がむしゃらに夢を追いかけていた日々のことを覚えている。
自身の機体をカモにせんと六十に渡るその数で包囲殲滅を試みてきたハードコアディメンション・ヴァルガの汚点にしてGBNの恥部と呼ばれて憚らない「モヒー・カーン」の率いる軍団をその二刀流でなます斬りにし、背後や死角からの強襲は「ドラグーン・インコム」で撃ち落としながら、ダイバーネーム、「リヒト」はその満たされない感覚に飢えているかのように咆哮する。
「お前たちはGBNを汚すシミだ! 悪質なミッションを作る奴とグルになって初心者を騙して数の暴力で押しつぶすことをなんとも思っていないクズだ! だからこそ、俺は……この銀の誇りとガンダム・エリュシオンに懸けて、お前たちを許しはしない!」
『吠えてんじゃねえぞ厨二病! 最近シルバリィの残党を見なくなったと思ったら……ふざけやがって! まだ生きてやがったのかこの自治厨共がァ! 迷惑なのはテメェらなんだよォ!』
どのツラを下げて、と突っ込みたくなること請け合いの表情でカーンは咆哮しながら単騎で実に六十という軍勢と対峙し、大した傷を負うこともなくその大半を殲滅しているリヒトに憎悪を向けていた。
ザ・シルバリィ。それはかつてこのGBNに存在したフォースの名前であり、今はどこにも存在しない、リヒトが黄金の夢を見続けていたあの日々を過ごした居城であり騎士団を示す名前だ。
二年前、ブレイクデカールと呼ばれたチートツールがGBNに蔓延した時、その力を誇示することで今のカーンたちと同様、始めたての学生グループのようないたいけな初心者たちをチートの力で嬲り殺すという出来事が相次いで、その被害者の中にたまたま「GHC」の総帥を務めるダイバー、「アトミラール」の娘がいた、ということがあった。
そしてたまたま、リアルでの取引先である、アトミラールからその話を聞かされたのが、後にGBNの中でも極めて強力で秩序的なフォースを結成するその嚆矢となったダイバー、今はもういない「ビーティス」だったのだ。
ビーティスと、彼が駆る愛機である【クロスボーンガンダムX0 アサルトゴースト】は、単騎でブレイクデカールを使用したマスダイバー──極端な話Dランクのダイバーが使えばAランクやSランクすらも圧倒しうるそのチートツールを使った者だ──を恐るべきことに単騎で殲滅するだけの力を持っていたため、同じくマスダイバー狩りをその生業としていた男、「アインソフ」と並んで、それぞれ「地獄の門番」「銀の幽霊」としてマスダイバーたちから恐れられていた。
そして、リヒトもまた、ビーティスに救われた者の一人だった。
忘れもしない。初めてGBNにログインした時、ガンダムマーカーで塗り分けた雑誌の付録である大剣、「フェザーブレイド」を持たせたフリーダムガンダムを、ただ組んだだけの旧キットであるシャア専用ザクが一瞬の内に化け物のような姿に変わって追い詰めていく光景を。
自慢の剣はそのビルドアップされた装甲に届くことなくへし折れて、手足もまたビニールをちぎるようにもぎ取られて、迎撃のバルカン砲すらその咆哮に阻まれて届かなかったという屈辱を、リヒトは恐らくこれからも忘れることはない。
だが、同時にリヒトは覚えている。
もうこのゲームにログインしたくないとすら恐怖を感じて目を閉じた瞬間に、ブレイクデカールで強化されているはずのその装甲を突き破って、コックピットを一撃の元に貫いていた「銀の幽霊」の、その勇姿を。
だからこそ憧れた。弱者を守るために己の身をその剣として、理不尽を敷く者に抗い続けるビーティスの姿勢と、自分のような始めたてのダイバーにすら紳士的に接してくれたあの人柄に。
迫りくるモヒカンの群れを流れ作業のように殲滅しながらも、リヒトの脳内に見えているものはいつも、シルバリィとビーティス、そして。
「アキノ……お前は今どこで、何をやってるんだ!」
湧き起こる怒りに任せて「モッヒー」のドライセンを両断しながら、リヒトは咆哮する。
そう、いつも彼の頭の中にあるのは自分と同じぐらいに、GBNの秩序を重んじていた金髪の女性──かつては二刀流という、今のリヒトと同じ戦闘スタイルだったダイバーのことだけだった。
リヒトはビーティスに憧れて、彼の元に半ば押しかける形で弟子入りを志願して、それが「ザ・シルバリィ」の原型となった。
リヒトと同じく志を持つ者がビーティスの掲げた旗のもとに集うことでいつしか、名前を持たない「銀の幽霊」の寄り合い所帯は銀の騎士団と書いて「ザ・シルバリィ」と読ませる、という名を持つようになり、そこには血よりも重い「銀の掟」が出来上がっていった。
ビーティスはその辺りからずっと「ザ・シルバリィ」の在り方に疑問を抱き続けていたのだが、リヒトも、そしてアキノも、恐らくその当時シルバリィに所属していたダイバーの大半が、それに気付いてはいなかったのだろう。
曰く掟の一つとして、我らはGBNの守護者である、我らはGBNの秩序と安寧をこそ重んじる者である、故に全ての違反からGBNを守るためにその剣を振るうものとする、などという条文が書かれた時点で、本義であるマスダイバー狩りからはもはやその定義ははみ出してしまっていたのだろう。
そして、シルバリィに入隊する者は皆、最初は一様に【GMF91】という機体をビルドして搭乗することが義務付けられていた。
連携の効率化と統一性を図るためだ。
その中でも目覚ましい活躍を遂げた者だけが専用機への乗り換えを許されて、隊長を務めるというその厳格な掟はかの「GHC」や「第七機甲師団」という戦略、戦術を重んじるフォースの比ではなく、また専用機に乗り換えた時も必ず機体のどこかに「銀」の意匠を入れなければならないという、ある種偏執的なまでにその掟は徹底していた。
だからこそ、マスダイバーを許さない者たちの中で、同じようにブレイクデカールには手を染めず、しかし個人の力では敵わないという層がマスダイバーに復讐を果たすべく集まったともいえよう。
徹底して効率化された連携は個人の撃墜すらもその中に組み込まれ、皮肉にも今のカーンたちがやっているような物量作戦は確かにマスダイバーといえども圧殺される他になく、その数すらも圧倒する相手が出てきたならビーティスと隊長格が先陣を切って戦う。
アインソフのフォース「アイン・ソフ・オウル」よりも厳格に規定されたその掟とビーティスと隊長格の実力を屋台骨として、「ザ・シルバリィ」は多くのマスダイバーを殲滅し、その名をGBNに轟かせた。
だが、彼らの奮闘によりマスダイバーはその姿を消したのかと問われれば、その答えは否である。
ブレイクデカールは、使用した痕跡を決してそのバックログに残さない。
撃墜時の再出撃可能時間というペナルティこそ課されるものの、その気になれば何度だって戦場に、マスダイバーたちは戻ってくることができたのだ。
要するにいたちごっこである。シルバリィやアイン・ソフ・オウルが、遅れて参戦した「GHC」が殲滅したマスダイバーたちは何度でも蘇り、彼らの手を煩わせ続けた。
その終わりなき戦いに絶望した隊員がいたのかもしれない。
或いは秩序の番人という言葉をかかげている以上、それは遅かれ早かれ必然だったのかもしれない。
銀の騎士団は、「ザ・シルバリィ」は次第にマスダイバー狩りだけを本義とするのではなく、一般的なダイバーの些細な利用規約違反すら、運営の代行者を名乗って取り締まるようになっていったのだ。
今現在も残っているシルバリィの悪評の半分はここにあるといってもいい。
味方だと思っていたはずのシルバリィが、ブレイクデカールを使っていないのにも関わらず出動して自らを追い詰めてくる様に、あるダイバーは恐怖して、あるダイバーは激憤した。
だが、シルバリィの隊員のそのほとんどは、馬耳東風とばかりに彼らの叫びを聞くことなどなく、同じダイバーにさえもその銀の鉄槌は下されることとなったのだ。
──秩序に背く行いをしたことが悪い。
今もリヒトが叫んだその言葉は、何もかもを拒絶する銀の蝗害を示す呪いのジャーゴンとして、今もGBNに残り続けている。
六十機いたはずのカーンの軍勢は今や片手の指で数えられるほどに減少し、自身の機体を守っていたはずの腹心の部下はインコムだと思っていたらその線を切り離して自律行動を始めた、ドラグーン・システムにコックピットを貫かれて爆散していく。
カーンは動揺していた。
これがあのFOEなどと生意気なあだ名で呼ばれている男であれば、うざったいとは思うが納得はいったし、何より仕方ないと諦められる。
「ふんぬらばウガアアアアオオオオアアア!!!!!」
だが、目の前にいる男はなんだ。ただの自治厨の残党じゃないか。
こんな結末など認められるかとばかりに言葉にならない、醜い叫びを上げながらカーンはその大斧をガンダム・エリュシオンに向けて振りかぶるが、それを振り上げた瞬間にザクⅢのモヒカンカスタムは上半身と下半身が泣き別れし、爆散していた。
「……消えろ、秩序を乱し、数に頼をおくだけの雑魚どもが! だがまだだ……このエリアは……このハードコアディメンション・ヴァルガは! 秩序を乱す奴らで溢れている!」
その漁夫の利を狙って背後から襲いかかってきたブリッツガンダムをノールックで剣を逆手に持つことで貫いて、リヒトは次なる標的である狙撃手やシーカー、アサシンを片っ端からその超機動力と精巧な剣捌きで手にかけていく。
「キャプテン・ジオン……あの卑怯者め! この混沌を見て、何も思わないのか! なぜヴァルガに姿を現さない!」
リヒトは、アキノと違ってキャプテン・ジオンすら存在を許していなかった。
当の本人は今、「コーラサワー」なるダイバーと共に未知のディメンションを探訪する配信を行っていることが、なによりもリヒトを苛立たせる。
守ろう心の南極条約。そんな美辞麗句を掲げておきながら、この無法地帯と化した場所には気紛れにしか現れず、そして秩序を取り戻そうとする自分にも、自分たちにも協力しない。
狙撃手であった都市迷彩のケルディムガンダムを、反応するよりも先に切り捨てて、リヒトは災害の如く攻撃の余波がクレーターを作り続けている地帯を目指して、ガンダム・エリュシオンを走らせる。
そうだ。ここでは確かにフリーバトルが無制限に認められている。
その「嵐」の余波に巻き込まれて爆散したジム・クゥエルを憐みながら、瞳には爛々と憎しみを湛えて、リヒトは荒れ狂う嵐であり、鳴り響く天地の鳴動を引き起こすその中心に聳える巨龍──「二桁上位の壁」と名高い、ゴシックロリータな衣装に身を包み、ヤギのツノを頭から、その背と腰から竜の翼を生やした個人ランク13位のダイバー……「クオン」が操る「ジャバウォックの怪物」を睨みつけた。
そして、その怪物に挑みかかる白亜の聖騎士、このハードコアディメンション・ヴァルガの主として名高い、FOEさんの渾名を頂戴している個人ランク39位、「キョウスケ」の操るディバインダブルオークアンタに対しても同様だ。
『ふ、ふふふ……白亜の聖騎士よ、よくも我を……この終末を喚ぶ龍たる【ジャバウォック】をここまで追い詰めた。しかし……負けない、負けるつもりなんかないんだから!』
『僕をあのFOEさんとかいう名前で呼ばないのは君たちぐらいだ、クオン……フェスでは初めて君と同じ土俵に立った、そして今はこの戦いで、ガンプラバトルで僕は初めて君と同じ土俵に立っている!』
『すごい執念……! じゃなかった、こほん! 見事な執念よ、聖騎士……しかしてヴォーパルの剣でなければ我を切り裂くことは敵わぬ! 勇者たらんとするのならば、言葉ではなく……その剣で語ってみせて!』
所々で地が出ているものの、さながら大魔王のごとき威厳を湛えたそのロールプレイに違わず、ジャバウォックは、怪物は最近新調したばかりの片翼を損傷し、機体に深い傷を刻みながらもサイコ・フレームの光を放って、残ったフェザー・ファンネルとテイルブレードで、同じく顔の右半分、左脚を損傷し、フェネクスのものに置き換えられたクラビカルアンテナを破壊されながらも「蒼色に染まったトランザム」で怪物へと挑みかかる聖騎士を迎撃する。
ちなみにこれはクオンが企画した「フォースフェス、ミス・シーサイド同率3位記念! あのFOEさんと何度めかわからないリターンマッチ!」と題した生配信の真っ只中であり、クオンもキョウスケも猛追するリヒトのことなど眼中にも入っていない。
『GNマテリアルカード、セット! 発動……ヴォーパルウェポン・SSランク! 見せてやる、これが僕の……』
『私の……』
『『全力だあああああッ!!!!!』』
ジャバウォックの放った必殺技である「エンドオブワールド」と、ディバインダブルオークアンタが放ったそれである「クアンタムストライク・ヴォーパル」がぶつかり合い、閃光がその一帯を覆い尽くしたかと思いきや、少し遅れて発生した膨大な衝撃波が、ビル群を、そこで殺し合う有象無象を、そして秩序を正すためにその怪物を両方とも倒すつもりだったリヒトのガンダム・エリュシオンをも呑み込んでいく。
ディバインダブルオークアンタは、トライエイジシステムこそ搭載していないが、チャンピオンとのコラボ記念でキット化された限定キット、「HG トライエイジガンダム」をその鎧に取り込んでいるために、GN粒子が為せる範囲であれば劣化とはいえ、トライエイジシステムと似た機能を使うことができる。
今回キョウスケが選択したGN粒子で代替したカード生成機能──GNマテリアルカードはその圧縮を最高値まで高めたSS級、中でも機体の武器に纏わせることで威力を上昇させる「ヴォーパルウェポン」であり、必殺のクアンタムストライクに上乗せされたその威力は確かに終末の神器たる、その全てを拒絶し、否定する終焉の一撃に匹敵するものとなっていた。
今までは各種の搦手に使っていたそれを今回は力と力の比べ合いに使って、FOEさんのその心意気に応えるべく、クオンもまた必殺の一撃を放った、当人たちからすればそれだけの話だ。
そしてここは無制限のフリーバトルが認められている戦闘狂のラスト・リゾート、チンパン収容所、モヒカン生息危険地帯、騙されたのでなければダイブするのは全て自己責任へと還元されるハードコアディメンション・ヴァルガに他ならない。
「うおおおおおッ!?」
だからこそ、リヒトは許せなかった。
こうして弱者を無制限に巻き込んででも自らの快楽を優先させる姿勢が。フリーバトルを行いたいのであれば他人を巻き込む危険性が少ない白夜のディメンション、「ディメンション・トワイライト」の極圏エリアでやればそれで済む話だろう。
歯を食いしばり、その二刀流で未だある程度遠くに居ても尚、並居るダイバーの必殺技を束ねても争うことはできないであろう衝撃波を受け止めながら、リヒトは憤激する。
だが、リヒトは知らなかった。
クオンが企画したこの配信は、いわゆる「凸待ち」と呼ばれるものだ。
何が起きても不思議じゃないハードコアディメンション・ヴァルガだからこそ、あらゆる理不尽をクソゲーと罵りながらも多くのダイバーが上級者となるべく、そして或いは戦いではなく殺しをするために潜り続ける場所だからこそ起こる出会いを期待して、二人は純粋な一騎討ちではなく「より戦場に近い場所で互いにベストを尽くす」という条件で合意して、敢えてヴァルガを舞台に凸待ち配信での決闘を行なったのだ。
そのため、リヒトが乱入しようとしていたのは決して無粋な行為などではない。
だが、いかに凸待ちであろうがなんであろうが問題は、「そもそも災害みたいなトップランカー同士の戦いに割り込める人間がそうそう居てたまるか」という、そういう話だ。
凸できそうな中でも「災害系黒和装妹」ユユはお兄様の決戦には手出し無用としているし、「ジャイアントキラー」、「マクギリスの生まれ変わり」たるアリアは凸待ちであろうと「漁夫の利を狙うような行為は無粋だから、何よりあのFOEの立ち回りを見たいから」と傍観に徹しているし、リアルでのやむにやまれぬ事情があったのか、こういう場には嬉々としてやってくる「獄炎のオーガ」は今日、その弟である「煉獄の若頭」たる「ドージ」共々GBNにログインしていないし、「ビルドダイバーズのリク」は相変わらず「サラ」と穏やかなディメンションでの散歩を満喫していて、例のチャンプは休日出勤させられた仕事帰りに長寿のデジタルカードゲーム、「ガンダムトライエイジ」を遊んでいるため配信の存在を知らなかった。
ちなみにチャンプは引き当てた最高レアを、子供が引いたガンダムAGE-2のコモンカードと交換する程度にAGE-2という機体とあのゲームと未来ある子供たちもGBN同様に愛していることを付け加えておこう。
要するに、誰もこの災害現場に乱入できないのである。
そしてそれは、SSランクであるはずのリヒトも同様だった。
誰が言ったか、英傑を目指す者が覚えておく必要がある言葉が一つだけこのGBNには存在している。
詠み人知らず、「英傑を食い荒らすからこそ魔物であり化物なのだ」という格言こそがその教訓なのだ。
その言葉は今のリヒトにぴたりと当てはまった。
ただでさえ長時間の戦いで危険水域に達していた機体のダメージが限界を超えて、テクスチャが霧散していく中でリヒトは押し寄せる無念にただ、吠える。
「畜生っ! 畜生おおおおっ! 俺じゃまだ、ダメだっていうのか……銀の誇りは、俺たちのシルバリィは! まだ死んじゃいないんです、ビーティスさん! 貴方ならきっと──」
きっと、どうしたのか。
その答えをビーティス本人が知ることはない。そしてその答えの如何に関わらずとも、クオンもキョウスケも「だからどうした」とリヒトの言葉を無情にも切り捨てていたことだろう。
そうしてとうとう限界を迎えたガンダム・エリュシオンは、ハードコアディメンション・ヴァルガの地からはじき出されてリヒトはロビーに、その機体は格納庫へと強制送還される。
実に六時間二十五分四十八秒。
かの「ジャバウォックの怪物」と「白亜の聖騎士」が、初めて相討ちという形で、ドローゲームという劇的な幕引きを迎えるのと同じ時間が、リヒトのヴァルガにおける限界滞在時間だった。
『ふふ……熱い戦いでしたわ、次はどうなることか……次回の配信はディメンション探訪、不人気と呼ばれて名高いトワイライトの白日とその魅力をこの終末の元に曝け出しましょう……それでは亡者の皆さん、良き終末を……』
画面の中ではあのFOEさんと同一人物だと判明した「キョウスケ」と握手を交わすと優雅にハロカメラの方を振り返ってゴシックな日傘を傾け、そのまま優雅にロビーへと解けていくクオンが映し出されていた。
配信終了である。
フェアライズガンダムの挙動をさらに安定化させるべく、埋め忘れていた、というよりはエポキシパテを詰めるとボールジョイント受けを潰してしまいかねない翼の接続基部に貼り付けたプラ版を大雑把にカットしてヤスリで均していくという作業をしながら、愛香はその配信を作業用BGM代わりに見ていたのだ。
「うわー……なんていうか災害って感じだね、絵理」
「……けぷっ……あ、ご、ごめんなさい……はい、そうですね……聞こえてきた音だけでも……なんというか、災害なので……」
愛香は食卓で作業をして、絵理はリビングでけぷけぷしながらラムネを飲んでいるという平和な休日にその災害じみた現場をリアルタイムで生中継する狂気の光景は似つかわしくないように思える。
だが、愛香は一種のサスペンス映画のような感覚でそれを見ながらもヤスリがけに集中していたし、絵理は類稀なその聴力で一部始終を脳内再生しながらも、やっぱりけぷけぷと苦手だけど大好きなラムネと格闘していたため、さしたる問題ではなかったようだ。
「やっぱり平和が一番だよね、うん」
「……はい……わたしは……愛香さんと、一緒に過ごす時間が……愛香さんが……いちばん、大好きですから……」
「……うん、そうだね、平和は二番。あたしの一番は絵理だよ」
ちょうどヤスリをかける作業も終わったのでマスクを外し、流しで手を洗って、ヤスリがけを終えたパーツを「塗装待ち」の箱に入れ、使い古した紙やすりをゴミ箱に捨てるという一連の作業をRTAでもやってるかの如く超スピードで消化して、愛香はぽすん、と絵理の隣に収まるなり、甘えるようにその肩へと自分の頬を擦り付ける。
「えへへ……嬉しいです……」
「明日世界が滅んでも、今日絵理と一緒にいたから別に後悔しないしね、あ、でも明日絵理といられないのだけはイヤかな」
「それは……わたしも……」
そうして絵理は愛香の声を頼りに顔を突き合わせ、互いに笑い合う、春の木漏れ日のように穏やかな声が、二人きりのリビングに響き渡る。
尚、愛香も絵理も、「リビルドガールズ」がコンテンツ内掲示板においてはGBNの中でも結構な武闘派扱いされていることなど、知る由もないのだった。
うるせーしらねー最終幻想(物理)に勝てるわけないだろ!
あいえりは今日も平和です、平和ってなんだ……?