自分探しの旅に出るといって、自分を見つけて帰ってきたという話は聞いたことがない。
大学生の間で、特に就活を控えて自己分析やら企業研究やらとてんてこまいになって、
しかし、愛香が旅立った電子の海の巡礼は、非常に実り多きものだったといっても過言ではない。
自室のベッドで絵理がすやすやと寝静まっている夜、リビルドウォートを作る時に幾つか予備やもしもの用途で考えていたガンプラと、いつもの一ミリプラ板、そして工具と粘土板を持って食卓に移動しながら、愛香は電子の海のピルグリムとなった二日間の旅路を振り返る。
タイガーウルフ道場。まず最初に立ち寄ったその場所で見たものは、狼をイメージしたダイバールックに身を包んだ道場主たる男、「タイガーウルフ」が、弟子たちを相手に修行をつけている、いつも見られるような光景ではなく、偶然にも愛香と同じ目的でか、道場での稽古のために訪れたダイバーと道場主が戦う姿だった。
──上位ランカーの奴らは災害みてえなやつしかいねーのか。
以前にチィがそう溢していた通り、タイガーウルフと来訪者の戦いは正に災害と形容するのが正しいほどに凄絶なものであった。
プラクティスモードに設定されていたため、弟子の一人に案内されて観客席に着座した愛香や、タイガーウルフの弟子たちがその余波に巻き込まれることこそなかったが、あれがフリーバトルであったなら恐らく、タイガーウルフの道場はどちらが勝ったとしても完膚なきまでに破壊し尽くされていたことだろう。
『次元覇王流……旋風・竜巻蹴り!』
『大技と見せかけてその本質は回転を活かしたラッシュへの移行も可能としていることか! 噂には聞いてるが中々やるぜ、次元覇王流!』
『今のが、次への布石だと見切ったタイガさんこそ流石です、オレも胸を借りに来て、本当に良かった!』
赤髪を逆立て、胴着に身を包んだダイバー、「ワールド」が操る、極限まで作り込まれたカミキバーニングガンダムと、タイガーウルフが操る【ガンダムジーエンアルトロン】は、愛香が間近で見ていても何をしているのか、その全てを見切ることができないほどに千変万化の拳を打ち合っていた。
ある時はカミキバーニングが次元覇王流なる聞いたこともない格闘技で、果敢に攻めかかったかと思えばタイガーウルフは「柔」の動きで、その「剛」の拳を制して、流れるように反撃へと移った彼のラッシュを、動体視力を活かした回し受けやカウンターで真っ向から受け止めるワールド、という奇しくも対極的な格闘スタイルにしてトップランカーの二人が拳を交えるという光景は中々見られるものではない。
数少なく、愛香が見切ることができたのは、タイガーウルフがその剛毅な見た目に反して、戦い方は柔らかく、一枚の枯れ葉が宙に舞うような回避をしたかと思えばそれを大胆かつ精密な攻撃に繋げる、正に虎の大胆さと狼の慎重さをその身に宿したダイバーであるということと。
「……聞いたことない格闘技だけど、あれの本質は技じゃなかったなあ」
切り出したパーツに対するやすりがけという苦行を淡々と、しかし丁寧にこなしながら愛香は、ワールドが用いていたなんだか強そうな字面の格闘技が繰り出す大技の数々を思い出す。
例えば、空高く飛び上がって相手を蹴りつける「次元覇王流・聖槍蹴り」という技は一撃必殺を目的とした、後に隙を生み出す大技だと愛香は思っていたのだが、ワールドは敢えて相手の回避を読んだ上で着地点をずらし、蹴った足を軸足にしてのラッシュコンボへの移行へと繋げてみせたのだ。
タイガーウルフの本質が「柔」であるならば、ワールドとその次元覇王流の本質は「剛」だ。
現実においても東京、具体的には葛飾区の下町辺りに道場を構える、一発一発が必殺に匹敵する型を持つその流派には、奥義と呼べるものは存在しない。
その派手な名前と動きに惑わされるが、次元覇王流の真髄とは鍛え上げた己の肉体と精神こそにあり、だからこそワールドは必殺の型を当てることを意識するのではなく、それをブラフとした上で基本的な空手に近い技術による攻撃で、タイガーウルフへのアプローチを試みていたのだ。
カミキバーニングガンダムとガンダムジーエンアルトロンの一進一退の攻防は実に一時間以上にも及び、トップランカーがトップランカーとして二千万人の天辺を維持し続けているその所以である集中力は決して、その試合中に二人とも切らすことはなかった。
だが、それでも勝負を決めた者がタイガーウルフであったのは、「敢えて行くものが勝つ」という、GBNに残された詠人知らずの格言がそうさせたのだろう。
小足からの蹴り技でタイガーウルフの体勢を崩すことに成功したワールドが放った「自分だけの奥義」である、「カミキガンプラ流・鳳凰覇王拳」は確かに膝をついたジーエンアルトロンを、そしてタイガーウルフを飲み込もうとしていた。
だが。
『決着を焦ったな、ワールド!』
『まさか!』
『タイガー! ウルフ! あの鳳凰を……食らい尽くしやがれぇッ!』
その両手に、肩から分離した虎と狼をモチーフにしたのであろう武装──ナックルガードを携えると、狼の牙はその身を焼かれながらも鳳凰の首へと食らいつき、炎上効果を持つ鳳凰覇王拳に肉を焼かれながらもその骨は真っ直ぐに立ち上がり、中心の当たり判定という致命の一撃となる部分を虎のその身が受け止めて、タイガーウルフは満身創痍になりながらも、確かに必殺を受け切って立っていた。
『龍虎……道!』
そして呑み込んだ炎のお返しだとばかりに、明鏡止水の境地に達して全身が黄金に光ったジーエンアルトロンは、狼と虎の拳から照射ビームにも匹敵する拳圧──その必殺技を放つと、必殺の代償としてそのエネルギーをほとんど損耗していたカミキバーニングを呑み込まんと咆哮する。
だが、ワールドもまた猛者であることに違いはなかった。
放たれた龍虎道を真っ向から受け止めるという選択肢をしつつも、基本の型となる「三戦」の姿勢で衝撃による反動を軽減し、そしてタイガーウルフへの意趣返しとばかりに、二つの拳圧が交差する中心点を粒子を纏った掌底で弾き返すことでその必殺を無力化したのだ。
しかし──それが、タイガーウルフのトップランカーたる所以なのだろう。
ワールドへ更なる意趣返しとばかりに彼が選んだのは、「必殺技をブラフとする」ことであり、龍虎道を打ち終えた硬直が解けたその瞬間にタイガーウルフは機体を大きく前に進めて、そのニークラッシャーで満身創痍のカミキバーニングを見事、打ち砕いてみせたのだ。
感動していた。
愛香がその時見た光景に対する心情を表すのであればその一語に尽きる。
「ガンプラって、あそこまで動かせるものなんだね」
作業を見守る主として、リラックスした姿勢で食卓の反対側に座しているコメットコアガンダムに、苦笑まじりに語りかけながら、拳と拳で語り合っていたタイガーウルフとワールド、その戦いであり対話の一部始終を思い返して愛香はそっと笑った。
確かに格闘特化で装飾も少ないカスタマイズが施された二機ではあったが、その関節は近年レベルの標準的なHGにおける稼働範囲に準じており、それをカスタマイズなどで拡張した結果としてあの千変万化の格闘術は実現できているのだが、元が同じならきっといつかは愛香も、コメットコアガンダムも辿り着けると、愛香はそう信じている。
そのいつかは五年後かもしれない。もしかしたら十年、それ以上先かもしれない。
その先の自分の姿は思い描かないけれど、それでも愛香はそのサービスが終わるまで、GBNを続けるつもりだったし、絵理が嫌でなければ、ずっと彼女の「彼女」として相応しい存在であるべく努力を重ねていきたいと、そう思っている。
明日にまた希望があるなら、努力だって厭わないし惜しまない。
積み重ねた蹉跌に足元を切り裂かれて、心にそれを纏いながらも少しずつ、少しずつ、愛香は前に進んでいく。
そしてワールドとタイガーウルフが握手と共に再戦の約束を交わし、ワールドが修行の旅路へと戻っていったのと入れ替わりで、道場主に胸を借りる番が訪れた愛香だったが、やはりというか、当然の如くワールドと比較すればその試合内容は拙いものであった。
『俺はアイツみたいに回りくどいことは言わねぇ、だからこの拳でお前に全てを教えてやるつもりだ、だが、あー……』
『どうしたんですか、タイガーウルフ師範?』
『師範、か……いやなんか悪くねえなそれ、じゃなくてだ! ゴホン! 前にもコアガンダム使ってた奴に色々教えてたことがあったんだが、まさか他にもコアガンダム使いがいたとはな』
『リゼ君……ですか?』
『知ってたのか。まあ変わった奴だったが……お前も中々一筋縄じゃいかない女と見た! だが立ちはだかるなら俺は男も女も老いも若きも区別しねぇ! これ以上は拳で語るぜ、アイカぁッ!』
そんなやり取りを交わすと共に、その武闘と舞踏を融合させたような華麗な体捌きでタイガーウルフが襲いかかってきたのを思い返して、彼の思わぬ初心な一面と、リゼという自分と似た空気を感じる少年の足跡がここにもあったことに苦笑しながら、愛香は丁寧にパーツの「面」を出しつつ、その戦いを振り返る。
手加減はしない、とばかりのテンションだったが、タイガーウルフは決して己が指南役であることを忘れなかった。
初撃を回避しての戦闘機動から愛香の癖を見抜くと、それを咎めるような形で、致命の一撃に繋がりかねない小技を当てて、今のが実戦だったら死んでいたぞとばかりに警告するのだ。
そしてあの戦いで最終的に撃墜されるまでに愛香が「死」を迎えた回数は合計で三十九回と、惨憺たるものだったが、それ故に自分の課題が見えてきたし、なによりもタイガーウルフというトップランカーに胸を借りることでまた、「コメットコアガンダム」が抱えていた悩みとでもいうべきものが見えてきたのは大きな収穫だった。
愛香がコメットコアガンダムを作るときにこだわったのは「可愛い」だったし、それを捨てるつもりはない。
だが、「可愛い」は決して一ヶ所にとどまるものではない。
子供が大人になるように、大人もいつだって同じ顔をしているのではなく時と場合によって装いを変えるように、「こうだったらいいのにな」と、そう思ってしまった場面が愛香の独りよがりではなく、自分に合わせてくれたとはいえ、今の自分にできるベストな動きで挑戦した相手がトップランカーだったといったことで、コメットコアガンダムも同じだったのだと、そう理解したのだ。
愛香の脳裏によぎるのは、ミラーミッションにおけるガンプラと、自身と関係ないように見えたストラックアウトとトランポリンだった。
あれは本当に苦行をやらせるためだけに、そしてランナーズハイのような集中力を持たせた上で、愛香の場合は第三ウェーブに待ち構えていた「自分との戦い」への布石とするものだったのか?
答えは否だ。
なればこそミラーミッション、ダイバーの感情データを読み込んでミッションを、やるべき「使命」を精製するその鏡は、必要な情報しかダイバーに与えることはない。
装甲と干渉するダボピンを丁寧に切り飛ばし、その跡をやすりで均しながら、愛香はそれぞれのウェーブのモチーフとなっていたものを思い返す。
『あー……アイカだったな、お前の動きは悪くねぇ。俺が教えた通りの癖を直していけば多分、すぐSランクぐらいまでは上がれるだろうよ』
『S、ですか……師範、それはどういう?』
『……だが、厳しいことを言っちまうようだが、その先はキツいぜ。そしてその機体はもっと……お前に応えたくて、高く飛び上がって、強い鎧を身に纏いたがってんじゃねえか?』
クールなテンションを装いつつも、尻尾が左右に揺れるのを隠せない辺り、微妙に締まらなかったものの、タイガーウルフは確かに愛香へと、いや、違う。愛香が分析していたプラクティスモードにおけるダメージログにおいて両肩とスプレーガン、そしてビルドボルグという損傷が特に激しい部分を指してそう言ったのだ。
確かに彼はシャフリヤールと違って、戦いの中から導き出した答えを直球で伝えるスタイルだ。だからこそアイカには分かり易かったのだが、その鎧、という言葉はどうにも自分の中で引っ掛かりがあったために頭を冷やすべく、翌日はインディア・エリアへと旅立ったのだが。
「……なんていうかすごかったよね、あれ」
愛香は基本的なGBNの仕様をあまり覚えていない。
というか、そういうチュートリアルを受ける前に地獄へと放り出されてその後もなんやかんやあって調べる機会がなかったため仕方ないとはいえるのだが、その超絶基本的なことも知らない、というのはいっそ致命的でさえあった。
『君、プラグインも覚えてないの? それで……へえ、Bランクまで来れたんだ。機体も自分でスクラッチしたみたいだし、結構やれるのかな』
噂に聞いていた、「売れないパーツ屋」を営んでいた店主は愛香の無知に対してあまりにもド直球が過ぎる言葉をぶつけてきたのだが、恐らく彼としてはそれを知らないで、バトルロワイアルミッションに篭っていたせいもあっていつの間にかBランクまで昇格していた自分を褒めたのだろうが、それにしたってトゲが生えたドッジボールを初手で顔面に投げつけてくるようなコミュニケーションだ。
恥ずかしいやら微妙にイラっと来るやらで愛香の内心は複雑だったが、それでもこの売れないパーツ屋を営む店主はSSSランクの凄腕らしいのだから、餅は餅屋の精神で問い返したのだ。
『あはは、あたし始めたばっかの初心者なので……それてその、プラグインって……なんですか?』
『初心者で? へえ……確かにカード見たらログイン日数も浅いし嘘じゃないんだ。じゃあ近いうちに僕と同じ所まで来れそうだね、うん。見込みがある子は嫌いじゃないから教えるけど、プラグインっていうのはGBNの内部でガンプラに施すカスタマイズ要素だよ』
彼の説明で曰く、通常ミッションの報酬で稀に獲得できたり、高難度ミッションや期間限定イベントの報酬となるそのパーツは、例えば「ビームライフルの威力+10%」のように、GBN内においてのデータに様々な補正を与えたり、「サイコミュ・システム」など、特定の能力を付加するための代物を指すそうだった。
勿論、強力なものほど必要スロット数を食う、というこの手の要素のお約束もついてくる。
ただし、プラグインを最も有効に、というより大量に詰めるのは素組みのガンプラで、そのカスタマイズ具合をスキャンした上で、プラグイン搭載容量の限界は漸減していく。
とはいえ、あまり減らされても面白くはない、ということで、実際にやる意味があるかどうかはともかく「ナノラミネートアーマーとフェイズシフト装甲とEXAMシステムとトランザムシステムとNT-Dとサイコミュシステムと妖刀システムを」搭載するような無茶苦茶なカスタマイズを施すことができなくもない素組みのガンプラと、最大容量こそ素組みと比べて少ないものの、ちゃんと取捨選択をすればプラグインを有効活用できるカスタムモデル、という差別化と、強力なプラグインほど入手難度が高い、というバランス調整が施されているのだ。
『君は見込みあるみたいだし、うちでなんかパーツ買ってく? どういうわけか全然売れないんだけど、性能は保証するよ』
主にその接客態度とかのせいだと思います、と言いたくなるのを堪えて、もしもの時に必要だと考えていた「ドラグーン・システム」……「ファクトリー・カスタム」なる名前が後ろにつくが──プラグインを実に120万BCという大金を叩く形で購入し、小市民的な喪失感を抱えながら、愛香はそのパーツ屋を後にしたのだ。
だが、思えばそこでやめておけばよかったのだ。
この先の橋では死ぬほど重いコインを持っていると落っこちてしまうから売りに戻る必要があったように、愛香が小市民的な痛みにふらふらと街を歩こうとして引き寄せられた隣のアクセサリー屋で、出来がいいのにやたらと安い、青い星型のアクセサリーを買ったその時だった。
『やめてよね、その子には僕が目をかけたんだから』
『パーツやアクセサリーを購入する自由はダイバーにある、君は少しライバルに飢えているからといってがっつきすぎだ』
『そっちこそ言いがかりはやめてください。彼女は見込みあるダイバーなんだから、僕が手塩にかけようとする気持ちは間違っていないでしょう……それでも、育てたいライバルがいるんだ』
『いいだろう。私は今の自分を器だと規定してアクセサリーを売っているがその本領はあくまでもファイター……ならば、わかるだろう?』
『言葉はいらない……僕たちは!』
『私は!』
『『戦う!』』
どうやら愛香が事前に聞いた話は都市伝説でもなんでもなかったらしい。
街中では街が壊れるからと、即座にフリーバトルを選んで二人は愛機であるストライクガンダムの改造機とシャア専用ザクの改造機を呼び出すと、それこそ瞬きをしている間に市街地から遠ざかり、決戦の舞台となる戦場へと飛び立っていった。
そして、二人の戦いが「災害」と形容される理由を、愛香は市街地という遠く離れた位置からも観測することになる。
青と赤、二つの残光が流星となって切り結ぶその衝撃波は遠く離れた愛香の肌にもビリビリと伝わってきたし、白昼の蒼天をかけるスラスターの軌道は直角に曲がりくねる流星同士の衝突とでもいうべき、正直近くで見ても何をやってるのかわからないレベルのものだ。
『これで千二百四十九勝千二百四十九敗……キリのいい数字は僕が貰う!』
『できるかな? ……今日は趣向を変えて私から仕掛けるとしよう!』
そのあとは何がなんだかわからなかった。
出鱈目な軌道を描いて青く光る、エールストライカーの翼が変形したユニットから放たれる光の翼の軌跡と、通常の三倍の三倍の三倍の……何倍になってるかわからないほどに早いシャア専用ザクの描く光がただ超スピードで空を駆け抜けていることしか、愛香には視認できない。
ただ、それを茫洋と眺めてあの二人は仲がいいんだなあと現実逃避をするのが精一杯だった。
本当に、GBNの最上位クラスは人間の形をした災害であふれている。
「……とはいえ、ちょっとはあたしもそれに憧れちゃったりするんだよね」
予め蓋を開けていたことで大分気が抜けたエナジードリンクを胃袋に流し込んでから、愛香は肉抜き穴へと盛り付けるエポキシパテを調整する。
エポパテは少なすぎるとまた盛る羽目になるし、多すぎると今度は削る時にめんどくさいという厄介な代物だが、プラ板と共に使いこなせばなんだって作ることのできる万能な素材だ。
こういう地味でめんどくさい作業の加減とか、そういうのを何回もこなして指先に馴染ませた果てに、多大な余波を齎しながらインディア・エリアの空を駆け抜けた流星と彗星の世界があるのだろう。
そして、その空へと駆け抜けるのも、そして、その空がある世界を歩いて、一緒に旅をするのも。
机に腰掛けたコメットコアガンダムを一瞥して、愛香は新たに箱組みで作り上げた同じ肩アーマーと、エポパテを肉抜きに充填したSDCSウィングガンダムゼロ(EW版)のツインバスターライフルを切り出したものと、同じキットから幅詰めを行ったアームを一瞥して一息つくと、図面を描いたプラ板と、定規とPカッターに手をつけて新たなパーツの製作にかかる。
「待っててね、コアガンダム。待っててね、エリィちゃん、絵理」
──何もかもダメダメだったあたしが、もう一度。もう一度、あの仮想郷でそのソラを飛んで、一緒に「楽しい」と笑える未来で。
愛香は続きを言葉に出さず、ただ一心に集中してプラ板を切り出して、複雑な形状の基部となるその骨組みを作り上げていく。
明日また、希望があるなら努力だって惜しまないと、厭わないとどこかで誰かが歌っていたように、その言葉を信じて、いくつもの蹉跌を、今日だった時間の死骸を積み上げて歩くその足が、破片に切り裂かれようと愛香は歯を食いしばって前に進み続ける。
見つけた「あたし」をこの手に掴むために。たとえ今は届かなくとも、星追いの少女は、その手を高く掲げて天へと伸ばし続ける。
その先に、己の見つけた星があると、そう信じながら。
星屑は手を伸ばす、踵を高く蹴り上げて