ガンダムビルドダイバーズ リビルドガールズ   作:守次 奏

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一日中眠いので初投稿です。


第四十九話「リビルドガールズ、決戦開始〜チィの小さく大きな"約束"」

 思えば、とんでもない約束をしてしまったのだと思う。

 アイカは最後の下調べとして、チィから送られてきた情報と、フォース経由で送られてきた「ノイエ・シルバリィ」に関するあれこれを確認した上で決戦に臨もうとしていた。

 だが、不思議とそこに後悔はない。

 チィが気風のいい啖呵を切ってくれたからか、或いは自分も彼女と同じで、秩序がどうのこうのだの、破廉恥がどうのだの言われたことよりも、勝手に仲間を引き抜かれるような話を持ちかけてきたリヒトに対して怒りを抱いていたからか。

 多分、両方だろう。

 苦笑と共に、言葉には出さずそう呟きながら、アイカは一通り並べたメモに目を通していく。

 まずは推定戦力比だが、どう見積もっても四対一になるだろう。

 木星帝国にカチコミをかけた宇宙海賊よりはいくらかマシだが、同じ数を揃えた上での戦いでも二対一という状況を作られればそれだけ不利に追い込まれる以上、常時四機に自分が囲まれるという状況こそ発生しなくとも、確実にそれは想定できるだろうし、最悪はそれ以上の数に囲まれる、という可能性だって考えておかなければならない。

 アイカが決戦に臨むに当たって苦労したことは、「ノイエ・シルバリィ」というフォースの悪評やリヒト個人に関する言及はいくつかあるものの、その全体としての戦力が見えてこない、というところだった。

 それは取りも直さず、あのフォースがリヒト一人を屋台骨に支えられていることの証なのではあったが、リヒト以外がおまけ程度の実力しかないのであれば、ここまで悪評が立つこともなければまず、ハードコアディメンション・ヴァルガでの自治活動は行えないだろう。

 そこでアイカは、掲示板や人から聞く口コミに関してはチィに一切を一任した上で、自分の知り合いを頼ることに決めた。

 幸か不幸かはわからないが、アイカの知り合いには何かと問題児が多く、リヒトがあの性格であるのならば一回ぐらいは絡まれたことがあるのではないかと推察しての行動だったが、結論からいうならそれは正しかったといっていい。

 まず、アリアからの回答だが、それに関しては彼女らしく「リヒトという男には多少手間取らされたがそれだけで、他は常にドラグーンを基軸とした包囲戦術を敷いてくるが、包囲自体は大したことがない」と、どこまでがアリアの実力でどこまでが「ノイエ・シルバリィ」の実力不足なのかよくわからないものであった。

 だが、敵が無線兵器を持っていて、それを基軸にした物量による連携戦術を基本としているという指針が得られたのは大きい。

 もしもハマモリのように、サイコミュ・ジャックを持っている機体がいたならばメタとして大きく機能したのだが、残念なことにアキノのミネルヴァガンダムがベースとしているのはシナンジュであり、ユニコーン要素はアンテナとフェイス部ぐらいだから、その特効武器は持ち合わせていなかった。

 そうなればアイカたちが取るべき戦術は、必然的にドラグーンによる包囲網を抜けての近接戦で各個撃破する、というものになるのだが──これに関しては、いい意味でアイカにとっての想定外があったのだ。

 

「……あの人たち、変態だけど強いんだなぁやっぱり」

 

 ディメンション・シュバルツバルト。常闇に覆われたその区画において唯一眠らないメガロポリスを拠点とする、鳥頭に全身タイツという紛れもない変態の編隊にして紳士たちがいる。

 彼らの名前は「パロッツ・パーティー」。ゲーミングに光ながら鳥頭から変形ゲロビを垂れ流し、バーリ・トゥードなルールでのレースに日々勤しんで「最速」の世界を夢に見てその翼を羽ばたかせている挑戦者たちだ。

 結論からいうなら、「パロッツ・パーティー」は、バンデット・レースという変則的な形ではあったものの一度「ノイエ・シルバリィ」と対戦し、彼らを破ることに成功している。

 考えてみれば当たり前のことだろう。彼らにとってファンネル攻撃などお手の物であったし、「パロッツ・パーティー」の主であるハートから送られてきた文面には、要約すると「リヒト以外の団員は全て無線兵器の制御をオートに頼っており、どちらかといえば無線兵器を軸に近接戦を仕掛けてくる傾向がある」という正に具体的な対策が記されていた。

 そして、彼らのファンネル制御はエリィに遠く及ばない、という賛辞が付け加えられていたことも、アイカにとっては自分のことのように嬉しく、あの巨大ハイウェイで発光しながら追いかけ回されたトラウマこそあれど、ハートには頭が上がらない思いだ。

 オートでのファンネル制御には、独特の癖がある。

 一日与えられた猶予を生かし、アイカは「HGCE ストライクフリーダムガンダム」を購入して素組みした上でGBNにログインしてその検証を行なっていたが、オート制御されたドラグーンは確かに原作同様相手の死角に回り込むような挙動を取るが、その運動パターンはランダムといえど幾つか決められており、恐らく付け入る隙があるとすればそこになるだろう。

 付け加えるなら、どのパターンであれ自機の背後に回る挙動は共通しており、背後から確実に数発、スラスターやコックピットを狙う弾が飛んでくるとわかっていれば、速度で張り切って迂闊に飛ばせば誤射を誘発させる辺りまで近づいて、逆にツーマンセルで一機ずつ十字砲火で倒していけば勝機は多少現実的なものとなる。

 そんな、アイカが組み立てた方程式はチィのそれとほとんど答えを同じくしていたが、問題は「ノイエ・シルバリィ」が従える十五機のガンプラ──プロヴィデンスガンダムをベースに、複合防楯をインフィニットジャスティスのビームキャリーシールドからアンカーを取り除いた代わりに二本のビームサーベルを装備し、ユーディキウムビームライフルをルプス・ビームライフルに変更した上で頭部をジムクゥエルのものに換装した【プロヴィデンスジム】ではない。

 リヒトという最大の壁が操る「ガンダム・エリュシオン」への対処こそが問題であり、それについてはアキノが盾になるという提案をする形で落ち着いたのだが、正直なところアキノとリヒトの間では、実力に開きができてしまったことは否めない。

 だからこそ推定戦力比四対一ではなく、五体一の包囲網を突破した上でアキノと合流してリヒトを袋叩きにする以外に勝ち目はない。

 ファンネルにしろドラグーンにしろ、無線兵器使いと長期戦を挑むということは、それだけでイニシアチブを彼らに渡していることと同義だ。

 吐かせるだけ吐かせてクールタイムを待つ、という戦術もチィは考慮したが、そうなれば恐らく彼らは得意とする囲んで殴る戦術に踏み出してくるだろうし、もしも捌き切れなかった時の被害を考慮すれば、大きく損害を被るのはそっちの方だ。

 だからこそ、短期決戦と袋叩き。

 それ以外に「リビルドガールズ」が勝利する条件はないというのが、ブリーフィングにおける情報共有で導き出された結論だった。

 

「っつーわけだ、あの変態どもが役に立ってくれたのは予想外だが……これはアイカのお手柄だな、やるじゃん」

「ううん、シルバリィの戦術と……ガンダム・エリュシオンについて調べてくれたのはチィちゃんだから」

「そう謙遜すんなよ、礼は素直に受け取っとけ……って、さて、こっから一つだけ重要な話がある」

 

 出撃まで残り一分という時間の中で、チィは改まって咳払いをすると、他の三人を一望し、僅かに目を逸らしながらその唇から言葉を紡ぎ出す。

 

「この戦い、チィは多分回避盾になれねえし偵察も無意味だ、だからなるべく火力で貢献するつもりだが……まあ要するになんかあった時チィは庇えない、って思ってくれればいい」

 

 相手が奥の手を準備している可能性があるのなら、それはチィも同じではあったのだが、できればそれは避けたいものだったのだが、四の五の言っていられる状況ではないことはわかっている。

 だからこそできるのは、それを使わずに組み立てたチャート通りにことが運んでくれることを祈るだけなのだが、乱数の神は凄まじい気紛れである以上そのまま自分の願いを通してくれるほど甘くはないことぐらいわかっている。

 

「オッケーわかった、じゃあチィちゃん、何機かプロヴィデンスジムを相手してもらうことになるけどそっちは大丈夫?」

「……訊かねえのか、アイカ?」

「うん、聞いてほしいの? 違うなら問題はあいつらをぶっ飛ばすことだから最優先はそっち、だからチィちゃんにも手伝ってもらえるなら……なんでもいいよ☆」

「へっ、すっかりリーダー風吹かせるようになりやがって……任せとけよ、今日のチィはAGIを鍛えた軽戦士だ、アイカとエリィに比べて時間はかかっちまうかもしれねえが……まあ処理してやんよ、そんでアキノ」

「ええ、私も……リヒトを抑えられるように最善を尽くします」

「エリィちゃんもいつも通り、よろしくね!」

「……は、はい……! 頑張ります……!」

 

 全員が一通り決意を固めたところで、残りの時間が十秒を切る。

 万全とはいえないかもしれないが、人事は尽くした。

 ならばあとは天命を待つだけ。

 コックピットへの転送を終えた「リビルドガールズ」全員が祈るような心境で操縦桿を握りしめて、出撃シーケンスへと移行していく。

 

「アキノ・ベルナール……ミネルヴァガンダム、先行します!」

「チィも出るぜ、悪いが今日は偵察抜きだ!」

「……お願い、リビルドウォート……エリィ、出撃します……!」

「コアチェンジ……コメットトゥフェアリィ、エボリューション! フェアライズガンダムは、アイカで行くから!」

 

 声を揃えてカタパルトに下された足が固定され、戦場へと四機のガンダムを運んでいく。

 高速でスクロールする視界の先に映ったものは、漆黒の宇宙に浮かぶ青い水の星と、そして。

 その周辺へと無数に並べられた鏡の森が、「リビルドガールズ」と「ノイエ・シルバリィ」の面々を戦いの場に出迎えるのだった。

 

 

 

 結論からいうのであれば、その試みは概ね成功したといってもいい。

 乱数の神様がデレてくれた、というのもあるのだろう。

 アイカは配置されたステージが「地球近郊 ソーラ・システムII」であること及び、自分たちがその太陽熱を集めた鏡を守る連邦軍側ではなく、破壊するために侵攻したジオン軍側からスポーンしたこともまた、幸運だったといっていいだろう。

 シルバリィの戦略、戦術は腐っても「ノイエ・シルバリィ」に受け継がれていた。

 アイカはフェアライズガンダムの踵で思い切りソーラ・システムの鏡を踏み砕き、敢えてビルドボルグを引きずるように旋回しながら、ドラグーンによる包囲を躱して、自身の機体を狙うプロヴィデンスジムの群れに、旋回と牽制を中心にした、刻むような動きで接近していく。

 

『腕は鈍っていないようだな、アキノ! 俺とお前……戦い方が逆になったのも因果か!』

「逆になった? 貴方こそ私を見縊らないでください、リヒト! 今の私は『リビルドガールズ』の盾……なれど秩序の切っ先を全て捨てたわけではない!」

 

 戦場の中心では、Iフィールドソードでナイトブレードとバトルブレードの二刀流と打ち合うアキノのミネルヴァガンダムと、リヒトのガンダム・エリュシオン──奇しくも同じ、シナンジュ・スタインをそのルーツに持つ二機が光の軌跡を戦場に描きながら、激しくぶつかり合っている。

 大振りなIフィールドソードの隙をついたかのように繰り出された剣戟をアキノは、それを待っていたとばかりにビームトンファーで受け止めるとそのままリヒトのガンダム・エリュシオンに蹴りを入れて、体勢を突き崩したところにラッシュを加えていく。

 だが、リヒトとて手練れだ。崩された姿勢からすぐに復帰して、構えていた剣先でIフィールドソードのそれを滑らせるように受け止めると今度はアキノの体勢を崩して、意趣返しのようにドラグーン・インカムによっての追撃を行う。

 瞬きをすればそれが致命の隙となるような戦いだ。

 そしてそれは長く持たないだろう。

 

『な、なんだ!? ビームが明後日の方向に……!』

 

 アイカは戦場を俯瞰しつつ、踏み砕いたミラーに自機の後方狙いで放たれたドラグーンの弾が命中したことでそれが動揺したダイバーが言ってくれた通り、明後日の方向に逸れていったのを確認すると、躊躇いなくビルドボルグで正面のプロヴィデンスジムを貫くと、その機体を盾にするような形で自身を包囲していた同機へとそのまま突っ込んでいく。

 

「悪いけど、アキノさんのために……エリィちゃんのために盾になって死んでもらうから」

『こ、この外道……!』

「だから死ね」

 

 味方を肉の盾にされ、おまけに周辺にはアイカが踏み砕いたソーラ・システムのミラー、その破片が漂っていると考えれば迂闊なオールレンジ攻撃も近接戦闘も仕掛けられない。

 そして普段はその指示を出してくれる頼れる隊長はあのアキノという女に首ったけで戦場全体を見据えてはいないのであれば、烏合の衆となった「ノイエ・シルバリィ」の面々がまともに動けないことは最早自明の理だった。

 戦場が見える。

 そして余裕を失った「ノイエ・シルバリィ」を俯瞰しているのは、何もアイカだけではない。

 ミラーによる跳弾でドラグーンによる全方位攻撃を防ぐのではなく、オート制御で放たれたそれの軌道を全て掌の上で握りながら、エリィは迷うことなくトランザムシステムを発動させて、赤く染まった因幡の白兎、リビルドウォートは掻い潜った包囲を抜けて、逆にマニュアル操作のフィン・ファンネルによって四機のプロヴィデンスジムを手玉に取っていた。

 エリィの指先が手繰る光の網に引っかかった者を、或いはそれを回避しようとして不用意に背後を晒した者を撃ち抜いていくその姿は、気が弱くいつも泣いているような少女のそれとはかけ離れており、対峙する「ノイエ・シルバリィ」の団員たちは、ゲームメイカーとなった彼女にただただ圧倒されている。

 その光景をアリアが見ていたのであれば喜んでいたのだろう。

 力を持ちながらもその牙の使い方を知らず、野に蹲っていた獣がGBNという世界に解き放たれたことでその力が真実を示す。

 彼女が見込んだ通り、アグニカ・カイエルの魂がアイカの中にも眠っていたのなら、アイカとニコイチであるエリィの中にもそれが秘められていたとしてなんの不思議があるだろうか。

 

「……スイッチ、です……!」

「任せてエリィちゃん!」

 

 二人の役割は、ひたすら包囲を掻い潜って暴れることだ。

 トランザムを切ったエリィと交代する形でアイカは「システム・フェアリィ・テイル」を起動して、先程のミラーを利用したトリッキーな戦術ではなく、今度は純粋な速度でドラグーンを掻い潜りながら、一機ずつプロヴィデンスジムをビルドボルグのサビへと変えていく。

 さっき使った肉盾は引き抜いた上でバルカン砲を当てることであらかじめ処分してあるので無駄もない。

 

『どういうこと、押されている……!? 各機、近くの味方と合流してフォーメーションを組み直して! そしてあのウーンドウォートから……っ!?』

「おっと、あんたの相手はこのチィだぜ! よそ見してたら後ろからドカンだ!」

 

 リヒトが不在である時、「ノイエ・シルバリィ」はどのような指揮系統を構築しているのか。

 混乱の最中で、アイカが乱舞してエリィがそのステージを操るがごとく見えない糸を手繰り寄せる恐怖に怯えながら、「ノイエ・シルバリィ」の副団長である女性、「アリスティーナ」はいつも通りになんとか団員を統率しようと指示を出していた。

 だが、それを邪魔する形で、ビームマシンガンにビームダガーを接続した銃剣とでも呼ぶべきものを得物としたチィのガンダムグラスランナーに割り込まれることで指示は団員たちに届かない。

 平時であれば、リヒトが対応しなければいけない時の団員の統率は唯一、計十五機のプロヴィデンスジムの中でガンダムヘッドを装備することが許されている【プロヴィデンスガンダムアイリス】を駆る女性であるアリスティーナに任されていたのだが、彼女は元々シルバリィの団員ではなく、リヒトという個人の正義に燃える姿勢に憧れて入隊したため、咄嗟の事態にはパニックを起こしてしまうという弱点を抱えていた。

 しかし、それでも彼女が副団長に据えられていることには理由がある。

 シャイニングエッジビームブーメランをシールドサーベルとして利用する剣撃から巧みに逃れながらも、掠めただけで恐らく中破以上に自身の機体を持っていかれるであろうその威力と、パニックさせておいて尚これだけの実力を誇っているアリスティーナに冷や汗を流しながら、チィはビームマシンガンによる牽制へとそのスタイルを切り替えた。

 

『副団長、お助けします!』

『違う、貴方は近くの味方と合流して……っ!』

「隙ありってなぁ! ここは学校じゃねえんだ、お喋りしてえなら教室でやっとくんだな!」

 

 アイカとエリィが形成している乱戦エリアから最も遠いプロヴィデンスジムが味方との合流ではなくアリスティーナへの救援を選んだその瞬間にチィはスモークディスチャージャーを発射して煙幕を張ると、ミラージュ・コロイドを展開した上でプロヴィデンスジムの背後に回って、その背中へ銃床に接続されたビームダガーを突き立てる。

 

『な、バカな……俺がこんな、SDに!?』

「けっ、SDだろうが旧キットだろうが背中見せたら死ぬんだよ、もっと人の話聞くかお勉強しとくべきだったなぁ!」

 

 これで計八機。マーカーの点滅を確認して、チィは回避盾はやらないと宣言こそしたものの、回避盾とよく似たスタイルでアリスティーナの足止めを選択した上で、プロヴィデンスジムの残りは全て、アイカとエリィのズッ友コンビ(メンヘラタッグ)に一任することを決めた。

 正直なところあの二人の連携は予想以上だ。地形に恵まれたとはいえ、ミラーを破壊して跳弾を誘発するというアイカの判断もクレバーだったし、エリィに至ってはファンネルの撃ち合いで負ける道理がないとばかりに張り切っている。

 それ自体は喜ばしいことなのかもしれない。

 だが、厄介なのはドラグーンという兵器が兼ね備えているその性質だ。

 プロヴィデンスジムのフォーマットが原型機と変わらないのであればそのドラグーンの銃口は四十三にかけること十五となる。

 当たらなくとも、どれだけうまく回避しようとも、掠めて蓄積したダメージは決してバカにしていいようなものではない。

 チィもアリスティーナが操るドラグーンに直撃こそしていないが各部装甲は焼かれていて、もうすぐでコーションが鳴り響くか響かないか、という辺りまで耐久値が削られていることは自覚していた。

 そして、アキノもそろそろ限界が近い。

 リヒトからの剣撃を受け続けたIフィールドソードの刃が欠けて、その破片がミラーへと突き立てられて鏡を砕く。

 リヒトは腐ってもSSランクだ。そしてスピードと小回りを重視したビルドながらその機体のパワーは決してミネルヴァガンダムに劣るものではなく、ドラグーンシステムを起動してアキノはIフィールドソードを背中のマウント部に戻すと、ビームトンファーによる応戦を選択する。

 

『さっきまでの威勢はどうした、アキノ! お前の剣では俺に届かない! 今の内に降伏するんだ!』

「誰が! 私は……私は『リビルドガールズ』の盾なのです! ここで一歩でも食い下がれば貴方が仲間を斬り捨てるなら、テコを入れられようが核を撃たれようが私はここから退くつもりはない!」

『強情な! どうして……その潔さを正義のために使えないんだ!』

 

 だが、それが悪あがきであることは他でもないアキノ自身がわかっていたし、彼女をよく知るリヒトであれば尚更だろう。

 交わし続けた剣戟は、虹の粒子を纏う黒銀のナイトブレード……サイコフレームを削り出して作ったという設定で製作されたその剣が、受け止めたビームトンファーごと、ミネルヴァガンダムの左腕を切り裂くという形で初めの決着を迎えることとなった。

 

『悪いがここからは本気で行くぞ……サイコフレーム、俺に力を貸してくれ!』

「くっ……手札を切らされようとこちらも! サイコフレーム!」

 

 青と虹、それぞれに胸元が発光した、同じ原石から磨き出された二つの機体が二度目のぶつかり合いを開始したが、恐らくアキノは持つはずがない。

 そしてアキノがやられれば、いかにアイカとエリィの火力がリヒトの喉元に届きうるものだとしても、その前に潰されてしまうだろう。

 レーダーに写る敵影は残り六。リヒトとアリスティーナを含めなければ残存するプロヴィデンスジムの数は四だ。

 

「アイカ、エリィ! すまねぇ……っ!」

『何を!? 逃げるつもりなら……!』

「チィちゃん!? わかった、任されたぁっ!」

「……わかりました、チィさん……!」

 

 ──チィは、仲間に恵まれたな。

 自身の内から何か塩辛く温かな擬似感覚が滲んでくることに違和感を覚えながらも、チィはアリスティーナの対処とプロヴィデンスジムの対処をアイカとエリィに押し付ける形で、アキノを活かすための手札を、決して切りたくはなかった鬼札をここで消費することで腹を括って、フラッシュグレネードをプロヴィデンスガンダムアイリスへと投擲する。

 そして、チィは全力で機体を戦場の中心へと急行させた。

 

(……済まねえな、アンシュの旦那……でも、チィは……!)

 

 この切り札があれば確実にアキノは生き残れる。

 だが、チィは。

 操縦桿を握る手が僅かに震えていることを自嘲するように、へっ、といつも通りにニヒルな笑いを浮かべながら、粒子を纏う二刀流を振るい、アキノを追い詰めるリヒトと、今まさにデブリへと背中を叩きつけられて追い込まれたアキノを助けるべく、チィは躊躇いつつもその選択をした。

 こんなクソみたいな賭けを条件に出したのはチィ自身だ。

 自嘲しながら、そして温かくも胸を締め付けるような、切り裂かれるような感覚を振り払うように全力でブーストを噴かしながら、チィは静かに、まるで刑死の鎌を受け入れる罪人のように、リヒトを睨みつける。

 天秤の反対側には常に釣り合うものが乗らなければいけない。

 それこそがチィのポリシーであったし、どうしても破ることのできない誓いのようなものでもあった。

 そしてチィは、心から望んでいる。

 アイカとエリィ、そしてアキノが楽しくGBNを続けられる未来を。

 そして心の底から感謝している。

 自身が面白おかしく金を稼がせてもらって、アキノという堅物だけどどこか憎めず、愛おしさすら感じるような人間と出会えたことを。

 

『これで終わりだ、アキノ!』

「くっ、抜かったか……!?」

「いいや……アキノのバカはやらせねえ!!!!!」

 

 全力で駆けつけたチィはヘッドバッドでそのままミネルヴァガンダムを突き飛ばすと、アキノに向けて振り下ろされた二刀の剣撃をその身で受け止める。

 

「……チィっ!!!」

「バーカ……ここで死ぬって訳じゃ──」

 

 そうして迸る光の中に、ガンダムグラスランナーの姿は呑み込まれて消えていく。

 予定が狂ったかと、リヒトは舌打ちをするが、どのみち今のアキノではあのSDの挺身で延命したところで長く生き延びられはしないだろう。

 数分だけ寿命が伸びただけなら、そこになんの意味がある。

 悲しみに絶叫するアキノをどこか冷めた目で、しかし怒りの混じった瞳で睨みつけながら、レーダーを一瞥したその時だった。

 

「……そうだよ、ここで死ぬって訳じゃあねえんだ」

 

 ──敵の数は三ではなく四。減っていないのだ。

 そうして、晴れていく爆炎の中にその機体が立ち上がるのを、ゆらりと立ち上がるのをリヒトは、そしてアキノは、否。

 この戦場にいる全員が、愕然とした表情で見つめていたのだった。




チィ、決死の挺身

【アリスティーナ】……リヒトの姿勢に憧れて「ノイエ・シルバリィ」に入隊し、その実力だけで副団長までのし上がった才女……なのだがどうにも不測の事態には弱く、パニックを起こしてしまうという癖がある。しかし部隊の中で紅一点ということもあり「これから成長していけばいい」という姿勢で隊員たちは見守っている。リヒトに好意を寄せているが彼が純情すぎるのとアキノしか見ていないのでやきもきしている。
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