ガンダムビルドダイバーズ リビルドガールズ   作:守次 奏

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第四部完結編なので初投稿です。


第五十話「機動人形は未来の夢を見せるか〜亡霊が討ち果たされた日」

 爆煙が晴れた中には、確かに一機のガンプラが直立していた。

 だがそれはどこかに傷を負うでもなく、袖口のスリットから展開したビームピアサーで、呆気にとられていたリヒトを急襲すると、その左手に握られていたナイトブレードを無力化すべく、指関節を狙っての刺突を放つ。

 しかし、誰もが言葉を失っていた。

 そこにただのガンプラが立っていただけならば、驚きこそするものの、ΖΖガンダムを見たときのマシュマー・セロのようなリアクションだとか、そういうもので済んでいたことだろう。

 だが、そこにあったものは「ガンダム」でも、「ガンダムに登場したモビルスーツ」のプラモデルをスキャンしたそれではなく、チィのダイバールックをそのままメカの姿に押し込めたような──いわゆる、モビルドールと呼ばれる存在だったのだ。

 

「EL、ダイバー……」

 

 アイカが無意識の内に呟いていたその言葉が伝播したかのように、「リビルドガールズ」にも「ノイエ・シルバリィ」にも動揺が広がって、膠着していた戦場が、混乱という形で動きを取り戻していく。

 ELダイバー。それは、GBNに集積された感情の余剰データから生まれたとされている電子生命体の総称である。

 とされている、という曖昧な形で濁されているのは、そのままの意味だ。

 ELダイバーの発生原因については、日々運営もエナドリと胃薬を友として、その解明に全力を尽くしているのだが、わかっているようで全くわかっていない。

 その第一号として、この国からも認定されている「サラ」が、自身の出自に対して上記のような「ガンプラへの想い、GBNにおける何かを大好きだと思う感情から生まれた」と語っていた。

 つまり、それぐらいしかELダイバーの発生に関する根拠はなく、ゲームのそれではないガチの検証班、運営スタッフは何か余剰となるデータが生まれうるのかと、日々バックログを漁っているのだが、「余剰」と呼べるべき感情データ群はどこにも見当たらないのだ。

 ミラーミッションはより多くダイバーの感情や心理を読み取るため、そこが由来かと当たりをつければ見当違いに終わり、そして二年間、今は「ビルドデカール」と呼ばれるELダイバーのデータをGBNと親和させ、現実における躯体となるガンプラ──「モビルドール」にそのデータ、魂とでも呼ぶべきものを定着させて保護することが精一杯、というのが現状であった。

 皮肉にも「ビルドデカール」を開発した人物は「ブレイクデカール」を作り上げたことでGBNを混乱に陥れたそれと同一なのだが、今はGBNにおけるELダイバーを管轄するスタッフとして働いている──が、今は割愛しよう。

 とにかく、爆炎の中から現れたものはモビルドールと呼ばれる存在であり、そしてさっきまでそれに包まれていたのはガンダムグラスランナーであることから、あのモビルドールを操縦しているのは、他ならぬチィであるということになる。

 そして、モビルドールがELダイバーの現実における躯体となるのなら、取りも直さずそれは、チィが生身の肉体を持つダイバーではなく、電子の海に生きる、八十四人の内一人のELダイバーであることに他ならない。

 チィがその姿を晒した理由は単純だった。

 この作戦は、四人が生き残らなければ完遂できない。不意を突く形でリヒトの左手を無力化することには成功していたが、それでも彼のドラグーンインコムは、姿を現した【モビルドールチハヤ】を猛追し、そしてチィもそれを回避しつつも基本的にはグラスランナーのビームマシンガンしか手持ちの武器がないためジリ貧だ。

 アキノが中破している今、なんとか戦線を立て直せる方法があるのなら、グラスランナーよりも身軽なモビルドール形態になることで回避盾となってアキノと共に戦線を支え、残りを片付けたアイカとエリィの火力で強引に押し切るしかない。

 

(こーいうとき、あいつならもっとスマートにやれるんだろうけどよ)

 

 チィは基本的に、ガンプラバトルそのものが得意だというわけではないし好戦的ではない。

 だからこそクリエイトミッションの穴をついて報酬をせしめる斥候型ビルドを、その身体を覆い隠すための偽装にして愛機として利用していたのだし、モビルドール形態への移行だって必殺の布石というわけではない。

 

『ELダイバーを隠していたのか、「リビルドガールズ」……だがその程度の攻撃で怯む俺ではない!』

「させません、チィ!」

「おうよ、アキノ! ボサっとしてた分取り返してもらうからな!」

 

 チィがビームピアサーと銃床のビームダガー、その両方を駆使してリヒトに対しての時間稼ぎを行なっていた間、アキノはリヒトが取り落としたナイトブレードをアジャストし、それを握ることで二人の剣戟へと飛び入り参戦する。

 チィが蝶のように舞い蜂のように刺すフェンサーなら、剣をその手にしたアキノは火力で薙ぎ払い押し切るファイターだ。

 手……というよりは可能な限りSDとして偽装すべく短縮したものを採用していた足の短さという枷から解き放たれたチィのモビルドールは、必殺というわけではないが、アキノと足並みを合わせられるという点においては間違いなく有効打であった。

 チィが前に出て関節狙いの一撃を繰り出し、迎撃を回避したかと思えばアキノがドラグーン・インコムの攻撃を縫って、リヒトに猛攻を仕掛けていく。

 そして、呆けている場合ではないのは、アイカたちも同じだった。

 反応の遅れているプロヴィデンスジムをビルドドラグーンで貫いて撃退すると、アイカはビルドボルグのコアユニットから発振したビームサーベルで、アリスティーナへと果敢に斬りかかる。

 

『くっ、残存する味方は……!?』

「させないって言った!」

 

 敵のまさかと思う瞬間が、こちらにとってはチャンスとなる。

 映像作品「ガンダム Gのレコンギスタ」において登場した台詞だが、それはまさに今のアイカとアリスティーナの交戦状況を示すのには打ってつけだ。

 三体一という不利を背負っていても、ドラグーンに頼るだけの敵を相手に、同じファンネル戦ならばエリィが負ける道理はない。

 アイカは心の底からエリィを信頼した上で残った敵の対処を任せ、アキノとチィの救援へと向かうべく副団長撃破RTAを条件問わずのレギュレーションで突発的にスタートしたのだ。

 とはいえ、迂闊にフェアリィ・テイルを使えば後に控えているリヒトを相手にするときに負け筋となる。

 

「ちっ……!」

『私だって……銀の誇りを胸に持つ副団長! 貴女になんて負け……』

「誰がどこを盛ってるっての!?」

『そんな話してないでしょ!?』

 

 副団長というだけあり、巧みなビームサーベル捌きでアイカと渡り合うアリスティーナの背後と下に回り込むように二基のビルドドラグーンへと指示を出しながら、アイカは勘違いによる盛大な逆ギレを己の燃料にした上で、決して攻勢には回らせないという覚悟で、あの日「ワールド」と「タイガーウルフ」が見せた、ガードさせて尚有利な、荒々しくも無駄のない動きで副団長の彼女を追い詰めていく。

 

「……トランザム……お願い……っ!」

 

 そしてエリィもまた賭けに出ることにした。

 交戦時間を鑑みれば射出できるファンネルは残り二基、勝ち筋のために温存しなければいけない四基のことを考えるなら、機動戦を仕掛けることでしかこの状況を突破する方法はない。

 再び赤熱化したリビルドウォートはドラグーンの網を滑るように掻い潜り、ビームライフルでの牽制を加えながら、遠ざかった一機を無視する形で正面に見えたプロヴィデンスジムへシールドバッシュを叩き込むと、その背後から二基のフィン・ファンネルで撃ち落とした上で、残り二機になった敵からの十字砲火で機体を損傷、中破させつつも、なんとかファンネルを守り切ることには成功していた。

 ──十字砲火の対処にダメージを食らっていいという条件を加えるなら。

 片肺を失った白兎はビームライフルを背後の敵にノールックで撃ち放ってそれを撃破すると、ライフルを投棄した上で捥がれた左腕のシールド裏からビームサーベルを回収して、残ったプロヴィデンスジムへと咆哮と共に切り掛かっていく。

 

「っ、あぁぁぁぁぁっ……!」

『そんな見え見えの正面突撃でどうにかなると!』

 

 ならない。それはわかっている。

 実際にエリィがビームサーベルを振り下ろした右腕はプロヴィデンスジムの右腕に切り裂かれ、四肢を残ったドラグーンに撃ち抜かれたが、それでもまだ、一枚上手なのは彼女の方だった。

 フィン・ファンネルは、他のファンネル系武装と比べて稼働時間が長い。

 まだも動いていた二基のフィン・ファンネルはエリィとリビルドウォートを斬りつけた最後のプロヴィデンスジムを撃ち抜くと、その役目を終えたかのように背部のブーストポッドへと帰還していく。

 肩のGNドライヴは二基とも損傷ないし損失しているが、副動力の核融合炉はまだ、リビルドウォートにその血液としてエネルギーを送り出して拍動している。

 そして、アイカもその翼を切り裂かれ、ドラグーンによる全方位攻撃を全力で回避しながらも細々としたダメージを負いつつ、とうとうアリスティーナの左腕を切り捨てて、ビルドドラグーンによる奇襲で背後からそのコックピットを貫くことに成功していた。

 

「これで……終わり!」

『そんな、私が……! リヒトさん、ごめんなさい……!』

『ティーナ!?』

「よそ見してんじゃねえぞ純情坊や!」

 

 副団長の撃墜という事実に動揺した一瞬の隙を見逃さずにチィはハイキックでガンダム・エリュシオンの顎を蹴り上げると、そこにビームマシンガンによる追撃を加えていく。

 ブリューナクを使うならば今しかないと、アキノはそう判断しかけたところを押さえて、通常の剣戟を続ける道を選んだ。

 果たしてチィの決死の攻撃により体勢を崩しながらも、リヒトはその類稀なる操縦技術でドラグーン・インコムを発射してチィの右足関節を砕き、妄執してきたアキノの気勢を削ぐことで攻撃のタイミングを遅延させて、お返しとばかりに一閃した剣閃でミネルヴァガンダムの右腕を胴体ごと袈裟懸けに切り裂いてみせる。

 

『俺は……負けられないんだ、この誇りにかけて、ビーティスさんの跡目として! 俺がGBNを守らなきゃ誰が守るっていうんだ!』

 

 サイコフレームの発動によって劇的に反応速度が向上しているガンダム・エリュシオンに、リヒトの過集中が重なったそれはまさに、戦場を駆け抜ける一つの嵐だった。

 吹き荒れる剣閃からアキノを庇いつつも、チィの躯体であるモビルドールは傷付けられて、左腕が飛び、ビームピアサーでガードした右手首もそのビームごと、サイコフレームソードに切り裂かれてしまう。

 ──もはや天命は尽きたか。

 それが飛来したのは、チィのガードを突破した目の前にガンダム・エリュシオンが現れてその剣を振りかぶる姿を視界に認め、アキノが諦めに歯を食いしばろうとしたその時だった。

 四基のフィン・ファンネルがリヒトの死角から攻撃を放ち、取り囲むように光の網を描いていく。

 

『邪魔だ、死に損ないが!』

 

 だがそれも一瞬で叩き落とされてしまい、エリィの抵抗は無駄に終わったのかと問われれば。

 その答えは間違いなく否であった。

 ビルドボルグの一撃がサイコフレームソードへと振り下ろされて、アイカはフェアライズガンダムの小柄な体躯を活かすことでリヒトの懐に飛び込んで、その土手っ腹を蹴り飛ばしたところに左手で引き抜いたビームサーベルによる投擲で牽制を加える。

 全ては勝利の布石のために。

 勝ち筋を拾うのではなく負け筋を潰すために。

 アイカもエリィもただ、それだけを脳裏に描きつつ、同時に勝ち筋をも拾い上げるべく最後の賭けに出ることに決めていた。

 驚きこそしたけれど、チィがどうして今まで自分がELダイバーであることを黙っていたかなど関係ない。

 それこそ彼女が言っていたように、話したいのなら話せばいいしそうでないのなら話さなくてもいい、誰もが一つは抱えている人生の秘密、ただそれだけの話だろう。

 

「でやああああっ!!! エリィちゃん、アキノさん!」

「……はいっ……!」

「そういうことですか……了解しました!」

 

 ファンネル系武装がリキャストを必要とするのは、そのエネルギーを使い切ったと判断したときだけだ。

 それはバグではなく仕様として検証されていて、例えばクシャトリヤのファンネルを一基叩き落としたところで他による攻撃が止むことはないように、四基のフィン・ファンネルこそ失ったが、まだエリィの背には二基のフィン・ファンネルが生きていて、アキノは両腕を失っていたが、自慢のIフィールドソードはまだ完全に大破したわけではない。

 エリィが迷わずに必殺技を発動したのを確認して、アキノは彼女にIフィールドソードのコントロール権を手渡した。

 

「エリィ! アイカさん! どうか……お願いします!」

「足りっかどうかわかんねえけど、チィの武器も持ってきな!」

 

 リビルド・パワーゲートが形成されると同時にチィは残った足で周囲を漂っていた右手首や左腕が握り締めていたビームマシンガンをゲートの中にシュートして、アイカがその、必殺を宣言することに文字通り全てを賭ける。

 

「任された! これが……これが私たちの描くフェアリィ・テイルとその結末! 自治厨でもなんでも関係ないしどうでもいいけど……あたしの大切な友達を勝手に持ってこうとしたんだからそのまま死ねええええええッ!」

『ふざけるな! 俺はまだ負けてない、貴様らもろとも消し炭にすればそれで済むんだ! 来い、ドラグーン! お前の力と俺の誇りで、立ちはだかる悪を打ち払う銀の剣とする!』

 

 吹き飛ばされたリヒトは、ドラグーン・インコムの線をパージするとそれを残っていたサイコフレームソードの刀身に沿わせて装着することで、チャンピオンが用いている必殺技、EXカリバーとよく似た巨大なビームの刀身を形成する。

 

『ドラグーンソード……ミスリルストリームッ!!!』

「フェアリィ・ストライク……ブライドぉぉぉぉっ!!!!!」

 

 聖銀の輝きを纏う、ガンダム・エリュシオンの刀身と、妖精の羽のように緑を基調としつつもそこに七色の虹を纏う純粋なエネルギーの塊となって駆け抜けていくフェアライズガンダムが激突する。

 モニターはスパークする閃光で白く染まり、アイカの視界にはもはや何も映ってはいなかったが、決してその足を止めることなく、食いしばった歯が砕けそうな擬似感覚のフィードバックを堪えて、フェアライズガンダムを、その妖精の羽を帆にして進む女王を前へ、前へと進めていく。

 そうして仲間からの支援という追い風を得て、フェアライズガンダムは主人の願いに答えるかのように猛く羽ばたく。

 負けられない。負けるわけにはいかない。

 ぶつかり合う光の剣と妖精の一矢に、もはやしがらみなどというものはどこにもなく、ただガンプラバトルに興じるダイバーとしての意地がリヒトを、そしてアイカを突き動かしていた。

 ──だが、決定的に両者を分かつものがそこには存在している。

 ぶつかり合っていたエネルギーの閃光が次第に晴れて、伸びていたのはリヒトの振り下ろしたミスリルストリームの方だった。

 しかし、妖精の羽は消えてはいない。

 その冠を輝かせ、光の剣の残滓を──「対ビームコーティングが施されている」ビルドボルグの刀身で切り裂きながら、アイカは、フェアライズガンダムは進んでいく。

 止まらない。止まるわけにはいかない。

 アキノという大事な仲間のために。チィがその秘密を曝け出してまで守ってくれたこの機会のために、最愛の彼女であるエリィのために、そして。

 ──いつか出会ったその時、コアガンダムを初めて作って今もどこかで彷徨い続けている誰かに、恥じることのない、あたしが初めて信じることができた、あたし自身の「大好き」の、コアガンダムの、フェアライズガンダムのために!

 

「死ねえええええええッ!!!!!」

『そんな、バカな! 俺は……俺は! アキノ! ビーティスさん! シルバリィは! シルバリィがなくなったら、誰がGBNの秩序を──』

「そんなの……あたしたちの知ったことかぁぁぁぁ!!!!!」

 

 そうだ。知ったことじゃない。

 こいつの抱えている事情も過去の話も何もかも。アイカは絶叫しながら、その純粋な力のみが示す真実を、「大好き」という気持ちが生み出した、そして「大好き」という気持ちが手繰り、寄り合わせた縁が作り上げた牙であるビルドボルグの切っ先を、エネルギーの尽きたガンダム・エリュシオンのコックピットへと思い切り突き立てた。

 フェアライズガンダムがまだ「妖精の羽」を展開できていることに理由があるとするならば、それはアイカのリソース管理が上達していることも挙げられるが、何よりも──エリィの必殺技である、リビルド・パワーゲートの性質にこそそれは見出せるものだった。

 リビルド・パワーゲートはパワーゲートの名の通り、単体での攻撃力こそ持たない代わりに、フェアリィ・ストライクの、通過した武装の威力を増幅させる性質を持っているが、同時に通過する機体に対してエネルギーの供給を行い、武器を投げ入れればその威力を加算するのだ。

 だからこそ、アイカの剣はそのビームコーティングと、仲間たちからの支援という追い風を得たことでSSランクの喉笛を食いちぎる、あるいはその首を失って彷徨い続ける亡霊の鎧を打ち砕くヴォーパルの剣となったのだ。

 リヒトも奮闘していたことは確かだった。

 もし、先ほどの条件の中からどれか一つでも欠けていたのならば負けていたのは「リビルドガールズ」に他ならなかった。それほどまでにSSランクという存在は凄絶であり、「アイカが必殺技を当てる」こと以外の勝ち筋はないと、他でもない本人たちがそれを認めているのだ。

 だからこそチィは秘密を捨ててまで挺身した。だからこそアキノはブリューナクを発動するのではなく自身の愛剣をパワーゲートの糧にした。そして、だからこそエリィは、勇気を出して戦った。

 もしも、アイカとリヒト、二人の勝敗を分かつ絶対条件がそこにあるとするなら、アイカはフォースメンバーを「仲間」として見ていて、リヒトはフォースメンバーを「部下」として見ていたことだろう。

 そのことに対する善し悪しではない。ただ、そんな些細な違いが勝敗を分かつ条件となるのがガンプラバトルだというだけの話だ。

 無論、逆に「仲間」として見ることが足を引っ張ることだってあり得るように。「部下」として見ることが効率的な勝利を手繰り寄せることだってあり得るように。

 だが、この戦いはそうではなかった。それだけなのだ。

 

【Battle Ended!】

【Winner:リビルドガールズ】

 

 絆が手繰り寄せた勝利に「リビルドガールズ」は勝鬨を上げるかのように、それぞれに微笑みを浮かべて機械音声が勝利の通知をダイアログにポップさせるのを見届けて、ロビーへと解けていく。

 そして、最後まで残っていたチィは、その光景を、アイカの、エリィの、アキノの笑顔を脳裏に焼き付けて、目蓋の裏に刻み付けるかのように見届けると、ふっ、と自嘲するような笑みを浮かべて、その凱旋を果たすのだった。

 

 

 

 

「クソッ!」

 

 惜しくも敗北を喫したリヒトは「リビルドガールズ」と顔を合わさずに報酬だけを振り込んでフォースを解散すると、がむしゃらに損傷した機体を、結構なお値段のする課金アイテムで三割ほど修復した状態で復帰させて、当てもなくディメンションを彷徨っていた。

 シルバリィの血筋はこれで途絶えた。ならば誰がこのGBNの秩序を、運営に成り代わって守っていくというのか。

 キャプテン・ジオンは都合の良い時しか現れない。マギーだって同じだ。

 ならば統制された集団こそが必要だというのに!

 怒りに任せてがむしゃらに機体を走らせていたリヒトは、眼下に見る景色の中に、見覚えのある機体を発見した。

 リバーシブルガンダムをベースとしていたそれは、細部こそ違っているが元々マスダイバーが使っていたものだ。

 弾かれたように、がむしゃらに降下してリヒトはその機体と共に湖畔に浮かぶ月を眺めるかのように佇んでいたダイバー……「アクセル」に剣を突きつけて、フリーバトル申請を行う。

 

「お前……元マスダイバーのアクセルだな! まだGBNを続けていたのか!」

 

 リヒトの言葉にゆっくりと振り向いた茶髪をウルフヘアーにした男、アクセルは自嘲するように肩を竦めながら答える。

 

「ああ……そうだ。おれは元マスダイバーだ。それでお前は……確かシルバリィだったか、これがな」

「そうだ! ……っ、いや、シルバリィは……違う! とにかく俺は銀の誇りにかけてお前を討ち果たす!」

「いいだろう、来い。おれもお前も亡霊だ、夜に戦うならちょうど良いだろう」

 

 アクセルはそれだけ告げて、自身の愛機である【リヴァーサルガンダム・ソヴァール】に乗り込むと、槍のような武装を振り回して、損傷したガンダム・エリュシオンにその切っ先を向けた。

 結論からいってしまえば、それはもはや勝負にすらならなかった。

 万全の状態であればある程度は持ち堪えたのかもしれない。だが、損傷に損傷を重ねて砕けたサイコフレームソードは三割の耐久で復活しながらも個人ランク99位という「二桁の魔物」が振るう荒れ狂った力に耐え切ることはできず、それはガンダム・エリュシオンもまた同じだった。

 一瞬の内についた決着に愕然としながら、リヒトはただ力を失って、湖畔を見下ろす草原に倒れ込んでいく。

 終わった。全ては。もう俺は決定的な敗者で、シルバリィの血筋は潰えたのだ。

 その事実を喉元に突きつけられたような感覚に、リヒトは嗚咽して静かに涙を零していく。

 

「……その様子だと、誰かにでも負けてきたか」

「……っ、そうだよ! 俺が負けたせいで、『ノイエ・シルバリィ』は解散した! そして今元マスダイバーのお前なんかに負けたんだ! もう放っておいてくれよ!!!」

 

 絶叫するリヒトの隣に座り込んで、愛機から降りた、薄水色のフライトジャケットを纏うアクセルは先ほどと変わらず、湖面に浮かぶ月をただ茫洋と眺めているかのように、じっと視線を前に向けていた。

 

「……おれも負けた」

「はあ!? だからなんなんだ! ブレイクデカールなんてチートを使ったやつがビーティスさんに敵うわけがないだろ!」

「ふ……そうだな。その通りだ。おれには才能がないと、だからGBNを辞めてしまえと言われているような……そういう気分だったさ」

 

 アクセルは覚えている。自身が「ザ・シルバリィ」の精鋭に押し切られて敗北を喫して以来、ブレイクデカールにこそ手を出さなかったものの、元マスダイバーという烙印を抱えて、抜け殻のようにGBNを旅していたことを。

 

「……っ、その通りじゃないか! 間違ったんだろ!? ならやめて責任を取るのが筋なんじゃないのか!!!」

「奴はそう思っていたようだがな」

「奴……?」

「お前の尊敬する男だ。だが……おれはこの烙印を押されてふらふらと彷徨っていたことで、それでも得られた気づきがあった」

 

 ビーティスが辞めてしまった理由に察しはついた。アクセルはそれから、ビーティスへの復讐という動機すら失った上でただディメンションを彷徨う亡霊となったのだ。

 そこからはただの地獄だった。行く先々で煙たがられて石を投げられるような日々で、本当にGBNを辞めてしまおうかと、そう思っていたと、アクセルは静かに湖面を切るように小石を投げながら淡々とリヒトへとそう語った。

 

「……なんだよ……なんなんだよそれ、間違ってたら……」

「そうだ。おれは誤った。過ちを犯した。だが……それでもこの世界が大好きだったんだ」

 

 不思議なもんだな、これが。

 アクセルは自嘲するように微笑むと、リヒトに向かってその手を差し伸べる。

 

「……なんのつもりだ!!! 俺に情けを……」

「そうだ、そして……人は誤ちを繰り返さないために、やり直せるのさ」

「っ……!」

「おれはやり直した。それでも過去の罪が消えないことは否定しない……もしもお前が過去に囚われて引き返せないだけで、誤っていたと思うのなら、同じ穴の狢の先輩として送る言葉があるというだけだ、これがな……」

 

 元マスダイバーの手なんか借りなくても、お前は自分で立ち上がれるだろう。

 そう言い残すと、アクセルは差し伸べた手を引っ込めて、再び放浪の旅へと戻っていくのだった。

 

「畜生……ちくしょう……うわあああああッ!!!!!」

 

 リヒトはただ、湖面に映る月へと向けて咆哮する。

 わかっていたのだ。自分たちが本当は間違っていることも、だからアキノに振り向いてもらえなかったことも、ビーティスが去っていった理由を作ったのは、自分だったのも。

 ただ、それを認められなかったのだ。認めるわけにはいかなかったのだ。

 認めてしまえば今までの自分が全て意味をなくしてしまいそうだったから。認めてしまえば、あの楽しかった日々を否定することにもなってしまうから。

 静かに頽れた彼の足はもはや力を失っていた。だが、それでも。

 それでもいつか、前に進める。

 そう言い残すかのように、仮想の空に浮かぶ月へと、先に蹉跌し、再生した過去の亡霊とその愛機は、リヴァーサルガンダム・ソヴァール……「大好き」を叫んでこの世界とELダイバーの両方を、そして自分を救い上げてくれた少年にリスペクトを込めたその機体は、「大好き」な空を翔けてゆく。

 銀の亡霊は討ち果たされた。ならばここにいるのは。

 ただ、蹉跌から立ち上がろうとする一人の少年と、彼を救い上げた小さな救世主に、他ならないのだった。




第四部、完結

【リヒト・フェーンミッツ】……「ノイエ・シルバリィ」を率いていたSSランクダイバー。15歳。中学一年生の頃にマスダイバーに襲われたところをビーティスに救われたことで「ザ・シルバリィ」の前身となるようにビーティスへ弟子入りし、彼の指導のもとでめきめきとその力を伸ばしていった天才少年。シルバリィの組織化を提案したのも彼であり、ビーティスもそれには反対しなかったが、やがて少年特有の正義感とマスダイバーとの終わらない戦いに疲れ果てて過激な自治活動にも手を染め始めたことが、決別のきっかけとなった。そうして歪んだまま、彼は大好きであるはずのGBNを怒りと憎しみのままに彷徨い続けていた。しかし、その感情は裏を返せば、ビーティスなき後のGBNも、彼は愛していたことに他ならないのである。
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