ガンダムビルドダイバーズ リビルドガールズ   作:守次 奏

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第四部完結記念で初投稿です。


幕間其の四:特定電子生命体の誕生及び【閲覧権限がありません】

【A.D.20XX 1/12】

 

 特定電子記録機器における電子生命体、公称特定電子生命体、通称ELダイバーの誕生は、ある種の奇跡とでもいわなければ説明が成り立たない。

 GBN──ガンプラバトル・ネクサス・オンラインにおいて、アバターの表情等を再現するために、プレイヤーの感情を読み取った際に余剰として集積された感情データ群及び、「ガンプラの想い」が彼女たちを生む土壌になったということは、特定電子生命体第一号「サラ」へのインタビューから判明している。

 だが、実際のところ、彼女が言うような「ガンプラの想い」、即ちダイバーの感情に関わらない余剰データ群と呼ぶべきものは、この一年バックログを徹底的に調査したが、見つからなかった。

 ミラーミッションと呼ばれる特定ミッションは、その性質上ダイバーの感情や深層心理を大きく読み取ってその内容に反映するために、当初はそのデータ群こそがELダイバー誕生の鍵になったのではないかと調査チームは検討をつけたのだが──結果は知っての通りである。

 GBN運営チームは決して読み取ったダイバーの感情データや深層心理等を何かに悪用する意図はない。

 だからこそこの業務は調査班にとっても心身ともに多大な負担を強いられるものであったことは明白であり、こうして記録をつけている我々も正直なところ罪の意識から、非公式に残しておこうと深層ディメンションに秘匿させてもらっている。

 不満がないかといえば嘘になるが、カツラギさんのことを思えば文句など言えようはずもない。

 日本政府との対外折衝、そして無茶振りされた業務を部下に押し付けてしまうこと及び、その失敗に責任が課せられる──このような仕事を一体どこの誰がやりたいというのか?

 本題からは逸れてしまったが、ELダイバーについて現時点で確実に分かっていることだが──我々も笑ってしまう他にないのだ。

 ないのだ。何一つとして、確定情報が。

 個人の発言や個人に依存する技術によってELダイバーは世に送り出される運びとなったが、我々としては正直なところ屈辱を感じざるを得ない。

 しかし、彼女たちがこのゲームと、ガンプラから生まれてきたというのであれば、我々運営スタッフは神父のように生まれくる彼女たちへと祝福を与えなければならない。

 故にこそ、「按手」を招いたのは屈辱でこそあったが必然だった。

 ELダイバーがこの電子の世界を脱して現実で人々と共に暮らすために必要な技術となる、彼女たちの魂とでも呼ぶべきものをナノサイズのデカール状データチップに埋め込んで、モビルドールと呼ばれる躯体を、我々が棄てたGPDの技術であるプラネットコーティングで動かすことで、彼女たちは電子ではなく現実にその生を受けることが可能となった。

 だが我々は──いや、この文書記録を記している私は、その「現実での共生」という在り方そのものに疑問を呈している。

 確かにビルドデカールを定着させた躯体を用意して彼女たちを現実へと送り出さなければ、法律的に彼女たちは不正アクセス禁止法によって裁かれることとなるのだが──厄介なことに、ELダイバーの人権というものについてはあれから一年が経った今でも、恐らくその先も宙ぶらりんであり続けるのだろう。

 白とも黒ともつけたがらない官僚主義と日和見に呑まれたこの国を嫌うわけではない。それ故に甘い汁を吸えてきた部分があることも否定しなければ、此度の仕事のようにその反動で苦いものが誰かに押し付けられる世界だ。

 燃える蝋燭が載っている皿をニトログリセリンに浮かべたものが注がれているタライが回ってきた時点で私も、我々も、逃げておくのが正解だったのやもしれない。

 またも話が逸れてしまった。筆者たる私の悪い癖だ。

 要するに特定電子生命体における誕生記録とその調査であったが、結論としては失敗といったところだろう。

 誕生因子は解明できず、そしてかの「ブレイクデカール」を製作した人間に対して、器物損壊罪や不正アクセス禁止法、威力業務妨害等々現行の法律でしょっぴけそうなところを血眼になって探していた法務部の努力を嘲笑うかのように我々はその「庵主」と親友を、運営スタッフとして迎え入れる運びとなった。

 それは、GBNの敗北宣言であったのやもしれない。或いは「第二次有志連合戦」なるものが開催されたことでユーザーにゲームの命運を託すという狂気的な事態が発生していた時点で何を今更といった風情であるが──

 もはやこの文書を見る者はいないだろう。私も守秘義務を課された上でGBN運営チームを去ることになっている。

 噂によれば「桜宮」の本家とその令嬢が何やらGBNと各方面での関わりを強めてきているようだが、ここを去る私には関係のない話だ。

 引き継ぐことになった彼は神秘の解明に携われると目を輝かせていたが、今はただその純粋さが羨ましい。

 その若さは、私がとうに失ってしまったものであったから。

 私は特定電子生命体を嫌悪しない。むしろ生まれてきたことを祝福する一人の神父にして、その奇跡に対しては敬虔な信徒でありたいという思いさえ抱いている。

 だが──彼女たちがこの電子の海を母胎に生まれたのであれば、それを現実に引き摺り出して共生を謳うというのは何か歪みがそこに発生しているのではないかと、私は思ってしまうのだ。

 第一号、「サラ」とその後見人となった「ミカミ」家とその息子は良好な関係を築いているため、確かに奇跡を信じたくなる気持ちは理解できる。

 しかしながら、人類が異なる文化や文明と出会ってきた時、そこには少なからずどちらかの悲劇があった。

 不理解。不協和。対話しようにも生み出されたすれ違いが彼女たちの身にも降りかからないことを祈りながら、私は長いこと世話になっていたこの会社を後にする。

 もしも君がこのイースターエッグを発見したのであれば、何をそんなこと、と笑い飛ばせるような世の中になっていることを私は切に願うものである。

 人類と彼女たちの「対話」は、まだその入り口に立ったばかりだからだ──

 

 

※※※

 

 

【A.D.20XX 4/12】

 

 僕がこの文書を見つけたのは全くの偶然であることを、このコメントに付け加えさせてもらいたい。

 だが、引き継ぎを担当したあの人が、カツラギさんすらその退社を惜しんでいた理由はこれを見るだけで理解できた。

 彼の慧眼は恐らく今という事態を見越していたのかもしれない。

 連絡手段もなく、どこに行ったかわからない以上、ここに僕が何かしらを付け加えるのはただの自己満足だ。

 それでも、贖罪をしなければならないと思った。そうでもしなければ僕の良心がその呵責に耐え切ることができないから、逃げているだけだと嘲笑ってくれても良い。

 幸いであったのは、桜宮家がこのGBN運営において大きな発言権を持つことになった、そのことだが、同時にそれは最大の不幸によって訪れたといってもいい。

 ELダイバーに人権を認めるべきか?

 その議論は今も国会を紛糾させているし、その中でも「第一次特定電子生命体に関する特別法案」が参議院を通過したのは喜ぶべき事態なのだろう。

 官僚に飲まれた与党は否定のポーズを取ってこそいるが、彼らもその仕事が対外折衝であることを考えれば、他国にはないELダイバーの存在は積極的に保護することで政治的なパフォーマンスともなる。

 だが、文句を言うのであれば決まるのが遅すぎたのだ。

 

【※ここからはパスワードを入力しないと閲覧できません】

【※※※※※※※※※※※n】

【入力を確認しました】

【イースターエッグをここに開示いたします】

 

 あなたがこのパスワードを突破したというのなら、恐らく同じ穴の狢になりたくて自ら選んだか、僕を陥れたくてスキミングしたかのどちらかとなるだろうが、その行き着く先は同じことだ。

 さて、ELダイバーの人権などという剣呑な話題を出してしまったが、一つだけ僕からこれを閲覧しているあなたに問いかけたい。

 ELダイバーは死ぬと思うか?

 言葉通りの意味だ。電子の世界を遊離する彼女たちの魂とはデータの塊であり、命とはそのデータを指す。

 なればdestroyコマンドを実行するだけで、彼女たちのデータを消し去れば、ビルドデカールによる保護、現実へのバックアップを受けていない場合は削除される──即ち死が訪れることに他ならない。

 では現実にビルドデカールによって保護されていれば彼女たちは不老不死の存在としてこのGBNが滅んでも生き続けていくのか?

 答えは否だ。僕たちはそれをこそ恐れていた。

 そしてあの人が残していた警告は正しかったということになるのだろう。

 このようなロックをかけても、書いたことが知られれば僕はコンクリートを布団にして東京湾の底で目覚めることになるだろうから詳細は伏せるが──桜宮家、「桜宮グループ」が運営における筆頭株主になったことこそがその証であるといえば、わかる人間にはわかるだろう。

 この程度のことでも僕に明日が来る保証があるかどうかはわからない。

 だが、彼女たちを生み出してきた土壌に関わる者として、一つ懺悔でも残さなければとてもじゃないが気が狂ってしまいそうなのだ。

 さておそらくこの資料にたどり着いたということは、あなたは知っているだろう。

 GBN内において現在、一人のELダイバーが行方不明となっている。

 その経緯について記すことが許されないのには憤激を覚えるが、仕方あるまい。

 しかしあなたがその案件について調査しているのであれば恐らくそれは──公然の秘密として処したほうが、我々のためにも「彼女」のためにもなる。

 ……ここまで書いたのならばもう、腹を括るしかあるまい。

 僕はおそらく明日にはこの会社からいなくなり、行方不明者捜索届が出されていることだろう。

 それが公安なのか政府なのか或いは別な勢力なのかはわからない。

 だが、桜宮グループにコネクションを持たない僕では、抗うことなど出来ないだろう。だからこれは、せめてもの、細やかな、子猫が爪で引っ掻くような爪痕であることはここに記しておく。

 ELダイバー、「イリハ」のログインが途絶えたことと、君が調査している失踪したELダイバーについては決して無関係ではない。

 どうか、このファイルを開いた者が桜宮に関わる者であることを切に願う。

 そして、彼女たちと我々の未来を、より正しい方へと導かんとするその志と対話を続ける精神を持った、トレイルブレイザーであることを最後の結びとして、この追記を締めくくろう。

 

 

※※※

 

【A.D.※※※※】

 

 特定電子生命体──号「イリハ」に関わる案件甲及びその顛末についての報──(これ以降は全て黒塗りにされている)




不穏な第五部、始動なのですわ
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