ハードコアディメンション・ヴァルガにおいて宇宙へ上がる方法はいくつかあるが、現実的なのは北西部にある軌道エレベーターを使うことだろう。
次点で、南西部にあるマスドライバー基地を使っての大気圏離脱が選択肢に挙げられる。
そのどちらもヴァルガにおいては比較的不人気なエリアで、マスドライバー基地に関しては戦闘のロケーションとしてガンダム的に申し分ないため戦闘狂のファイターやモヒカンと遭遇する危険があることは否めない。
だがその点、辿り着くまでは大変であったとしても辿り着いてからは炭鉱夫以外からは不人気極まっている軌道エレベーターは極めて宇宙行きという目的を達成するだけなら簡単なものだ。
それは普段なら、という条件が付け加えられるが。
一応、タチバナ商会に雇われた傭兵たちも決してバカではない。
他のゲームなどで名を馳せているからこそ大資本は金を積んででも彼らを招聘したのだろうし、この無制限フリーバトル区域で自分たちの探索を優位にするのであれば軌道エレベーターを抑えることは戦略的にも極めて有効な手段であることに違いはない。
そして南西部マスドライバー基地は「獄炎のオーガ」とクオンの死闘によって何隻かのアドラステアを宇宙に送りながらほぼ壊滅状態になったのも、商会側の兵士たちにとっては朗報だ。
一応アトミラールの「天城」をはじめとした改装戦艦群は単独での大気圏離脱も可能としているがその代償は大きいため、マスドライバーが大方破壊し尽くされたというのは致命的だった。
故にこそ、商会の兵士たちは今現在ヴァルガの宇宙へ上がるための唯一の足がかりとなっている、北西部軌道エレベーターを制圧してそこに戦力を逐次投入するという策を採っているのだが──惜しむらくは、彼らが観察眼に優れていたとしても、ガンダムをそこまで見ていなかったことだろうか。
地上に恐らくチィはいない。
混沌とした乱戦エリアがそこかしこに形成されて、さらにハイランカーという災厄が立ちはだかっているこの地上では、さしものチィとて生き延びることはできないだろう、というのがアリアからアイカに伝えられた見解であったし、それはアイカたちも同意するところだった。
そしてアトミラールの砲撃、ジャバウォックのお散歩とオーガとのガチバトル、そしてアリアとマギーが奏でる死の舞踏などなどの要因で防御力に乏しいアサシンやスナイパーは殆ど全てが排除されたことで、アイカたちはヴァルガにおいて安全なエントリーに成功していたのだ。
とはいえ。
「えいっ☆」
『な、何故バレて──ぐわあああっ!』
例外はどこにでもいる。自身を狙う殺意を嗅ぎつけたアイカは一足先に回避行動を取りながらコアバスターライフル・フェアリィを生き残り、潜んでいた狙撃手──あの「回収屋」ピーターの弟である「ジャンクメイカー」ペーターの駆る都市迷彩が施されたケルディムガンダムサーガを撃ち抜いた。
強いて理由を挙げるなら殺意というか銃口がこっち向いてるのがバレバレだったから、とほぼ野生の勘のようなものと経験でアイカはそれを察知していたのだが、答える義理も義務もないのでスルーを決め込んだ。
現状のヴァルガ地表面における乱戦エリアとして一番規模が大きいのはやはり北西部軌道エレベーターだろう。
エレベーターを死守するために無限湧きのごとく逐次戦力を導入するタチバナ商会の物量とアトミラール擁する「GHC」とそれに従うヴィジランテたちが一進一退の攻防を繰り広げているため、迂闊に近づけば死が待っている。
かといって、空白地帯が出来上がっている南西部マスドライバー基地はそれを上回る危険地帯だ。
ヴァルガにおいて空白が出来上がるというのは、不人気エリアを除けば「災害」と出くわしたかその災害が今も暴れ続けているかのどちらかでしかない。
漁夫の利を狙っているのか空白だから安全だと勘違いしたのか、誘蛾灯に群がる夏の虫のごとく、散発的に南西部を目指して移動するダイバーたちが、エリィの展開した広域レーダーには捕捉されているが、その全てが南西部に辿りついた瞬間にシグナルをロストさせているのだから、そこにはいまも災害が君臨しているという認識でいいのだろう。
そうなれば、アイカたちは宇宙へと上がる足を全て潰されたことになるのか?
その問いに答えるのならば、それは否だ。
マスドライバー基地と穀倉地帯跡地が南部の西と中心であるのなら、その東側には更なる不人気を博しているエリアがある。
ハードコアディメンション・ヴァルガ、南東部宇宙港。
その名前から想像すれば一番まともな宇宙行きに適した場所かのように聞こえるが、その実態は果たして、映像作品「機動戦士Ζガンダム」に出てきたケネディポートをモチーフとしているため、旧式のシャトルでしか宇宙に上がれない──要は飛んでいる間に撃ち落とされるために宇宙港なのに一番使えない場所、というのがダイバーたちの公式見解だった。
加えてスタート地点からとにかく距離が遠く、遮蔽物のない穀倉地帯跡地周辺を通らなければならない以上、モヒカンとのエンカウント率が極めて高いために、何よりも効率を求めてピッケルを振るう炭鉱夫たちがそんなリスクを許容するはずもない。
そして、だからこそモヒカンたちはその不人気エリアを拠点として陣形を組みながら、都市部へと毎日侵攻しているのだが、類を見ないお祭り状態である今日もそれは変わらないらしい。
『ヒャッハー!』
実に世紀末な叫び声を上げて、鴨がネギどころか鍋とコンロと調味料まで持ってきてくれたとばかりに三人で平原へと突出する「リビルドガールズ」改め今だけは「リビルドバンガード」を葬り去らんと、その数実に八十というどこから生えてきたのかわからない新メンバーを加えて、モヒー・カーンの軍団はアイカたちを追い詰めんとしていた。
「……アイカさん……」
「わかってる、エリィちゃん」
コアバスターライフル・フェアリィをぶっ放したのであれば、ある程度モヒカン共を排除することは可能だろう。
だが、戦いの本番は宇宙に上がってからであって、こいつらには本来構っている暇などどこにもないのだ。
「私のミネルヴァガンダムも今は戦えません、そうなれば……」
『一巻の終わりってこったろォ!? 散々俺様たちに恥かかせてくれやがって……そこで素直にくたばっとけやピンク色共! いくぞテメェら!』
『ヒャッハー!』
バイク型のサポートメカに搭乗するモノアイの機体が、アイカのフェアライズガンダムではなく、明らかに何かを温存していると見た、エリィのリビルドウォートとそして、背部に物々しいユニットを接続したアキノのミネルヴァガンダムから破壊すべく、ヒートホークを掲げながら接近してきた、刹那。
「今だウッキース! そこから叩いてくれ!」
「りょ、りょうかああああいッ!」
アイカたちが三手に分かれたかと思いきや、その背後から光の奔流が二つ重なり合って飛来して、哀れにも反応が遅れた新参モヒカンである二十名の機体を呑み込み、テクスチャの塵へと帰さしめた。
そう、アイカたちだけならば、確かに鴨がネギと鍋とガスコンロと調味料を背負ってやってきたようなボーナスステージなのだろうが、その背後には、確かに何機かのガンプラが編隊を組んでモヒカンたちの迎撃に当たっていたのだ。
「フハハハハハ!!! モヒカン諸君、今日のお相手は彼女たちではない……我々、アライアンス『リビルドバンガード』だと心得ていただこう!!!」
『鳥頭に全身タイツだァ!? お前ファッションセンスどうなってんだよ!?』
閃光の正体──フォース「名機アルビオン」を率いるハマモリのビーム・マグナムと砲手であるウッキースのロングレンジビームキャノンによる遠距離砲撃を更に目眩しとして、その全身タイツに鳥頭という変態極まりない男、「ハート」を筆頭とした変態の編隊、「パロッツ・パーティー」が自慢の変形ゲロビで先頭集団の護衛であり鉄砲玉たるモヒカンたちを駆逐していく。
「失礼な! 我々はただ鳥を、この空を、翼を愛する者たちよ!」
「モヒカン肩パッドだってファッションの一つだろう! それを愚弄されればどんな気持ちになるのか想像がつかんのかね!」
「しかし良いモヒカンだ、シャモを彷彿とさせるのもポイントが高い」
「うむ、我ら『パロッツ・パーティー』、レース以外の戦いはしない主義だが、『リビルドガールズ』には返しきれない恩がある! 故に助太刀に参ったまでよ!」
『いっぺんに喋って正論で殴ってくるんじゃねェよ!?』
カーンが困惑する通り、この変態の編隊の中身は極めて温厚で紳士的な、ただレースを、鳥たちの見る空を愛するがあまりにちょっとだけおかしくなってしまっただけの集団だ。
そしてそのふざけた格好と珍妙なカスタマイズが施されたガンプラだとしても彼らにとってそれはおふざけでもなんでもなく、大真面目に愛を注ぎ込んだ結晶であることには違いない。
それがどれほどGBNにおいて重いのか、カーンは瞬く間に目減りしていく部下たちを見て額に脂汗を浮かべながら、虹色に発光して首をぐるぐると回して自身らの上空を旋回するパロットスクランブルと、対空砲火を阻止するがごとく暴れ回るキモ……独特なモビルアーマー、ドードラブロズゲーを睨み付ける。
元々カーンたちはヴィジランテの側に着くつもりだった。
ヴァルガはどんな形であれ自分たちの遊び場だ。ELダイバーだかなんだか知らないが、そんなくだらない事情で遊び場を荒らしに来るなら全てポイントに変えてやろうと決めていた程度にはこの場所に愛着がある。
しかし長い物には巻かれろと、金は命より重いと、そんな言葉があるように、タチバナ商会からコンタクトを受けて金銭を授受していたカーンたちは有志たちの側に加わることになった。
つまりはそういうことだった。
手を挙げて、カーンは通信ウィンドウ越しに連絡を入れる。
『せ、先生ェ! 奴らです、「リビルドガールズ」は南東部宇宙港を目指してやってきています!』
『ふふ……慌てていて可愛いわね。いいわ、暇だったから……ここにも戦力は待機させてるし、四百も寄越せば十分でしょう』
先生、と呼ばれた赤毛を三つ編みにした女性──「サキ」は小馬鹿にしたような笑みを浮かべてカーンとの通信を切ると、南東部宇宙港を護衛するために残していた総勢千の軍勢のうちその四割でもって、「リビルドバンガード」を圧殺することを決定した。
そして、自身もまた出撃することでその体制を盤石にする。
黒と赤で彩られたストライクフリーダムに乗り込みながら、サキは密かにほくそ笑む。
タチバナ商会とやらに思い入れがあるわけでもなければ、運営の掲げる保護とかELダイバーとかそういう謳い文句に興味があるわけでもない。
だが、個人ランク38位という自身の腕前を見込んで、脂汗を流しながら土下座をさせられてまでも頼み込んできた橘忠治の姿があまりに滑稽で、そして、そんなつまらないことにこだわって、自身を雇っておきながら閑職に回すという小物ぶりが面白かったから、今回の作戦に傭兵として参加しただけだ。
ああ全く、馬鹿馬鹿しい。
サキはそう思っていたのだが、本命がこの基地の設備を利用しようとしているのは中々に鋭いと、そう思って愛機を最前線へと出撃させていったのだが、それこそが間違いだったと彼女は気付かなかった。
「早くオーガを止めて、そしてELダイバーの子を助けないと……!」
若い義侠心と義務感に駆られた影が一つ、サキと入れ替わる形で、大気圏から南東部宇宙港へと舞い降りる。
完全に失敗だった。オーガなら確実にチャンピオンがいる宇宙を食事の場に選ぶと思っていたのだが、地上に「ジャバウォックの怪物」が現れたことでそっちを優先させてしまったらしい。
舞い降りる剣の主たる少年──「ビルドダイバーズのリク」はこの前クオンの配信をオーガが見逃してしまった原因が己にあることを悔やみつつ、その新たなる剣の矛先を地上に陣取る六百から一つ引いた軍勢へと向ける。
「トランザム……インフィニティ! そして、ハイマットフルバーストだ!」
自身が救い出し、いまも仲睦まじく日々を送る相手である「サラ」を彷彿とさせる白と紫がかった青を基調としたその機体──【ガンダムダブルオースカイメビウス】はハイマットフルバーストモードとトランザムインフィニティという規格外の合わせ技でもって、施設の設備を傷つけることなく、的確に動揺していた六百引くことの一つのコックピットや手足などをもぎ取って、撃ち漏らした機体をビームソードで全て掃討してから、目撃証言のあった南西部マスドライバー基地へと進んでいく。
「俺には、君たちがどんな事情を抱えているのかわかんない……でも、チィは君たちの仲間なんだろ、『リビルドガールズ』……!」
俺にできるのはこれぐらいだから、後は任せた。
そうとでも言わんばかりに六百から引いて一つを除く有象無象を殲滅した上で、自身のミッションを達成するべく蒼天の剣は無限の軌跡をその空に刻みながら戦場を駆け抜ける。
そして、「パロッツ・パーティー」の奮戦と「名機アルビオン」の連携によってその数を二十にまで減らしていたモヒカンたちの元に増援の四百と一つが到着したのはその時だった。
『残念ね。貴女たちもおしまい……』
それだけ呟いたサキは躊躇なくハイマットフルバーストモードを起動して、モヒカンや自身が従える部下が巻き込まれることも厭わずに、全武装一斉射撃という大技を「リビルドバンガード」たちに向けて撃ち込んだ。
「うおおおおっ!?」
「クソっ、ヨネヒトぉ!」
「これは……耐えきれないっ……! すみません、アイカさん!」
『ヌヴォオオオオオオ!?』
個人ランク二桁が徹底的に作り込んだストライクフリーダムの一撃は、果たして百機単位の味方を巻き込みながらも「名機アルビオン」と「パロッツ・パーティー」、その全てを壊滅させることに成功していた。
いや、味方など最初からサキにはいない。ただ後ろから撃たれたときの反応が面白いから、ボウリングのピンは多いに越したことはないからという破綻した思考回路が導き出した結論で、いたずらに四百という数を投入していただけの話だ。
『せ、先生ェ!? 話がち、違……』
『違わない。このディメンションの掟が弱肉強食といって初心者狩りをしてたのはだぁれ? ふふ……それに、有志であって私たちは連合じゃない、金を積まれた分だけ仕事をすればいい、違う?』
『あ、ああ……っ……』
何やらカーンが爆散する中で絶望していたが、それ以上にアイカの胸中は最悪だった。
ハイマットフルバーストに巻き込まれて百二十の敵が減ってくれたのはいいが、残り二百八十の中にあのストライクフリーダムがいることが何よりも厄介だ。
自分たちをロックしなかったのは見せしめということなのだろう。
この作戦は、サイコ・キャプチャーを背負っているエリィとそして、アキノもまた完徹フルスクラッチで完成させた「光の翼」、漫画作品「機動戦士クロスボーンガンダム 鋼鉄の7人」に登場する「スピードキング」が装備していた、マザー・バンガードの帆を改装したユニットが破壊されればそれで御破算だし、何より作戦の実行にはチィに追いつくためにアイカの存在も必要だと、誰一人欠けても破綻する綱渡りだったのだ。
乱数の神様はここで屑運をぶつけてきたのか。
「二桁ランカー……勝てる気はしないけどっ!」
ビルドボルグを抜き放ち、混乱する有象無象を尻目にアイカがサキと相対し、最悪アキノが生き残ればなんとかなる絶望的な可能性に賭けて、差し違えてでもサキを止めようとしたその時だった。
「おっとぉ! か弱い女の子泣かせちゃあ、悪党ってもんだぜ!」
遥か上空から、太陽を背にする形でその機体はビーム・ワイヤーを伸ばして、ストライクフリーダムのビームライフルを絡めとった。
「おれには彼女たちへの義理も義務もない……だが、立ち上がろうとする者の味方にぐらいはなれるんだな、これが!」
『あら……元マスダイバーのアクセル君、そして歌歌いのグラウカッツェくんだったかしら。とりあえずは歓迎するわね』
スーパードラグーンを起動し、奇襲を仕掛けたグラウカッツェをあしらいながら、指先に仕込んだビーム砲でアクセルのリヴァーサルガンダム・ソヴァールを牽制しつつ、サキは近接戦の用意を固める。
「そうだ……義理と義務があるのは俺の方だ! 食らえ、ミスリルストリィィィィムっ!!!!!」
その虚をつく形で、アクセルが一旦身を引くと同時に、銀の閃光がサキのストライクフリーダムを呑み込まんと彼方から飛来してくる。
しかしそれはすんでのところでサキが展開したビームシールドに防がれてしまったが、それでもその数秒間彼女の足を止めることには成功していた。
「まさか、リヒト……!?」
「何をボサッとしてるんだ『リビルドガールズ』! お前たちがやるべきことは、あの銭ゲバ女を助けることだろう!? こんなところで足を止めることじゃないはずだ!」
その機体には確かに、アイカも、エリィも、そしていまその名を呟いていたアキノも見覚えがある。
先日、銃火と剣を交えた相手であるリヒト・フェーンミッツの操る銀の愛機たるガンダム・エリュシオンだが、その機体から銀の意匠は取り払われて、リヴァーサルガンダム・ソヴァールとよく似た白と金のツートンカラーにその装いを改めていた。
「……こうなったのは俺のせいだ、だから許してくれなんて言わない! でも、せめてケジメぐらいはつけさせてくれ!」
「リヒト……わかりました、貴方の協力に感謝します。アイカさん」
「はい! エリィちゃん、一気に戦場を抜けちゃうよっ☆」
「……わかり、ました……っ!」
リヒトとアクセル、そしてグラウカッツェと「イグナイターズ」という精鋭たちに背中を任せて、スーパードラグーンによる弾幕砲火──地上でも使えるほどの作り込みが施されているものだ──の、もはや細い照射ビームといった風情の弾幕を掻い潜り、「リビルドバンガード」は、南東部宇宙港へと向かっていく。
『あら、逃げられちゃった……』
「よそ見をしている余裕などないんだな、これがな!」
『ふふ、ちゃぁんと見てるわよ、アクセル君』
呟いた通り「リビルドバンガード」を取り逃がしたサキではあったが、タチバナ商会への義理なんて宇宙港の護衛で果たしたし、正直なところ彼女たちを止める理由もなかったので、彼女はプリミティブな衝動に従って、より自分に近い者たちとの死闘を楽しむことを選択した。
太陽を背にした奇襲とはいえ、Aランクながら自分のビームライフルを奪ってみせたあのグラウカッツェも見込みがあるし、ちょっと若すぎるきらいもあるけれど、中々の必殺技を見せてくれたリヒトという彼も悪くない。
最近のGBNは退屈だった。だからこそ思い出すのだ、第二次有志連合戦で「ビルドダイバーズ」の味方となって暴れ回っていた日々のことを。
あれほど合法的に暴れることができる場所なんて「大戦争」やレイド戦ぐらいしかないと思っていたらこの猿山で、ハードコアディメンション・ヴァルガで大戦争に匹敵する祭りが開かれるとなれば、その祭りを何より優先したいのがダイバーというものだ。
操り人形の糸をたぐるように指先に仕込んだビーム砲で一人の魔物にして英傑、二人のハイランカーを翻弄しながら二桁の怪物は、押し寄せてくる喜悦に唇を歪めて、静かに笑うのだった。
アイカたちが選んだ大気圏突破方法は、そのまま漫画作品「機動戦士クロスボーン・ガンダム」を参考にした、機体をシャトルの先端に固定しての大気圏離脱だった。
だが、それだけでは打ち落とされる危険と速度、そしてエリィが大気圏離脱のためのバリアを持っていないということで、アイカの案を一部採用しつつ、現実的な形に落とし込んだのが、アキノが狂気の完徹スクラッチで作り上げた「スピードキング」の翼と、そこから伸びるΞガンダムのビーム・バリアを複合させたユニット、「アテナの衣」だった。
アイカとエリィはアキノを挟む形でそれぞれの愛機の手を【ミネルヴァガンダム・アテナイ】とつなぎ合わせていた。
そして「クロスボーンガンダム」の劇中同様に弾頭部分を切り落としたミサイルの先端にミネルヴァガンダム・アテナイを固定して、それをブースター代わりに利用した上で光の翼を展開して大気圏を離脱する。
スピードキングは単体であったからいいものの、今回は二機を抱えて離脱しなければいけない以上、それは苦肉の策とでも呼ぶべきものだ。
だが他に案がなければやるしかない。アイカもエリィもアキノも、覚悟を決めた上での作戦だった。
ヴォアチュール・リュミエールを利用して打ち出してもらう案もあるにはあったのだが、アキノは完徹と魔剤に頭がやられていてそれが浮かばなかったし、アイカはサイコ・キャプチャーを作り上げるのに全ての力を使い果たしていて、エリィは現実では目が見えないという都合でその案はボツとなったのだ。
何故か南東部宇宙港を護衛していたはずのガンプラは全て残骸となっていたことで、ミネルヴァガンダム・アテナイの固定作業と、アイカとエリィもミサイルから振り落とされないように、しかし光の翼を展開したときには離れられるような簡易的な固定を行って、射出までの時間を待つ。
この南東部宇宙港のモチーフとなったのはケネディポートだったが、ここはGBNだ。ならば、そういうシチュエーションもやりたいよねとばかりに複数のガンダム作品の景色が共存していることは決して珍しくない。
──乱数の神様。
アイカは祈る。決着は人間の手でつける、などと大層なことを言うつもりはない。
ただ、飛翔した先にチィがいること、それだけを願って、アイカとエリィ、アキノは歯を食いしばってミサイル射出の衝撃に耐える。
そうして発射されたミサイルは、それを阻止しようとどこからか飛んできたビームに当たることもなく、見る見るうちに三人を高空へと運んでいった。
「加速度臨界点……ミサイルをパージ、光の翼に移行します! アイカさん、エリィ!」
「……はいっ、アキノさんっ……!」
「アキノさん……お願いします!」
「絶対にチィを連れ戻す……だから、今一度!」
──ビーティスさん、貴方の翼をお借りします。
アキノが呟くと同時に、ミネルヴァガンダムの背部に展開されたユニットは帆のような形を成す「光の翼」を展開し、同時に前面にはミノフスキードライブで出力を増幅したビーム・バリアが花開く。
「待っててね、チィちゃん……!」
帰る場所はもう作った。チィが稼いでくれたお金があったからだ。
アイカはきつく目を瞑り、滲んできた涙を拭いながら宇宙へと飛翔する。
エリィもまたGに耐えながら、チィの無事を敬虔な信徒のように、いるかどうかわからない乱数の神様へと祈り続ける。
果たして、無謀に見えた大気圏離脱は成功していた。
アイカが瞑っていた目を開ければ、そこには見下ろす水の星と、そして無数の戦艦やガンプラの残骸が漂っている漆黒のソラがある。
そして、その残骸たちを作り出した砲火はまだ煌き続けている。
よりにもよって、アリアによる事前の報告から、宇宙であればそこにいる可能性が高いとして、目標としていた場所──採掘エリアのある月面近くに、巨大な乱戦エリアは形成されていた。
課題は未だ山積みだ。しかしその日、リビルドバンガードは確かに、蹉跌から立ち上がり、流星となって翔びあがったのだ。
決着をつけるために。仲間を、その手に取り戻すために。
飛翔、リビルドバンガード──!
【サキ】……個人ランキング38位にいる謎めいた存在。ヴァルガに現れることも稀で、ふらりとディメンションを彷徨っている姿を見かけたという人物もいるが、基本的には大戦争イベントやレイド戦など混沌とした戦場にしか姿を見せない二桁の魔物。今が楽しければいいという刹那主義者で、目的を達成しながらもいたずらに戦場を引っ掻き回すことを楽しんでいるという意味では彼女もまた災害のような上位ランカーの一人。