ガンダムビルドダイバーズ リビルドガールズ   作:守次 奏

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酷暑が続くので初投稿です。


第五十三話「幸運にも黒塗りの高級車に拾われてしまう〜凛音、再び」

 朝、目が覚めたときに真っ先に考えるのが愛しい誰かのことであったのなら、きっとそれは幸せなのだろう。

 泥のように眠っていた愛香はいつもより圧倒的に早く目覚めるなりシャワーと入浴と着替えを終えて、義務的に登校することばかりを考えていた。

 別に学校に行くことそのものを愛香は不幸だと思っていない。

 少しぐらい前までなら、心のどこかではそう思いながら笑顔を取り繕って、自分を騙し騙し通っていたのだろうとは、確信しているが。

 一晩眠って、やっぱり全てがすっきりした訳ではないのだが、ずっと吐き出したかった弱音をフェアライズガンダムが、コメットコアガンダムが、コアガンダムが聞いてくれたというのも大きいのだろうか。

 愛香はそんな、どこか晴れやかとまではいかなくとも胸の奥に詰められた鉛が少し溶けたような気持ちを抱いて、いつも通りタッパーに梱包して緩衝材と共に鞄の中に詰めている愛しいガンプラにそっと笑いかける。

 まるで恋人との、絵理との逢瀬だ。

 心を通わせていながら、あの架空のソラを眺めているときは二人で同じ方向を向いていてもその意識はGBNへと向けられていて、ニコイチを自認しながらも時折遊離するその感情はどこまでも複雑だ。

 などと苦笑している愛香が満喫していた、朝のわずかな平穏を打ち破るものが現れたのはその時だった。

 トースターから焼いた食パンを取り出して、もそもそと口に詰め込みながら牛乳で流し込むというズボラ極まる絵面で朝食を淡々と消化して、昨日出しっぱなしのままだった洗濯物に異常がないかと、リビングのカーテンと窓を開いたときに、それは視界の直下に映り込んだ。

 

「……なにあれ?」

 

 皆が寝静まった夜でもなければ漫画の読みすぎというわけでもないが、とてもすごいものを見てしまったのは確かだった。

 洗濯物は飛んで行ったり盗まれたりしていなかったから今日帰ってきたらもう一回洗えばいいと思ってそれらを取り込もうとしたのが運の尽きだったのか、それとも最初から気まぐれな乱数の神様に屑運を押し付けられたのか。

 どっちでも多分最終的には同じなのだろうが、見間違いでなければ愛香の住んでいるマンションの前には確かに、駐車場には収まりきらないほど縦に長いそのリムジン──いわゆる黒塗りの高級車的な何かが停泊している。

 別に自分がリムジンと縁のあるような人生を送ってきたからあれは自分に関わる何かしらに違いないなどとわ増上慢極まることを愛香が考えていたわけではない。

 だが、目の前に見慣れないものがあったり当然のハプニングが起こったとき、それに巻き込まれるのは高確率で自分だったという悲しき屑運が引き起こしてきた案件の数々が彼女の脳裏をよぎっただけだ。

 二十三区の中心に近いこの街なのだからリムジンそれ自体は珍しいものの、都市伝説というわけではない。

 だから、現実的に考えればこのタワーマンションの最上階とかに住んでいる人の知り合いが乗り付けてきたとかそういう話も十分に考えられるしそっちの方が可能性は高いはずだ。

 カゴに洗濯物を取り込みながら愛香はどこか祈るような心境でそう繰り返す。

 もはや何も見なかったことにしてしまった方が精神的にもいいだろう。

 そういう現実逃避じみたアラートを脳味噌が発している時点で大分死亡フラグが立っているのだが、それを踏み倒すかのように見て見ぬふりをしながら愛香は凄まじい速さで洗濯物を取り込んで、窓に鍵をかけてカーテンを閉めた。

 地上何十階まで登ってくるような変態はいないだろうし泥棒だってわざわざ壁面を登って家の主がいない窓を割り、侵入するなんてそんなどこぞの、具体的には格闘漫画に出てくるロシアの死刑囚じみたことなんてやらないだろうとは思っていても実質的に女一人での暮らしなのだから、用心に用心を重ねるに越したことはない。

 本走チャートを構築するときに大事なのは事前の準備と入念な調査で、本番はそれにかけた時間こそが時短に直結するのだとはRTA走者が口を揃えていうことなのだが、それでも防ぎようのないことはある。

 曰く理不尽。曰く屑運。曰くガバ。

 要するに回避不可能な不確定要素に対してはアルファベット三文字ちゃんのごとく剛運を引き当てるかもしくは遭遇しないことを乱数の神に祈るしかない。

 だがしかし、人の祈りが天におわす彼ら彼女らに全て通じて叶えてくれるのなら、この世界は億万長者で溢れているし、名前を書いたらにっくきあいつが死んでいる黒塗りの高級ノートは世界中にばらまかれている。

 要するに愛香が遭遇したのは、そういう類の事故(屑運)であり、回避不可能な不確定要素、神様が振った百面のサイコロが全て一の目で止まったようなファンブル、つまりはそういうものだった。

 胸中によぎった不安と疑念を肯定するように、或いはここから十四へ行けと言われているように、オートロックを中継して愛香の部屋のインターホンが高らかに鳴り響く。

 ──やべぇよやべぇよ。

 そのとき愛香の脳裏をよぎった無数の言葉や感情たちを一つに括ってまとめるのなら、その一語に尽きる。

 朝飯を食べたことが悪かったのだろうか。それとも、雨が降っている時に紙の舟を追いかけるがごとく洗濯物を取り込んでそれを見てしまったことが悪かっただろうか。

 考えたところで答えなど出るはずもないが、明らかにタイミングから逆算すれば停車していたリムジン絡みの案件であることは間違いない。

 

「……どうか押し間違いとかでありますように、どうか押し間違いとか人違いとかそういうものでありますように……!」

 

 庶民が黒塗りの高級車と関わったことから連想できる最悪の事態になれば、自分はコンクリートを掛け布団にして東京湾の水底を敷布団に、明日の朝日を拝むことのない眠りにつくのだろう。

 恐怖でがちがちと歯が鳴り、震える手はインターホンの応答ボタンを押すのは手一杯だったが、無視すれば強行エントリーされかねないのもあって、愛香は意を決して応答ボタンを押した上で薄目を開きながらモニターに映る人物を確認する。

 

『朝早くに失礼します、こちら朝村愛奈さんのお宅でよろしかったでしょうか?』

 

 シワひとつない燕尾服にぴっちりと身を包んだ長身の男性は恭しく一礼すると、愛香にそう問いかけてくる。

 長い茶髪にウェーブをかけて伸ばしているその髪の毛と鋭い目つきは何処かで見たことがあるような気がしたのだが、生憎気が動転しているため愛香はそれを思い出せずに、朝村愛奈という名前について考える。

 朝村愛奈。アイナと書いてマナと読むそれは普段であれば新宿に行くための駅近郊に借りているセーフハウスとかビジネスホテルを拠点にしているためにいつもほとんど不在である母親の名前に他ならない。

 だが、愛奈はいつも不在であれど家にいる娘については気にかけているタイプの母親であり、連絡だけは欠かしたことがなかった。

 それは例えば荷物が届くとかそういった些細なものから元気でやってるかどうかとか食材を仕送りしたとかそういう気遣いまでレパートリーは豊富で、それはありがたいのだが、娘である愛香としては一週間でいいからこっちの家にいてほしいというのが本音なのだが──それは今は置いておこう。

 目の前の執事のような男性が知り合いだという話など聞いたこともないし、そういうこの家に誰かが来るという用事があったなら愛奈は必ず愛香の携帯に連絡を入れているし、それがないということから考えれば件の執事服の人物は愛奈の戸籍か何かを頼りにして、愛香を探していると推察できる。

 正直なところあたしは愛奈じゃなくて愛香なので人違いです、で済ませてさっさと遅刻気味になってしまっているのだから学校に向かいたかったしなかったことにして忘れてしまいたかったのだが、無視したらしたで十四へ直行なのは容易に想像がつく。

 そのため、愛香は上ずった声音を喉から絞り出し、言葉を震わせながらも執事服からの質問に応答する。

 

「は、はい……あたしは母の愛奈じゃなくて娘の愛香ですけれど……」

『朝村愛香さんでしたか、ならば丁度良かったです』

「……ち、丁度いい?」

 

 まさか探して沈める手間が省けたとかそういうあれだろうか。

 穏やかに微笑む執事服の男性の笑顔がもう完全にそういう類のものにしか見えず、愛香はびくりと肩を震わせて硬直する。

 

『はい、我が主人……御嬢様がお会いしたいと仰っていたのは朝村愛香さん、貴女に他ならないのです。そして……申し遅れました。私は石動。桜宮凛音様の執事であると申し上げれば……いえ、ダイバー「アリア」の従者たる「ミツルギ」と申し上げた方が、ご理解が頂けるでしょうか?』

 

 穏やかな笑顔を浮かべたままに名乗りを済ませると、慣れた動作で石動は恭しく、モニター越しの愛香に一礼してみせる。

 どうやら東京湾案件でなかったことは確かだが、桜宮凛音──かつて愛香にビルドボルグの原型を譲ってくれた女性と、GBNの中でバエルバエルマクギリスアグニカと常に叫んでいるあの女性が繋がらずに困惑しているというのが正直なところだ。

 だが、愛香の脳内でクラッシュを起こしていた記憶は完全に復元し、一つの線を結んでいた。

 アリアと凛音の関係についてはよくわからないものの、あの時、カレトヴルッフを譲ってもらった時、影から溶け出してきたかのように突然現れた執事は確かに石動と呼ばれていたし、記憶の中の外見的特徴とも一致していた。

 

「あ、あの時の方でしたか……今オートロック開けますか? それともあたしがそっちに行った方がいいですか?」

『ご理解いただけて幸いです。朝村様、御足労いただく必要はありません。オートロックを開けていただければお迎えに上がりますので、どうか我が主人との御面会を願えないでしょうか』

「……え、えっと……はい、わかりました……」

『ありがとうございます』

 

 愛香がオートロックの解錠を選ぶと、ぷつり、とインターホンが切断されてモニターに映る石動の姿も途絶えたのだが、正直ノリで答えてしまったもののどうしようかと愛香は頭を抱えていた。

 今日は平日だし普通に学校もあるし期末試験も近いしで、ただでさえ平均点付近を低空飛行しているのが最近はGBN漬けだったのもあってだいぶヤバいと自覚し始めてきた時にこれだ。

 かといって、凛音には多大な恩があることは確かで、それを無視して学校に行くことこそ学生の義務ですなんて清く正しく女子高生をやっているわけでもなければ勉強が好きなわけでもないのも確かなわけで。

 どうしたものかと愛香が頭を抱えること一分近く。今度は部屋の前のインターホンが押されたことで、ぴんぽーん、と気の抜けた音が誰の帰りを待っているわけでもない部屋に響き渡る。

 

「えっ嘘早くない?」

 

 エレベーターを使ってももう少しかかるというのに、一体どんな手品を使ったというのか。

 悩んでいる暇など与えないとばかりにやってきた石動を、予備の綺麗な制服にほとんど中身がスカスカな学生鞄という、お嬢様に会いに行くにはなんとも反応に困るような、自身の身なりに困惑しつつも、愛香は鍵を開けて玄関の扉を開いた。

 

「えっと……お待たせしました?」

「いえ、こちらこそ一分もお待ちいただきありがとうございます。早速ですが朝村様、御嬢様とお会いしていただけるということでよろしいでしょうか?」

「それはまあ……はい。凛音さんには恩がありますから」

 

 結局のところはそこだった。

 確かに学校に行けば勉強はクソつまらなくとも絵理がいてくれて、昼休みには楽しいお喋りができるからそれを楽しみにしているのだが、貰っただけとはいえ借りを作ったままにしている凛音を放っておいていいのかと訊かれればそれは何か、人として違う気がする。

 そんなどこまでも中途半端な自分を嫌悪しつつも、愛香は石動の言葉を首肯して、彼に招かれるがままに部屋のドアを施錠すると。

 

「……さて、朝村様。不躾ながら二つお願いがございます」

「なんですか? ドレスコードとかなら着替えてきますけど……」

「それはこちらでご用意いたしますので心配は無用です。ただここから先、お体に少しばかり触れる無礼をお許しいただくことと、絶対に私の身体から手を離さないでいただきたい、ということです」

 

 真顔でそんなことを言ってのける石動の視線の先にあるのは住人が待つ小規模な列を作るエレベーターでもなく、諦めたようにスーツ姿の男性が全力疾走する非常階段でもなく、落下防止のためにそびえるコンクリートの壁と眼下に見下ろす景色だった。

 つまりそれが何を意味しているのか、理解できてしまったのが愛香の不幸なのだろう。

 そして流されるままにトラブルに巻き込まれてから後悔する屑運体質もまた愛香にとっての不幸なのだろう。

 あっはい、と生返事のような調子で返したことが間違いだった。

 それを承認と受け取ると石動は失礼します、との言葉と共に愛香をいわゆるお姫様抱っこの姿勢で抱え上げると、そのまま凄まじい速さで助走をつけて、一息に落下防止のための壁を乗り越えて跳躍する。

 あの、ここ地上十何階とかそういうあれなんですけど。

 愛香がツッコミを入れる間も無く突入したフリーフォールに、人生の終わりを感じ取った脳が走馬灯を再生する。

 だが絵理との出会いと「リビルドガールズ」との出会い以外に愛香の脳裏を駆け抜けた思い出の数々は何一つとしていいことがなかった。

 さながらカップラーメンの写真が旅の思い出となったよりはマシな、短くも濃密だった黄金の時間に想いを馳せながら先立つ不幸をお許しくださいと涙ぐんだ愛香だったが、果たして重力に引かれる感覚が途切れても、その五体が痛みを訴える様子はない。

 

「申し訳ございません、この方が早かったのです」

「……は……? あの、確かあたし十階以上のとこから……?」

「次元覇王流を修めていれば、いえ、執事としては造作もないことです。少し狭苦しいかもしれませんが、ドリンク等はお好きに飲んでいただいて構いません」

 

 もしこれが最上階からであれば、捻挫ぐらいはしていたかもしれませんが。

 そんな冗談とも本気ともつかないことを口にしながら愛香をどこが狭いんだとばかりに広々としたリムジンの客席へと着座させると、待機していた他の執事四人組を招集して石動は運転席へ、四人組は狙撃に備えて愛香を守るような陣形を組んで客席に乗り込んでいく。

 何から何までガチだった。

 とりあえず目の前にデカデカと提示されている最高級のメロンやらマンゴーといった水菓子といい狙撃に備えた四人のボディガードといい、庶民の感覚と意識が遠のいていきそうな中で、愛香は手を震わせながらとりあえず目の前に置かれていた水のボトルを握って一息にそれを飲みくだす。

 ──この水もいくらなんだろう。

 訊いたところでげっそりしそうなのは目に見えているため、喉元でその質問を押しとどめながらどうにでもなれとばかりに、愛香は状況に身を任せるのだった。

 ちなみに水の値段は大体ボトル一つで15000円だった。

 

 

 

 ガンダムSEEDの劇中で、丁度こんなシーンがあったような気がする。

 いつから用意していたのか、典型的な大豪邸に招かれた愛香は、その体格にぴったりなドレスをメイド達から着せられて、石動のエスコートを受けた上で凛音の部屋へと案内されていた。

 曰く今日は御嬢様の調子が良かったため今日しかなかった、学業についてのフォローは話を通しているから大丈夫だ、本当なら絵理も招くつもりだったが彼女は今日義眼の調整があるから呼べなかった、といったことが石動の口からは語られたのだが何もかも理解が追いつかない。

 慣れないピンヒールで十センチの背伸びをさせられながら、さながらガンダムベースの販促映像で見た、バルトフェルドに招かれるキラとカガリ──キラに当たる存在がいないのだが──のごとく愛香は、凛音が待っているとされる部屋へとどうにか辿り着いた。

 普段履いているローファーと違ってとにかくハイヒールというのは歩きづらい。

 石動が凛音にコンタクトを取っている間、現実逃避のように、さながら呼吸を楽しむかのような顔をして無になりながら、愛香はそんなことを考えていた。

 

「こほっ……よろしくてよ、石動……ドアをお開けなさい……けほっ……」

「はっ、御意に! 朝村様、ここからは朝村様と御嬢様の二人きりです。ですが、何か不足等があればすぐにお申し付けください。私が補充しに参りますので」

「は、はあ……ありがとうございます……」

 

 食べないのも礼儀に反するかと思って道中はむしゃむしゃと義務的に、用意されたメロンやらマンゴーやらを咀嚼していた愛香だったが、緊張でその味など覚えているはずもない。

 あれだけのアメニティを不足だと感じる世界があるのかと、ブルジョワジーとプロレタリアートの断絶を感じながらも、愛香は石動が恭しく頭を下げたまま見送るレッドカーペットを歩いて、ガンプラ──全て鉄血のオルフェンズシリーズで鉄華団とマクギリス関連のものだ──が最高級ワインなど共に、棚へと並べられたその部屋の主人へ一礼する。

 

「えっと……お久しぶりです、凛音さん」

「ふふ……けほっ……お久しぶりですわ、愛香さん……ささ、どうぞ座ってくださいまし……堅苦しいのはなしでお話いたしましょう。多摩、椎名。お茶を」

『かしこまりました、御嬢様!』

 

 車椅子を動かす凛音にエスコート役を交代して、愛香は用意された席に腰掛けた。

 そうしている間にも、多摩と椎名と呼ばれたあの四人組の内二人は瞬く間に二人分のティーポットとカップを用意して、スコーンやらケーキやらが用意されているティーセットの中心にそれを並べて、カップには絶妙に熱くもなく冷たくもないロイヤルミルクティーを注いでいく。

 

「お、おお……なんかテレビで見た世界……」

「ふふ……お気に召していただいて光栄ですわ。さて、愛香さん……」

 

 愛香が紅茶に手をつけたのを確認してから優雅に自身もそれに口をつけると、凛音はあの時見たのと変わらない、今にも消えてしまいそうな儚く、薄い、それでも朗らかな笑みを浮かべながら、愛香へと本題を持ちかけてくる。

 

「お久しぶりですわね……恐らくお会いしたのはあの……けほっ、失礼……こほっ……クリエイトミッション、以来ですか……」

「……えっと、カレトヴルッフの時、じゃなくて……?」

「はい……こほっ、何を隠そう、ダイバー……『アリア』はわたくしなのです、石動から聞いてはいませんでしたか……?」

 

 凛音は咳き込みつつも苦笑し、小首を傾げた。

 いや、確かにアリアからの用事だとかそんなことを言われた気はしていたが、今目の前にいる凛音と、あのハイテンションな高笑いをあげながら常にむせ返っているアリアの存在が点と線で繋がってくれないのだ。

 愛香もGBNでは「アイカ」としてロールプレイをしているが、もしも凛音とアリアがイコールであるのならそれは堂に入っている、を通り越して別な魂が目覚めたのにも等しい。

 

「えっと……聞いてはいたんですけど、なんかごめんなさい、繋がんなくて」

「ふふ……驚いたでしょう。こほっ、けほっ……GBNではあのように元気なわたくしが……リアルではこのように背負った身体のハンディキャップに苦しめられている……故にこそ、わたくしはあの世界こそが……けほっ、けほっ、けほっ……!」

「だ、大丈夫ですか、凛音さん!?」

 

 思い切り咳き込み始めた凛音は、心配は無用だとばかりに愛香へと左手を差し出すと、車椅子の右側、その肘掛けにセットされていた酸素吸入機を口に当てて、呼吸を整えた。

 リアルでは調子が良くてもこれなのだ。今のは完全に嬉しくて「アリア」の時と同じようなテンションで喋ろうとした反動だとはいえ、己の抱えているままならなさに凛音は嘆息する。

 

「……っはー、はー……はぁ……失礼、いたしましたわ……ええ、そうですわね……まずは本題から、こほっ……お話しした方が……いいかと、けほっ……」

「本題、ですか……?」

「ええ……」

 

 ──ELダイバー、「チィ」のことについて。

 眦に涙を浮かべながらも、凛音はどこか試すような視線で愛香を見据えながら、微かな、今にも消え入りそうな声でそう呟くのだった。




アゲイン・ミーティングお嬢様──!
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