ガンダムビルドダイバーズ リビルドガールズ   作:守次 奏

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いつのまにかシナンジュスタインがエクバ2にいたので初投稿しちゃうんだなぁこれが!


第五十六話「按手の誇り、仕手の謀り〜ヴィジランテ、今は」

「これはどういうつもりだね?」

 

 アイカたちがサイコ・キャプチャーエフェクトを二徹フルスクラッチするという狂気の行為に勤しんでいた時、東京のメガロポリス、その経済の中心となる場所に聳え立つ、地上三十八階建なビルを丸々本社としたGBN運営チームの最高責任者にして社内の中間管理職である強面の男──かのガンダイバーことカツラギは、自身に負けず劣らず強面な赤毛の男性を前にその眉根に刻まれたシワを一段と深くしていた。

 特定ELダイバー失踪事件。一年前に迷宮入りしたと思われていたあの事件は「リビルドガールズ」なるフォースによって再び白日の元にさらけ出されて、恐らくその元凶となった橘大十郎からの要請を受けた息子、橘忠治による圧力が本社にかけられたことでそのまま調査は再開されたのだが、ここまではいい。

 未解決事件を未解決のまま放っておくというのはGBN運営としては沽券に関わることだったし、「チハヤ」を保護した後の保護観察者としての橘大十郎の権利は事実上消失しているので、再び彼女が虐待される心配はほぼないからだ。

 だが、そのせいで大分運営チームのみならず本社も余計なところを突き回されていた事件に、よりにもよって身内が関わっていたというのは、カツラギとしては許し難いことであった。

 そして何より今、ぴっちりとスーツを着こなしてソファに行儀良く腰掛けている彼とは違い、赤毛の男──シバ・ツカサはスーツを着崩して脚を組み、不敵な目つきでカツラギを舐めつけているのもまた度し難いがそれもなんとか許してやるとしよう。

 だがこの男は、ツカサは、かつてブレイクデカールによってGBNを混沌に陥れた、法務部が威力業務妨害、不正アクセス禁止法、器物損壊その他諸々の罪で立件しようとしていた前科者になりかけのアウトローだ。

 そんな人物を運営に迎え入れたのは他でもない。

 彼こそが、GBNにとっては異物として生まれてきたELダイバーを正常に迎え入れるための鍵である「ビルドデカール」の生みの親にして、数々のELダイバーを保護してきたという実績があるからこそカツラギとトーリは法務部を説き伏せて、彼を入社させたのだ。

 なおその際にカツラギは胃薬を一瓶空にしていることは言うまでもない。

 

「橘の息子がそんなに怖ぇか?」

 

 長く沈黙を保っていたかと思えば、ツカサはどこか呆れたような口調でそう口にすると肩を竦め、わざとらしい溜息をついてみせる。

 ツカサも、ELダイバーの救世主の一人ということでテレビからインタビューの依頼が来たり政治家から講談会の依頼が来たり、プログラマー崩れからビルドデカールのオープンソース化などを依頼されてきたがその全てを断ってきた。

 一応補足するならインタビューは代わりにリクとサラが受けているので問題はなかったし、講演会に関してはコーイチとその妹であるナナミに代わってもらったので問題ないしオープンソース化については、GBN運営チーム内のみ、という条件の元容認している。

 政治的なあれこれに関しては下らない、というのがツカサの本音であったし、そもそもELダイバー虐待事件に関しては相当腹に据えかねているところがある、というのもまた彼の本音であった。

 そしてその原因を作った相手の息子からの圧力を受けて、安心ですからどうかチィを運営に引き渡してくださいという事実上の依頼に黙って首を縦に振るほど、ツカサは出来た人間ではない。

 チィの「家出」に協力してやったのだって、言ってしまえば自分が送り出したELダイバーが、GPDの因子を継ぐ娘たちが悲劇に遭わされたケジメであったし、なによりも「何回でもぶっ壊れても立ち上がる」GPDの特性を「意図的に、合法的に何回でもぶっ壊せる」と悪用された時点でツカサの憤慨は怒髪天を衝く勢いであったのだ。

 

「彼は関係ない。運営スタッフが一年間も不正なアクセスを行い、情報を隠蔽していた……いや、今もアクセス情報を欺瞞し続けているその事実が、どれほど会社に、GBNに損失を与えると思っているのだね」

 

 ──君一人の首で済ませられるような話ではないのだぞ。

 語気を少しだけ荒らげて、カツラギはツカサに詰め寄った。

 とはいえ暖簾に腕押し、糠に釘なのはわかっている。

 そんなカツラギの怒りはポーズで、内心としては嫌な役回りを上から押し付けられた心労で潰れそうなことに、ツカサはとっくに気付いていた。

 それについてはご愁傷様だとしか言いようがないのだが、どうしようもないので置いておくとしても、元より自分がGBNに関わる条件の中に、というよりはコンプライアンスに反した行いをしていることは流石にツカサも自覚している。

 ──だが、それがどうした。

 それがツカサからすれば一貫した本音だった。

 元々GBNが好きで関わっているわけじゃない。ただ、親友への借りと想いや、廃れ、消えていくのを待つだけだったGPDの技術とその因子が未来に繋がった喜び、そして「按手」として送り出してきた娘や息子たちとも呼べるELダイバーへの義理があるからここにいる。

 クビをちらつかされようが刑務所行きを引き合いに出されようが、シバ・ツカサという個人にとってのGBN運営チームへの所属理由はそれだけの話なのだ。

 それを毀損するような、大物政治家だから安心だと政治の道具にして娘の人権を踏みにじるような行いを容認したに等しい経営陣に対しては侮蔑の感情しかないし、カツラギを代理人として、いや、違う。

 代理人などという上等なものではない。彼を腹話術の人形として今も恐らく、経営陣は万が一があった時の責任逃れのために沈黙しているのだ。

 そんな奴らのどこに気を払ってやる必要があるのか。

 

「知らねぇなあ……とりあえずそっちが俺をクビにしたいかムショにぶちこみたいってんなら好きにしろよ、だがオープンソース化してもビルドデカール一枚作れやしないしどうやって動いてるのかもわかっちゃいない今のプログラム班で、どうELダイバーを支えていくのは見ものだがな」

「君は……!」

「それにな、この件に関しては俺も相当頭にきてんだよGM、引き取られたELダイバーがその後どんな人生を歩もうが知ったこっちゃあねえ、だが……意図的にその人生を踏みにじるようなクズにあいつらを、イリハとチィを引き渡したのはあんたの後ろにいる、橘の野郎を恐れてる経営陣だろうが……!」

「……っ……!」

 

 そもそもイリハとチハヤという名前だって、彼女たちが考えたものではなく前々からELダイバーが新しく生まれたら保護下に入れさせてほしいと袖の下を送ってきた橘大十郎がつけたものだ。

 イリハはそれを気に入っていたし、今もその名前だけは自分のものとして認められる程度に心が回復してきたからそれはいい。その選択は彼女の権利及び自由として尊重してやるべきである。

 だが、今も反発し続けているチィをチハヤと呼ぶこと自体がまず、ツカサとしては我慢ならない。

 ツカサは口も悪ければ態度も悪いし愛想も悪いと三拍子揃った正真正銘のダメ人間だが、その度量や愛と慈しみには極めて深いものがある。

 だからこそ「アンシュ」と名乗って、生まれくる生命を「按手」として祝福することを認めたのだ。正直なところ今も恨みを捨て切れていない、このGBNで、GPDの誇りを守る「庵主」として。

 カツラギが黙り込み、無言で胃薬を噛み砕くのを一瞥しながらツカサは露骨に舌打ちをする。

 

「そんで今更チィが見つかったから探してくれって依頼してきたのもテメェの後ろにいる経営陣だろ、あんたがどんだけ苦労してんのかは見りゃわかるがな、会社の発言権ででけぇのはあいつら経営陣だ、また橘とその息子にチィを渡さないとも限らないなら、俺は絶対に引き渡すつもりはねえ」

「……それは、協力を拒むという回答でいいのか?」

「好きにとれよ、クビにしたいならしてもいいぜ。さっきも言ったがまたバグの嵐でサーバーがパンクすることになるだろうがな」

「……わかった、その件については君の力は重要なものだ、経営陣には私から話を通しておこう。だが、ELダイバー……チィ君を我々が確保するという方針に変更はない」

「勝手にしろ、とにかく俺はこの件に関しちゃ相当頭に来てんだ、これ以上話すこともなければ協力することもねえ」

 

 乱雑に言い放つと、アメニティとして置かれていた、輪切りにされたパイナップル型の飴を乱雑に引っ掴んで口の中に放り込み、机を蹴り飛ばしながら、ツカサは第四応接室──社内での通称「説教部屋」を堂々とした足取りで後にしていく。

 ダメで元々の話し合いだったとはいえ、やはりこういう憎まれ役ばかりを押し付けられていては身が持たない。

 きりきりと痛む胃を押さえつつ、カツラギは嘆息する。

 本来であれば今日は休日で、バージョン1.78への大型アップデート記念として版元と組まれた大規模キャンペーンの一環として発売されたSDCSガンダイバーとSDCSキャプテンガンダムを組むつもりだったのだ。

 それをいきなり電話で呼び出してきたかと思えばあの鼻持ちならないタチバナ商会の代表取締役社長から圧力がかかってきたからなんとかしろだの、具体的なことも言わず保身に走る経営陣については、できることならツカサのようにブチ切れて机を蹴っ飛ばすぐらいはやっておきたい程度にはむかっ腹が立っている。

 カツラギも輪切りになったパイナップル型の飴を口の中に放り込んでそっと溶かしながら、深い溜息を吐き出した。

 どうしてこうなったと、思えばブレイクデカールが流通し始めた頃からこんなことばかりだったしその前も、GPDプレイヤーからの怒りのメールボムを解体処理する責任は自身の両肩にのしかかっていたのだ。

 それでもひとえに胃痛と格闘しながらこの仕事を続けてきたのは、カツラギ個人として、ガンプラが、そしてそんなガンプラが動いて世界を旅する夢を叶えてくれたGBNが、ガンプラを好きでいてくれるユーザーが好きだからに他ならない。

 なのに、社員としてはそんなユーザーたちの想いが生んだ、カツラギにとっても困惑と胃痛の材料でこそあったが同時に娘や息子であるELダイバーを道具としてしか見ずに踏みにじった奴が背後にいる命令を遂行しなければならない。

 中間管理職の宿命とはいえ、やるせないものだ。

 諦めたように溜息を再び吐き出していると、彼の携帯電話にメッセージが届いた通知がぴこん、と間抜けな音を立てて説教部屋に響き渡った。

 ツイスタのダイレクトメッセージ機能を用いたそれの差出人は「マクラギ・ミリア」と名乗る女性のアカウントだったが、果たしてその中身はカツラギもよく知る人物だ。

 

「……はてさて、今度はどう転ぶのか」

 

 唯一不安材料がないとすれば、この事件がどう転んでも、橘の手にチィが渡ることは絶対にない、ということだ。

 矢継ぎ早に飛んできた「提督」からのメッセージも、「ミリア」……桜宮と歩調を合わせたもので、それは大資本の圧力に対して屈することはないという後ろ盾となる宣言に等しかった。

 だが、悪役は引き続き続行しなければならないだろう。

 第四応接室、説教部屋を出た先にあるお手洗いで顔を洗って鏡を見れば、そこにはすっかり仕事で荒んで人相が悪くなってしまった自身の顔がある。

 

「……アバターを変えた方がいいのだろうか」

 

 ガンダイバーは好きだ。カツラギが心の底から好きなキャラだった。

 だが自身がアバターとして使うことによってによって彼というキャラクターに風評被害が行くのは可哀想だといつも心の中では詫びている。

 しかし、カツラギがガンダイバーを好きでいて、そのアバターとしていなければ、今一度SDCSブランドで「SDガンダムフォース」シリーズが展開することにはならなかったのもまた事実であり、やはり仕事というのは表と裏、正と邪が絶え間なく入り混じる修羅の巷だ。

 

「……彼女たちも何かを仕掛けてくるだろう。すまないなガンダイバー……だからもう少しだけ私に付き合って欲しい、家に帰ったら必ず組んでやる、四体目以降の仲間も再販分はガンチョッパー拡張セットも含めて予約したから待っていてくれ」

 

 思った以上にコアなファンが多かったのは嬉しかったが、ガンチョッパー拡張パーツとガンダイバーが飛ぶように売れて、方々のガンダムベースサテライトを駆けずり回っても三体しか買えなかったのは心残りだった。

 唯一の救いは公式通販サイトで再販を確約してくれたことだろうか。

 そして、この後控えている経営陣へのクソみたいな申し開きが終われば家に帰って、夢にまで見たガンダイバーの新キットを組めるのだ。

 カツラギは気合を入れ直すようにぴしゃりと自身の頬を叩くと、それだけを心の支えにして、己の戦場へと赴くのだった。

 

 

 

「……首尾は上々、といった具合ですわね、こほっ……」

 

 内々的に勧められている案件の擦り合わせが無事に終わったことを確認し、凛音は紅茶を一口啄みながら安堵に胸を撫で下ろす。

 あの「提督」が協力してくれたのは本当に幸いだった。

 GHCと組めなければ文字通り自分の首が飛んでいく覚悟だったし愛香たちにも危険が及んでいたと考えれば、この綱渡りを成功させた意義は非常に大きい。

 そして、ツイスタのダイレクトメッセージを通して愛香から飛んできた連絡に目を通しつつ、凛音は一つ仕掛けを打つべく、火種を撒くことにした。

 

「……火のないところに煙は立たない、と申しますが……火などなくとも煙を立てる方法はいくらでもある……そうでしょう、石動?」

「はっ、こちらも滞りなく行っております、御嬢様」

「結構……こほっ、ふふ……さながらこれは、有志連合戦の再来とも言えますわね……」

 

 端末から表示される掲示板の画面を眺めながら、凛音は「チィの捕獲に賞金がかけられる」という、カツラギからリークされた情報を歪曲するだけ歪曲して、「この前ロビーに来たことについてテンプレ返信しかしない運営が何かを隠している」という方向で疑心の種を撒いていた。

 そして運営からの公式発表でチィに賞金がかかったとなれば、GBNは大きく動き出すことだろう。

 何よりも重要なのは、ここで内々的に処理してしまうことではなく、騒ぎを大きくするだけ大きくして二千万のアクティブユーザーを巻き込んだ大騒動として、チィの失踪を仕立て上げることだ。

 凛音も、内心としては愛香たちに任せるだけ任せてしまって、自身はそのバックアップだけをしていればいいなら、それで済ませたかった。

 だが、橘の鼻っ柱をへし折って、チィの身柄がどう転んでもなるべく安全にかつ穏便な形で確保されて奴らの手に渡ることがないようにするためには、彼らをGBNの経営から完膚なきまでに追い出す必要がある。

 そのためならば、自分は鬼とも悪魔ともなろう。

 凛音はGBNからタチバナ商会を締め出した後も余計なことを言わせないためにかき集めた手札を優雅に確認しながら、あの「提督」と歩調を合わせて、GHCと桜宮グループという二大資本の全力札束パンチで政財界からも完膚なきまでに叩きのめすべくその顔つきを険しくする。

 コングロマリットとしてタチバナ商会との経営競争に負けてしまったことで父親はすっかり腑抜けてしまっているが、なんてことはない。

 あっちが勝手に自爆してくれるならこっちが立ち上がれるし、桜宮だけがその家名を看板にして未来を担っていく時代はどうせ、父が腹心の部下を事業の後継者に決めた時点でとうに終わっている。

 より効率的に、そしてより多くの顧客が望むものを提供できるのであれば、資本提携としてライバルと手を組むことだって、最悪GHCに桜宮グループが買収されることさえ凛音は厭わない。

 全ては愛香という掛け替えの無い親友と、そして奇跡を見せてくれたGBNと、生きる希望を与えてくれたバエル、そしてマクギリス・ファリドのために。

 狂気を情熱に変えて凛音はひたすら突っ走っていく。

 ──見ていろ橘大十郎、そして息子の忠治。貴様らが便所に隠れていようと必ず見つけ出してこの政財界における息の根を止めてやる。

 凛音は指を組み、静かに不倶戴天の敵をそこに見出して、虚空を睨みつけた。

 これは革命だ。この桜宮凛音が、貴様ら橘一族の驕れる牙を砕き、必ず友と誓ったGBNの未来を切り開いてやるのだ。

 心の中で黄金に輝く剣を抜き放ち、凛音の「革命」は幕を開けた。

 それは確かに、未来を変える一矢となるのだが、今はまだそのことを誰も知らない。

 そして、その嚆矢を引き絞る弓と射手こそ、「リビルドガールズ」と、朝村愛香──アイカという、一人の今を生きる等身大の少女であることも、同様だった。

 

 

 

 

 シーカーやアサシンが隠れ潜むなら、どこが適しているのか。

 チィからバトルロワイアルミッションにおいて教えられたことを頭に描きながら、アイカはフォースネストのホワイトボード上にフォロスクリーンを表示する。

 

「少なくとも純粋に人が少ないディメンションは向いてると思うけど、ガードフレームの警戒に引っかかりやすいってことがあたしの頭からは抜けてた」

「そうですね、運営がチィを捜索していると考えると、目下最大の敵になると考えられるのは他のダイバーではなく、ガードフレームとベースガンダムでしょう」

 

 アイカの表示したデータに映っている、GBN-ガードフレームと、そのガードフレームに初代ガンダムを模した装甲を施した機体──【GBN-ベースガンダム】、違反者を必ず殺すという殺意に満ち溢れたイカレ性能の機体を指して、アキノは彼女の言葉に同意する。

 

「……なんとか……倒せないんでしょうか……」

「うーん……あたしもそれは考えたし、実際ガードフレームだったら撃破したって報告はスレにも上がってたんだけど……まあなんていうか……あれは色々アレだから……」

 

 ガードフレームの撃破は違反者にとっては一つのステータスになるらしく、PKをわざと誘発して現れたガードフレームと戦う、というのは二年前にどうやら流行っていたようで、その対策スレも治安の向上した今では過去ログに埋まってしまっていた。

 それ故に探すのにはアイカも苦労したのだが、唯一上がっている撃破報告は「毒電波を流し込んで背後からビームサーベルでコックピットを突き上げる」というなんだかカミーユ・ビダンと似た声で狂気的な宣言をぶちまけていそうな、倫理的に色々アウトな一件のみであったのだ。

 こんなの参考にできないししちゃいけないしできたとしてもやりたくない。よって却下だ。

 と、アイカはその変態極まる報告を記憶の中から意図的にデリートしつつ、ガードフレームとベースガンダムの二体のデータに向き直る。

 相変わらずふざけたステータスをしている。チャンプやハイランカーでようやく試合になるベースガンダムなんか、アイカたちからすれば存在そのものが死刑宣告に等しい。

 だが、ガードフレームならば、なんとか抜け道を使えば倒せるのではないか、というよりは無理に戦わずとも無視して進むことができるのではないかと、アイカは考えている。

 故にこそ、チィが潜んでいる場所にアイカは当たりをつけられたのだ。

 

「それで、アイカさん。隠れるなら、というのは?」

「うん、アキノさん。チィちゃんが言ってたのは、木を隠すなら森の中……つまりわざとらしくどこかに隠れ潜むより、堂々と人が多い場所を隠蓑にした方が捕まりづらいし見つかった時も最悪盾にできる、ってことだったんです」

 

 バトルロワイアルミッションの中での話とはいえ、中々外道極まる話なのではあるが、シーカー構築やアサシン構築を組んであのミッションに参加する中で、定位置に留まってステルスをしているのは三流だと、他でもないチィは言っていた。

 つまるところ、チィがその三流の選択肢を選ぶことは絶対にない、ということだ。

 迷走していた自身の行動を恥じつつも、アイカはそれを糧にして、目標となる場所をスクリーン上に表示する。

 

「……ここって……!」

「うん、ハードコアディメンション・ヴァルガ……多分チィちゃんが隠れているなら、ここしかないと思う」

 

 もしガードフレームに見つかったとしても多くのダイバーや人間災害にヘイトを擦りつけて逃げられてかつ、単純に同接ユーザーが多いから個人の見分けがつきづらく、その魔境性故に運営チームも中々調査に踏み出しづらいという条件が揃ったその場所は、「生き残れる腕があるなら」潜伏拠点としてはこれ以上ないものとなる。

 そしてチィならばきっと、生き残ることができる。

 奇妙にも、自分たちにとっての始まりとなったその蠱毒の壺に三度飛び込もうとしていることにアイカは犯人は犯行現場に舞い戻るってこういうことなのかな、と静かに苦笑した。

 

「……考えとしては私も妥当だと思います、しかし……三人でかつ、エリィがサイコ・キャプチャー発動のためにフィン・ファンネルを温存した状態で、ヴァルガを生き抜くことは可能なのですか?」

 

 とはいえそこが、並み居るダイバーであれば屑運を引けば二十秒、引かなくとも三分かそこらで消し炭になる危険地帯であることには変わりない。

 アキノの疑問はもっともであったし、アイカもそれは考えているところだった。

 だが。

 

「……屑運引かなければ、多分」

「その根拠は」

「詳しくはいえないけど、あたしの友達が……アリアちゃんが仕手として、多分今回の件に火をつけてくれるはず。そうなれば……チィちゃんを狙う運営側と最低でもあたしたち、そして漁夫の利を狙うモヒカンたちで乱戦になるから、逃げるだけならさっきチィちゃんが言ってた条件が成立する」

 

 決め打ちをされなければ、乱戦というのは少数派にとっては美味しい状況なのだ。なんせ多数派と多数派が混戦している状況から自分たちだけを狙ってくる奴に対処して、チィを探すことに専念できる。

 そして状況が大きく動けば、隠れ潜んでいるチィも動かざるを得ない。

 それを根拠として提示して、アイカはアキノの瞳を真っ直ぐに見据える。

 とはいえ、最後は乱数の女神様の機嫌次第であることには変わりない。

 アリアの仕掛けがどれだけ上手くいったとしてもあくまでアイカたちは有志連合ではなく、その仕掛けは運営に対して不満を抱くパルチザンたちを焚きつけるような形であるのだから、彼らが「リビルドガールズ」の味方になるとは限らない。

 或いは運営が無理やりELダイバーを確保しようとしている、という第二次有志連合戦と同じ構図に憤慨してくれる人など少数派も極まっているだろう。

 だからこそチャートの祈りは必修科目。どれだけ人事を尽くしても、最後は天命を待たねばならないのだ。

 

「……いいでしょう、アイカさん。チィは……私のためにあれだけの大博打に打って出てくれた、ならば私も博打に出ねば無粋というもの」

「……わ、わたしは……アイカさんのためなら、地獄でもどこでも……いっしょ、です……っ!」

「……ありがとう、アキノさん、エリィちゃん。絶対に……絶対にチィちゃんを取り戻しに行こうね!」

 

 フォースネストを買ったのは、プライベートモードで運営にこの会話を聞かれる心配がないからだ。そして、チィが帰ってくる場所を作るためだ。

 拳を突き合わせて、アイカたち三人、一人を欠いた「リビルドガールズ」はその欠片を、最後の一人を取り戻すため、一世一代の大博打に、それこそ自らの命を天秤の反対に躊躇いなく乗せた。

 そうだ。賭けとは、取引とは公平でなければならない。

 だからこそ、チィがあの時言っていたように、チィの身柄を取り戻すためにはその反対に誓約として、アイカたち三人の身柄を乗せる必要があるのだ。

 これは有志連合などという上等なものではない。そしてGMに突きつける反攻の凱歌に他ならない。

 故にこそヴィジランテ、そして。

 

『今はリビルドガールズ改め、リビルドバンガード!』

 

 声を揃えて三人は頭の中に浮かんだその名前を唱和する。

 そう、ならば今は海賊らしく、チィの身柄を頂いていくために。




もしくは突撃前衛、再構築された少女たちは因縁の地へ──!

【橘忠治】……悪名高き橘大十郎の息子。性格もよく似ており、父が失脚して自身も政財界での発言力を失った腹いせに、株主として失踪していたELダイバーの県を突き回していたのだが、その大部分は大十郎が失脚したときの落とし前として桜宮グループに買収されて、比率としては少数の株しか持っていないのだがどこからかチィの件を聞きつけたことでねちねちとGBNの経営陣を突き回していた。
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