ガンダムビルドダイバーズ リビルドガールズ   作:守次 奏

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気付いたら八月が終わりそうなので初投稿です。


第三十八話「舞い降りる黒銀の剣〜アイカ、その巡礼へ」

 結論からいえば、バトルロワイアルミッションは今のアイカという剣を鍛えるのに打ってつけの鎚と金床であった。

 ヴァルガほどに理不尽が降りかかってくるわけではないが、「はじめの三十秒」が終わった後の緊張感は勝るとも劣らない。

 そして何よりも、勝ち抜き戦という性質とフォースによる談合が合わさったことで、アタッカーだけでなくサポーター、シーカー、スナイパー、アサシンなど多様なビルドが一つの戦場に集まるのは、「尖った」構築が極めて多いヴァルガと違って、ある種健全なGBNの縮図ともいえる。

 大体八回目ぐらいまで、アイカは油断したところにチィから刺殺、爆殺、狙撃手や暗殺者、奇襲攻撃を利用した間接的なプレイヤーキルという「鬼」の指導を見せつけてくれたが、そのおかげもあって、通算四十回のチャレンジでアイカの動体視力とコメットコアガンダムという機体及び、戦場への「慣れ」は飛躍的に向上していった。

 懲りずにミラージュ・コロイドを展開しての奇襲を試みる暗殺者たるブリッツガンダムの肩を装備したエールストライクを、その挙動で発生した土埃から位置を割り出すことで先行確殺しながら、アイカは狙撃手による攻撃と上空からの奇襲を警戒して即座に仕留めた機体から距離を取る。

 そして、その予感は程なくして現実となった。

 アイカがブリッツストライクとでも呼ぶべきその複合機を撃破したことを視認していたのか、ウェイブシューター形態に変形したZガンダムNZCが、シールドから拡散ビーム砲をアイカの周囲へと撃ち下ろす。

 

『おほーっ、また会ったわねアイカちゃん』

「……あたしは会いたくなかったけど」

『その養豚場の豚を見るような目、たまらないわね』

 

 機体のセンスは極めて真っ当なのに性癖と言動が壊滅的な長い赤毛の女性ダイバー……ZガンダムNZCを操る、顔のアクセサリーにディスプレイ状のものを装備し、そこにしょぼーんとした感じの顔文字を浮かべている「ポーク」は奇襲が通用しないと見るや先に飛んだことを咎める、どこかから飛んできたバスターライフルの一撃を急速変形解除で回避し、ビームサーベルを振りかぶってアイカへと斬りかかる。

 

『今のも避けるなんて、出荷されても構わないわね』

「淡々と変なこと宣うのやめてくれません?」

 

 ポークからの飛びかかり攻撃を回避した隙を狙ったと思しきシーカーが背後のレーダーに映ったのを確認すると、アイカはコアスプレーガンの最後の残弾を使ってノールックでそのジム・スナイパーIIを撃ち抜くと、弾切れしたスプレーガンを捨てずにブラフとして保持したまま、ZガンダムNZCとの相対距離を取る。

 距離をとっている間にも漁夫の利を狙っての長距離射撃が飛んできたかと思えばそこから射線を割り出されてエリィに撃墜された後にジャミングがかかったのかレーダーの光が点いては消えて、という、慌ただしく戦場の情勢が移行していく中で、アイカはとりあえずこのポークを全力で撃墜(出荷)すべく、なんとか勝利の方程式を考える。

 

(戦場の割合でシーカーとスナイパーは意外と少ない)

 

 確たる理屈があるわけではないが、それは通算四十回のダイブで、アイカが得た戦場の肌感覚だった。

 そしてそれは、概ね間違っていない。

 狙撃手は確かに乱戦から身を引いて、漁夫の利を狙うことが可能な、一見バトルロワイアルというルールにおいては最も有利に思える構成だ。

 しかし、射線が割り出されたり、そもそも乱戦エリアが絶え間なく移動し続けるバトルロワイアルの性質故に、撃てば自らの姿を曝け出すのに等しいというジレンマが付き纏うため、スナイパーでこの戦いを生き残るのは、純粋な特化構成ではなく他に隠し球を持った、射撃寄り万能機とでもいうべき存在か、リアルでそういうお仕事をされているような凄腕しかいない。

 ならばシーカーとして最後の一人になるまで隠れ潜めばそれで勝つのかと言われればそれも難しい。

 アキノが初手でやらかしたように、ステージギミックの破壊も三十秒が過ぎれば公然と認められているし、何よりもステージが毎回同じ森林エリアに固定されるわけではないため、密林迷彩を施した機体で逃げ隠れしようと思ったら要塞内部が戦場でした、なんてことも往々にしてあり得るのだ。

 そしてシーカーというのは、このゲームの本質であるキルポイントを稼ぐのには極めて向いていない。

 このバトルロワイアルミッションでなぜ談合が発生したのか、という根本的な問題なのだが、それは一重に「ダイバーポイントの大量獲得が見込める」、俗にいううまあじなミッションであるためだ。

 だからこそ談合で口裏を合わせてそれとなく協力し、敵がいなくなればさっきまで味方だったフォースメンバーと凄絶な足の引っ張り合いをするというギスギスオンラインが展開されることも珍しくはなく、むしろチィのような荒っぽい「指導」を受けても仲良くしていられる、「リビルドガールズ」のようなフォースの方が少数なのである。

 まあ、「リビルドガールズ」はそもそもアイカの認識ではそんなポイントに一喜一憂するガチフォースなどではなく、放課後に集まって駄弁りながら部活をするような感覚なのだが──それは今は置いておこう。

 ならばソロ専は余程な腕がない限りシーカーとしてまずあじを受け入れてでも夕飯にカツ丼を食うのか、それともヴァルガスタイルな神風アタックで収支を黒字にして死んでいくしかないのか、という疑問に対する回答が、暗殺者、アサシンスタイルだった。

 シーカーのように隠れ潜み、狙撃手のように位置をバラすのではなく迷い込んできたカモを確実にキルしてポイントを稼ぎつつ生き残る。

 それはソロ専の最適解として一時は確かにバトルロワイアルミッションの環境を席巻したものの、あまりにも警戒されすぎて、ハイパージャマーやミラージュ・コロイドで隠れる相手はむしろわかりやすい、とまで上位までいつも生き残っているダイバーは評しているほど、タネが割れてしまっているのだ。

 とはいえ、アサシン構築がこのミッションにおいて未だ強力なスタイルであることは変わらない。

 抜け目なくアイカとポークの両獲り天誅を狙った、ハイパージャマーを発動して切りかかってくるガンダムデスサイズヘルの攻撃を、アイカが「どこから狙ってくるか」を考えて先行入力したスライディングで回避したことで、体勢を崩して姿を現したデスサイズヘルを、ポークのシールドに埋め込まれたメガ粒子砲が収束モードで焼き払う。

 

『ば、バカな……リビルドガールズ、やっぱお前らチンパンの巣なんじゃ──』

「あ?」

 

 爆散寸前のデスサイズヘルに黙れとばかりに頭部バルカンで追い討ちをかけてしれっとポークのキルポイントを掻っ攫いながら、アイカはおよそアイドルっぽいロールプレイをしている人間が浮かべてはいけないような目で、爆散するデスサイズヘルのダイバーを睨みつけた。

 

『おほーっ、その目よ、その目が好き』

「……ああそう、とりあえず……」

『やんやん?』

「……エリィちゃんの為とか関係なく死ねぇッ!」

 

 アイカはブラフとして用いていたスプレーガンを敢えて取り落とす真似を見せて、ZガンダムNZCが一瞬動きを止めたのを確認すると、そこに躊躇いなく飛び蹴りを放ち、組み伏せたコックピットに左手で引き抜いたビームトーチを突き立てる。

 

『そんなー』

「……アオヤギとかいう相方がいない以上どこ行ったかが問題、潜んでる……?」

『奴さん開幕で死んだよ、ミネルヴァブラストとかいうのに巻き込まれる事故で……改めてそんなー』

 

 話を聞いていないアイカに妙に親切な遺言を残して、ポークの機体は爆散した。

 戦場に残っている機体は残り十五機だ。

 始めたときに何機いたかは数えていないが、すぐ近くにいたのであろうエリィからのデータリンクで送られてきた戦場の概況を一瞬だけ確認して頭に刻むと、アイカは上がってきた息を整えながら、まだ恐らく隠れ潜んでいるベテランの狙撃手や暗殺者を警戒する。

 リビルドウォートは魔改造を施されている為わかりづらいが、元々が哨戒機としての性質を持っているキハールIIで、顔を覆うセンサーユニットは撤去されたものの、残された通信用アンテナはサイコミュの制御アンテナとしてのプラグインを埋め込みこそしたものの、その機能もまた生き残っている。

 むしろ、サイコミュとGN粒子の親和性もあって、そこにエリィの観察眼が加わることでその性質をより強固にしたといってもいい。

 複数の敵機に囲まれながらも、決して怯むことなく、相対距離を維持しているエリィと思しきレーダーの点を確認して安堵しつつ、アイカが思考を切り替えようとしたその時だった。

 

『──貰ったぞ』

「しまっ……」

 

 その一瞬こそ、一流の暗殺者にとっては何よりも甘美な蜜。

 ただ闇雲に鴨を狙って姿を現したのでは三流、キル数よりも隠れ切ることを優先し、自衛のためにキル数を稼いで初めて二流、そして一流はキルポイントをたらふく稼いだアタッカーの一瞬の隙を狙って漁夫の利を獲得してこそだ。

 そう言わんばかりに、密林に溶け込んでいたNダガーN──絶妙なタイミングでミラージュ・コロイドを起動することでアイカが数えた「十五」の中から外れることで欺瞞を成功させていた──がコールドブレードを構えて、コメットコアガンダムのコックピットへと飛びかかった、刹那。

 

『弱い者から狙う暗殺者か……卑怯者め、恥を知れ!』

『何っ……!?』

『銀の誇りと翼にかけて──天誅!』

 

 突如として高速で飛来してきたその機体は、乱入者に驚いて動きを止めてしまったNダガーNを、両手に携えた、グレイズリッターのナイトブレード鉄血のオルフェンズシリーズオプションセットに収録されているバトルブレードをグラファイトブラックで塗装した双剣を振るって、文字通り、暗殺者に対して上空からの攻撃で天から誅伐を下した。

 その行動は、見る者が見れば極めてヒロイックなものに映るだろう。

 だが、砂埃が晴れて視界に現れたその、シナンジュ・スタイン──ナラティブバージョンだ──に、Hi-νガンダムヴレイヴとプロヴィデンスガンダムをミキシングしたその機体に対して、アイカは感謝よりも先に嫌悪のようなものを抱いていた。

 

「……弱い?」

 

 別に、アイカは自分が強いなどとは思っていない。

 世間的には「アリアに勝った」とされているが純粋な力のぶつけ合いという意味では完敗だったし、今もアリアとプラクティスモードで何度か剣を交えたことはあったが、その全てで敗北を喫している。

 単純に気に入らないのは目の前にいる人間を初手から不躾に弱者と呼ぶその態度だ。

 黒と銀を基調とした、アキノが着ているそれとよく似た軍装のような衣装をその身に纏う黒髪のダイバー……「リヒト」は、アイカが反射的に呟いていた反駁に対して何か気を悪くすることもなく、当然のように言葉を返す。

 

『君は弱っているだろう、疲れているからだ。だから弱者だ。そしてそういう奴から先に付け狙うアサシンやシーカーのような卑怯な存在を、俺はこの銀の誇りに──ガンダムエリュシオンに懸けて絶対に許さない』

 

 ──なんというか、絶望的に言葉が足りない人だった。

 弱い奴には興味がない、と自覚しているバトルジャンキーのような性格かと思いきや、意外と「弱者」の定義はしっかりとしていて、見る人間が見ればやっぱり好漢に映るのだろうとアイカは思ったが、それでも、どうしてかこの「リヒト」なるダイバーに対しての嫌悪感が拭えないのは。

 

『GBNには秩序と安寧が必要だ……俺はこのバトルロワイアルミッションを談合で醜く染めた奴らも許さない、アイカだったか、君はまだ、君の機体はまだ強くなれるかもしれない。だが、フォースによる談合のような不正に手を染めているなら、そして最後の一人になったのなら俺とガンダムエリュシオンが斬り捨てる』

 

 そんな捨て台詞を残して、リヒトは六人ほどが固まっている、恐らくフォースの談合により生き残った連中に彼の言う「誅伐」を下すべく、猛スピードでアイカの元から飛び去っていく。

 

「……なんなんだろう、この人」

「……えっと、ごめんなさい、アイカさん」

「……エリィちゃん、もしかして?」

「……えっと、その……フィン・ファンネルです……っ、えいっ」

 

 嫌な奴、と吐き捨てる程度の奴に意識を持っていかれていたのが敗因だった。

 アイカはいつの間にか頭上を取り囲んでいたエリィのリビルドウォートが飛ばしたフィン・ファンネルに焼き払われて、地獄の戦場から一足先に自由にさせられる。

 

(ああ、エリィちゃんもすっかりたくましくなって……)

 

 ──協力してもいいけど互いに遠慮は無しな。

 バトルロワイアルミッションを受けるとき、事前にチィが残していた言葉に従って、エリィはアイカを撃墜すると次の戦場へと向かっていく。

 最初は味方を撃つことを遠慮して、逆にチィに暗殺されたりアキノの大技に巻き込まれたり、アイカに撃たれたりしてフラストレーションが溜まっていたのかそれとも順調にGBNに染まっていったのか、十五回ぐらい目の挑戦からはメンバーが多い内は協力するものの、少なくなったら容赦はしない、という普段のおどおどした感じからは想像もできない苛烈さを見せるようになっていたのだ。

 今やられたのは完全にアイカの失策だったが、それでもエリィが、「絵理」が、ゲームの中とはいえ立ちはだかる敵に対して「抵抗」という選択肢を、涙を流すことなく選べるようになったのは大きな成長かもしれない。

 そんな親友の成長をしみじみと噛みしめながら喜びに浸るアイカだったが、それでも、リヒトの残した言葉は奥歯に挟まったかのように、残響を脳裏に響かせていた。

 ──君は、君の機体はもっと強くなれる。

 四十回の挑戦を経て、アイカは確かにコメットコアガンダムの小柄な体躯と大剣を使う戦い方をものにしてきた。

 だが、ビルドボルグの展開に一手間かかる性質や、そもそも上半身の装甲が薄いことで不意の被弾からビルドボルグが使えなくなったり、装甲が分厚い相手にはコアスプレーガンが効かないといった事態にも遭遇している。

 ──ならば、あのムカつく奴の言葉が意味しているところとは。

 エリィが程なくして撃墜され、ヘイトを買ったことで序盤に退場したアキノ、そしてそれに巻き込まれて気付いたら死んでいたチィと、四十回の挑戦を経ても尚、「リビルドガールズ」は最後の一人になれなかった。

 それほどまでにGBNはまだまだ奥深い。

 噂の「リビルドガールズ」などと呼ばれていても、アイカたちはようやく立ち上がって歩き始めた子供のようなものだ。

 だが裏を返せば、それは無限の未来があるということでもある。そしてそれは、大いなる喜びに他ならないのだろう。

 ただ、アイカにはそんな喜びが自分たちに残されていることよりも、リヒトの奥歯に挟まったような言葉が脳裏から離れてくれないことの方が気がかりで仕方なく、それを気にしてしまう自分に対して、嫌悪が拭えないのだった。

 

 

 

「うーん……」

 

 購買争奪戦に巻き込まれるのを嫌って、通学路の途中にあるコンビニで購入した、食パンの白い部分だけを切り出したものにブルーベリージャムを挟んだ簡易サンドイッチのようなものを頬張りつつ、先日のバトルロワイアルミッションのリプレイを見て、愛香は気怠い唸り声を上げる。

 

「……ど、どうしたんですか、愛香さん……? ま、まさか……わたし、撃っちゃったこと……」

「ううん、そっちは嬉しいんだけど」

「う、嬉しい、ですか……?」

「だって、絵理にとってガンプラバトルがようやく楽しくなってきたってことだしょ? あれって撃つのも撃たれるのも醍醐味みたいなもんだからね」

「……は、はあ……」

 

 すっかり戦闘狂な感じの思考回路に染まっていることに気付いていない愛香と、自分がガンプラバトルを楽しみ始めている、という言葉に困惑しつつも、絵理は確かに、今まで泣いてばかりだった自分があの戦場で涙を流すことは少なくなったと、感慨のようなものを夕張メロンクリームパンと共に噛み締める。

 なら、何をもって愛香の機嫌は斜めに傾いてしまっているのだろう。

 絵理は眼帯をそっと触りながら、ぼんやりと滲んでしか見えない現実の「愛香」がどんな表情をしているのかわからないことにもどかしさを覚えながら、食べかけの夕張メロンクリームパンを机に置くと、その頬にそっと両手で触れた。

 

「……ん……」

「……あ、愛香さん……なんだか、困った……困ってる顔、してます……」

「うん、実際困ってるんだよね」

 

 絵理にぺたぺたと頬を触られながらもそれを気にせず、愛香は慣れてもちょっとくすぐったい感じにどこか安心を覚えながら、自身の悩みを吐露する共に溜息をつく。

 

「……え、えっと……わたしで、よければ、その……わたし、愛香さんの……その……」

 

 もじもじと頬に触れていた手を離して、瞬間湯沸かし器のごとく耳まで真っ赤になった絵理はごにょごにょと口ごもるが、最後の方は吐息と同化しつつも、確かに「彼女」と呟いていたように、愛香には感じられた。

 ──そっか、彼女か。

 愛香は初心に頬を染めて、頭から湯気を噴き出している絵理のことを可愛いと思いながらも、予想外の言葉に苦笑する。

 ずっと普通だと思ってたけど、確かにもうあたしたちは親友の延長線からはもう確かにはみ出てしまっているのかもしれない。

 何度も重ねているお泊まり会や、逆に絵理の家に泊まったとき、絵理のお母さんらしい金髪碧眼の女性から「絵理を末長くよろしくお願いします」と言われたり、必要もないのに絵理の家でも入浴や寝床を共にしていたのだから、確かにもうそれは普通じゃない。

 普通じゃない、といわれるとなんだか悪いことのような気がするが、愛香にとってそれは不思議とあのリヒトに言われた「強くなれる」という嫌味に聞こえる激励よりもはるかに甘美で、むしろ、悪いことだったとしても絵理と共犯者になれることが嬉しいとさえ感じるのだ。

 ならば、恋人に悩み事の一つも隠しておく必要はない。

 苦笑と共に自分たちの再構築された定義を噛みしめながら、愛香はその唇から何事もなかったかのように、いつも通りに言葉を紡いでいく。

 

「いや、なんかバトロワミッションで会ったダイバーからお前は弱いとかもっと強くなれるみたいなこと言われたんだけど、あたしが限界なのか、それともこの子がもっと飛びたいって言ってるのかわからないんだよね」

 

 コメットコアガンダムが梱包されたタッパーが入っている学生鞄を指差して、愛香はお手上げだとばかりに溜息とともに肩を竦めて片目を瞑る。

 

「……愛香さんは、今でも……十分、強いです……」

「そうなのかな……」

「で、でも……」

「でも?」

「……わたしのリビルドウォートみたいに……愛香さんのガンプラが、何かを思っているなら、そうなのかなあって……うぅ、その……役に立たないアドバイスで……」

 

 ──迷った時は、足元を見るといい。

 いつか、シャフリヤールから贈られた言葉が、エリィの控えめなアドバイスと重なり合う。

 

「そっか……」

「……へ……?」

「ありがとね、絵理。なんか見えてきた気がする」

 

 さすが頼りになる、あたしの彼女。

 小さく絵理の耳元でそう囁きかけると、愛香は早速もくもくと簡易サンドイッチを牛乳で流し込みながら、再び瞬間湯沸かし器になって処理落ちしている絵理の姿に目を細めながら、脳裏に浮かんだその言葉を何度も繰り返す。

 足元。どっちが足りてないとか、どっちが足りてるとか、もしもそれを知りたいのなら、やっぱりこの子に聞くしかない。

 部屋の片隅に積み上がったガンプラの箱と、コメットコアガンダムの姿を脳裏に描きながら、アイカは一つの考えを立てる。

 確か、アジアン・エリアに、タイガーウルフ道場と呼ばれる、フォース「虎舞龍」のフォースネストがあったはずだ。

 己のガンプラ道に迷った時、多くのダイバーは彼の元を訪れて、言葉ではなく対話(物理)でぶつかり合うことでガンプラの声を聞いたという逸話が、スレッドには多く残されていた。

 なら、旅をしよう。

 コメットコアガンダムが、本来生まれた目的のために。それを果たすために、戦いから離れて旅をして、もう一度見つめ直そう。

 噂によればアジアン・エリアのインドを模したエリアはアクセサリー屋と売れないパーツ屋、その店主である二人のSSSランクダイバーが事あるごとに些細な因縁から災害級のフリーバトルを始めるという噂があるが、そんなのはただの都市伝説だろう。

 問題は、絵理の家に泊まった時、一緒に参加することを約束してた、はじめてのフェスイベントがあることだけど、それには間に合わせるとしても、自分探しの旅という都合上、絵理を巻き込むのもコメットコアガンダムが妬いてしまう気がして。

 愛香はフェスまでの期日を逆算しながら考えを立てて、一つ、稲妻のようなものが脳裏に閃いた勢いに乗せて、静かに、周りには聞こえないように真っ赤になった絵理の耳元に囁きかける。

 

「ねえ、絵理」

「は、はい、愛香、さん……」

「あたし、GBNを回ってこようと思う。だから……フェスには間に合うと思うけど、しばらく絵理とあっちで会えなくなるからさ」

 

 ──しばらく、うちに泊まってかない?

 そんな、どこか寂しさを埋め合わせるように、それを感じさせないように苦笑のオブラートに包んだ恋人からのラブコールを、絵理は二つ返事で、というよりは顔を真っ赤にしたまま何度もぶんぶんと首を縦に振ることで、承諾するのだった。




†黒銀の剣†

【ガンダムエリュシオン】……リヒトが操る、シナンジュスタイン(Ver.NT)をベースに、Hi-νガンダムヴレイヴのフェイスや両腕、プロヴィデンスガンダムのバックパックと頭部アンテナをミキシングしたガンプラ。二本の実体剣を主体として戦うため、プロヴィデンスのドラグーンはサイコミュジャックへの対策も兼ねてインコムと選択式の運用ができるようにしているガンプラ。

【リヒト】……ダイバーネーム、リヒト・フェーンミッツ。何やらアキノと同じような制服を着て、独自の正義を掲げて戦っているようだが……?

【絵理の母】……本名アリス・悠陽。金髪碧眼の白人女性で、夫に先立たれてしまったため、女手一つで視力を奪われた絵理を護りながら育て上げてきた娘と同じく心優しい性格をしているものの、良くも悪くも大らかではっきりと物を言うため愛香と絵理の関係に公認を出してしまったが、部署こそ違えど愛香の母と絵理の母は同じ会社で働いていることを知らないため給湯室などでうっかり喋ってしまいかねない、いろんな意味で絵理とよく似ている人。
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