ガンダムビルドダイバーズ リビルドガールズ   作:守次 奏

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後継機お披露目回なので初投稿です。


第四十三話「架空の星の御伽噺〜新たに描くフェアリィ・テイル」

 飛来した閃光をバックラーから展開したビームシールドで防ぎながら、直撃を受ければコックピットに穴が空いていたその威力にグラウカッツェは戦慄する。

 

『なんだ? 事前の情報じゃ大火力砲はあのミネルヴァガンダムって機体が持ってたはずだが──サプライズってわけか! オッケィ、ノってきた! いくぜ!』

 

 相対距離はかなり開いているだけでなく、直撃を受ければコロニーに大穴が空いていたことからもわかるように、あれはブラフだ。

 燃焼属性を伴っていない以上、ミネルヴァガンダムではなく残り三機のうちのどれかが撃ってきたはずだが、と、グラウカッツェが思案する間もなく、矢継ぎ早に飛んできた第二撃が、自分たちを絡めとらんと光の網を描くのを見る。

 グラウカッツェの機体は、アメイジングストライクフリーダムをベースに、スラッシュウィザードやブレイズウィザード、そしてグフイグナイテッドの要素を組み込むためにモンテーロの肩をそのメインスラスターとしてドラグーンの代わりに取り付けた【イグナイトフリーダムガンダム】だ。

 原型機と比較して、光の翼こそ失ったものの、瞬間的な超高速を制御するのではなく安定した高速と高い旋回性を維持しつつ弾幕を張り、味方を支援するカスタマイズは確かに「遅い」わけではない。

 そして彼が従える三機のグフ、グフ・カスタム、グフイグナイテッド、そしてグフ・フライトタイプもそれは徹底的な作り込みによって同様であったが、地上を走るタイプの機体にオールレンジ攻撃は滅法効く。

 辛うじて盾をその光に舐め取られるだけで済ませたものの先制パンチの被害を受けたグフ・カスタムを駆るダイバー……普段はベースを担当している「ギガンツ」はその圧倒的な長距離攻撃に思わず武者震いをする。

 

『これが若さか……しかし、グラウカッツェ』

『ああ、ギガンツさん。近付けばオレたちの本領! さぁ、ギグはこれからだ! こっから魅せてくぜ!』

 

 オールレンジ攻撃の怖いところは意識の隙間をつくことであり、マニュアル操作のそれはまさに常時死角から狙いをつける無音の狙撃手だが、その代償として展開の限界時間と、防御陣形による一点突破を苦手とするという弱点は存在している。

 そして、「イグナイターズ」のグフたちはグラウカッツェの近接援護を前提に機動力と装甲、双方を強化した代償として旋回性を失っているため、必然的にファランクスの陣形を組むスパルタのような密集隊形での突撃が主戦術となる。

 エリィのフィン・ファンネルに紛れ込ませて、無線偵察機からグラウカッツェたちの通信を傍受していたチィが、筒抜けの会話を他の三人に中継しつつ、アキノのすぐ後ろに着く形でアイカとエリィから機体を先行させていた。

 

「ってなわけだ! 今回の作戦、アキノ一人にタンクやらせんのは重いからチィも回避盾になる! そこでだ……アイカ! お前の秘密兵器とエリィ! お前の連携を見せつけてやんな!」

 

 恐らく敵のグフ・カスタムはグフ・フライトタイプと挟み撃ちにする形でアキノを足止めしつつ、グフイグナイテッドとイグナイトフリーダムが空中のアイカとエリィを分断、そのまま各個撃破に移るか、エリィにオールレンジ攻撃やトランザムを吐かせた上で彼女を撃破してツーマンセルの状況を作り出すのが勝ち筋だろう。

 

「了解チィちゃん! 空中は任せて!」

 

 チィの分析を聞きながら、アイカは再び出力を切り替えたコアバスターライフル・フェアリィを構え直し、エリィを守るように先行する。

 今までのコメットコアガンダムの弱点は、味方を守るための広い視野をアイカが持っていなかったことと、そのための武器をコメットコアガンダムが持っていなかったことの二点が挙げられる。

 だからこそ、アタッチメントを活かす形で出力可変式の武器をアイカは作成し、レンジを広げることで後衛のエリィとあまり距離を離さず十字砲火を狙うことをまず考えた。

 予想通り、グラスランナーを空中からの「ハイドラ6ビームガトリング」による掃射で牽制しながら接近するグラウカッツェに、いつも通りメインカメラ、武器、そしてコックピットを狙った三点バーストでアイカはコアバスターライフル・フェアリィの単射モードを見舞う。

 

『なるほど、そいつがオマエたちの……いや、オマエの秘密兵器って訳か、アイカ! 中々イカしてるじゃないの……! アッキー!』

『了解した、グラウカッツェ!』

 

 アッキーと呼ばれた普段はドラムを担当しているダイバーが駆るグフイグナイテッドは腕部のドラウプニルを連射しながら、アイカとエリィの射線から外れた「下」から潜り込む道を選んだようだ。

 それを察知したエリィはフィン・ファンネルを射出してアッキーを足止めしつつ、遊撃に移りたいグラウカッツェをアイカと共に十字砲火で敢えてガードを誘発することでその足を止める、という戦術を選択した。

 アイカが放ったコアバスターライフル・フェアリィの一撃はグラウカッツェが構えていたビーム突撃機銃を破壊し、コックピットとメインモニターへの直撃こそバックラーからのビームシールド展開で防いだが、これで射角の狭いバックパックのガトリングと腰部のレールガン以外にグラウカッツェは攻め手を喪失したことになる。

 だが、アイカはそれを勝ちに繋がる一手だとは思っていない。そして、それはエリィも同様だ。

 ──グラウカッツェは、動揺していない。

 相手が攻めを焦っているかどうか、それを悟らせないことこそがBからAへ上がる壁だと言われているように、とにかくセオリーを重視して自分の役割だけを完遂していれば自然と上がれるのがCからBへのラインなら、Bランク以上のランク帯は自分の役割を果たした上で、全ての戦場を常にとは言わずとも俯瞰して、相手がどの手札をどのタイミングで切ってきたかを図る必要がある。

 そして、グラウカッツェは固められてもいい、という手札を切り、敢えて足を止めたエリィの元──と、見せかけてファンネルを掻い潜り、背後から羽根で視界が制限されやすいフェアライズガンダムを襲撃させたのだ。

 

『これでぇっ! ヘァーッ!』

 

 だが、アッキーも中々のやり手だ。

 単なる突撃ではなく、牽制としてかつ当たった時のリターンが大きいスレイヤーウィップをフェアライズガンダムに差し向けて、回避された時はテンペストによるクロスレンジへの飛び込みを裏択としてセットした上で攻撃を行なったのだから。

 それでも、敢えて彼の失策を挙げるとするなら、相手が悪かったことぐらいだろうか。

 

「信じてます、アイカさん……!」

 

 エリィはアイカを援護するのではなく、動きを止めたグラウカッツェを金縛りにするように、ファンネルとビームライフルによる攻撃で更なる足止めを選択して、自衛はアイカに任せるという大胆な賭けに出たのだが、これがもしコメットコアガンダムにアイカが乗ったままであったなら、失策として終わっていただろう。

 しかし、アッキーが伸ばしたスレイヤーウィップは着弾の直前に細切れになり、ロックオンしていたはずのフェアライズガンダムは一瞬にして視界から消え失せている。

 

『何……!? いや、後ろか!』

「遅いっ!」

 

 咄嗟に反撃を繰り出そうとするも、フェアライズガンダムがいつの間にか構えていたビルドボルグはテンペストビームソードごとグフイグナイテッドの右腕を切り裂いて、その姿勢を大きく突き崩す。

 

『一体どんなカラクリが……まさか、ドラグーン!?』

「……SEED好きな人にはバレちゃうか」

 

 アイカがフェアライズガンダムの「妖精の冠」に隠した機能、それはあの胡散臭い態度が悪い災害みたいの三拍子揃ったパーツ屋から購入したプラグイン、「ドラグーンシステム・ファクトリーカスタム」を運用するためのサイコミュ機能だった。

 ドラグーンシステム・ファクトリーカスタム。このプラグインの説明文を見た時、アイカは思わず頭を抱えそうになったことを覚えている。

 確かストライクフリーダムのインストに書いてあった、「第二世代相当の性能で第一世代と同じく空間認識能力を必要とする」というその設定を忠実に再現したかの如く、そのプラグインは機体にドラグーンシステムを与えるものの、「ドラグーン化した武装における一切のオート操作が不可能になる」という致命的な制約を抱えていたのだ。

 どうしたものかと悩んだ末にアイカが出した結論は単純だった。

 展開を簡略化するだけでいい。

 ついでに自身に接近する敵弾があったらビルドナイフとビルドカッターを飛ばして切り刻んでからコアユニットにリモートで接続し、コアユニットも出力の増強に伴ってビームサーベルとしての運用も可能となったのだから万一実体刃ドラグーン二種が打ち落とされても最低限の近接戦能力は確保できる。

 そして今、体制を崩したアッキーに向けて、ウイングゼロを組み込むことで獲得した凄まじい空中機動力で斬りかかるフェアライズガンダムだったが、エリィの攻撃によるダメージを負いながらもアッキーを庇うことを選んだグラウカッツェの構えるビームジャベリンによってそれは阻まれた。 

 

『いいパトスだぜ、アイカ……だがオレのダチはやらせねぇ!』

『グラウカッツェ……! すまない……!』

「……いいや、それは叶わない」

『何?』

「フェアリィ・テイル! リミテッドブースト!」

 

 グラウカッツェはその瞬間、何が起こっていたのか理解できなかった。

 確かにイグナイトフリーダムとフェアライズガンダムはビームジャベリンとビルドボルグによる鍔迫り合いを行っていて、瞬きをするまではモニターにその閃光が走っていたはずだ。

 だがそれは一瞬で消え失せて、体制を崩した自分と、背後に急降下する形で回り込み、ビルドボルグの先端からビームサーベルを発振するフェアライズガンダムと、接続状態から分離した刃が自身を包囲する光景がある。

 

『グラウカッツェーッ!!!』

『アッキー!? オマエ……っ!』

『ヌヴォォォォォォ!!!!!』

 

 だが、すんでのところでアッキーは最後の力を振り絞ってグラウカッツェを吹き飛ばし、ビルドボルグ・ビームサーベルモードによるバックパックの一部損傷という形にイグナイトフリーダムの被害を食い止めて、自身はビルドカッターとビルドナイフ改め、ビルドドラグーンA、Bに片腕と頭部を、そしてエリィからの追撃でコックピットを撃ち抜かれて、アーモリーワンの空にその笑顔を浮かべながらやたらうるさい断末魔と共に爆散する。

 

『は、はは……スゲェぜ! アツいな、「リビルドガールズ」! どんな手品を……使った!?』

 

 ビームジャベリンの先端からビーム・ワイヤーを射出し、フェアライズガンダムの翼を絡めとろうとするグラウカッツェが叫ぶ。

 アイカが使った手段は単純だった。

 システム・フェアリィ・テイルを部分的に、具体的には腰部スラスターとメインスラスターから点火するにとどめて、ウイングゼロの優れた上昇能力と合わせて、敵機の眼前で急上昇して直上を取り、あたかも姿を消したかのように見せかけただけだ。

 そして、真上という死角を取られた敵は本能的に動揺し、対応が遅れる。そこに急降下攻撃を仕掛けられればたまったものではないし、よしんば回避されたとしてもドラグーンとの連携やビルドボルグによるラッシュに繋げられると、あの「ワールド」が使っていた「次元覇王流・聖槍蹴り」の理屈を自身の機体に応用しただけの話だ。

 上位の戦いは、いかに有利を取れるかに限られる。

 もちろん、取った有利が簡単にひっくり返されて逆転という劇的な結末もあり得る話だ。だからこそ、「三桁の英傑」「二桁の魔物」「一桁の現人神」はそれらを嫌って、自身が防衛者となる時は徹底的に「負け筋を潰す」戦いをするし、挑戦者になったとしても基本は変わらない。

 だからこそ、ガードさせてなお有利であるエリィとの連携、そして急襲からのラッシュコンボと、全て有利を取れる、無駄のない動きをアイカとフェアライズガンダムは選択していたし、エリィはそれを後衛として固める立ち回りに専念していたのだ。

 地上での戦いは、上手く二体一を取ろうとする「ギガンツ」ともう一人、キーボード担当にしてグフ・フライトタイプを駆る「パッカー」に対してチィがビームマシンガンによる牽制を行い、ギガンツが引き付けている間にパッカーが直上を取ってタンクを狩る、という奇しくもアイカとよく似通った戦法を巧みに封じていた。

 言うまでもない。自分たちは追い込まれている。

 初めてそれを自覚したグラウカッツェのこめかみにじわりと脂汗が滲み、恐れではなく高揚感が心臓に早鐘を打たせている。

 そうだ。このブラストビート。

 

「アイカさん!」

「わかった、エリィちゃん!」

 

 味方同士で罵り合ってキルスティールも辞さないような、勝ちしか見えてない奴らじゃなく、この世界と互いの絆を愛しているからこそ最適解を導き出せる、強敵と書いて友と呼べるダイバー。

 このギグをこそ、オレは待っていたのだ!

 内心で咆哮すると、グラウカッツェは躊躇うことなくその切り札を切った。

 

『わりぃが……死中に活、見出させてもらうぜ! イグナイトフリーダム、レボリューションだ!』

 

 その叫びと共にグラウカッツェは必殺技の発動を選択し、灰色に落ち着いていたイグナイトフリーダムの関節がオレンジメタリックに発光、片肺を失っているとは思えない速さで、光の翼にも似たスラスターエフェクトを噴き出しながらフィン・ファンネルの包囲を掻い潜って、トランザムを咄嗟に発動して距離を取ったエリィにビーム・ワイヤーによる奇襲を仕掛ける。

 

『もらったァーっ!』

「……きゃぁっ……!」

 

 その一撃は確かにリビルドウォートのビームライフルを絡め取って破壊し、発生した爆炎からモニターやコックピットを守るために盾を構えていたエリィをそこに釘付けにすることに成功していたはずだった。

 

「エリィちゃんを……いじめんなぁっ!」

『何、速いぞ!?』

 

 だが、フェアライズガンダムの機動性はもはやその名に冠した通り、ソラを自在に飛び回る妖精のそれだ。

 コメットコアガンダム時の陸戦能力を少し削る形で、アイカは空中での機体性能を伸ばすカスタマイズにビルドの方針を変えたのは、ひとえにエリィの孤立しやすさゆえだ。

 遊撃手は戦場を自由に駆け回れるが、それ故に孤立しやすい。

 そして、後衛という都合上味方から距離を取り、場合によっては壁を背負うという危険と隣り合わせの選択肢を取ることも辞さないのがエリィの立場である。

 ならば、遊撃前衛として自分にかけていたものは何か?

 架空の空、そしてその中に描かれたコロニーという虚構の大地に浮かぶ空を二つの流星が、否、妖精の羽が描く奇跡と革命の光が描く翼が己の誇りをかけて、直角軌道を描きながら激しくぶつかり合う。

 

「これが……あたしの描く新しいフェアリィ・テイル! 翼を広げて空を飛ぶ、あたしの……エリィちゃんのために描く物語!」

 

 何のために。ずっとそれを問い掛け続けてきて、捨て続けてその度に涙を流して泣き続けた人生だったが、電子の海に掲げたそれこそがアイカの最終解答だった。

 グラウカッツェは最早自身の不利、否、詰みを悟っていた。

 相手が必殺技らしきものを起動したのは「消えた」一瞬だけで、それ以降は全て素の機動力と小柄な体躯を巧みに活かした接近戦に持ち込んで、その小さな身体からは信じられないパワーで、イグナイトフリーダムに悲鳴を上げさせている。

 あれはメイヴだ。妖精の女王だ。

 だが、グラウカッツェの心は悔しさよりもむしろ高揚感で満たされていた。

 誰かのために描く物語。そんな、綺麗事に聞こえるかもしれないことを本気で信じて実行してる奴がいる。

 このGBNを愛して、その空を、その世界を旅するためだけに妖精の羽を作り上げた奴がいる。

 そしてそんな愛と自分の愛をぶつけ合う戦いが今なのだ。

 喜びこそしても悲しむ道理がどこにある。グラウカッツェは高らかに笑いながら、自身の首にその大鎌を突きつける死神の手を取って一緒に踊りたい気分でさえあった。

 

『サイコーだ……サイコーだぜ、アイカ! エリィ! オマエたちの愛は、そのパトスは剣から、ファンネルから! 何より目から、ビンビンに伝わってきやがる……! だがなぁっ!』

 

 だからといってここで黙って、はいそうですかとやられるわけにはいかない。

 グラウカッツェはブーストアップしたジャベリンに全ての出力を集中させて、直撃すればコロニーごと崩壊するような光の柱とでもいうべきものを作り上げる。

 黄昏の魔槍。それこそが彼の奥の手であり、真の必殺技だった。

 

『わかるよな、アイカ……エリィ! 全力で来い!』

「グラウカッツェさん……なら、見せてあげる! エリィちゃん!」

「はい!」

 

 応えてやる必要などないのかもしれない。

 この状況であの大技をぶっ放すなんて戦術のセオリーとしてはナンセンスだし、あの「ワールド」のようにそこからの巻き返しも何も考えていない、策としては下の下もいいところなやけっぱちでしかない。

 それがわからないアイカではもうなかった。だが、ここであの必殺をコロニーを犠牲にしてやり過ごすことで、全てのエネルギーを使い果たして動きを止めたイグナイトフリーダムを淡々とビームサーベルで屠ったところで、それは面白いのか。

 面白いと答えるのならそれもまた真理なのだろう。だが、このフォース戦に大量の賭け金を承諾してくれたのは、グラウカッツェが自分たちに「愛」があることを前提としての話だ。

 だからこそ、アイカはそれがナンセンスだと知っていても、敢えてその挑戦を真正面から受け止めることにしたのだ。

 エリィのリビルド・パワーゲートが形成されたのを確認すると、アイカはその全身から、今度は全力全開の「システム・フェアリィ・テイル」を起動して、擬似感覚のフィードバックが切られる限界まで、Gによる圧迫感を食いしばりながら耐えて突き進んでいく。

 そう、更なる翼を得たのなら、これは新たな物語。

 

『ありがとうよ、アイカ……行くぜ、これがオレの黄昏の魔槍……ミーティアス・ジャベリンだァっ!!!!!』

「これが、あたしの……」

「わたしの……!」

『再び描き、その結末を迎える物語!』

 

 アイカとエリィは声を合わせて、記された物語とその結末につけるべき名前を叫ぶ。

 

『フェアリィ・ストライク……ブライド!!!!!』

 

 これが冠を頭上に頂き、妖精の羽という光のヴェールを身に纏い、トスされた花束のゲートを潜って迎えるブライドという結末。アイカとエリィが夢に見た、極大必殺突貫攻撃(フルメンヘラコンビネーション)だった。

 パワーゲートを通ったアイカは、フェアライズガンダムはもはや一個の機体という枠を超えて振り下ろされる剣そのものだ。

 そうでなければ純粋なエネルギーの塊だろう。己全てを剣と変えて、全てを捧げてその後には何もなく、勝利を掴めねばそこで無惨に果てるだけの乾坤一擲を成す一撃だ。

 それは果たして星をも縫いとめる槍を打ち砕いて、相対する敵機を呑み込まんと、流星を通り越し、彗星を乗り越えて、一個の燃える遊星となったフェアライズガンダムが、打ち砕いた光の槍ごと、イグナイトフリーダムのコックピットごと、グラウカッツェを灰塵に、元初宇宙の砂へと帰せしめていく。

 

『うおおおおおーッ!!!!!』

 

 断末魔を上げながらもグラウカッツェは、そこにどこか導きの星が瞬くような神聖さを感じてさえいた。

 紛れもなく燃える、全てを飲み込んで破壊するほどに危うくも美しい愛がそこにある。そしてその愛と矛先を、文字通り何も残らないほどの全力で撃ち合って負けたのだ。

 ならば、それをどうして悔いることができるか。いや、違う。

 悔しいのだ。だが、同時にそこまであの小さな機体に燃える天体のような力を宿し、愛によってそれを形にしたアイカが、エリィが、GBNを愛してくれていて、ここにいるという事実が誇らしいのだ。

 グラウカッツェの中でそれは矛盾しない。

 故に彼は、誇り高き敗者となることを選んだ。

 妖精の羽が散っていく光のそれと、ウイングゼロの翼がはためく度に発生する羽根のエフェクトに包まれながら、イグナイトフリーダムのテクスチャは霧散していく。

 

『最早ここまで……ならば、我らも!』

『グラウカッツェ……戦いの中に、愛を思うか……!』

 

 残されたグフ・カスタムとグフ・フライトタイプのコンビもまた必殺技の発動を選択し、二つのヒートロッドを束ねた稲妻の鞭を、何度挟撃を受けても倒れることなく、小さな斥候との連携で、グラウカッツェが落とされるまでチームの盾となった勇者たちの力を試すべく振り下ろした。

 

「……アイカさん、これを!」

 

 だが、勘違いをしている。

 アキノとチィがこの戦いで果たすべきは盾。あくまでも遊撃による決着は遊撃手によって付けられなければならない。

 グラウカッツェを撃破しても尚止まることなく剣を構えたアイカのフェアライズガンダムの背中を押すように、エリィが射出した残り二基のファンネルと、アキノが投擲したIフィールドソードが新たなパワーゲートを作り出して、燃え尽きようとしていたフェアライズガンダムへもう一度その空へと飛翔させるだけの力を供給する。

 アイカはもう目の前が真っ白になりそうで、気を抜けばGのフィードバックを受けすぎて、油断したらコックピットの中で吐いてしまいそうだった。

 だが、エリィの意図とアキノの意図を汲んで歯を食いしばると、もう一度──グフコンビが振り下ろさんとする稲妻の鞭ごと切り裂くべく、機体を加速させる。

 

「……アイカさん……頑張って……! わたしの、アイカさん!」

「……エリィ、ちゃん……あたしの……たった一人の、大事なぁぁぁぁっ!」

『何を……ッ!?』

「……はぁ、ゲホッ……ゴホッ……っぐ、エリィちゃんのために……」

『ぬうううううっ!?』

「死ねええええええッ!!!!!」

 

 ──フェアリィ・ストライク・フィナーレとでもいうべきか。

 ちゃっかりと自身の武器も即席パワーゲートの中に放り込んでいたチィが、稲妻の鞭……「サンダーボルトロッド」を引き裂いて、二機のグフを一息にテクスチャの塵へと変えたその反動を受けながらも、ボロボロのビルドボルグを支えに膝を突いてこそいたが、確かに地面に立っているフェアライズガンダムを見てニヒルに笑った。

 

【Battle Ended.】

【Winner:リビルドガールズ】

 

 意識を手放しそうになるのを堪えて、アイカはそのダイアログを確認する。

 勝ったのだ。フェアライズガンダムは、そして、リビルドガールズは。

 

「おめっとさん、アイカ」

「よく頑張りました、貴女は……」

「……アイカさんっ……!」

 

 ああ、そうだ。

 ずっと──ずっと探してて、できてたつもりになって、独りよがりの一人相撲ばかりを続けてきた人生だったけど。

 探していた星は、確かにここにあったのだ。

 アイカは自分の一番近くで瞬くその美しい星々と、自身がこの戦いでその手足として魂を捧げたその架空の星に祈りを捧げながら、ただ静かに、沸き起こる充実感とでも呼ぶべきものに、使命を、ミッションを達成した感覚に身を任せて、そっと涙を零すのだった。




アイカ、その長き夜が明ける時

フェアライズガンダムのコメットトゥ・フェアリィは某戦う妖精の架空の星のオマージュなのでありえない、ifのコアチェンジであり進化、エボリューションなのです
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