「……ってわけでさ、推奨ランクCとか書いてあんのにチィは散々な目に遭ったんだよ畜生、ありゃ詐欺だ詐欺! しかもあれで第一関門とかどうなってんだよもう!」
チィは自身が取っていた「休暇」中に挑んだ迷宮探索クリエイトミッションにおける顛末を一息にぶちまけながら、不貞腐れて頬を膨らませながら注文していたアイスコーヒー──水を除けばカフェで一番値段が安い飲み物だ──を啜って、その苦みに顔をしかめる。
チィから聞かされたクリエイトミッションの内容は確かに凄絶なもので、そんな危険極まりない門番が最初のボトルネックになっているのだからCランクから受けられる、というのは確かに難易度詐欺に当たるのかもしれないと、アイカはぼんやりとレモンスカッシュを啜りながら、そんなことを考える。
「落ち着きなさいチィ、貴女らしくない……恐らくCランク推奨というのは、第一層から第三層の話で、攻略法もエネミーを避けるのではなく対峙して何度も倒れることが前提だと、貴女もわかっているのでしょう?」
何より、戦果だけ見れば丸儲けではないですか。
珍しく不貞腐れているチィに、ロイヤルミルクティーをかき混ぜながらアキノがフォローを入れる。
「……わーってるよ、でもいざボトルネック! ってヤバげな扉開いたら予想の数段上行くぐらいヤバいのが出てくるのはなんつーかこう……大人気ねーだろうが」
「……それもそうでしょう、あのクリエイトミッションのテストプレイヤーを見ましたが、クジョウ・キョウヤをはじめとした錚々たる面子が並んでいるのです、恐らく作成者はGBNにハイエンドコンテンツを残したかったのでしょう」
「マジで? うわ、マジだ……ってことはあの怪物作ったのにチャンプが一枚噛んでたって訳かよ、しかもパーティメンバーにいるのFOEさんじゃねーか! あの時MPKに使った天罰かよぅ……」
なんで最上位の奴らは人間災害みてーな奴しかいねえんだ。
恐らくGBNプレイヤーの七割ぐらいが同じことを考えているであろう捨て台詞を吐いて、チィはがくりと肩を落とす。
クリエイトミッションのテストプレイヤーを確認するなり涙目になってぺしょりと机に突っ伏したチィの頭を、苦笑を浮かべたアキノの掌がそっと優しく撫でる。
「あん? 何のつもりだよアキノ、哀れんでんのか?」
「いいえ、つい……貴女も歳に違わぬところがあるのだなと、そう思ってしまいまして」
「歳ねえ……まあいいや、それ以上チィの頭撫でたいなら友情価格で100BCもらうかんね」
無理やり撫でまわされたのを嫌がる猫のように顔を起こしてアキノの手をやんわりと振り払うと、いつものようにチィはニヒルな笑みを口元に浮かべて、右手の親指と人差し指で輪っかを作ってみせる。
「それでこそ貴女というものです」
「けっ、アキノもいい性格になりやがって……そんでアイカはなんでさっきから上の空なんだ?」
すっかりいつもの調子を取り戻したチィに指摘された通り、上の空になってストローで溶けることのない、オブジェクトとしてグラスの中を漂っている氷をひたすら掻き回すことに終始していたアイカの表情はまさに「無」だった。
さながら呼吸を楽しむが如く全ての考えを放棄して氷をかき回しながら、気が向いた時にレモンスカッシュを啜っているアイカは、いっそのことbotか何かかと勘違いしそうになってしまうほどに無をその全身に充満させている。
実際、そんなアイカを心配してかあわあわと控えめな身振り手振りを交えて何か現実に引き戻す話題はないかと探しているエリィがそばにいなければ、不正ログインを疑って運営に通報しかねないレベルで、今のアイカは虚無だ。
虚無虚無プリン、などというミームがあるが、ちょうどこんな顔がその言葉にふさわしいのではないかと、正直なところかける言葉が見当たらないアキノはロイヤルミルクティーを啜りつつ、エリィがぺたぺたとその頬を触るまで、全手動氷かき混ぜbotとなっていたアイカを見つめていた。
「……わっ、あ、エリィちゃん? ごめん、ボーッとしてて……チィちゃんもごめんね」
「……なんか随分深刻みてーだけどエナドリキメすぎた反動でも来たのか? それともガチで自殺願望でも拗らせてんの? わりーけどチィはそっち方面の相談は乗ってやれねーから医者行った方がいいぜ」
口こそ悪いものの、チィは何か信じられないものを見たような目でアイカを見ており、その眼差しには明らかに彼女を心配する意図が含まれている。
実際それほどに今のアイカは、他の三人からは深刻な状態に見えた。
何より、大好きなアイカに長いことぼーっとしていたとはいえ構ってもらえていなかったところを気付いてもらったエリィが、「良かった」とかそういう類の台詞を口にしないで、まだ心配そうに眦に涙を浮かべながらアイカをじっと眺めているのがその証拠だろう。
チィは訝るように、そして一度現実に引き戻したアイカの視線を明後日の方向へと逃さないように、じっと見据えて離さない。
「……うーん、いや、そういうガチな案件じゃないんだけど、実はちょっと悩んでることがあって」
「ガチじゃないってーと……」
「……GBNに、関わること……ですか……?」
問い返すチィとエリィの言葉を首肯して、アイカは別に隠すことでもないかと、自身がずっと悩み続けていたこと──コメットコアガンダムとそのルーツとなるコアガンダム、そのポテンシャルについての話を静かに切り出す。
「うん、あたしが使ってるコメットコアガンダム、キャプテン・ジオンのチャンネルで紹介されたガンプラだってことは知ってるよね?」
「ええ、確かにそのような放送がありましたね」
「それで、キャプテン・ジオンはコアガンダムを、プラネッツシステムっていう合体機構の前座に当たる形態じゃない、って言ってたんだけど……ねえ、エリィちゃん、チィちゃん、アキノさん。率直に訊かせてほしいんだけど、あたし、ちゃんとコメットコアガンダムを使えてる? アタッカーとして『リビルドガールズ』に貢献できてる?」
ここ数日、エリィとGBNでデートしては現実に戻れば穴が空くほど自身のリプレイと、キャプテン・ジオンの制作講座を見直すという生活を送っていたアイカの精神状態は、チィが心配するほどではないにしろ、明らかに危ういもので、危険水域にあるといってよかった。
どれほどリプレイを見返しても、正しい動きが何で、そしてどこまでが自分の腕で、どこまでが機体の性能なのかがわからない。
というよりも、リプレイを見れば見るほどわからなくなってくるのだ。
コアガンダムは前座なんかじゃない。キャプテン・ジオンの言葉と、自分が抱いた思いを忘れないように、機体の限界か、と思ったらすぐにリプレイを止めて彼の制作講座を見返す、というルーチンを繰り返していたのだが、不安は収まることはなく、むしろどんどんその言葉を疑うようになっていって、そんな自分に対して、アイカは嫌悪を抱いていたからこそ、考えることを放棄して虚無になっていたのである。
また氷をかき混ぜる全手動botに戻りかけているアイカにエリィがぎゅっと抱きついて、大丈夫です、と耳元で囁くことを繰り返しているおかげでアイカの意識はなんとかこの仮想の海に繋ぎ止められていたが、心はどこかに行方不明になっていることに変わりはない。
──こりゃ思ったより重症だな。
チィも中々かける言葉が見つからず、とりあえずこの中では一番、堅物ではあるが相談とかの類では頼りになると判断したアキノへと助け舟を求めるように視線を向ける。
しかしながら彼女も彼女でどこか上の空というか、アイカを助けようとはしているのだが、他のことに意識を持っていかれているような風情で、どうやらこっちもこっちで何かがありそうだと、チィは気分が重くなっていく。
なんだかんだでこのフォースは、アイカを中心にした縁で組み上がっている、というよりはアイカを中心に、エリィとアキノ、そして自身のGBNにおける関係を再構築したものだとチィは捉えている。
だからこそ、その中心であるアイカが機能不全になってしまうと色々と回らなくなるのは必然ともいえた。
チィは柄じゃない役割が回ってきたことに首を傾げつつも、アイカにこのまま虚無になられていても困るため、後ろ手に隠したコンソールから様々なタブを開き、アイカとよく似た悩みを持つ人間の相談を、各種スレッドから絞り込んでいく。
(……別にチィはアイカのママでもなんでもねえ)
そこまでする義理はあるのか、と、無料でそんなことをする意味はあるのか、と、チィの中にある意識がそう問いかけてくるのを感じつつも、チィはエリィがアイカをつなぎとめてくれている内に、超高速で縮小されたログをたどり続ける。
確かにチィはアイカの母親でもなければこのフォースの相談役でもない。ネゴシエーターは引き受けているが、それは金銭絡みの時だし、アイカの精神状態がヤバいなら、なんだかんだでエリィが繋ぎ止めてくれるだろうとそれなりに、信頼もしているし、なんなら今はちょっと心ここにあらずだが、アキノだって相談役としては十分素質はある。
だが、それでもエリィは自分のことで手一杯な性格だ。それでもアキノは、どうしても自分が正しいと思ったことは正しいと思い込んでしまう危うさがある。
ならば、消去法で残されたのは自分しかいないだろう。
チィは自分の口が悪いことも、相談には向いてない性格で、根本的に捻くれていることも、歪んでいることも自覚している。
だがそれは生まれ持った性なのだ。
チィがそのように生まれたのなら、どう思っても、どう抗っても変えることのできない呪いのようなものだともいえる。
だが、意味はなくとも義理はある。
問いかける意識をねじ伏せるように、答えを見つけたチィは、ボーッとしたまま虚空を見つめているアイカに向けて口火を切った。
「おい、アイカ」
「……ん、ごめん、チィちゃん……今日のあたし、なんかおかしくて」
「んなこた知ってらぁな、知らなくても見りゃわかる。チィはお前のママでも姉貴でもねえけどな、それでもお前は『リビルドガールズ』のリーダーだし、チィはそのメンバーだ。お前は立派に役割果たしてる、ってチィが今言っても、多分信じられねえだろ?」
「……っ、それは……」
「だから向き合うのは自分ってことよ、ってなわけでチィから出せる処方箋はこいつだ」
そう言って、チィがコンソールに表示してみせたのはある公式ミッションの概要だった。
ミラーミッション。見出しにはそう書かれているその内容を斜め読みしてみれば、どうもダイバーの感情データを参照した上で、本人の考えている課題と対応したミッションが二つのウェーブに分かれて提示され、それをクリアすると今の自分の行動パターンなどをほぼ完全に参照した自分自身のAIと戦うことになる、とある。
その代わり、月に一度しか受けられないために失敗したら再挑戦は来月に持ち越されるというその厳しい制約は、今のアイカにとっては劇薬となるかもしれない。
だが、チィはエリィにそうしたように、アキノにそうしたように、アイカにも確かな、人が信頼と呼ぶ、親愛と呼ぶ感情を寄せてその瞳をじっと見据えていた。
戦うのは自分自身。
チィからの言葉と、ミラーミッションの概要を見たアイカは、それを一息に飲み込むことこそできなかったが、きっとそれは正しいのだと、心のどこかでは理解していた。
悩みがあるとはいえエリィをおざなりにしてしまうなんて、自分らしくないし自分失格だ。だからこそそれでより自分を責めて、傷つけているのが今のアイカであるのなら、必要なのは慰めではなく、その恐れを踏み倒す勇気に他ならない。
「……ありがとう、チィちゃん。考えとくね」
「おう、三日ぐらいで元に戻っとけよ、チィはその間また上手い話を探してGBNを彷徨ってるからよ」
少し気の抜けた、アイカからの返事に苦笑しつつもチィはいつも通りに右手の指先で輪っかを作り、ニヒルな笑みを浮かべながらそう返した。
「……アイカさん……」
「エリィちゃん、ごめん……」
「……いいんです、わたしは……アイカさんが苦しんでたり……アイカさんが、悲しんでることが……自分のことより、悲しいから……だから……」
エリィは立ち上がると、茫洋とした瞳を彷徨わせるアイカへとその豊満な身体を押し付けるように力を込めてぎゅっと、その心に自分の熱が届くようにと、今も小さく震える彼女を抱きしめた。
小さなものかもしれない。自分では足りないかもしれない。
それでも、届いて欲しい。
叶わなかった願いの全てが叶った仮想郷にして理想の海だけれど、言葉に代えて唇を触れ合わせることができないという事実の、なんともどかしいことだろう。
そのジレンマに涙を零しながらもエリィは笑顔を浮かべて、そっとその背中に絆創膏を貼るように、傷口に痛み止めを塗るように頬をすり寄せる。
──ああ。願いが叶ったはずなのに、そこで叶わない願いが生まれるこの世界は、なんていじわるなんだろう。
立ち上がり、ふらふらとロビーに向かっていくアイカを見送りながら、とうとう浮かべていた笑顔を崩して、エリィはそっと、静かに涙をこぼし続けるのだった。
その背中に、アキノからの慰めと、チィからの激励と、そして。
(……ありがとう、ごめんね、エリィちゃん)
今は届かない、アイカからの証明を受け取りながら。
現実と連動して時間や四季が変動するディメンションは、仮想の海に浮かんだ世界であるGBNの中にありながらも折々の彩をその季節や時に合わせて、ダイブする者へと誇示している。
噂では、企業戦士たちが結成したフォース「タスクフォース・MN」がディメンション・シュバルツバルトにその拠点を構えているのは夜の十時から明くる三時の間だけ活動できる都合で、いつも夜なのと事実上変わりないから、四季の変化で悲しくなることがないようにという哀愁漂う事情を抱えているかららしいが、裏を返せばそれほどまでにGBNはリアルと密接しているということだ。
午前三時となれば、アクティブが二千万人もいるのに、日本サーバーのロビーを行き交う人々は少ないし、アイカがふらふらとコメットコアガンダムに乗ってディメンションを旅していても、機影とすれ違うことはおろか、レーダーに反応があることも少ない。
草原地帯の丘に機体を着陸させると、アイカはコメットコアガンダムに寄り添うように体育座りをして、電子の世界に浮かぶ夜空に漂う星々の数を数え始めた。
こんな時間にアイカがGBNにログインしている理由は単純だった。
眠れないのだ。
ミラーミッション。月に一度しか巡ってこないチャンス。
別に失敗したって、何かがあるわけじゃない。
あの時失敗した運動会や陸上競技会の予選みたいに。吹奏楽のコンクールみたいに。ただ、一ヶ月待てばいいだけだ。
だが、そこで失敗すればまた自分は何かをとりこぼしてしまうのではないかと、エリィと結びつくことで心臓の奥底で眠りについていたはずの「愛香」が金切り声を上げて泣き叫ぶ。
だがそれは、徒競走の時ともコンクールの時とも微妙に性質が違っていた。
それを失敗することで失うと、アイカが恐れているのは、個人としてのアタッカーとしての才能がないと突きつけられることではなく、「『リビルドガールズ』の面々に対してそのリーダーという立場についている自分」が、アタッカーとしての才能がないと突きつけられることこそが、一番怖いのだ。
そして。
「……あたしは、君のことが好きだよ。エリィちゃんとおんなじぐらい大好きだよ、だから……吹部の時みたいに、君のせいにしたくないんだ……」
コメットコアガンダムの装甲を指先でなぞるアイカの瞳から、はらはらと涙の滴がこぼれて落ちる。
仮想に作られた重力に従って地面に落ちていくそれは、夜空に瞬く星々になることはない。
さながら落ちては燃え尽きる流星のように、星が浮かんだアイカの瞳からは絶え間なく涙がこぼれ落ち続けるのだ。
機体が悪いだなんて言いたくない。でも、自分はどこかで機体のせいにしてしまうことを恐れている。
だって、実例があるから。
愛しているはずのコメットコアガンダムに、何度も過去の罪を詫びながら、それを償うかのようにアイカはせめて俯くことがないようにと歯を食いしばって顔を上げながら、夜空の星を数え続けていた。
そうすれば、眠れるのだろうか。
──でも、GBNの中で眠ってしまったらどうなるのだろう。
強制ログアウト措置が働くのか、それとも意識が電脳空間に閉じ込められてしまうのか。
その声が聞こえたのは現実逃避をするように、アイカがそんなことを考え始めた時だった。
「……コアガンダム、ですね」
「えっ……?」
いつからそこにいたのか、黒いコートに青髪、その内側には赤いメッシュが入ったそれで片目を覆い隠しているという出で立ちの少年はコメットコアガンダムとアイカを交互に見ると、ぼそりとそんな言葉を口にする。
「確かにこの機体はコアガンダムだけど……あなたもキャプテン・ジオンの動画見たの?」
「……キャプテン・ジオン? すみません、それは知らない……でも、僕もコアガンダムです」
「僕も……?」
不思議な子だ。
深夜だから独特な子がログインしているのかと、てっきりアイカはそう思ったのだが、アイカが涙が浮かんでいる眦を擦っている間に少年の姿は解けて、眼前にはアイカのそれと細部こそ違えど、確かに「コアガンダム」の系譜である機体が姿を現していた。
「えっ……?」
『モビルドール……ELダイバーとしての、僕の姿です。なりたいと思った』
ELダイバー。GBNの中に発生した余剰データから生まれた、電子生命体。
あまりGBNにもガンプラにも詳しくないアイカでも、ニュースで大騒ぎになっていたからその存在はガンダムやガンプラに触れるよりも早く知っていたし、ガンダムベースの本店ではその第一号である「サラ」が特別店員としていつも来客を出迎えていることもよく知っているが、こうしてGBNの中で実例と出会うのは初めてだ。
それに、通常のELダイバーであれば、「サラ」がそうしているように、自身のアバターを模した姿である「モビルドール」という人型に極めて近いフルスクラッチビルドの身体にその魂を宿しているはずなのだが、目の前にいる少年はその赤いコアガンダムが自らのモビルドールだと宣言している。
赤いコアガンダムの姿が解けて少年のそれに変わっていく一部始終を目を見開きながら見届ける頃には、アイカの涙はすっかり引っ込んでいた。
「キャプテン・ジオンを知らないのに、コアガンダムを作る……? ううん、なろうとしたの?」
「はい、キャプテン・ジオンという方は知りませんが、僕はコアガンダムと出会ったので。そして」
すっ、と静かにコメットコアガンダムを、アイカのすぐそばで途方に暮れたような顔をしている桃色の星屑を指差すと、その少年は無邪気に首を傾げて、アイカへと問いかける。
「あなたは、アイカは……上手く言えないけど、コアガンダムが好きだと、そう思いました。違いますか?」
「……っ、あたしは……」
「僕には、アイカの気持ちはわかりません。でも、アイカのコアガンダムは……そう言ってると思うんです」
まだ、そっちも上手くわからないですが。
ぶっきらぼうだが優しさの感じられる声音で少年は告げると、どことなく誇らしげに、原型機よりも柔らかな目つきとなったコメットコアガンダムに視線を合わせて、そっと微笑んだ。
「あたしのコアガンダムが……? あなたは……?」
「僕はリゼ。僕だけのコアガンダムに、そして僕だけのコアガンダムで、チャンピオンを目指しています。だから……どこかでまたきっと会うかもしれません」
──その時は、アイカも、コアガンダムも悲しくなくなってるといいです。
同じ仲間を見つけたよしみとでも言いたいのか、リゼと名乗ったその少年はアイカへと不器用に、それでも優しくその言葉を残すと、現実へと解けるようにログアウトの光に包まれて消えていく。
「……彼は生まれたばかりのELダイバーでね、少し言葉が拙いのは勘弁してあげてほしい」
困惑していたアイカに追い討ちをかけるように、新たな声が耳朶を震わせる。
リゼの純朴さとは違って、人当たりの良い優しげな雰囲気を漂わせるその声にアイカが振り向けば、そこにいるのは黒を基調とした制服に身を包んだ、すらりとした長身に金髪という、美青年という言葉が似つかわしい男性だった。
そして、アイカはその青年を知っていた。青年はアイカを知らずとも、この電子の海に足を踏み入れて泳ぎ出したのであれば、その顔と名前を知らずにいることの方が難しい、GBNの頂点。
今、アイカの目の前にいるその青年こそが、二千万人の頂上に君臨する、不動のチャンプたる男、クジョウ・キョウヤ本人に他ならなかった。
ランダムエンカは突然に