ガンダムビルドダイバーズ リビルドガールズ   作:守次 奏

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いよいよ物語もクライマックスに差し掛かってきたので初投稿です。


第五十七話「誰が仕組んだ地獄やら〜開幕する饗宴(狂宴)

 その日、一つの地獄が生まれていた。

 ハードコアディメンション・ヴァルガ。本来はランク制限がかかるフリーバトルを無制限に行えるというのが表向きの理由で作られたとされるその場所は、しかしてその実態は世紀末、モヒカン、猿山、蠱毒と多様な蔑称でダイバーたちから呼ばれて憚らない。

 と、いうのもある意味では当然である。

 無差別マッチが生み出されれば、当然食うものと食われるもののヒエラルキーはより過酷な形で現れて、そのおこぼれを狙う者も、そしてさらにおこぼれのおこぼれを狙う者も、と言った具合に弱肉強食が連鎖する。

 人類の文明は、その本質を原始社会からの脱却と置くのであればこのような、誤謬として用いられる理論に正当化された四字熟語は忌避されて然るべきなのであるが、残念ながらここは猿山だ。

 プリミティブな衝動に殉じた闘争を望む戦闘狂たちは歓喜して、己の腕を磨くために、或いは来世に向けて徳を積むために苦行に身を投じる修行僧たちは顔をしかめて、ドロップや採掘アイテム狙いのチャレンジャーはそんな終わりなき戦いに身を投じる彼らを忌避して、このヴァルガを地獄と呼びながらも自らその世界にダイブしてきたはずだった。

 だが、今目の前に展開されている光景は多くのダイバーたちの認識を打ち壊し、地獄とはなんであるか、その二文字がどれだけ重いものであるのかを知らしめるためとでも言わんばかりの阿鼻叫喚だ。

 まずその嚆矢となったのは、運営の大本営発表だった。

 凛音と「提督」……ダイバーネーム「アトミラール」、「GHC」を率いる総帥たる男及び、愛香たちの企みは果たして予定通りに、そしてお嬢様と社長の二人がカツラギと口裏合わせたとおりに恙無く行われた。

 現在失踪中のELダイバー、個体名「チハヤ」は現実において危険な状態にあるため、保護を必要としている。

 故に協力してくれた有志がチハヤを、チィを運営に突き出したのなら1000万BCという破格の報酬という名の懸賞金が与えられる。

 その情報は、アクティブユーザー二千万人をざわつかせるには十分なものだ。

 有志連合戦以前からやっている古参のダイバーはまたELダイバー絡みで何かあったのかと事態をおおまかながら察して、新参のダイバーたちは捕まえるだけでその高額賞金を手にするチャンスが得られる。

 そこにどんな狙いがあろうとも、どんな目的であろうとも、GBNに大きな波紋を作るという意味では極めてその情報は有効に働いてくれた。

 とはいえ、ヴァルガが本命だと思っているユーザーは運営の想定より少なかったものの、それでも同日の該当ディメンション同時接続人数は歴代の記録を大幅に更新して、十万単位でのアクセスが確認されていたらしい。

 その他のディメンションも同様だ。

 世はまさに大航海時代。そんな一攫千金を夢見たダイバーがチィを探して三千里を走り回るなら、またあの運営が何かやらかしているのかと若い義侠心ないし逆張りでそんな炭鉱夫たちに挑みかかるヴィジランテが仮想の四万キロを覆い尽くして飛び回る。

 どこのディメンションでも多かれ少なかれ地獄のように人がひしめいているのなら、そこに無制限フリーバトルという要素が加わればどうなるのか?

 その問いに対する答えは明白である。

 あるダイバーは、いつも暗雲に覆われたヴァルガの空が一際暗く染まっていくのを見たと語っている。

 スポーンキルを生業にする、都市迷彩のケルディムガンダムを愛機とする「回収屋」……ダイバーネーム、「ピーター」は珍しく運営が天候を間違えて雨でも降らせたのかと最初に勘違いをした。

 だが、何となく上を見た時に自身を、そして怒号と悲鳴が飛び交う地獄の戦場を覆い尽くすように現れたのは、ハイパーメガ粒子砲を艦首に二門搭載したドゴス・ギア級の改造戦艦に率いられた、同じくハイパーメガ粒子砲を一門その艦首に搭載したラー・カイラム級五隻及び、無数のマゼラン級やサラミス級という戦艦の群れだ。

 ピーターはごしごしと目を擦った上で、レーダーと自身の頭上をもう一度見つめ直す。

 間違いはない。あれは艦隊だ。最後尾はこのハードコアディメンション・ヴァルガ南部の穀倉地帯跡地へと伸びる、鶴翼陣形の艦隊はそれぞれに機銃を掃射して、立ちはだかる賞金稼ぎ──本来ならばこちらこそが「有志連合」と呼ぶべきである──を遠ざけながら、母艦たる改ドゴス・ギア級、「天城」が、ヴァルガの中心に向けてある兵器を展開する。

 

「な、なんだこれ……!? クソっ、こんなことするバカどもなんて『GHC』しかいねえ! 皆今すぐ逃げろ!」

 

 ピーターは「天城」から射出されたその兵器の正体を知らない。

 だがあれは特大級に「ヤバい」。

 おこぼれを狙う者としてではあるが、曲がりなりにも長い間ヴァルガを生き抜いてきた彼の直感は、果たして数秒後に正しく作用することになる。

 フォトンリングレイ。映像作品「機動戦士ガンダムAGE」に登場した、エネルギー増幅器を応用したそれは「天城」の正面に時空の歪みを描くかのように展開し、その後ろに座した艦首の砲口には淡い光が灯り始めている。

 

『いいか、此度の目的は人質救出作戦だ! 目標の漸減こそ必要だが、絶対に対象に当てるんじゃないぞ!』

『サー、イエッサー!』

『ハイパーメガ粒子砲回路、収束から拡散へ……エネルギー充填率60パーセント、満足には程遠いデース……でも! これがワタシと提督の今出来うる限りのバーニング・ラヴなら是非もなしデース! 全艦連動、拡散ハイパーメガ粒子砲、FIRE!!!』

 

 改ドゴス・ギア級「天城」の指令席に座す男、「アトミラール」の命令を受けた艦長──「コンゴウ」の指示によって、開戦を告げる号砲は放たれた。

 普段の六割の出力で撃たれたそれが、フォトンリングレイによって増幅されれば120パーセント以上になることをアトミラールとコンゴウが勘定に入れていたかどうかはわからない。

 だが一隻の改ドゴス・ギア級と、五隻の改ラー・カイラム級群、「赤城」、「加賀」、「瑞鶴」、「翔鶴」、「信濃」の艦首から放たれたハイパーメガ粒子砲は一条の束となってリングに収束すると、そこから光の鞭となって容赦なくモヒカンを、賞金稼ぎを、そして哀れにもロックから外れながらも逃げ遅れたヴィジランテをも巻き込んでヴァルガの景観を破壊していく。

 その中には賞金稼ぎが気合を入れて用意した全塗装HGガデラーザだとかネオ・ジオングだとか、そういう高額キット群も含まれていたのだがそこはそれ、札束と狂気が織り成すフルスクラッチ砲の前には耐えきれず、哀れにも有象無象として散っていく他にない。

 

「イカれてやがる──」

 

 そしてそれは、「回収屋」として悪名が轟いているピーターも同じだ。

 あり触れた断末魔を残してログイン天誅狙いの男は天から降り注ぐ光の雨による誅伐を下されて、テクスチャの塵へと化していくのだった。

 

 

 

「相変わらず無茶苦茶な威力だな……」

 

 事前にこの茶番なんだか本気なんだかわからないELダイバー争奪戦に参加していた男──「ユーリ」はガンダム・マルコシアスの太刀でぶった斬ったデンドロビウムのIフィールドジェネレーターと、自身のナノラミネートアーマーによって光の雨を耐え切っていた。

 それでも損害は少なくなく、味方に当てるなとはなんだったのかと文句の一つも言いたくはなるのだが、モヒカンやログイン天誅狙いの暗殺者はそれこそ畑から取れる勢いで降って湧いてくるのがこのハードコアディメンション・ヴァルガだ。

 あれぐらいやらなければ「本命」のエントリーも安全にはならないのだろう。

 ディメンション北西部にある軌道エレベーター付近に陣取った賞金稼ぎが駆るモビルアーマー、ハシュマルから放たれる子機であるプルーマたちをその巧みなサブアーム捌きで切り裂き、引き裂き、撃ち落としながらユーリは「お仲間」たちと共に本丸を落とさんとする。

 

「ミツルギさんだったよな、俺たちはあの軌道エレベーターを抑えればいいんだったな!?」

「その通りだ、彼女が採掘エリアにいるかどうかはわからないが、足を抑えられていては探索ができん!」

 

 原作とは異なり、ハシュマルの護衛についているガンダム・バルバトスルプスが放ったレールガンの一撃を、ヘルムヴィーゲ・リンカーが持っていた大剣の腹で防ぎながら、ミツルギの駆る∀ガンダムは即席チームの盾として、アタッカーたちを本丸に送り出すべくバルバトスルプスに立ちはだかる。

 ユーリがヴィジランテをやっていることに理由はない。強いていうなら、GMには気の毒でこそあるものの、第二次有志連合戦の時のようにまだ生まれて間もないELダイバーを消したり何かに利用しようとしていたりするその口振りが気に入らないだけだ。

 逆張りと言われようが構わない。

 賞金稼ぎのハシュマルを守る最後の砦であったガンダムアスタロトオリジンを、そのγ-ナノラミネートソードごと一刀両断しながらユーリはマルコシアスを跳躍させて、大技の代償として折れた太刀を放り捨てる。

 

『太刀のないマルコシアスなんてなぁ! ナイフでこのハシュマルをどうにかできんのかよ!』

 

 北西部軌道エレベーターに陣取る賞金稼ぎは、そのほとんどがタチバナ商会の息が掛かった即席の傭兵だ。

 プロに札束で突貫工事を依頼して大型機を用意させ、数と金の力でチィを奪還して鬱憤を晴らす──その小物極まる目的など、ユーリは知らないし知る余地もない。

 だが、こいつには愛がない。

 それだけはすぐにわかった。

 

「おいおい、ここは……GBNだぜ!」

 

 γ-ナノラミネートソードと似た原理で、右の拳にエイハブ・ウェーブを集中させると、マルコシアスはその拳を振りかぶって、ただ額面通りの設定だけをかじった傭兵には理解が及ばない技を繰り出す。

 

「爆熱……ゴッドフィンガー! ナノラミネートエディションだ!」

『ば、バカかテメェは!?』

 

 無論そんなことをすれば実機の拳はエネルギーに耐えきれず砕け散るのだろう。だがこれはゲームだ、そして必殺技というユニークスキルがその「できたらいいなあ」という妄想を具現化する背中を後押ししているし、なによりも。

 

「ガンプラは……自由なんだぜ!」

 

 ミツルギがバルバトスルプスを破壊したのと同時にハシュマルの首を捻じ切って、ユーリは宣言する。

 そうだ、自由でなければならない。ガンプラも、この世界も。

 ならば、この世界から生まれてきたELダイバーだってそれは同じなはずだ。

 ミツルギの他にも並んでいたヴィジランテたちが無事なのを確認すると、畑で取れたが如く軌道エレベーターを防衛するために派遣された、タチバナ商会の戦略を打ち砕くべくユーリたちは疾駆する。

 こいつらには愛がない。愛がなければ連携もあのふざけた砲撃が本質かと思いきや恐らく「第七機甲師団」に匹敵する戦略、戦術をその本懐とする大艦隊にも及ばない。

 愛なき者を駆逐すべく、その愛を受けて顕現した悪魔は双眸から赤い残光の尾を引いて疾駆する。

 その姿はまさに、タチバナ商会に雇われた傭兵たちからすれば「悪魔」そのものに映ったのであった。

 

 

 

 マルコシアスが悪魔なら、七十二柱を統べる王とは何か。

 無限湧きするモヒカンと賞金稼ぎを一刀の下に斬り伏せて、流星のような奇跡を刻むその白亜の機体の頭上にこそ、王たる冠は正統に輝く。

 

『ば、バエルがあんなに強いなんて聞いてねえぞ!』

『キマリスヴィダールなら勝てるんじゃなかったのかよ!?』

 

 かの商会の息がかかっていようがかかっていまいが関係ない。

 道を開くために自分は、バエルは三度蘇ってここにいる。立ちはだかるのは敵だ。立ちはだからないのは訓練されたアサシンだ。

 

「そう……このバエルが、アリアが一人で道を切り開き、全てを葬り革命を成し遂げる! それこそが! この機体……悪魔の王たる本懐なのですわぁぁぁぁッ!!!!!」

 

 作り込みが浅いと、アリアは金属パーツに置換していないドリルニーを蹴り砕いてキマリスヴィダールのコックピットにはバエル・ソードを突き立てて、背後を狙ってきた黒いガンダムエクシアにはノールックでもう一本の剣をやはりコックピットの中心に突き立て、そして。

 

『俺を盾にしたのか!? うわあああっ!』

『ヨウタ! クソっ、このバエル、俺にも気付いて──』

「遅い」

 

 三段構えの態勢でアリアを葬らんとしていた最後の切札、ハイパージャマーを起動しながら襲いかかってくるガンダムデスサイズの鎌にエクシアを切り裂かせた上で、真っ二つになった胴体の隙間から、キマリスヴィダールの胸から引き抜いた剣を突き出してデスサイズを葬る。

 これら一連の作業にかかった時間は僅か十秒にも満たない。

 何の感慨もなく、心を躍らせることもない──アグニカ・カイエルの魂から程遠い者たちを全て跳ね飛ばしながら、バエルとアリアは決して止まることなく戦場に嵐を巻き起こす一つの災害として君臨していた。

 それはあの「アトミラール」たちの砲撃を全て躱していたことからも窺えるだろう。シーカーとアサシンは気配を読み取って薙ぎ払いで確殺し、スナイパーには肉の盾と機動性を利用して急接近することで斬殺し、アタッカーには素直な死をくれてやる。

 まさしくアリアとバエルはこの戦場において五線譜に描かれた音を奏でるように優雅に、しかしながら純粋に恐ろしい暴力を行使して、訓練されているはずのヴァルガの民をも巻き添えに荒れ狂う。

 ある程度数を漸減しつつ、自分たちもチィを探しながら、本命である突撃前衛──三人の少女たちにはダイブしてもらわなければならない。

 アイカが屑運を引かなければ、とその作戦の前提に付け加えたなら屑運を極力ねじ伏せればいい、というのがアリアたちの示した回答だ。

 しかし、これだけの実力を誇るアリアとてGBNの中ではまだ頂点には及んでいない。

 意識の隙間を突くようなその攻撃を辛うじて回避しつつ、影に溶け込んでいたが如く戦場に突如として現れたその機体を、アリアは舐めつける。

 

『ごめんなさいねぇ、でも……アナタたちが未来を見ているなら、その未来を試すのは……命を預かるのに相応しいかを見極めるのはアタシの役目!』

「……個人ランク第23位……『アダムの林檎』のマギー様ですわね? 貴女ならば……わたくしと、このバエルと踊ってくださるのでしょう!?」

『いいえ、踊るのはアナタ──そして、奏でるのは愛と死の舞踏!』

 

 暗闇から現れたその機体、「マギー」の駆る【ガンダムラヴファントム】が振り下ろす死神のビームカマと、アリアが駆る悪魔の王たるその切っ先、バエル・ソードが嵐のように打ち合って火花を散らす。

 ああ、そうだ。アイカさん。

 ここで阻まれたとしても──ミツルギたちが上手くやってくれる。そして自分はもちろん、敗れるつもりなど毛頭ない!

 

「上等ですわ、わたくしこの件ブチのギーレェでしてよ、ランカーだか何だか知りませんが……鬱憤晴らしに付き合ってもらいましてよ!!!!!」

『あら……若いって素敵ね。お嬢さん……!』

 

 アリアのバエルが優雅に荒れ狂う暴力なら、マギーのラヴファントムは優雅に闇から現れて静かに舞い踊る技の化身だ。

 そのどちらも勝るとも劣らない剣戟に介入しようとする不埒者は当然の如く存在したが、その全てが、余波がコックピットに直撃して爆散するか、マギーもしくはアリアに細切れにされて爆散するかでテクスチャの塵に変えられていた。

 戦場に一つ空白地帯が生まれたことに、アリアは決して安堵しない。

 なぜならマギーの目的は恐らく遅延だ。

 自分を食い止めて、困難に「リビルドガールズ」もとい今は「リビルドバンガード」を飛び込ませることでその覚悟の証明とするのだろう。

 理解はできる。命を預かるのがどんなに重いことなのか、アリアは、「凛音」は、幼い頃から主治医の先生が笑顔を浮かべながらもどこか申し訳なさそうに自分と接していたことで理解している。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 気に入らないのだ。この自分とバエルを前座扱いすることが。

 

「ふふ……野に放たれた獣が一斉に牙を解き放っている、そしてわたくしもその獣というその目、その姿勢……全てが気に入りませんことよ」

『あら、踊り方なら丁寧にエスコートしてあげているけど?』

「んなもん病気がわかる前に死ぬほど叩き込まれましたわぁ!!!!!」

 

 ラヴファントムから放たれたカリドゥス複層ビーム砲をバエル・ソードで切り裂くという荒技を見せながらアリアは絶叫する。

 そうだ、楽しい。

 ガンプラバトルはこんなにも愛に満ち溢れている。そして愛を持つ者同士がアグニカ・カイエルの魂を目指して高め合うことほど崇高で尊い行いなどこの世のどこに存在するのだろうか。

 

「だから……わたくしと戦うためにあの銭ゲバを回収しなさいな、『リビルドガールズ』!!!!!」

 

 戦友よ、そしてあのふざけた現実を認めて生きる覚悟を持たせてくれた親友よ、これこそが桜宮凛音であり、アリア・ファリドの覚悟である。

 照覧せよとばかりにアリアはリミッターを解除して、その双眸に狂気と狂喜、愉悦と恐れを抱きながらも果敢に、このGBNにおける愛の番人へと立ち向かってゆくのだった。

 

 

 

「……クク、大資本のやることは過激ね……じゃなかった。こほん。過激であるわね……」

 

 あの砲撃を避けずとも、サイコ・フィールドとIフィールドによって無傷で乗り切っていたその巨龍を操る少女、クオンは今も並み居るガンプラを高い密度を誇る対空砲火で叩き落としている戦艦六隻を見上げながら、大物狩りを果たそうとして挑みかかってくる四桁ランカーの機体を、テイルブレードで無慈悲に叩き落としてゆく。

 誰が呼んだか、二桁の壁。或いは終末をもたらす「ジャバウォックの怪物」、御伽噺を悪夢で締め括る終焉の使徒は、例え四桁というハイランカーが相手であろうとも、巨大資本が狂気と情熱と札束を捧げて作り上げた戦艦が相手であろうとも沈むことはない。

 彼女が駆る怪物の名前はそのまま【ジャバウォック】であり、二年という歳月をかけて改良し続けたそのガンプラは、ヴォーパルの剣を、勇気ある者が携える剣を持たなければ倒せないと恐れられている。

 

『ウソだろ、こんな……!』

 

 セカンドVにアサルトバスターをミキシングした、【Vガンダムサード】を駆るダイバー、個人ランク1238位である「オリベット」は構えたミノフスキー・シールドごとテイルブレードに破砕されたことに驚愕を覚えている間に、つい最近リニューアルしたばかりのフェザー・ファンネル──一つ一つ全てがフルスクラッチという狂気の産物である──に飲み込まれて爆炎の中に消えていく。

 

『二桁上位の壁だってんなら、これぐらいで死なないのは当たり前よ! ならば諸共おおおおおっ!?』

「あら、ごめんあそばせ……ふふ」

 

 オリベットが爆散したのを皮肉に笑い、背後に潜んでジャバウォックの喉元に刃を突きつけようとしていた個人ランク987位である女性、「リザヴァリー」は愛機である【ネブラブリッツ天】のミラージュ・コロイドを解いたその瞬間に真っ二つにされて、ロビーに強制送還されていた。

 リザヴァリーの脳内では音が割れた音楽が鳴り響き、クエスチョンマークが思考回路を埋め尽くしていたものの、その絡繰は簡単だ。

 単に上からの攻撃に対応できなかっただけだ。

 ミラージュ・コロイドによる欺瞞を見抜いて、腰部のマウントラッチに収めていたビームサーベルでネブラブリッツ天を一刀両断した、リボンに飾られた黒髪ロングに黒和装というゴシックな出で立ちの少女──ユユは妖艶に微笑んで、心の赴くままに愛機である【G-イデア】を、ヴァルガの空で優雅に舞わせる。

 別に助けられたというわけでもないが、彼女はかつて一度とはいえ自分と引き分けたあの聖騎士──ヴァルガの主人にしてFOEさんの通称で呼ばれる男の妹だったか。

 68位という位置だったが、あの動きなら近いうちに自分たちの領域に差し迫ってくるだろう。

 将来のライバル候補の勇姿を見て、どこか満足げにふんすと笑ってみせると、クオンは傘を傾けて、文字通りお散歩感覚でヴァルガに住まうモヒカンやシーカー、アサシン、そしてタチバナ商会の傭兵を蹴散らしていく。

 

『おい待てよ、なんでクオンちゃんがこんなとこに──ぐああああ!!!』

『FOEさんから死ぬ気で逃げてきたらこれってありかよ!? うわあああああ!!!』

『畜生、契約の時にこんなのがいるなんて聞いて──うおおおおっ!?』

 

 ジャバウォックはただ歩くこと、それすらも災害としうる力を秘めた巨龍だ。

 クオンがヴィジランテに回った理由は単純だ。あのチャンプが今回は例のクルーゼ仮面として運営を裏切って、偽装したダークマグナムハウンドで暴れ回ると風の噂で聞いたからだ。

 曰く、「リビルドバンガード、海賊だね……海賊といえばバロノーク、そしてあの事件を知ってしまった今、僕は今度ばかりは味方になることはできない」と、胃痛を堪えるカツラギに詫びて今もヴァルガの宇宙で荒れ狂っているらしいが、彼と戦うためにジャバウォックの巨体をソラヘ運ぶには、南西部マスドライバーを利用しなければならないのだ。

 故にこそお散歩。そして「黒髪ロング黒和装災害系妹」がいるということは、断末魔にも紛れていたようにあの聖騎士もまたヴィジランテとして参戦しているのだろう。

 

「……そう、これは有志連合ではない……くく……各々がプリミティブな欲望のために戦う終末の具現……!」

 

 ならば私は災禍になろう。チャンプが遊んでるなら私だって全力で遊びたい。

 クオンは等身大の少女としての笑みを浮かべると、すぐにロールプレイに戻りながら、数多の屍を足下に積み上げながらマスドライバー基地に陣取る「それ」と相対する。

 

「よう……待ってたぜ、この前は食いそびれちまったからな……おかげで腹ァ減って仕方ねぇぜ!」

「修羅たる鬼よ、我に挑むか! ならば……」

「言葉はいらねぇ!」

 

 待ち構えていた男、「獄炎のオーガ」が振るう剣とジャバウォックのビームトンファーが激突し、周囲にビーム・マグナムの余波を思わせる衝撃を散らす。

 予定外だったが、こういうのも悪くはない。

 思いがけず上々な散歩の成果にほくそ笑んだかと思えば闘争心を剥き出しにした笑みを浮かべて、オーガとクオンはぶつかり合う。

 そしてその余波で足下に積み重なる屍の数は指数関数的に増大していく。

 地獄だった。地獄の中に、地獄が顕現していた。

 何を言っているのかわからないと思うが、巻き込まれて死んでいくダイバーたちは皆一様にその言葉を頭の中に描いている。そして。

 何より恐ろしいのは、あの開戦の号砲が鳴り響いてから、まだ三十分ほどしか経っていないという、GBNの深淵が見せる事実であった。




リビルドバンガード「チィを助けたい」
ヴィジランテ「どうせなんか運営がろくでもないこと考えてんだろ」
賞金稼ぎ「なにはなくとも金が欲しい」
傭兵「金もらったから参加したけど詐欺みたいな地獄だったわ……」
ハイランカー「祭りだ! クッソ楽しいお祭りだ!(歓喜)」
チャンプ「今の私はバロノークの男、チィ君のために……道を切り開いてみせよう!」

カツラギさん「なにこれ?」
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