フォースランキング堂々の次席を誇る「第七機甲師団」、その鉄の誇りに身を包んだ部隊を率いるモフモフの毛皮に包まれたオコジョのダイバールックを採用している推定男、ロンメルにとってこの戦いは大きな意味を持たなかった。
ELダイバーが失踪していたことは事実だとしても、運営の言い分に嘘が含まれていることもわかっていたし、何よりチャンプであるキョウヤを経由して虐待事件に関してもロンメルは仔細を把握している。
だが、その上で誤解を恐れずに言うのであればこれは運営にとっては茶番で、どう転ぼうが無駄に金を投入している「タチバナ商会」が得をすることはないのだろう。
その辺りについてもキョウヤ経由で何やらGBNに絡む大資本がどうのこうのと聞かされていたのだが、はっきり言ってロンメルにとっては割とどうでもよかった。
どう転ぼうが運営は損をしない。第二次有志連合戦の時と事情が違うのならばいたいけな少女たちに味方して戦うというのも悪くはないのだろう。
一応、此度は運営の「有志連合」としてヴィジランテたちと銃火を交えているロンメルだったが、彼の動機は極めて個人的なものだ。
「まさか、大戦争イベント以外で本気の『GHC』と戦えるとはね……」
自身の率いる「第七機甲師団」と同じく、フォースの主軸として戦術と戦略に重きを置きながらも、圧倒的な物量によってのローラー作戦を常道とするそのフォースは、ロンメルにとって何かと引き合いに出されることもあり、ライバルなのか戦友なのか、そんな奇妙な感情を抱く好敵手でさえあったのだ。
タチバナ商会のやり方については気にくわない。だが、奴らについてはあの男が、アトミラールが確実に追い詰めてくれるのだろう。
桜宮の令嬢もブチ切れた結果とうとう父親を説き伏せてGBN経営における大株主としての発言権を手に入れたのだから、巨大資本と巨大資本が手を組んで札束で殴れば死ぬ。巨大であっても落ち目の資本であれば尚更だ。
ああ悲しきかな資本主義、新自由主義の生み出した影。
有志連合として参加しながらも、ロンメルは一際大きな溜息とともにタチバナ商会の傭兵を、ミニモアザックに格納していた手榴弾で爆殺し、愛機【グリモアレッドベレー】を先頭に、隊員達とV字の陣形を組んで、衛星軌道に浮かぶ改ラー・カイラム級戦艦「扶桑」に突撃を敢行する。
「これがただの祭りであるなら……私も本気で乗らせてもらおうではないか、アトミラール……!」
その、並み居るガンプラであれば問答無用で破壊する密度の対空砲火を曲芸じみた機動で潜り抜けて、ロンメルは「扶桑」のブリッジにチェーンソーを叩きつけ、そして、自身を囮にすることでその警戒が緩んだ「クルト」たちを筆頭にする部下たちへ主砲やエンジンを撃ち抜かせることで、「第七機甲師団」は無傷で改ラー・カイラム級戦艦を一隻沈めてみせる。
運営の意向と桜宮の意向、そしてGHCの意向がどこを向いているかについては興味はない。だが、「とにかくこの祭りを盛り立ててくれ」と据え膳を与えられた状況ならば、喜んで食べるのが自分という男だと、ロンメルは自認していた。
とはいえ、本命は地上で暴れていたのだろうから、上がってくるまでには時間がかかりそうだが。
あの狂気の作り込みが施された「GHC」の戦艦たちを、提督不在とはいえ無傷で叩き落としていく「第七機甲師団」の姿は、まるでルウム戦役におけるモビルスーツの活躍を、一般ダイバーやこの状況においても尚採掘を諦めない不屈の炭鉱夫たちに連想させた。
しかし、息をつく暇もなく四方八方から攻撃が飛んでくるのがこのハードコアディメンション・ヴァルガという場所だ。
真横から飛んでくるビームを回避しつつ、ロンメルはついに来たか、と、唇……らしきものを歪めて獰猛な笑みを浮かべてみせる。
「キョウヤ……よもや君とまたあいまみえることになろうとは」
『すまないが、誰のことだかわからないね……今の僕はバロノークの男!』
『そして俺は海賊A!』
『同じく宇宙海賊ビシディアンのBです』
不動のチャンピオン、クジョウ・キョウヤであることが明らかにバレバレなクルーゼ仮面は通信ウィンドウの中で不敵に笑って、自身の愛機である【ガンダムAGEⅡマグナムハウンド】に施した偽装と同様の欺瞞が施された【インパルスガンダムアルクローグ】と【インパルスガンダムランシエエッジ】を従えて、「第七機甲師団」を急襲した。
筆頭の三人がロンメルを抑えにかかっているだけで、残りのメンバーもどことなく宇宙海賊ビシディアン風の偽装を施した機体でタチバナ商会の傭兵を叩き落としながら、とうとうチャンプがその財力でレンタルしてきた「バロノーク」が戦場に姿を表す。
「いいだろう……海賊狩りと洒落込むぞ、クルト!」
「はっ、大佐殿!」
それだけの短い指示で、チャンピオン率いる三機を取り囲みつついつでも回避運動に移行でき、かつフレンドリーファイアを避けられる陣形を組んだ辺り、クルトという副長の実力もかなりのものだ。
弾幕放火を掻い潜るAGEⅡマグナムハウンドが構えたドッズランサーマグナムとグリモアレッドベレーが繰り出したチェーンソーの一撃がぶつかり合ったかと思えば、インパルスアルクローグのビームが二人の間に割って入り、その背後にダブルロックを向けようとする隊員たちを制するように、インパルスランシエエッジが遊撃をかける。
ここだけ切り取ってみれば、普通のフォーストーナメントそのものなのだが、その周囲では絶え間なく爆発音が響いているし流れ弾で傭兵も賞金稼ぎもヴィジランテも問わずして撃破されているのだからやはりここは猿山にして戦闘狂のラスト・リゾート、ハードコアディメンション・ヴァルガに他ならない。
──どーしてくれんだよこれ。
誰ともなく採掘エリアで呟かれた言葉は、しかして戦場に届くことはない。
いきなり怪物たちの頂上決戦が始まったことに頭を抱えながらも、チィは比較的平穏な採掘エリアの鉱石群と、モビルドールに搭載しているミラージュ・コロイドとハイパージャマーを駆使して逃げ回り続けていた。
ここ最近は普段であれば利用者が少なく不人気な軌道エレベーター基地を拠点にしてチィはヴァルガで補給路を確保しながら見事隠れ仰せていたのだが、今日になって自身の首に賞金がかけられたことが発表されると、いきなりスレが祭り状態に突入したため慌てて宇宙に逃げてきたという風情だ。
ハードコアディメンション・ヴァルガに、基本的に平穏の二文字はない。
だがそれは、例外的には存在するということだ。
モビルドール姿の自身を見ても関心を払うことなく、ランドメイスでヴァルガの月に聳え立つ水晶のようなものを掘り続けている旧ザクやゲイレール・シャルフリヒターに頭を下げつつ、チィは定期的に隠れる場所を変えていた。
「……ここは平和でありがたい限りだねぃ」
炭鉱夫と賞金稼ぎは、微妙にその性質を異にしている。
賞金稼ぎといえばそれこそチィもやっていたように金、金、金でダイバーとして恥ずかしいとかそういう感情は犬にでも食わせた銭ゲバ共だからこそチィを追いかけるのだが、炭鉱夫が追い求めるのはレアドロップ、それもヴァルガでしか採掘できないものだ。
例えば「リギルド・センチュリーのサイコフレーム」というアイテムはこの採掘エリアで取れるパーフェクトレア報酬の一つだとされているし、その価値は優に1000万BCを上回る。
それだけではなく機体にプラグインとして組み込めば性能が向上し、一種の勲章にもなるのだから男も女も老いも若きも夢を見て、今日も炭鉱夫たちは黙々とピッケルを振るい続けるのだ。
勿論、そんな彼らをキルスコアの肥やしにしようと目論む不届き者もいて、チィが先ほど隠れていた場所には、どこから忍び込んできたのか賞金稼ぎのものと思しきアクト・ザクが三機エントリーしていた。
そして彼らは採掘を続けていたシャルフリヒターを囲んでヒートホークを叩きつける。
だが、次の瞬間には脇目もふらず採掘をしていたはずの旧ザクやボールといった機体がピッケルやらバールのようなものを持ってアクト・ザクを袋叩きにする。
彼らは確かに他者へ干渉しない。しかしてそれは抵抗しないこととイコールではない。
レア掘りを邪魔する主任だとかリーゼント頭のあいつだとかは可及的速やかにぶちのめさなければ快適な炭鉱夫ライフが送れない以上、炭鉱夫たちもまたいわゆる採掘ビルドでおこぼれ狙いを叩きのめす精鋭に違いはないのだ。
「……チィのことは狙わなくてもいいってか」
それはそれで助かるからいい、と呟きかけたものの、言葉が返ってこないというのは存外に寂しいものだと、チィは鼻の頭に何か塩辛いものが滲んでくる擬似感覚に困惑する。
あの顔も思い出したくない畜生の家にいた頃だって、お姉ちゃんは話し相手になってくれた。
在りし日を思い返しながら、チィはごしごしと右手で両眼を拭う。
イリハはエリィのようにゆっくりと、緩慢に喋る姉だった。
だから、チィも気を遣ってゆっくり喋ったりしていたけれど、それでもチィはイリハのことが大好きだったし、「チハヤ」という名前が気に入らないと話したら「チィ」という愛称を付けてくれたのだってイリハだ。
今がどんな状況で、自分の首に懸賞金がかかったのかは想像がつく。
橘大十郎という男とその息子は醜悪極まっているし、裏社会にだって顔が効く存在だ。
今更自身にしょうもない復讐を願っているのかそれともまた政治の道具として自分を利用しようとしているのかは知らないが、少なくともその蛮行に、チィは仲間たちを巻き込みたくはなかったのだ。
それに。
「──誰が愛してくれんだよ、金が欲しいって想いから生まれたELダイバーなんてさ」
チィが真っ先に虐待されそうになったのは、それが理由だった。
当初はこんなスレた喋り方なんてしていなかったし、イリハをちょっと快活にした程度のチィだったが、何か欲しいものはあるかい、と問われて、「私、お金が欲しいんです!」と大十郎に答えた時の、彼のまるでゴミでも見ているかのような目は、今でも忘れられない。
それがチィの生まれた理由なのだからどうしようもないのだが、考えてみれば金に汚いELダイバーなんて確かに可愛くない。
「……きっとあのオッサンも、サラねーちゃんみたいな可愛い子を期待してたんだろうな……」
そして姉のイリハはその条件をクリアしていても口数が極端に少なく、喋ったとしても声が小さいために、彼らの「お人形」として、チィとイリハの姉妹は失格だったのだろう。
だからといってチィは橘大十郎を許すことなどないし、その息子についてもそいつらに引き合わせてくれやがったGBNの運営、その背後にいる経営陣についても同様だ。
なら、どうして自分はモビルドールの姿なんて晒してしまったのか。
チィはずっと、その問いに対しての答えが見つからずに悶々としていた。
アキノが不公平な条件で引き抜かれるのが我慢できなかったのは確かだ。そしてアイカとエリィが必殺技を当てなければ、あのリヒトに勝つことはできなかったのもまた確かだ。
だが、回避盾をやるにしたってどうしてグラスランナーのままではなく、モビルドールへの変身という行動を取ったのかが説明できない。
もっともらしい理屈は捻り出せるが、それだけでは何かが欠けているような気がしてならないのだ。
「……わかんねえ、わかんねぇよ、アキノ……アイカ……エリィ……」
チィはコックピットで周囲を警戒しながらも、脳裏を常に埋め尽くしている答えの出ない問いかけに、一人涙を零す。
そして自身が泣いていることにさえ気づかないまま、答えを探し続けるのだった。
ポークは激怒した。必ずあの邪智暴虐の運営を除かねばならないと思う訳ではないが、それはそれとしてヴィジランテに回ろうとした。
ポークには政財界のことがわからぬ。しかし己の生きがいだったカップリングを眺める趣味については豚一倍敏感だった。
衛星軌道上、本来ならヴァルガにおいて最も不人気な宇宙ステージも星が三分に敵が七分という訳の分からない状態になっているが、それはそれとしてここにいれば何となくアイカに刺してもらえそうな気がするし、彼女の敵も倒せそうな気がしたのだ。
「どんな理由だよ……」
「豚の勘よ、過疎コンテンツに人が集まり始めるなんてくそげのお祭り、そして騒動あるとこに『リビルドガールズ』ありなのよ」
相方であるアオヤギが新調した乗機、【ヴェルテクス・ドーガ】──リゲルグとヤクト・ドーガのミキシングである──に持たせていたビームガトリングでタチバナ商会の傭兵を破壊するのに負けじと、ポークは彼の弾幕で足を止めた敵をZガンダムNZCのシールドに埋め込んだ拡散メガ粒子砲で撃ち抜いていく。
ポークはくそげにも人一倍敏感である。
そしてこの明らかにヴァルガ慣れしていない奴らが大量に湧いてきたということはどこかの誰かさんがブレイクデカールの時のように傭兵を雇ってばら撒いたと考えていいだろう。
別にゲームの運営だとかそういうのが全て潔白であるだなんてポークは考えていない。
だが急に札束を投下してその力だけで自分たちの遊び場を荒らされようとすることに対して憤りを感じる程度にはこのゲームを愛していたし、そんなのと組まざるを得ない経営陣の判断には絶望している。
ポークはそういう女だった。白のザフト制服に身を包み、顔部分のアクセサリには相変わらず電子掲示板、そこにしょんぼりとした感じの顔文字を浮かべて突撃していく。
ヴァルガを地獄たらしめているのはモヒカンだろうが一般ダイバーだろうが少なからず何かしらの練度が高いことに他ならない。
ならば、このどこかの誰かさんに雇われた動きがぎこちない傭兵たちは外部から来たお客さんだ。
「よく来たわね、歓迎するから十四に行って?」
「何企んでんのかはわかんねえけどせっかくの祭りだ、踊らにゃ損だな!」
そんなくそげを忌避する女とどことなく体育会系で脳筋な男が組んでいる理由も連携ができている理由もわからないが、それはそれとしてポークとアオヤギは、傭兵の駆るレジェンドガンダムを、そのドラグーンを躱しながら十字砲火で淡々と魔法の数字十四送りにしていく。
向こうでは明らかにバレバレな「AVALON」と「第七機甲師団」と「GHC」が三つ巴の戦いを繰り広げていたはずだが、その戦況はどうやらまたも変化を迎えたようだ。
無言でΖガンダムNZCをウェイブライダー形態に変形させるとポークはアオヤギを手招きしてその背に乗せながら、新たなくそげの気配に満たされた戦場予定地から離脱していく。
「あれは勝てないわね、はまじくそげ」
「お前本当喋り方以外はまともだよな」
「振り落とすわよ、あやまって?」
「悪かった」
背後を振り返ったアオヤギの視界に映ったものは、確かに一瞬でもポークの合図に気付くのが遅れたら、そして今その背から振り落とされればテクスチャの塵になりかねない、「太陽」そのものだった。
ヴァルガにまともな雨など降ることはない。
雨が降る直前にはいつも光が走って、周囲が更地になっている。それが日常なのだ。
しかしそれにも限度というものがある。
林立する「光の柱」に飲み込まれて破壊されていく「GHC」の戦艦群やそこから発進した兵隊たちを見て、二人は降臨した太陽の化身、その威容に思わず背筋を震わせていた。
『クジョウの坊、少しばかり遊びがすぎるのう』
誰が呼んだか、半神半魔。その高い実力は一桁の神々と同じであるのに、敢えて個人ランキング10位という位置に留まり続け、自らを一桁に上がるための最後の壁と規定している女性──「テンコ」はその大戦争に天照の威容をもって介入しながら、悪戯っぽく唇を動かして言葉を紡ぐ。
テンコの心境もロンメルと同じようなものだ。
悪役を買って出たいわけではないが、この戦いの背後に潜むロクデナシ共をあのアトミラールや桜宮のお嬢様が確実に処理してくれるとあれば、戦力の不均衡というのはイベントとして美味しいものではない。
なるべく火をつけてボヤ騒ぎを拡大しつつ傭兵を処理しながら膠着状態を作り出す。
ある種運営が自ら胃痛の種を作っているのにも等しい行為だが、それでもあのELダイバー、チィとやらを黒幕には渡さず、その鼻っ柱をへし折りながら多くの人間に注目してもらうことで内々的な処理を不可能にしてしまうカミカゼアタックめいた強引な手腕は、テンコとしても嫌いではない。
ランカーの血がたぎるままに、「第七機甲師団」vs「GHC」、「バロノーク連合」に第七機甲師団の助っ人として参戦したテンコは愛機の九尾を展開すると凄まじい速度でチャンプのマグナムハウンドへ食らいつき、ビット攻撃と格闘戦を巧みに使い分けたドッグ・ファイトを繰り広げる。
「ほう……テンコ様がいらっしゃるとは、この宇宙海賊風情も随分と高く買われたものです」
『お主はそれを本気で言っておるのか遊んでおるのかたまにわからなくなるのう……じゃが』
「そう、此度のこれは本気の遊び! ならば私も今度は有志連合を束ねるのではなく、この舞台で役者として踊らせてもらうということだ!」
『うむ……それは妾も同意するところ、ならば今宵のアンコールまで付き合ってもらうとしようかのう!』
ロンメルには「GHC」の対処を依頼しつつ、テンコとキョウヤは流星がでたらめな軌道を描いて宇宙を駆け抜けていくとしか表現できない、凄絶な速度での戦闘を心ゆくまで楽しんでいた。
チャンピオンと「一桁への壁」が戦っているという映像が撮れているなら、このヴァルガに来ていなくたってこの騒動を知る人間は指数関数的に多くなっていくだろう。
運営公認G-Tuber、「ザクムラ」は愛機である【ワークスザク】にアウトフレームが用いているガンカメラを持たせ、余波に巻き込まれない位置に陣取りながらその映像を記録に収めていた。
ザクムラは運営側の人間だ。当然ELダイバー虐待事件の顛末も全て知っている。だが、資本の力は強大だ。
故に日和見主義の現経営陣とタチバナ商会の暴虐には手を拱いていたのだが、それにGMと一緒に奴らへと一泡吹かせられるチャンスが巡ってきたとなれば躊躇も遠慮も必要などあるまい。
元ランカーとして意地でもマグナムハウンドと、テンコが駆るその太陽の化身にして威容の具現化たる、ガンダムレギルスをベースとした【天道天照】がぶつかり合う様をカメラに収めるべく、ザクムラは食らいつく。
それは生身で見るガンダムAGE、メモリーオブエデンの再現だった。
チャンプがワイヤーフックがレギルスビットを叩き落としたかと思えばテンコの背後に潜んでいたFファンネルもまた叩き落とされて、互いに武器を持ちながらも時折ステゴロで殴り合うという様は最早、優雅という言葉からはかけ離れているにも関わらず美しい。
撮影のために引いてこそいるとはいえ、ザクムラが近くまで食らい付けてないのなら自分たち一般ダイバーはどうしようもあるまい。
ポークとアオヤギはその一部始終を見届けながらも、「GHC」に対抗して作られたと思しき「アドラステア」の群れが、艦隊に結構な損失を出した「GHC」宇宙軍の死体蹴りをするのを阻止すべくアドラステアへの突撃を敢行する。
タイヤに突っ込むのではない、狙うのはブリッジだ。
アオヤギはポークから借り受けたハイメガランチャーを構えると肉薄した瞬間を狙って、アドラステアの艦橋を撃ち抜き、そのままポークの背に乗って一撃離脱を試みる。
あの「第七機甲師団」を相手に劣勢だった「GHC」も、最後に残された改ラー・カイラム級戦艦「山城」を中心にして艦隊を再編し、一か八かの拡散ハイパーメガ粒子砲を、アドラステア艦隊──タチバナ商会の艦隊へと撃ち込んでいく。
「姉様の艦は沈んでも……私の誇りはまだ死んでいない! 思い知れ外道共!」
そして、「GHC」の立て直しがここまで上手く行った理由があるなら、彼女たちの実力もさながら、さっきまで本気の戦いを繰り広げていたはずの「第七機甲師団」が寝返って、タチバナ商会旗下の艦隊へとその矛先を向けていたというのもまた大きかった。
『有志だったんなら味方じゃないのかよ!? なんで「第七機甲師団」が撃ってくるんだ!?』
「君は一つ勘違いをしているね」
沈められたアドラステア級から命からがら逃げ出した三機のザンスパインに取り囲まれて恨み言を吐かれながらも、ロンメルの表情が揺らぐことはない。
いつ何時も冷静に、時には道化の皮を被りながらもその下には硬い鉄面皮を備えているからこそこの戦場では生き残れる。
ミノフスキー・ドライブの高機動は恐怖だ、だがあまりにも動きが直線的すぎて全てがバレバレなのだからどうということはない。
置き撃ちでザンスパインの一機を自らその弾幕に突っ込ませながら、ロンメルは特になんの感慨もなく動揺したもう一機を淡々と処理して嘆息する。
『勘違いだと、一体何が──』
「我々は有志であるが連合ではない」
つまり互いのデメリットが衝突すればぶつかり合うのもまた必然とばかりに、展開した膝部のクローで残ったザンスパインも破壊すると、ロンメルは「GHC」の残存艦隊に合流して暫定的な支持権を「山城」の艦長から譲渡されたのをいいことに、アドラステア艦隊の漸減を試みた。
そうだ。運営は最初から有志連合を結成するとは一言も言っていない。
ただ、チィというELダイバーを確保するための有志が欲しいといっただけで、そこに有志間の結束であるとか連合であるとかといった細かなアライアンスなど存在していないのなら、今の今まで味方だった人間が突如として敵に回るということも十分に考えられるはずだ。
それを考慮していないあたりタチバナ商会が三流なのかそれとも運営とアトミラール、そしてかのバエってるお嬢様が一枚上手だったのか。
ロンメルの指揮によってその艦隊を立て直した「GHC」は、ほとんどそのロンメルのせいで物量で劣る状況にこそあったが落伍する艦を一つも出さずに、アドラステア艦隊と撃ち合っていた。
恐らくアトミラールが近いうちに本命を連れて上がってくるだろう。
眼下に見える水の星と衛星軌道をまたたく光を一瞥し、ロンメルは秘密通信ウィンドウを開いてクルトとコンタクトを取る。
「クルト、しばし指揮は任せて大丈夫か」
「はっ、大佐殿……もしかしてあれをやられるのですか……?」
「うむ、このままでは一方的な消化試合なのでね、画面の向こうにいるGBNプレイヤー以外にもこの『祭り』を知ってもらうことが運営の目的ならば私は従うさ」
目を伏せ、いかにも冷静を装っているように見えるがその尻尾が左右に振れているのを隠しきれないロンメルに苦笑しつつも、任されました、と、クルトは指揮を引き継いだ。
確かにあのアドラステア艦隊の練度であればロンメルな手管を尽くせばただのおやつで消化試合だ。
自分の指揮でもそうするだけの自信はあったが、決してクルトはそれを表に出さず、「アリア」が、奇しくも自分と似たようなリアルを持つ少女が願った「タチバナ商会の全滅とヴァルガ民の漸減を成し遂げつつ戦線を膠着させる」という矛盾極まる難題を遂行すべく、眉根に深くしわを刻みながら号令をかける。
ゴー・アヘッド。全軍突撃せよ。
そうして宇宙には戦いの光が瞬いて、決戦の開始を、いよいよ本丸を迎え入れる準備は整ったとばかりに、地上の軌道エレベーター付近の戦いも優位に進んできたという報告が軌道エレベーター施設の一部を乗っ取ったミツルギの部下たちからクルトへと、そしてロンメル、チャンプ、テンコ──錚々たる面々に、伝えられるのだった。
混戦極まるヴァルガの日常、しかしてそこにあるのは異常。少女たちの飛び入り参戦まで、カウントダウンは怪物たちの饗宴と共に進んでゆく。
【ポーク】……独特の言動で主にカップリングスレに現れては出荷される豚の一人。女性。アイカの色々キマってしまった目に惚れて、アイエリを邪魔することなく立ちはだかってアイエリに貫かれて散るのが夢な少々特殊な感性をお持ちの人。しかしその実力は、所属しているフォースである「異聞袖付き機構」と共々高いものである。
【アオヤギ】……気付けばポークの相方となっていた男性。ポークの考えこそ理解できないものの立ち回りの癖などが自身と噛み合っているために信頼は寄せている。今回ヴィジランテ側についたのもポークの判断を尊重したためである。後方腕組み系体育会男子。尚ダイバーネームは「チーク・アオヤギ」なのだが豚を名乗る女性も組んでいる都合上「チークさん」と、畜産を連想させるあだ名で呼ばれるのはなんか嫌なのでアオヤギで通している。