勢に出た。
そう、ガンダムベースのサテライト化である。
各種地方都市及び主要な都市にガンダムベースの分店を設立することで、本店であるお台場には及ばずとも直販店故の強みである限定品を扱える、という性質から、クリア成形や色変えなど、多彩な形でかつて通販サイトで購入した人間の面子を極力潰さない手段を選んで、自ら限定キットの供給体制を切り開いたのだ。
そして、今の時代でなければ愛香の財布は更に悲惨なことになっていたといってもいいだろう。
ガンダムベース、アキハバラサテライト分店。そこで奇跡的に見つけた、HGUCガンダムTR-6「キハールII(グリーンダイバーズ・イメージカラー)」の最後の一つ以外、「AOZ」に関するガンプラは狩り尽くされていて、一応覗いてみた古物店に並んでいた「ハイゼンスレイII・ラー」のお値段など、学生としてはとても手が出ないレベルのものであった。
だが、「キハールII」が残っていたことは、愛香にとって幸いだった。
幾つかのミキシング素材は必要なツールとともに家電量販店で購入し、薄くなった財布と厚くなった紙袋を抱えて家路につく中、スマートフォンで調べてみたところ、この機体はどうも「ヘイズルII」、その派生元となる「ウーンドウォート」に通じるもののようだ。
ミキシングをするコツとして、まず同じデザイナーであったり同じ作品、陣営の機体を素材に選ぶというビギナー向けのポイントを、図らずも愛香は抑えていたことになる。
そして更に嬉しい誤算だが、ウーンドウォートは愛香にとっても「可愛い」と思える、どこか絵理とよく似た、フードで目を隠しながら走り回るウサギのようなデザインであることが、モチベーションを高める要因となったのだ。
家に着くなり食事と風呂を済ませて、愛香は寝る間も惜しんで「キハールII」の組み立てと、そして「目」というイメージから連想した各種キットの武装及び個人的な目的で購入したキットを組み立てていた。
「……で、こんなになってるわけよ……」
「……あ、あの、愛香さん……む、無理は……しないでください……」
絵理にはぼんやりとしてよく見えなかったが、校門前で落ち合った愛香は輪郭的に、制服ではなく私服でおめかししているような気がするものの、その全身からはどんよりとしたオーラを漂わせていて、本気で自分のためにガンプラを組んでくれていたんだな、と察することはできたし、それ自体は嬉しかったものの、それ以上に痛ましい、というのが率直な感想だった。
絵理も、気合いを入れた服を母に選んでもらった。
夏の香りを漂わせる風が吹き抜ける、新緑のざわめきに釣られて、ふわりと白にアクセントとして所々水色が取り入れられたワンピースと、鍔の大きい、同じ色使いの帽子がはためく。
──絵理、美少女だよ。絶世のそれだよ。
徹夜でオーバーヒートしかけていた愛香の脳は、一段と気合を入れてきた絵理の姿を見たことで焼け切って、完全に宗教画を見るような、というよりはなんか負のオーラの漂う怪しげな信仰を抱いている者のような目で絵理を見つめることしかできなかった。
「あ、あの……似合って……ます、か……?」
自分では、見えないので。
絵理はおずおずと帽子を目深に被りながら愛香に問いかける。
「モデルかなんかって言われたら今のあたしは、ううん、今じゃなくても信じると思う。大丈夫、絵理はめっちゃ可愛いよ」
愛香もボケた頭をフル回転させてそれなりに気合いを入れた服装で絵理を迎えに来たのだが、なんというか素材が違うというか雰囲気が違うというか、透き通るように白い絵理の肌に白ワンピと大きな帽子なんて、こんな排ガスに汚れた都会の空じゃなくて向日葵畑とかそういう場所の方が遥かに似合うんじゃないかと、そんな早口での感想を脳裏に抱くが、徹夜明けの舌がついてきてくれない。
「あ、あの……」
「ん、いいよ」
「は、はい……失礼します……」
ぺたぺたと、声を頼りに距離を詰めてきた絵理の両手が自身の頬に触れる感触に、すっかり慣れたくすぐったさを感じながらも、なんだかこれもいつも通りになってきたな、と、愛香はそんなことを思うのだ。
絵理の指先は、滑らかで嫌いじゃない。
きっと目が見えない彼女からすればそれは目の代替とすべき切実な行為なのだろう。だが、愛香はそこに罪悪感を抱きながらも、どうしてか絵理に触れられることを好ましいと思ってしまうのだ。
「……ありがとう、ございます……よかった……」
「ううん、あたしの方が変なカッコしてないか心配だから……」
「……大丈夫、ですよ」
「ほえ?」
即答で返された予想外の答えに、愛香は素っ頓狂な声を上げる。
「……そ、その……愛香さんは、可愛いものが、好き、ですよね……? だから、その……愛香さんが好きなら、それを好きな愛香さんも、可愛くて……あれ、わたし、何を……」
ぐるぐると焦点の合わない左目を回しながら、絵理は混乱しつつもそう言い切った。
途中で何が言いたかったのか、自分でもわからなくなっているような風情だったが、愛香には、それだけでも、いや、他でもない絵理の口からその言葉が出てきたことが、何よりも嬉しかったのだ。
(……そういや、あたしがあたしの好きなもののこと、ううん、あたし自身を好きだって思ったこと、なかったな)
愛香の「可愛い」に対する渇望は、根源的な飢えのようなものだった。
いつも満たされなかった。いつも満足できなかった。
三位で終わった徒競走。ダメ金で終わった三年間。そして、いつも「クラスで三番目ぐらいに可愛い」と言われてきた自分の容姿。
だからこそ、愛香は三という数字が大嫌いだった。
そして、無意識でこそあるもののその永遠に付き纏う「三」から逃げ回るために、可愛いものを学んで、可愛いもので自らを飾るために、「可愛い」という価値に対していつも、砕け散った思い出を裸足で踏みつけながらその足元に積み上げて、血塗られた手を伸ばし続けてきたのだ。
両親との折り合いが悪いわけじゃない。
愛香には、人並みには愛されて育ってきたという自覚がある。
小学校の折に「自分の名前の由来を調べて作文にしましょう」という課題が出たときは、両親に緊張しながらその由来を尋ねたものの、帰ってきたのは真摯な、「誰かに愛される、ちょうど初夏に吹き抜けていく香る風に似た子になってほしい」というもので、心の底から安心したことを覚えていた。
だが、それは家庭の中での話だ。
家庭から出ればいつも愛香は三番目だった。家庭科の調理実習も、図工のコンペも三番目と銅賞で、中学校の時のダメ金だって金賞の中で最下位だったから、三番目だったから下された烙印なのだ。
「……ありがとね、絵理」
「……愛香さん……?」
思わず涙ぐんでしまったのと、声に嗚咽が混じっていたのはきっと徹夜明けで脳がおかしくなっているからだ。
きっとそうに違いない。
こみ上げる暖かさとむず痒さと少しの罪悪感と切なさに俯きながら、愛香は絵理の手を引いて、いつもよりちょっとだけ足早に通い慣れた家路を歩んでいく。
その想いの名前を愛香はまだ知らない。
けれど、吹き抜ける夏の香りを乗せて頬を撫ぜる微風は、そして、繋いだ手を交互に巡る体温と鼓動は、確かにその答えを知っていた。
アルフ・ライラ・ワ・ライラ。
シャフリヤールが必殺技とするその言葉の出典と由来こそ愛香は知らないが、名付けがもしも魂に在り方を刻む儀式であるのなら。
愛香は、間違いなくその答えに辿り着ける。
そう告げるかのように、絵理と愛香に吹く風は、言葉こそなくともそう語りかけて、彼方へと吹き抜けていくのだった。
「なんもないけどとりあえずゆっくりしてね、絵理」
「わ……えっと、お、お邪魔します……」
愛香の家は割と大きなマンションだった。
そしてかつての帝都、摩天楼がひしめく東京でその家を持つということは両親の仕事の大きさにも比例するということであり、銀行員の父は海外出張で長いこと留守にしているし、大手のゲーム会社でグラフィックデザインを務めている母もまた家を空けることが多い。
だから、絵理が泊まりに来ることに関して母も反対はしなかったし、いつも通り新宿のホテルで缶詰になっているという連絡が悲しみの絵文字と共にメッセージアプリに添えられただけだった。
絵理が指先で壁をなぞる時間を、自身の家の構造を刻み込むだけの時間を確保しながら、ゆっくりとその手を引いて自室へと愛香は招き入れる。
「絵理、ヘイズルII持ってきてくれた?」
「は、はい……ちゃんと……」
鞄の中から緩衝剤が詰められたタッパー──愛香と同様の保管方法を選んでいたそれをごそごそと取り出して、絵理は愛香へと自身の愛機を、想いのこもったガンプラを託す。
「思ったより共通部分多くて助かった……あ、絵理。これ、ログイン用のゴーグルだから今のうちに着けといて。着け方は大丈夫?」
愛香は受け取ったタッパーを机に置くと、同じく引き出しから取り出していたフルダイブ用のデバイス──標準的なモデルであるゴーグル型のそれを、絵理へと差し出す。
絵理は形状を把握するためにぺたぺたと入念に触れて確かめるが、それは確かに普段、絵理が使っているものと同じモデルだった。
「……は、はい……家にあるものと、同じです……」
「あれ、絵理デバイス持ってたの?」
「……え、えっと……はい……小さい頃からわたし、目が見えないので……母が、買ってきてくれるんですけど……どんなゲームでも、毎回いじめられるので……」
「……参考までに聞くけど、何買ったの?」
流石にVRMMOが全盛の時代で、絵理のような純朴な性格をした人間が何らかのカモにされやすいという傾向こそあっても、出会ってきたその全てで極端な話あのモヒカン共と同じような連中に囲まれるのはよっぽど運が悪いか、ゲームの方に問題があるかの二択だ。
そして大体の場合確率が高いのは後者である。
フルダイブゲームは発展途上のジャンルであるが故に玉石混交、巷で聞いた話では「筆舌に尽くしがたいバグの数々と破綻しきったメインシナリオがMMO要素によって更にクソゲーとしての完成度を高め、メインヒロインであるはずのキャラクターを躊躇なくぶん殴れるシナリオクリア時の数分間が最大のご褒美」という、何の冗談だと疑いたくなるようなクソゲーが存在して、そしてそのようなクソゲーは決して珍しいものではないというホラーなオチまでついてくる修羅の巷なのだ。
誰が呼んだか、神ゲーの中にあるだけハードコアディメンション・ヴァルガの方がマシ。
神ゲーの中にクソ要素が存在するのと最初からクソゲーなのでは天と地ほどの違いがある。
というかそもそもVRMMO市場自体がハードコアディメンション・ヴァルガみたいなもの。
散々な言われようだが、事実なのだから仕方ない。
そして、絵理の口から飛び出てきたラインナップは、そんな黄金時代が落とした影、夢追い人が半ばで力尽きたがごとく、死屍累々たる有様だった。
「……えっと、なんだか……お侍さんになって、皆で戦うゲームと……あとは、よくわからないですけど、いっぱい敵が出てきて、気付いたら360度包囲されてたりとか……ダンジョンを歩いてたら、床が抜けて……透明な敵に後ろから……」
「オッケーわかった。それは絵理が悪いんじゃなくてゲームが悪い」
さながらクソゲーの宝石箱だ。ナチュラルボーンクソゲーハンターとして生まれたのかと問いたくなるラインナップの数々だったが、泣きながらもそれらと向き合って、クリアこそできなくともそれなりに遊んできたからこそ、控えめな性格や、生来の視力に代替する感覚と併せて絵理はあの観察力を手に入れたのだろう。
とはいえクソゲーに遭遇できるのは大体ワゴンの中だと相場が決まっている。安物に手を出して大火傷、というのは黄金律だ。
実際愛香が古いデバイスを買い替える原因になったのは単純に古くなったというのもあればその、序盤のダンジョンで床が抜けて透明なラスダンの敵に殴り殺されるゲームで理不尽を死ぬほど味わった結果、デバイスを床に叩きつけてしまったからである。
「……?」
「絵理、幸せには本物と偽物の区別なんてないかもしれないけど、ゲームには神ゲーとクソゲーがあるんだよ……」
「……そ、そうなん、ですか……」
いっそ、知らない方が幸せだったのかもしれない。
絵理は自身のゲーム体験を振り返り、そこに微かな後悔を抱きながらも新しい方の端末で、予備機としてアイカからデバイスと共に渡されたプチッガイをダイバーギアにセットして、GBNへのログインを試みるのだった。
愛香はというと親友の惨憺たるクソゲー遍歴を哀れみながらも、渡されたヘイズルIIの頭部や四肢、そしてブーストポッドを分解して、自身が組み立てたキハールIIへと組み付けていく。
派生機ということもあり、元が同じ金型を使っているため、ヘイズルIIの組み込み自体は極めて順調に進んだ。
共通規格の恩恵である。元々バリエーションキットは組換えやすいとして定評こそあったものの、バリエーションキットが豊富に生まれたのも、ひとえにガンプラを多くのユーザーが買い支えてきたからに他ならない。
愛香は基本的な組み込みを済ませたキハールIIに、ヘイズルIIのブーストポッドを移植したことで3mm軸穴が解放されたことを確認すると、そこに自身のイメージする「目」と、その鍵となるパーツを組み込んで、それをダイバーギアに乗せた上で古い端末でログインする。
未完の黒兎は、跳ねるその時を台座の上で静かに待っていた。
絵理から譲り受けた心と、愛香から授けられた翼を得た機体がシステムの光に包まれてゆき、そこに愛香の意識を背に乗せて、兎は仮想の海へと跳躍する。
愛香の意識が降下して、その身体もまた電脳世界への門を潜ることで、校則に引っかからない範囲で茶色く染めたショートボブではなく、派手なピンク色をしたふわふわとカールのかかった長髪に、お団子状のツインテールを結え、瞳は鳶色から、そのハイライトに星を輝かせ、絵理と同じ青に染まった「アイカ」へと再構築されていく。
きっと今までは、「愛香」と「アイカ」はどこかで切り分けられていた。
アイカの両脚が、確かに愛香の意識を乗せて、ロビーへと着地する。
「よしっ☆」
古い端末で、ぶっ壊しかけてしまったものだがなんとか動いてくれた。
アイカはいつもの癖で右目の近くでピースサインを作る決めポーズをしてしまったが、それも含めて今は愛香でありアイカなのだ。
一足先にログインを終えて、現実と同じ髪型でありながらその色を白銀に、瞳を鳶色に染めて眼帯を解いた──この仮想の海では両眼が焦点を確かに結んでいる「絵理」を、「エリィ」を視認しながら、アイカは小さく苦笑する。
「……アイカさん、なんだか楽しそう……」
「そっかな、だとしたらエリィちゃんのおかげだよっ☆」
その言葉に偽りはない。
格納庫への転移を二人で選択しながら、アイカとエリィは顔を突き合わせて二人で、理由もわからずに笑い合う。
そして。
「これが……あたしの考えたエリィちゃんの眼だよ」
「わぁ……っ!」
格納庫に聳え立つ黒兎は、見た目だけを見れば白基調に染められた、グリーンダイバーズイメージカラーで成形されたキハールIIの頭部と四肢をヘイズルIIのそれに換装したことで、頭部を覆うセンサーこそないものの、概ねキハールIIと同じように見える。
だが、その手に握られているのはコンポジット・シールドブースターではなく、エリィが使い続けてきたヘイズルIIのビームライフルであり、腰部のドラム・フレームに接続された、愛機のブーストポッドから伸びているその兵装は。
「フィン・ファンネル……まだポン付けだから違和感あるかもしれないけど、ちゃんと形に合わせた設計図も作ってあるよ」
アイカにとって、戦場を見通す眼とは、ニュータイプが行う空間把握とオールレンジ攻撃だった。
戦場を俯瞰して空間をその手に握りしめるが如く、オールレンジ攻撃とはいつだって戦場の花形であり、そして自分で使うと非常に難しいものとして有名だ。
キハールIIについて調べる傍で、アイカが見ていたのは、チャンピオン、クジョウ・キョウヤと「ビルドダイバーズのリク」が凌ぎを削った、このGBNの命運を懸けた第二次有志連合戦の映像だった。
チャンプは現に第二次有志連合戦においては必殺技を撃たれるその瞬間まで、トランザム・インフィニティを発動したダブルオースカイと鬼トランザムを発動させたGP-羅刹を寄せ付けることなく、巧みなオールレンジ攻撃によって無力化している。
それは、チャンピオンが、クジョウ・キョウヤが、画面の正面だけではなく戦場という空間を立体的に把握することでFファンネルとシグマシスファンネルという二つの無線兵装を操っていた証左に他ならない。
エリィは、確かにチャンプと比べればまだ未熟かもしれない。
しかし、スペックの劣る機体で格上との戦いを凌ぎ切り、勝利へのワン・チャンスをもぎ取ってきたその観察力は、空間把握力は本物だ。
「……あ、ああ……ああああ……っ……!」
エリィは、生まれ変わった自身の機体、そこに「ヘイズルII」の魂が──エリィ自身には聞こえなかったものの、売れ残っていたガンプラの、強くなりたいと、主人のために役に立ちたいという願いを無意識に感じ取ったのか、そこにアイカが込めた魂と情熱を感じ取ったのか──いや、両方だろう。
感極まって、涙をこぼしながら電子の海に凛と蘇った黒兎の姿を見上げるのだった。
「……リビルドウォート……」
「うん?」
「……この子の……アイカさんが……わたしにくれた、思いの……名前です……」
まだ、細部まで詰め切れてはいないかもしれない。
だが、絵理は感涙に咽びながらも心からの笑顔を満面に咲かせて、高く跳ぶ日を夢を見続けていたその魂に名前をつける。
「リビルドウォート……うん、いい名前。あたしも……頑張らなきゃ」
未だそれは完成していない。このGBNの世界で戦うのであれば武装案の更なるブラッシュアップや重量バランスの調整、そして実戦試験という工程を最低限経なければ、机の上に描いた夢物語と同じなのだから。
──しかし。
しかしそれは、確かにこの瞬間、アイカとエリィ、二人の愛を一身に背負ってこの電子の世界に産声を上げたのだった。
電海や、産声上げるは愛の絵が、月に跳ねんと黒兎