「さて、と……」
色々とありすぎて今も割り切れない、絵理とのお泊まり会を終えた翌日、日曜日であることを利用して愛香は自ら設計した、リビルドウォートのサイズに合わせたフィン・ファンネルを作るために、これまた結構な出費で揃えたHi-νガンダムの可動式フィン・ファンネル計六基とプラ板をカッターマットの上に展開しながら、愛香は充電器に繋いでいるスマートフォンでGBNに簡易ログインをして、作業用BGMとしてチャンピオン、クジョウ・キョウヤによるプラ板削り出し耐久配信を再生する。
確かに自分の技術は、チャンピオンには及ばない。
プラスチック用ノコギリでパーツを切断し、その断面を削ることで敢えてサイズを縮小する「幅詰め」と呼ばれる工作。
画面の中に映るチャンピオンの手際は凄まじく、ヤスリがけという同じ作業を行うのにも一回一回の面に対する影響、エッジを潰してしまわないような力加減と当て木の使い方、それら全てを丁寧にやった上で遥かに早く工作を済ませていく彼と比較すれば、手探りで、しかしながら一歩一歩歩むように丁寧に工程を辿る愛香の進捗は遅い。
合わせ目消し、幅詰め、パテ盛り、ジョイントの置き換え、この後に待ち受けている各種工程を思い返すだけでも、心が折れてしまいそうになる。
それでも。
「絵理の魂を預かってるんだ……だったらやるっきゃない!」
休日一日で終わらなくたって、幸いなことに放課後という時間が自分には残されている。
愛香は落ち着け、と自分に言い聞かせながら、六基あるフィン・ファンネルの内、幅詰めが終わった一枚の大きさをノギスで測定し、それに合わせる形で残りのものにも同じ工作を丁寧に施していく。
νガンダム系列のキットを組むときに、なぜこのフィン・ファンネルという武器を組む工程で人は心が折れそうになるのか。
その答えは簡単だ。
フィン・ファンネルという武器は、一基のコアユニットに二つのヒンジで、二枚の放熱板状のパーツを接続する形で構成されている。
ならば六基のフィン・ファンネルを仕上げるために必要な板状ユニットの枚数は十二枚で済むかと思いきや、色分けのためにユニットは天面と底面でそれぞれ別パーツになっているために、実に二十四枚という同じパーツとヒンジが十二個、コアユニットもHGUCHi-νガンダムの可動式ファンネルの場合は二パーツ構成で作られているため十二個と、六基の武装を作るためにこれだけ多くのパーツを必要としているからだ。
改めて、自分の出した案ながら途方もないことをしていると愛香は苦笑するが、それでもこの一枚一枚の工程を一つ終わらせるごとに絵理が、エリィが望んだリビルドウォートに近づいていくと思えば、この苦行じみた工作にも耐えられる。
要するに、やってることこそ明確に違えど、作業を行う目的とそのベクトルは吹奏楽におけるバズィングでマウスピースを吹き鳴らす練習や肺活量と体力を鍛える為の走り込みと同じなのだ。
時間を忘れてファンネルを作り込んでいく傍で、まだ未完成のリビルドウォートに施さなければいけない改造の内、短時間で済みそうな工程を愛香は脳内でリストアップしていく。
(GBNで機体を使うなら、課題になってくるのは重量バランスと機動性、考えなきゃいけないのは役割に対して、それを果たすために必要なパーツ)
一つ一つを仕上げて少し大きさを余し気味にしたノギスを当て、誤差があればそれを慎重に修正していく、という工程を辿りながら、愛香はチィのガンダムグラスランナーと、アキノのミネルヴァガンダムのことを思い返す。
チィの愛機とアキノの愛機を比べた時に、総火力で優っているのはどちらかと問われれば、その答えは間違いなくアキノのミネルヴァガンダム、ということになる。
ならば、チィのグラスランナーはアキノのミネルヴァガンダムと比較して劣った機体であるのか?
答えは否だ。何故なら、戦いの中で背負う役割がまるで違うからだ。
例えばアキノの機体を、絶対に見つかってはいけないという条件のある偵察行動に出した場合、それを達成する確率は、ステルス兵装や観測機などを搭載し、機体を標準的なSDよりは遥かに大柄としながらも、十八メートル級の機体と比較すれば小柄なグラスランナーと比べて著しく低いと断言せざるを得ない。
ならば、チームの「眼」となるエリィの役割とは何か。
それは後方支援と遊撃、両面を兼ね備えたいわゆる「後衛」としての立ち回りを可能にしつつも「前衛」へのシフトも場合によっては必要となる、「射撃寄り万能機」というカテゴリのそれだ。
後方で戦場を俯瞰しつつオールレンジ攻撃を行い、もしアキノとアイカという前衛が何かしらの要因で崩れそうになったらそのリカバーとして前線を立て直す。
そのために必要なものは、機動力だ。
一旦作業を停止して、朝五時に起きて済ませていた「簡単な工作」が施された、リビルドウォートの両肩を愛香は一瞥する。
太陽炉。それが求める条件に合致した、愛香の答えだった。
原型機であるキハールIIにおいてはジェットエンジンという大気圏内で効力を発揮する特化型のパーツを敢えてGNドライヴに置き換えることで、汎用性を確保しながら、いざという時はトランザムで前線に急行する。
最悪、トランザムシステムの性質上高速での近接戦も可能となるのだが、エリィの性格上恐らくそれは本当に最後の手段であろうから、あくまでも加速装置兼出力向上装置と割り切った上でGNドライヴ、というトランザムを搭載する運用は、機体というよりはソレスタルビーイングの母艦、プトレマイオスⅡのそれに近い。
愛香が額に浮かんだ汗を拭っているうちにも、チャンピオンは流麗な手つきで図面をもとにクリアプラ板を見事なカッター捌きで切り出して、自身が愛用しているAGEⅡマグナムの「Fファンネル」と寸分違わぬ形状のものを四枚切り出し終えている。
「遠いなぁ」
愛香は、思わず苦笑していた。
作業工程を録画して、それを編集することで手元だけを映し、GBN内のアバターが後付けで何をやっているかを解説するというのがいわゆる「作業耐久配信」の趣旨なのだが、あまりにもチャンピオンの手つきは流麗で美しさすら覚えるために、画面の中のチャット欄には愛香と同じように「何言ってるのかも何やってるのかもわかるけどなんでそのスピードでその作業ができてるのかがわからない」という旨のコメントが溢れかえっている。
きっと何年も何年も、下手したら十年以上ガンプラと真剣に付き合い続けてきたからこそ、チャンピオンはチャンピオンたる製作技術をその手に収めることに成功したのだろう。
ならば、自分はまだまだスタートラインに立ったばかりだ。
愛香は新しいタブを開いて、並行して作業配信を行なっていたダイバーの「ディビニダドの翼を作り直す」なる旨がサムネイルに記された動画を再生する。
画面の中に映っていたのは、何やら世界の終末とかそういうシチュエーションが似合いそうな儚い雰囲気を漂わせるダイバーであり、「クオン」というらしい彼女はチャンピオンと比較しても決して劣ることのない手際で一枚一枚プラ板を切り出していくその作業に、「翼のどこを作っているのか」という解説を添えているのだが、やはり愛香はそれを理解できても、なぜそれができているのかという点においては納得がいかなかった。
それでも、GBNという世界に懸けて、自分と同じ工作を色々なアプローチで試みるダイバーが、あの仮想郷には溢れている。
今はまだ遠くて、比べるのも失礼かもしれないけれど。
それでも、いつかはきっと。そして、同じ世界を、電子の海を泳ぐ者の端くれとして、遥かなる頂点はどことなく、自分の背中を押してくれているような、そんな気がしたのだ。
エナジードリンクは健康に悪い。
繰り返し問題になってきたことで、規制ラインだとか何やらが今でも有識者間では熱心に議論され続けているのだが、それは横道に逸れる話だからどうでもいい。
だが美味しいものなど大体健康に悪いし、明けぬ夜を過ごすために一緒に踊り続けてくれるケミカルな死神の手は、愛香が作業を続けることを後押しし、暴徒の如く滾る血潮を心臓から送り出しながらも、一種のランナーズハイのように頭の中はクリアな状態を保ってくれる。
だからこそ愛香は実に一週間という期間で、リビルドウォートに組み込んだパーツの調整及びエポキシパテで作り上げた部分の完全な表面処理、そして全塗装という工程を完遂するという狂気を実行できたのだ。
「ふ、ふふふ……すごいね、あの破城槌……」
「あ、あの……アイカさん、目、目が……」
「アイカも暴徒の暗黒面に飲まれちまったか……」
「ごっめーん、何言ってるかわっかんない、でもなんか楽しくなってきた、あっはははは☆」
「アイカ、お労しや……」
なんだか最近全世界で一番強い格ゲーマーと互角に渡り合ったらしいアマチュアがその大会の場で宣伝したエナジードリンクを眉唾物だと思いながら服用してリビルドウォートを作り上げた愛香だったが、アキノはその「ヤバさ」を知っていたため、目をぐるぐるさせながらハイになっている愛香の姿にそっと目を伏せて溜息をつくのだった。
一応、そのエナジードリンクの名誉のために擁護しておくとそれの「ヤバい」というのは「危ない」という意味ではなく、何か怪しいものが入っているというわけでもなく、外国由来のそれは日本の同業他社が生産している類似商品と比較して、遥かに「美味い」という意味であることは明記しておきたい。
ぐるぐる目でGBNにログインしてきたアイカだったが、彼女の熱意がこもったリビルドウォートを学校で託された時、血走った目に不安は覚えつつも、エリィはそこに込められた想いの大きさに思わず涙してしまった。
まだ、GBNでその姿を見たわけではないから愛機との対面は果たしていないのだが、指先で触れた、艶消しトップコートを噴かれたガンプラ特有の少しざらざらとした感じが均一に全体を覆っている感触は、とりもせず塗膜を吹きすぎなどで垂らすこともなく、そして、軽く関節を動かした時に返ってきたちょうどいい抵抗感は、塗膜の厚みも計算に入れた上でクリアランス調整を完璧に施したという証だった。
アイカは謙遜して否定するが、そもそも製作講座があったとはいえ、原型機の存在しない「コアガンダム」の改造機を作っている時点で既にビルダーとしての技量は一定のラインを突破しているのだ。
「そんじゃあ慣らし運転かねぃ、せっかくエリィの新しい機体……いや、後継機のお披露目だろ? なんか派手にやりたいもんだがいいミッションとかねーかな……」
「あっはははは☆ この『終末を喚ぶ竜』ってクリエイトミッションとかどうかな、チィちゃん、エリィちゃん、アキノさんっ☆」
「アイカお前、もしかして自殺願望とかねーだろうな?」
「早まらないで下さい、アイカ……ああそこの方、ちょっと水を貸していただけませんか。我々のリーダーの頭を冷やしたいので」
「だ、ダメですっ、アキノさん……! あ、アイカさん、正気に戻って……!」
ランナーズハイが続いているせいでまだぐるぐると目を回している愛香が受けようとしていたそのクリエイトミッションは推奨ランクこそC、実際に受けられるラインはBランクからとなっていて、チィとアキノの二人が条件を満たしている以上「リビルドガールズ」も受注できたのだが、しかしてその実態は、Sランクダイバーですら苦戦を強いられる超絶高難度ミッションなのだ。
報酬こそ何百万単位で破格なものの、チィが数秒も経たずに却下した時点でその無謀さが知れるというものだろう。
噂によればあの不動のチャンピオン、クジョウ・キョウヤが「終末を喚ぶ竜」Any%RTAなる狂気のレギュレーションを突っ走ってワールドレコードを独占していたり、FOEさんが「中身」の入った「ジャバウォックの怪物」を倒すために何度もクリアして、チャンプの持つ記録と競り合いを続けていたりと上を見たら相変わらず頭がおかしい話が際限なく出てくるのだが、それでも今のアイカたちには早すぎる、というのは確か事実であった。
「……なあ、この放課後に駄弁ってるような連中が『リビルドガールズ』なのか? あの女マクギリスを敗った?」
「事前の情報だとアイドルっぽい女と泣き虫な女と銭ゲバと元シルバリィって話よ、アイドルっぽいかどうかはともかくそこにいる女の制服はシルバリィのやつじゃない」
「……銭ゲバがいるって話だが、訊くだけなら金取られねえだろ」
チィがその声を聞いたのは、暴走するアイカを宥めようと腰に縋り付いて涙を流しているエリィと、頭を抱えて本当にインベントリから飲料水を取り出してアイカの頭にぶっかけようかとアキノが検討している最中だった。
「そーゆーラガーマンのにーちゃんたちは何者なのさ? 言っとくけど事と次第によっちゃ質問だけでもチィは金取っかんね」
「その言い草……間違い無いな、あんたが『リビルドガールズ』のチハヤか」
「……質問してんのはこっちだぜ、疑問文に疑問文で答えろって学校で教わったのか? 教わってねーならさっさと帰って宿題でもやっとけや」
ラガーマンのような白と赤の横縞のダイバールックに統一し、男二人はフェイスシールドを装備し、「リビルドガールズ」のボロクソな前評判を語っていた女性はそれをつけていないものの、服装は男どものそれに準じたデザインである辺り、フォースと見るのが妥当だろう。
大嫌いな名前で呼ばれたことに怒りを覚えつつも、チィはこのラガーマンの格好をしていながらラガーマンの気高い精神とは程遠い連中を三下だと踏んで、敢えて煽るような口調で問いを返す。
「んだと、このガキ……!」
「やめろ、すまんなチハヤとかいうの。俺たちは『ボルケーノ』ってフォースを組んでるんだが、どうも掲示板であのマクギリスが異世界転生して生まれ変わったみたいな女を倒したフォースがいるって訊いて、探してたんだ」
「ふーん、じゃあ人違いじゃないっすかね、あと次チィのことをチハヤって呼んだらキレんぞ」
「あら、ザ・シルバリィ……あの自治厨フォースの服を未だに着てる女と仲良くしておきながらシラを切り通そうとするのは無理じゃないの? チィちゃん」
「シルバリィの残党なんて探しゃどこにでもいんだろ」
柄の悪い連中だ。和気藹々と雑談に興じる者が多いロビーでも煽り合う険悪な空気を持ち込んでくるその厚かましさに辟易しつつも、チィは後ろ手にコンソールを操作し、「ボルケーノ」の三人に見えないように最小サイズでタブを開きながら、三人組の情報を収集する。
(……こいつらマジモンの三下か、まあ……)
あまり芳しくない評判に違わず、「ボルケーノ」の三人を見るなら露骨に距離を取るダイバーも何人か見られる辺り札付きなのだろう。
とはいえ、相手が三下なら話は早い。
「おいアイカ、寝ぼけてんだか起きてボケてんだかわかんねえけどそろそろシャキッとしやがれ、
「はい? あ、あたしたちが『リビルドガールズ』であたしはリーダー……ってか代表者みたいなもんのアイカですけど、何か用ですかっ☆」
とうとう痺れを切らしたアキノに、彼女がインベントリから取り出した飲料水を頭から注がれたことでだいぶ正気を取り戻してきたアイカが、「ボルケーノ」のリーダーと思しき、プロフィールカードには「ヨシキ」というダイバーネームが表示されている男に話を持ちかける。
「単刀直入に言うぜ、俺たちは新進気鋭のフォースで、ビルドダイバーズへの挑戦を目指してるんだが……練習試合の相手になっちゃくれないか? その名前、ビルドダイバーズをリスペクトしてるんだろ?」
「ビルドダイバーズ?」
その名前こそアイカは知っていたが、別に「リビルドガールズ」という名付けに彼ら、伝説の英雄のような扱いを受けているフォースに肖ろうだとかそういう意図を込めたつもりは何一つとしてない。
「ビルドダイバーズを知らないの?」
「知ってますけど……別にあたしたち、あの人たちのこと知りませんし、なんなら戦うために集まったわけでもないんですけど」
「……過度な謙遜は煽りと同じだぜ、アイカちゃん。それで練習試合の件だが、受けてくれるのか?」
なんというか話が通じていない。
ぐいぐいと距離を詰めてくるヨシキに辟易しつつも、アイカはチィに目配せして、いつものあれは任せたとばかりに一歩後ろに下がる。
「50万」
「は?」
「チィたちが負けたらそんだけ払ってやんよ、その代わりにてめーらもおんなじ額払えよ、それ以外の条件で試合なんざ呑むつもりもねえしアイカからの許可も今貰ったばっかだ、どうする?」
「こいつら、言わせておけば……! いいわヨシキ、受けましょう。あいつに払った金がペイできると思えば儲け物よ!」
「ああ……後悔するなよ、『リビルドガールズ』……!」
「はいはーいっ☆」
いかにも三下とばかりの捨て台詞を吐いて、「ボルケーノ」の三人組は練習試合ではなく、チィを経由してアイカに伝えられた条件で正式に申し込まれたフォース戦の申請を受諾し、戦場へと解けて消えていく。
「それで、勝てるのでしょう?」
「おう、舐めてるわけじゃねーが連中……多分今のエリィと最高に相性がわりーぜ」
「……わ、わたし、ですか……?」
アキノがやれやれとばかりに溜息混じりで問いかけた言葉をチィは首肯して、威圧感を放っていた「ボルケーノ」の三人に怯えてか、いつの間にかアイカの後ろに隠れていたエリィに、いつも通り不敵な笑みを浮かべながらそう断言した。
「アイカが起きてもボケるぐらい頑張って、そんでアイカはチィとアキノよりエリィのことをよく知ってる……ま、エリィのガンプラがそう言ってんのかもしれねーぜ」
一足先に、とばかりに戦場へ解けていくチィの後を追って、アキノも粛々とミッションへの移行を選択する。
「……アイカさん、わたし……」
「うん、エリィちゃんとリビルドウォート……生まれ変わった二人の戦場だよ」
互いの手をキュッと繋ぎ合わせて、アイカはエリィの目を真っ直ぐに見据えて激励の意思をその言葉と共に送る。
リビルドウォートには、今全部自分ができる技術や思いと、エリィの魂が込められている。ならば、そうそう簡単に負けたりはしないはずだ。
しれっとフォース用の連絡掲示板に、煽り合っている時間でチィが収集していた「ボルケーノ」の情報が書き込まれているのを確認して、アイカもまた戦場へと一足先に旅立っていく。
勝てるかどうかは、正直なところわからない。Bランク三人という、エリィとアイカと比較すれば格上な戦力に加えて、傭兵として項目が追加されているダイバーのランクもAと、アキノに匹敵する存在を雇い入れているのなら、不利なのはこちらの方だ。
エリィも格納庫への転移を選択しながら、チィから送られてきた情報を読み込みつつ、ごくりと固唾を呑み込む。
だが、仮想の躯体が解け切って、格納庫に再構成された時、エリィのそんな憂いは、遥か彼方に消え去ってしまった。
「わぁ……! ああ……っ……」
──やっと、会えたね。
エリィはどこかでそんな声を聞いた気がした。それはエリィ自身の心がそうさせていたのかもしれないし、或いは本当に、格納庫にその威容を示すリビルドウォートの声だったのかもしれない。
かつての黒兎は、アイカの手によって塗料という名のガマの穂綿を纏ったことで白く、その姿を生まれ変わらせていた。
そしてエリィをイメージした色である水色に近いコバルトブルーが添えられて、アクセントとして差し込まれたオレンジイエローが全体を引き締めているその姿は、仮の姿としてお泊まりをした日に見た時と比べて明らかに全体がブラッシュアップされている。
ビームライフルは肩のGNドライブユニットと干渉しない程度に幅詰めされて、フィン・ファンネルも全体的に小型化され、天面に当たる部分はエポキシパテによって、キハールII由来の全体像とミスマッチを起こさないよう、曲面の目立つデザインに変化を遂げていた。
──負ける気がしない。
気が弱いエリィにしては珍しく、内心に湧き上がる言葉には自信に満ち溢れていた。
そのことに、エリィ自身もどこかで困惑しながら、きっとあの日にアイカの唇から貰った勇気がそうさせたのだろうと、自身の中に芽生えた思いを手放してしまわないように、胸をきゅっと握りしめ、そして操縦桿にその手を添える。
『いいかエリィ、伝えた通りだぜ! お前のデビューにチィたちは花を添えてやっから頑張れよ!』
『チィの作戦に私も従います。エリィ、貴女に銀翼の加護があらんことを』
『エリィちゃん、エリィちゃんとリビルドウォートの本気……あいつらに見せてやろっ☆』
ああ。その声があることの、なんと心強いことか。
エリィは仲間たちからの激励を抱きしめて、一人じゃないと、もう、何があったとしてもきっと──アイカたちは、傍にいてくれるからと、まだ心のどこかで震え、怯え、泣いている子供の自分をそっと抱きしめるように操縦桿を握りしめて。
「……エリィ、リビルドウォート……出撃しますっ……!」
今までのようにただ時間を稼ぐ役割ではなく、純然たる戦士の輝きを、フード状のパーツに隠れた、ガンダム・フェイス。そのツインアイに確かに光る。
そうして生まれ変わった白兎は、少しだけれどきっと大きな勇気を抱く主人を乗せて、夢見ていた戦場へと飛び立っていくのだった。
エリィ、その心と共に